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第二十三話 女を敵に回すことなかれ
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知らない世界がまたひとつ、知っている世界へと変わっていく――
この瞬間はたぶん自分がいくつになっても特別で新鮮なんだろう。
目の前にいるキレイなオネエサマ、そして中には明らかにオネエサマではなくオジサンもとい、オバサンみたいな方々がいるそんな異世界に一歩踏み出したはいいけれど、一歩どころか、できれば立ち去ってしまいたい衝動に駆られている。
10畳ほどのスペースでひしめき合っている女性たちに私は圧倒されている。
壁に備え付けられた大きな鏡の前で「布ありますか?」と伺いたくなるような露出の高い煌びやかなドレスに身を包んでポージングする女性やら、鏡台の前にこれでもかというほど数多くのメイク道具を広げる女性やら、やんややんや、キャッキャキャッキャと戯れる女性やら。
衣装ハンガーに並べられていた色とりどりのドレスはどれもキラキラと星を散りばめたみたいに輝いている。
サンバでもするのか――みたいな羽飾りまである。
甘い化粧の香りと熱気が混在する部屋の中で、私はひとり浮きまくっている。
スエット上下にノーメイクじゃ当たり前すぎる。
っていうか、私のほうが女じゃない、明らかに。
――ああ、倫子さん早く来て!
心の中で念じながら、声を掛けるタイミングを伺っている。
だけど、どうやってその一言を切り出せばいいのか、また誰にその一言を掛けるべきなのか皆目見当もつかぬまま、この状況下で空気よろしく突っ立っている。
だって忙しそうなオネエサマ方は絶対にこちらに気づいているはずなのに、まったくこちらに取り合う様子もなく、皆、自分たちの仕事の準備に明け暮れているんだから。
「あのぉ……」
金髪のカツラを被った細身の美女にそろーりと近づいて声を掛ける。
するとその女性は、大きなピンクの花飾りを髪に挿しながら「ん?」とこちらに目を向けた。
「ちょっといいですか?」
「いいわけないじゃない」
撃沈。
『話は倫ちゃんが通してくれるから大丈夫』
なんて言って、ここへ送り出した張本人の星野龍空は、自分も営業があるのでと仕事に行きやがった。
――最悪だ。バカホスト!
勝手に人の過去を詮索して。
勝手にトラウマ乗り越えプランなんてものをおったててくれて。
お膳立てはすべてオレがやりますとか言っておいて。
なんだ、この無計画さは?
行き当たりばったり。
出たとこ勝負。
明日は明日の風が吹く。
ってな具合に、後は自分でなんとかしてねと投げっぱなしジャーマンを食らわしてくれたあの男には正拳鉄槌を下さねばならないだろう。
もちろん、事がすべて収まった暁には――の話だけど。
ふう……
息を吐きながら緊張しっぱなしの胸を落ち着かせて、頭の中で必死に考える。
なんとかしなければならないこの状況。
とりあえず、もう一度話しかけなければ先に進めない。
勇気を出して。
そうだ。
今度は違う人に声を掛けよう。
そう思ってもう一度勇気を持って一歩を踏み出そうとしたとき、背後の扉がゆっくりと開いた。
振り返った先には助かったと叫びたくなるほど神々しいオーラを打ち放った倫子様が立っていた。
舞台用のド派手なんだけど決していやらしさがない、自然な美しさを際立たせたしっかりメイク姿の倫子は私を一瞥した後で微苦笑すると、準備で忙しいオネエサマたちの前に一歩進み出た。
刹那、忙しそうにしていたオネエサマたちが一斉に彼女の前に並んで、背筋をしゃんと伸ばした。
「おはようございます!」
きっちり90度。
直角のお辞儀と乱れのない野太いきっちり挨拶はまるで軍隊だ。
それほどまでしっかり統制がとれている。
「おはよう、皆様。今日も一段と美しさに磨きがかかっているわね」
そう倫子が声を掛けると「ありがとうございます」とまた統制のとれた声が響き、そこで皆一斉に顔を上げた。
笑う人間は誰一人といなかった。
しっかり引き締められた唇。
真剣な眼差しがすべて倫子に注がれている。
ピリピリとした緊張感が部屋の中に広がっていた。
「今日は皆様にお願いがあります」
そう言うと倫子は私をちょいちょいと手招きして、隣に並ぶように声を掛けた。
恐々足を踏み出して倫子の隣に並ぶと、オネエサマ方の目が一気に私へと向けられた。
その眼差しがどこか憎悪にも似ていて身震いしそうになる。
「背筋伸ばしてシャンとして」
隣に立ってすぐに倫子にそう耳打ちされる。
言われた通りにすると、倫子は私の背中に左手を添えた。
「この子、藤崎愛希ちゃん。訳あってうちで数日預かることになりました。皆様にはこの子が一人前にステージに立てるように5日でなんとかしていただきたいの」
言われた瞬間、倫子を見上げる。
今、なんとおっしゃった?
数日預かるはいいとして『一人前にステージに立てるように』って!?
この店のショーに立つと言ってらっしゃる!?
――聞いてない聞いてない聞いてないぞ、そんな話!
「メイクの仕方、ダンスの振り付け。とにかく5日しかないので、ビシバシ鍛えていただきたいの。それこそ時間の許す限り、昼夜問わず。その分のお給料はもちろん上乗せします。あともうひとつ。彼女が私の納得するまでにきちんと仕上がったら、皆さまにご褒美として私の弟でもあり、皆さまの大好きな『星野龍空』のお店『パッション レッド』貸切おもてなし飲み会を開催しようと思っています。ので、ぜーひ、頑張っていただきたいわ」
この台詞の刹那、「ギャァァァ!」という黄色いもとい黄土色の絶叫が飛んだ。
目の前のオネエサマ方の顔は狂喜乱舞、興奮マックスの赤ら顔に変化する。
「パッション レッド貸切ですのね、倫子ママ!?」
先ほど私が声を掛けたときに『時間ないわよ』と一刀両断した金髪美女が身を乗り出すようにして倫子に尋ねた。
「ええ、ナナさん。それにお店のホストの子はリクはじめ、すべて皆さま一夜独占です」
「お店の子全員! ギャーー!」
今度はボニューミーなアフロヘア―にぽっちゃり体型をしたオネエサマが腰をくねらせ大絶叫した。
ひとしきり盛りあがると、今度は私にオネエサマ方の目が注がれる。
そこから憎悪は消えいる。
しかしありがたくないことに欲望に満ちたギラギラ燃えるような目つきに皆変わっている。
――なんかすごくヤバくない?
と身震いするほどだ。
オネエサマ方のやる気スイッチをフルマックスにする力があのバカホストのいる店にはある、ということなんだろうか。
世の中わからない。
本当にわからない。
「それともう一つ、ナナさん、レイナちゃん、ユウちゃん三人には特別に頼みたいお仕事があるので、ちょっと廊下に出てもらえるかしら? あ、アキちゃんもね。そういうことなので、後の皆さまはとにかく一丸となって、アキちゃんのこと頼むわね」
そう言って倫子が扉を開けて出ていくと、彼女に続くように指名されたオネエサマたちが部屋を後にする。
最後にそぉっと忍び足よろしくついて行く。
扉を閉めた途端、扉の向こうからものすごい嬌声が響き渡っていた。
それこそ、扉を吹き飛ばしてしまいそうなくらいの勢いで。
呆然と扉の向こうを見ていた私の肩がトントンと叩かれる。
我に返れば、廊下に出た三人のオネエサマに倫子が自己紹介をかねて話をし始めるところだった。
「来週の水曜日。リクに合コンしてくれるように頼まれていたわよね、ナナさん?」
大きなパッチリした目をした細身なのに色香漂う金髪女性に向かって倫子が尋ねる。
するとナナと呼ばれた女性は大きくうなずいた。
一応女である私の目から見てもナナは本当に美人だ。
元性が男とは思えない。
倫子の説明だと彼女はこのショーパブ一番人気で、かつ、ここのリーダー的存在だという。
「頼まれた相手には会ったし、その後やり取りもしています。4対4という設定で。あとは今話題のCM美女と言っておいてとリクくんには言われていたのですが、倫子ママ。もしかしてその子が……なんて言いませんよね?」
ちらりと私を見ながらナナが問う。
その直後、他の二人も同時に私を見た。
「私のメイクの腕、あなたたちならよく理解していると思うけど?」
そう倫子が答えると三人は顔を見合わせて各々が小さくため息をついた。
「この子のことを昔ひどく傷つけて振ったヤローなのよ、あなたの会ったその男。で、今回その男にリベンジ大作戦をするってことなの。女を扱き下ろす最低ヤローに鉄槌下すお手伝いなんて爽快じゃなくて、レイナちゃん?」
話を振られたレイナこと流し目のショートカット美女はおそらく体育会系出身だろう。
ナナよりも肩幅が広めでがっちりしている。
それにかなりの長身だ。
身長の高さなら龍空とそれほど変わらないかもしれない。
そんな彼女はナナに続くこの店のナンバー2らしい。
「それは相当爽快愉快なお話ね」
と、レイナはまつげにちょんちょんと触れながらクールに答えた。
「なんでも女はみんなオレに腰砕けとかほざいているアホらしいわよ。女は男に媚びてなんぼとも言っているみたい。どう、ユウちゃん。そんな男の金玉握りつぶしたくならない?」
最後に倫子が声を掛けたのは、私とそれほど身長が変わらないフェアリーボブカットのキュート系女子だった。
二重のクリクリした目をした愛らしい顔立ちの彼女はこの店の愛玩キャラであり、3番手である。
その彼女が倫子の問いかけに、男心を揺さぶるような可愛らしい笑みをクスッと零した後でハッキリと答えた。
「再起不能にしてやりたいかんじです」
とものすごく怖いことを本当に涼しい顔をして。
「そういうわけで、当日はあなたたち三人がこの子の味方になってあげてね。そいつに思いっきり鉄槌くだせるようにサポートするのがお仕事よ。我が弟ながら本当に私事持ち込んで申し訳ないんだけど」
「ちなみにリクくんの彼女なのかしら?」
じっくり品定めするように三人がこちらを舐めるように見つめた。
その質問にブンブンと大きく頭を振って答えると倫子も「候補かしらね」と付け足した。
「まあ、今のまんまじゃリクファンとしてはちょっと応援できないけど、そうね。そんな男へのリベンジで変身したいって言うなら応援したくなるわね」
とは金髪美女ナナ。
「そうよねえ。復讐っていうのは嫌いじゃないし。女をバカにする男なんてロクな玉じゃないことは間違いないわ」
と続けたのはクールビューティー、レイナ。
「それにくっついてくる男もきっと大したことないわね。『女』の恐ろしさ、教えてあげないと」
ニッコリと人好きのする愛らしい笑みを湛えたまま怖いことを言うのはユウ。
美女に変身した元オニイサマ方が揃って不敵な笑みを浮かべ、腕組みしながらこちらを見た。
「よ……よろしくお願い……します」
「こ・ち・ら・こ・そ」
迫力に気圧されながら挨拶をした私に、オネエサマたちはこれ以上ないほど怖い笑みを浮かべた。
女を敵に回すことなかれ――を肌で感じる。
感じまくってる!
――それにしても……
なんていうことを考えつくんだ、あの男は。
お任せをと豪語したリベンジの舞台が倫子の店を支えるトップ3との合コンだとは。
とても斬新。
想像すらしていなかったリベンジマッチをよくもまあ組んでくれたもんだ。
感心する。
思いっきり回避したいけど。
またしても新しい課題と情報とに錯乱しそうになりながらも、とにかくすべてが終わったら元凶を作り出したあのバカホストを心行くまでフルボッコにしてやろうと心の中で硬く決意した。
この瞬間はたぶん自分がいくつになっても特別で新鮮なんだろう。
目の前にいるキレイなオネエサマ、そして中には明らかにオネエサマではなくオジサンもとい、オバサンみたいな方々がいるそんな異世界に一歩踏み出したはいいけれど、一歩どころか、できれば立ち去ってしまいたい衝動に駆られている。
10畳ほどのスペースでひしめき合っている女性たちに私は圧倒されている。
壁に備え付けられた大きな鏡の前で「布ありますか?」と伺いたくなるような露出の高い煌びやかなドレスに身を包んでポージングする女性やら、鏡台の前にこれでもかというほど数多くのメイク道具を広げる女性やら、やんややんや、キャッキャキャッキャと戯れる女性やら。
衣装ハンガーに並べられていた色とりどりのドレスはどれもキラキラと星を散りばめたみたいに輝いている。
サンバでもするのか――みたいな羽飾りまである。
甘い化粧の香りと熱気が混在する部屋の中で、私はひとり浮きまくっている。
スエット上下にノーメイクじゃ当たり前すぎる。
っていうか、私のほうが女じゃない、明らかに。
――ああ、倫子さん早く来て!
心の中で念じながら、声を掛けるタイミングを伺っている。
だけど、どうやってその一言を切り出せばいいのか、また誰にその一言を掛けるべきなのか皆目見当もつかぬまま、この状況下で空気よろしく突っ立っている。
だって忙しそうなオネエサマ方は絶対にこちらに気づいているはずなのに、まったくこちらに取り合う様子もなく、皆、自分たちの仕事の準備に明け暮れているんだから。
「あのぉ……」
金髪のカツラを被った細身の美女にそろーりと近づいて声を掛ける。
するとその女性は、大きなピンクの花飾りを髪に挿しながら「ん?」とこちらに目を向けた。
「ちょっといいですか?」
「いいわけないじゃない」
撃沈。
『話は倫ちゃんが通してくれるから大丈夫』
なんて言って、ここへ送り出した張本人の星野龍空は、自分も営業があるのでと仕事に行きやがった。
――最悪だ。バカホスト!
勝手に人の過去を詮索して。
勝手にトラウマ乗り越えプランなんてものをおったててくれて。
お膳立てはすべてオレがやりますとか言っておいて。
なんだ、この無計画さは?
行き当たりばったり。
出たとこ勝負。
明日は明日の風が吹く。
ってな具合に、後は自分でなんとかしてねと投げっぱなしジャーマンを食らわしてくれたあの男には正拳鉄槌を下さねばならないだろう。
もちろん、事がすべて収まった暁には――の話だけど。
ふう……
息を吐きながら緊張しっぱなしの胸を落ち着かせて、頭の中で必死に考える。
なんとかしなければならないこの状況。
とりあえず、もう一度話しかけなければ先に進めない。
勇気を出して。
そうだ。
今度は違う人に声を掛けよう。
そう思ってもう一度勇気を持って一歩を踏み出そうとしたとき、背後の扉がゆっくりと開いた。
振り返った先には助かったと叫びたくなるほど神々しいオーラを打ち放った倫子様が立っていた。
舞台用のド派手なんだけど決していやらしさがない、自然な美しさを際立たせたしっかりメイク姿の倫子は私を一瞥した後で微苦笑すると、準備で忙しいオネエサマたちの前に一歩進み出た。
刹那、忙しそうにしていたオネエサマたちが一斉に彼女の前に並んで、背筋をしゃんと伸ばした。
「おはようございます!」
きっちり90度。
直角のお辞儀と乱れのない野太いきっちり挨拶はまるで軍隊だ。
それほどまでしっかり統制がとれている。
「おはよう、皆様。今日も一段と美しさに磨きがかかっているわね」
そう倫子が声を掛けると「ありがとうございます」とまた統制のとれた声が響き、そこで皆一斉に顔を上げた。
笑う人間は誰一人といなかった。
しっかり引き締められた唇。
真剣な眼差しがすべて倫子に注がれている。
ピリピリとした緊張感が部屋の中に広がっていた。
「今日は皆様にお願いがあります」
そう言うと倫子は私をちょいちょいと手招きして、隣に並ぶように声を掛けた。
恐々足を踏み出して倫子の隣に並ぶと、オネエサマ方の目が一気に私へと向けられた。
その眼差しがどこか憎悪にも似ていて身震いしそうになる。
「背筋伸ばしてシャンとして」
隣に立ってすぐに倫子にそう耳打ちされる。
言われた通りにすると、倫子は私の背中に左手を添えた。
「この子、藤崎愛希ちゃん。訳あってうちで数日預かることになりました。皆様にはこの子が一人前にステージに立てるように5日でなんとかしていただきたいの」
言われた瞬間、倫子を見上げる。
今、なんとおっしゃった?
数日預かるはいいとして『一人前にステージに立てるように』って!?
この店のショーに立つと言ってらっしゃる!?
――聞いてない聞いてない聞いてないぞ、そんな話!
「メイクの仕方、ダンスの振り付け。とにかく5日しかないので、ビシバシ鍛えていただきたいの。それこそ時間の許す限り、昼夜問わず。その分のお給料はもちろん上乗せします。あともうひとつ。彼女が私の納得するまでにきちんと仕上がったら、皆さまにご褒美として私の弟でもあり、皆さまの大好きな『星野龍空』のお店『パッション レッド』貸切おもてなし飲み会を開催しようと思っています。ので、ぜーひ、頑張っていただきたいわ」
この台詞の刹那、「ギャァァァ!」という黄色いもとい黄土色の絶叫が飛んだ。
目の前のオネエサマ方の顔は狂喜乱舞、興奮マックスの赤ら顔に変化する。
「パッション レッド貸切ですのね、倫子ママ!?」
先ほど私が声を掛けたときに『時間ないわよ』と一刀両断した金髪美女が身を乗り出すようにして倫子に尋ねた。
「ええ、ナナさん。それにお店のホストの子はリクはじめ、すべて皆さま一夜独占です」
「お店の子全員! ギャーー!」
今度はボニューミーなアフロヘア―にぽっちゃり体型をしたオネエサマが腰をくねらせ大絶叫した。
ひとしきり盛りあがると、今度は私にオネエサマ方の目が注がれる。
そこから憎悪は消えいる。
しかしありがたくないことに欲望に満ちたギラギラ燃えるような目つきに皆変わっている。
――なんかすごくヤバくない?
と身震いするほどだ。
オネエサマ方のやる気スイッチをフルマックスにする力があのバカホストのいる店にはある、ということなんだろうか。
世の中わからない。
本当にわからない。
「それともう一つ、ナナさん、レイナちゃん、ユウちゃん三人には特別に頼みたいお仕事があるので、ちょっと廊下に出てもらえるかしら? あ、アキちゃんもね。そういうことなので、後の皆さまはとにかく一丸となって、アキちゃんのこと頼むわね」
そう言って倫子が扉を開けて出ていくと、彼女に続くように指名されたオネエサマたちが部屋を後にする。
最後にそぉっと忍び足よろしくついて行く。
扉を閉めた途端、扉の向こうからものすごい嬌声が響き渡っていた。
それこそ、扉を吹き飛ばしてしまいそうなくらいの勢いで。
呆然と扉の向こうを見ていた私の肩がトントンと叩かれる。
我に返れば、廊下に出た三人のオネエサマに倫子が自己紹介をかねて話をし始めるところだった。
「来週の水曜日。リクに合コンしてくれるように頼まれていたわよね、ナナさん?」
大きなパッチリした目をした細身なのに色香漂う金髪女性に向かって倫子が尋ねる。
するとナナと呼ばれた女性は大きくうなずいた。
一応女である私の目から見てもナナは本当に美人だ。
元性が男とは思えない。
倫子の説明だと彼女はこのショーパブ一番人気で、かつ、ここのリーダー的存在だという。
「頼まれた相手には会ったし、その後やり取りもしています。4対4という設定で。あとは今話題のCM美女と言っておいてとリクくんには言われていたのですが、倫子ママ。もしかしてその子が……なんて言いませんよね?」
ちらりと私を見ながらナナが問う。
その直後、他の二人も同時に私を見た。
「私のメイクの腕、あなたたちならよく理解していると思うけど?」
そう倫子が答えると三人は顔を見合わせて各々が小さくため息をついた。
「この子のことを昔ひどく傷つけて振ったヤローなのよ、あなたの会ったその男。で、今回その男にリベンジ大作戦をするってことなの。女を扱き下ろす最低ヤローに鉄槌下すお手伝いなんて爽快じゃなくて、レイナちゃん?」
話を振られたレイナこと流し目のショートカット美女はおそらく体育会系出身だろう。
ナナよりも肩幅が広めでがっちりしている。
それにかなりの長身だ。
身長の高さなら龍空とそれほど変わらないかもしれない。
そんな彼女はナナに続くこの店のナンバー2らしい。
「それは相当爽快愉快なお話ね」
と、レイナはまつげにちょんちょんと触れながらクールに答えた。
「なんでも女はみんなオレに腰砕けとかほざいているアホらしいわよ。女は男に媚びてなんぼとも言っているみたい。どう、ユウちゃん。そんな男の金玉握りつぶしたくならない?」
最後に倫子が声を掛けたのは、私とそれほど身長が変わらないフェアリーボブカットのキュート系女子だった。
二重のクリクリした目をした愛らしい顔立ちの彼女はこの店の愛玩キャラであり、3番手である。
その彼女が倫子の問いかけに、男心を揺さぶるような可愛らしい笑みをクスッと零した後でハッキリと答えた。
「再起不能にしてやりたいかんじです」
とものすごく怖いことを本当に涼しい顔をして。
「そういうわけで、当日はあなたたち三人がこの子の味方になってあげてね。そいつに思いっきり鉄槌くだせるようにサポートするのがお仕事よ。我が弟ながら本当に私事持ち込んで申し訳ないんだけど」
「ちなみにリクくんの彼女なのかしら?」
じっくり品定めするように三人がこちらを舐めるように見つめた。
その質問にブンブンと大きく頭を振って答えると倫子も「候補かしらね」と付け足した。
「まあ、今のまんまじゃリクファンとしてはちょっと応援できないけど、そうね。そんな男へのリベンジで変身したいって言うなら応援したくなるわね」
とは金髪美女ナナ。
「そうよねえ。復讐っていうのは嫌いじゃないし。女をバカにする男なんてロクな玉じゃないことは間違いないわ」
と続けたのはクールビューティー、レイナ。
「それにくっついてくる男もきっと大したことないわね。『女』の恐ろしさ、教えてあげないと」
ニッコリと人好きのする愛らしい笑みを湛えたまま怖いことを言うのはユウ。
美女に変身した元オニイサマ方が揃って不敵な笑みを浮かべ、腕組みしながらこちらを見た。
「よ……よろしくお願い……します」
「こ・ち・ら・こ・そ」
迫力に気圧されながら挨拶をした私に、オネエサマたちはこれ以上ないほど怖い笑みを浮かべた。
女を敵に回すことなかれ――を肌で感じる。
感じまくってる!
――それにしても……
なんていうことを考えつくんだ、あの男は。
お任せをと豪語したリベンジの舞台が倫子の店を支えるトップ3との合コンだとは。
とても斬新。
想像すらしていなかったリベンジマッチをよくもまあ組んでくれたもんだ。
感心する。
思いっきり回避したいけど。
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