伏喰童子

七転ヤオキ

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神隠シニ非ズ

誘拐

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◼︎
カタ……
 路地からモノが動く音がした。一見、建物の荷物が雑多に置かれている、よくある路地に見える。建物で影になって、薄暗いその場所には、古い木材で作られた箱や、店から出たゴミが、積み上げられどこかに運ばれるのを待っている。だが、そんな忘れ去られる物体たちの影に、わずかだが小さな影が、動くのが見えた。
 それが何であるか、わかる前に少年はそばに立っていた少女に手を引かれた。

 彼らは何も言わず、静かにその場を立ち退こうと歩を進めた。こんな人通りが多く、陽の光が当たる場所で、わざわざ現れるモノはいない。それにあと少しでキョウとジキルの待つ公園へ辿り着ける。
(大丈夫、このまま……)
「フク」
 そう思っていたフクだが、先に彼の小さな体が宙にふわりと浮かび上がった。
「わっ!」
 相棒である少女、小白に抱きかかえられたかと思えば、彼女は公園へと走った。横抱きにされたフクは、振り落とされないように慌てて小白の上着にしがみつき、彼女の色のない顔へと視線を向けた。だが彼女はフクに見向きもせず、真っ直ぐ公園へと視線を向けていた。
 彼女からの説明を諦め、フクは辺りを見回した。本来ならば猛スピードで走り抜ける彼らは異常だ。街の住民がフク達を見て、驚き、この国の警備隊へと通報が入るだろうが、今誘拐事件のせいでメインストリートを外れた場所に通行人は極端に少なかった。
 だが、フクはだんだんと赤く染まる空と伸びる影に、顔つきが険しくなった。
「シャオパイ! キョウさん達にこのこと伝えた!?」
「はい、あちらにはすでに伝達済みです。今はあなたをお守りするだけです」
 その言葉を聞いて、フクは目を瞑り、首を横に振った。彼の表情は泣きも笑いもせず、ただ無表情だった。
「無理だ、もう相手の罠にかかってる」
「!!」
 小白の無表情の顔も、若干の焦りが見えた。そしてすぐに周囲を見渡し、彼らがいつの間にか見知らぬ場所へと足を踏み入れていたことに気がついた。
「……!!」
 小白はキョロキョロと周囲を確認し、まるで建物の中から出口を探すかのようにぐるぐると辺りを駆け回っている。なぜなら一本道だったはずなのに、全方向に同じような道がずっと同じように続いているからだ。何度向きを変えても、道は同じ景色で、先は果てしなく続いている。
「シャオパイ……落ち着いて、多分待ってたらやってくるから」
「……はい」
 対峙する意を決したフクは、小白の背中に移動し、彼女もまた、隠していた武器を構えた。ポケットから取り出したのは一四寸ほどの刀だ。それを二つ取り出して両手に持って構えている。
 
 彼らの後ろから、「ざっざっ」と足音が近づいてくる。それも複数人、それぞれ右、真後ろ、左から聞こえてきた!
「……!」
キンッ
 鋭い金属音と共に火花が散る。
 小白は最初に飛び出してきた影を、刀で弾き、そのまま蹴飛ばしてしまった。影は、フクと同じくらいの背丈で、小回りの効いた立ち回りでフクの目を翻弄した。だが、小白には大した脅威ではなく、彼を背負ったまま、自由に動き回る影達を一人、また一人とナイフで地面に縫い止めてしまった。
「これで」
 「最後」と呟いた彼女は、影をねじ伏せて紙紐で両手両足を拘束してしまった。

「あ、わわわ……」
 一部始終を見ていたフクは、開いた口が塞がらなかった。それほどまでに彼女の動きは洗練されて無駄のない、美しい静圧だった。
 小白は飛び出してきた影を、間近で確認した。黒い衣装に包まれた体は、年端も行かない子供、と思いきや布と木でできた「人形」だった。もちろん普通の人形ではないことは確かなのだが、小白はフクを下ろして、ソレらについて観察を続けていた。よくある傀儡術だが、これらがなぜフクを襲ってきたのか調べる必要があった。
 フクもまた、小白が調べている間、周囲を見渡してみる。初めに気がついたのは、日が急に傾いたことだ。まだ午前中で、日が傾くには夜と同じくらい昼寝をしたとしても余ってしまうほどの時間がある。だが、目の前の日は地上に近く、天も薄暗くなっている。
 罠にかかってしまったフクだが、こういったことは本来の世界にいたときにもよくあることなので対処方法も慣れていた。
(このようなときは、相手の目的を仮にでも果たしてやる……)
 フクの後ろから、「カタ」と固いものが動く音がした。フクの下にくっついている影は、フクの本来の大きさよりも大きなものへと膨らんでいく。その様子にフクは「ハハ」と小さく笑った。
(狙い通りだ……)


「……あれ?」
 フクは自身の違和感に気がついた。
「何で『僕』、こんな難しいこと考えられる?」
こてん、と首を傾けたと同時に、彼の体は影に包み込まれてしまった。

「フク? 何か言いましたか?」
 人形を調べていた小白は、少年がいる方向へ顔を向けた。だが先ほどまで、そこに立っていた彼はどこにもおらず、ただ真っ赤に空を染める夕焼けだけがあった。
「フク……?」
 小白が瞬きをした途端、周囲は本来の明るさに戻り、天は澄んだ青空が広がっている。彼女が調べていた人形達も消えてしまっており、人通りも先ほどと打って変わって、大勢の人で賑わっている。
 近くの看板を見れば、そこはジキル達と待ち合わせている公園前であり、彼女がいるのがメインストリートであることがわかる。人通りの多いここならば、誘拐犯に襲われる心配はないだろうと、このあたりの人は屋台や買い物を楽しんでいるようだ。
「……」
 街ゆく人は、呆然としている彼女を不思議そうに眺めながら、そばを通り過ぎていく。小白はすることがなくなった人形のように立っていることしかできなかった。

◼︎
「……」
 小白と視界を共有をしていたキョウは、フクたちが異空間へ入ってから小白が戻ってくるまでの一部始終を確認していた。

(まずい、まずいまずいまずい……!!)

「キョウ、どうした」と声をかけるジキルに相槌を打ちながらも、彼の内心は冷や汗でびっしょりとぬれていた。
(フクが攫われてしまった! どうやって? 誘拐事件の調査始めたばかりだというのに!)
 「ミイラ取りがミイラ」になってしまった状況に笑うに笑えず、泣くに泣けないキョウは、すぐさま小白にフクの居場所を探るように命令を出す。
 妖怪の作り出す異空間は、文字通り「異なる空間」ではある。だが、現実世界とどこか繋がっていることが多い。例えば神社仏閣の鳥居や門などの境界、河にかかる橋などがそれに当たる。なので一緒に異空間へ連れて行かれた小白がすぐに戻って来れたのも、どこか繋がっていたからだ。
(おそらく、子供も一度異空間へ連れて行き、隔離したところでさらったのでしょう……しかし、フクがその瞬間に気がつかないわけがない。悪食に関しては、とんでもない大食漢だぞあの子はっ……!)

バシャ

 キョウのセットされた髪からポタポタと茶色い雫が落ちる。細かく砕かれた氷も机の上にばら撒かれているところを見ると、先ほどまで飲んでいたアイスティーだろう。
 犯人はわずかに中身が残っているグラスの口を、キョウにむけていた。

「私を無視するとはいい度胸だ」
「……失礼しました」
 キョウは心の中で舌を打つ。
(このやろう……)
 煮えたぎるような怒りを抑え、冷たくなった顔をハンカチで拭きながら、ジキルは彼を睨みつけながら再度聞いた。
「それで?キョウ、『どうした』?」
「……はい、申し上げまス。 フクが攫われました」
「……例の誘拐犯にか?」
「おそらく」と呟くと、ジキルはすっ、と立ち上がる。
「ドチラへ?」
「言うまでもないだろう……フクを探すぞ」
「しかし、教会は?」
「流石に子供がいなくなったとなれば、検査どころじゃないだろ」
今度はキョウが立ち上がった。
「そうですが……今、教会にいちばん疑われているのはあなたです。もし今フクを探しに向かえば、自作自演と判断されてますます疑われてしまう」
 口調すら欺けなくなってきたが、キョウはそれすら気にできない。ジキルはそんな彼を見て、うんざりしたように言った。
「ならば攫われたままでいいのか? 私はともかく、お前やエドワードはそうも言ってられないだろ」
「……」
淡々と答えるジキルに、キョウは何も言えなかった。確かに今フクを一時的だが手元に置いておける存在が、彼の言語を理解できるキョウだ。だがキョウは目の前の男の息子であり、別人格であるエドワードを制御することができない。あの屋敷の中で、フクだけがエドワードを抑えることができ、それによりジキル家は平穏を保てている。
 ジキルの言う通り、あの屋敷の安全装置となっているのは、フクなのだ。彼を取り戻すためならば、これまでこの世界で培ってきた人脈を総動員させてでも探しに行きたい。しかし、ジキルとここで分かれて探しに行くのは悪手だ。
 なぜなら彼は平気な顔で教会にキョウを売ることができる。間違いなくこの後、教会にキョウのことを話す。
 ここでキョウはふと、あることを思い出して彼に提案した。
「旦那さま、教会へ行きましょう」
「……理由を」
 ジキルはキョウを訝しげに見る。今、教会に対して警戒していたというのに、キョウは顎を抑えてジキルの問いに答えた。
「フクが言っていたのです。おそらく誘拐された子供は水路と何か関係があると……ですが、これまでも教会が町中を、それこそ草の根分けてまでも探していたはずなのに、なぜか今回子供の遺体の一部が用水路から出てきた。どうして一ヶ月経った今頃に?いや、そもそもなぜ体の一部を誘拐された子供だと判断した?一体誰が?何を見て?」
「……」
 キョウはジキルの顔を見ずに話す。おそらく彼自身、考えながら話しているのだろう。やがてキョウは顎に当てていた手を離し、普段のニヤニヤとした、何を考えているのかわからないような笑顔を向けていた。いや、何を考えているのかはわかる、こういった笑顔は大人の世界ではよくある。人の秘密を手中に収めた時の笑みだ。
「旦那さま……見つかった遺体の持ち主が誘拐された子供と判断する人は誰が行うでしょうか?」
ジキルは彼が言いたいことがわかり、頭を抱えた。
「……そうだな、状況証拠だけでもの言うのはユニさまか、捜査を行なっていた教会の神官の責任者、遺体の照合ならば、死体解剖を行った教会お抱えの医者だな」
 キョウは今回の児童誘拐という恐ろしい事件を、神の御使たちの本拠地である教会関係者が関わっていると思っているのだ。
 この国の住民であれば、そんなこと絶対考えつかない。だがキョウの考えを理解し、答えてしまったジキルはすでに、悪魔憑き、いや悪魔になる素質があると証明しているものだ。
 痛む頭を抑えるジキルに、キョウは早口で捲し立てる。
「もちろん、人もですガ、あそこは国の役所のような役割を果たしていますから、この国の、町の地図だけでなく、水路に関する地図もおそらくあります。水路というのは荷物の運搬の水路、排水処理を行う水路、そして本来川があった場所を工事して囲み、地上では見えない状態にした水路、暗渠というものもあります。つまりそれらの水路とフク、子供達が攫われた場所を調べて行けば、犯人たちの、フクの居場所を突き止められる手がかりに……」
 半分興奮状態にあったキョウは、「は」と自身の立場を思い出したようだ。いつもの胡散臭い笑顔も、言葉の最後に音をおかしくする口調を取り繕うのも忘れている。
「んんっ……」
 彼は一度咳き込んだ後、無理矢理、曖昧な笑顔を作ってジキルに進言した。
「……なので、私たちは一度教会で情報整理する必要があると思いマス」
「……そうか、なれないキャラはしない方がいいぞ」
「お気遣い感謝致しまス」
 ジキルとキョウは二人で席を立ち、滝つぼを後にした。真っ直ぐに教会の本拠地へ向かい、二人は自身の役割をそれぞれ確認した。
「私たちは教会で、私は地図、お前は子供の攫われた場所と記事をまとめた人物の把握を行う」
「……私の作業量多くないデスか?」
「私はお前と違って、診断を受けなければならない。それにお前に何かあったら困るだろ、私が」
 キョウは若干ショックを受けたような顔をしていたが、ジキルは先に施設の中に入ってしまったので彼の顔を見ることはできなかった。

 教会は閑散としていて、診療をまつ患者、洗礼を受ける信者、何かしらの用事で来ている住民、そして業務で粛々と闊歩している神官たちで溢れかえっていた。その中の神官達は白い制服に身をつつんでおり、床の赤い絨毯によく目立っていた。
 キョウは初めこそ、教会内に入った途端、結界が仕掛けられていて入った途端に警報音が鳴ることを恐れていた。しかし入っても人が来るどころか神官達も、ジキルの隣に歩く顔色と笑顔の悪い男に興味を持っていなかった。
 ジキル達は受付を済ませた後、待ち時間も兼ねて書籍コーナーへキョウと共に向かった。

◼︎
 バシャ
 鈍い、水の音でフクは目が覚めた。だが瞼を開けたはずなのに、目の前は真っ暗なままだった。
 ぱちり ぱちり
 フクは真っ暗な場所に閉じ込められているとすぐに気がついた。『閉じ込められている』とわかったのは、起きあがろうと身を持ち上げたら頭をぶつけたからだ。手で触って確認してみれば、荒い木材の壁、それが自身の四方を覆っている。フクはどうやら頑丈な木の箱に詰められて運ばれているようだ。しかも耳をすませば水の流れる音と、ときどき箱が硬い何かに当たる音、そしてゆりかごのような振動から、箱ごと流されている。
「フクながされてる……」
 現状、不幸中の幸いなのは、現状手足は拘束されていないことだ。
 フクの腕力で箱を壊して逃げ出すことも可能だ。しかし周囲が川なので、泳げないフクは流されてしまう。フクは諦めて大人しく誘拐犯の手の内で大人しくすることに決めた。

「また、ひとりぼっちだ」

 前回は真っ白で明るい場所に一人でいたが、今回は連れ去られたときている。一体、どんな物好きが自身を連れてきているのか、呆れて何も言えなかった。
「キョウさんもフクを捕まえようとしてたけど……【見る目ないなぁ】」
 はた、フクは自身の心境に嫌な予感がした。そしてその嫌な予感は、グルグル回る自己嫌悪のように、むくむくと膨れていく。
 その予感通りと言わんかのように、額からわずかだが硬い突起物が突き抜ける感覚……ツノがまた生えてきた。フクは鈴が奪われたことで、自身の体を制御できる時間が少なくなっている。もしできなくなった時のことを考えるだけで、フクは身の毛がよだつ思いだ。
「わわわ!」
 フクは慌てて額のツノを抑える。だがその拍子に箱が揺れ、フクの頭と頑丈な木の箱が「ゴン」と心地よい音を立てる。
「いたた……」
 額をぶつけた木の壁から、木の樹液の苦い匂いと水の湿った匂いが入ってきた。
「?」
 フクが額を抑えながら前を向くと、わずかだが光が差し込んでいる。フクの人差し指が入る程度の大きさだが、木の箱に穴が空いている。
「ぶつけた時に穴が空いちゃった……」
 わずかに生えたツノが木の箱に刺さってしまったのだろう。
「怒られるかな……」
 他人のものを壊してしまった。
 しかし、そもそも相手は誘拐犯である。少しばかりの損傷は大したことがないだろう、とフクは気にしないことにした。
 フクは差し込む光の先を見つめた。
 箱の外は薄暗く、差し込む光は青白い。月明かりかと思ったが、どうやら光がゆらめいているところから炎のようだ。
「……鬼火?」
 「鬼火」とはその名の通り、鬼が生み出す炎の名称である。体が炎でできている妖怪もいるが、今回は前者である。つまり、今回は妖怪が関わっているということだ。
「子供を食べる?でもフクは攫われただけで食べられてないし……」
 目を細めながら、さらに周辺を確認する。箱はゆらゆらとスピードを落とさずにまっすぐ進んでいる。わずかに照らされた先には、洞窟の中のように岩の壁でできている。壁の表面の凹凸が滑らかに見えるところから、水で削られた洞窟なのだろう。
 フクが知る限り、この異世界には水路が見えないように設置されている。つまり地中に水が流れているのだ。逆に目に見える川というものを商業地区と中央の聖堂地区では見たことがない。しかし水道設備もしっかりしているし、フクの住む屋敷にも井戸もある。唯一見たことのある水辺というのが、竜が住んでいた公園の池だ。あとはジキル達がいるはずの教会近くの滝。キョウの説明によれば、そこが水源地らしい。
(……地下の水路?……いや、ここが本来の川なのか?)
 水路はあれども、妖や神の住む川がないのはフクにとっては違和感しかなかった。しかし、街のずっと深くに、水路とは別に川があるのならばもしかしたら、教会の神官たちはここを調査していないのかもしれない。
(……そう言えばこの世界は神様は一人しかいないんだっけ、なら川のことを忘れてても仕方ないのかな)
 一人で作り上げた国ならば、街の深くにある地下川を忘れていてもしかないだろう。
 
 がたん

「わっ!」
 突然、箱が音を立てて止まった。どうやらどこかにぶつかったらしい。フクの後頭部も思いっきり打ちつけてしまう。
「いたた……もうっ!」
 短時間に何度も頭を当てて、落ち着いていた心も流石に、怒りが湧いてくる。痛む頭を抑えて、再び穴の先をのぞいた。見れば景色は止まっていて、周囲には人型の影が動いている。どうやらここが終着点らしい。
「ここは……」
 どうにか周囲の特徴を掴もうと穴を覗き込むが、やっぱり薄暗い空間の中だ。仕方がないので、人影の動きを観察する。彼らは何も喋らずに、自分たちの仕事を淡々とこなしているようだ。ただ気になるのは、その作業に若干の違和感があることだ。初めは不慣れな作業なのかとフクは思っていたが、何か違う。不慣れというより、動き自体がぎこちないのだ。
 こういった人たちの動きをフクは見たことがある、だがどこで見たのか全く思い出せない。どうにか思い出せないかと思っていた。

「……⚫︎⚫︎⚫︎」
「!」

 突然、箱の外から人の声が聞こえた。フクは慌てて息を潜める。翻訳をしてくれるはずの小白がいないので、フクにその人が何を言っているのかわからない。
 声は野太く、落ち着いた成人男性のものだった。箱の隙間から覗くと青白い鬼火に照らされた人物がフクの入っている箱の側に立っていた。
「……」
 その男は真っ白な上着を着て、ジキルのような薬剤師や、科学者を彷彿とさせた。わずかだが、アルコールのような甘い匂いと白檀のような苦味のある匂いが箱の隙間から漂ってきた。彼はフクを攫った人物に何か渡すと、フクの入った箱をそっと持ち上げて丁寧にどこかに運んでいく。
 やがてどこかに下ろされた。下ろされてからまもなく冷たい冷気が箱の板を通してフクの背中を冷やしていく。
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