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第一章 胎動
第十話 決行(上)
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「宮部さん、ようこそ」
寅次郎が、ニコニコしながら、部屋に入ると、宮部が、猛然と、つかみかかってきた。
「吉田君!いったい、何を考えているのだ!?前にも言っただろう!アメリカに行くなど、正気の沙汰ではない!」
宮部に、組み伏せられて、寅次郎は、苦し気に、咳をした。
「しかも、私に黙って、決行しようなどと・・・けしからん!」
「・・・だって、宮部さん、反対する・・・じゃないですか」
「だからといって、黙っているのは、卑怯だ!君と私は、友では、なかったのか!?」
宮部は、寅次郎の胸ぐらをつかんで、上下に、揺さぶった。
「宮部さん、くるしい・・・」
寅次郎は、顔を紅潮させて、もがいている。
我に返った宮部は、寅次郎から手を放し、座り込んだ。
「どうしても、行くのか」
寅次郎も、体を起こした。
「はい、どうしても」
「首尾よく、アメリカ船に乗せてもらえたとしても、その先、どうなるか分からん。ましてや、失敗して、幕吏に捕まってみろ・・・」
宮部は、間を置いた。
「殺されるぞ」
寅次郎は、屈託のない、笑顔を浮かべた。
「それでも、いいんです。僕にとって重要なのは、行動することなんです。空論ではなく、実践こそが、世の中を変えるんだと信じていますから」
宮部の肩は、震えている。
「君は、見かけによらず、頑固な男だ」
二人の間に、沈黙が流れた。宮部の、鼻をすする音だけが、聞こえる。
しばらくして、宮部は、床の間から、長刀を一本取って来て、寅次郎の目の前に、突き出した。
「家宝の刀だ。餞別にくれてやる」
1854年3月、江戸幕府は、アメリカと、日米和親条約を締結した。
ペリーの、軍事力を背景とした強硬な姿勢に対して、幕府の代表は、ねばり強く、交渉を続けた。
1か月に渡る交渉の末、下田と函館は開港することに決まったが、通商は拒絶し、かろうじて、鎖国を維持することに成功していた。
この夜、寅次郎と重輔は、下田に到着した。これに先立って、ペリー艦隊は、神奈川沖を離れて、下田に入港していた。
2人は、港から離れた海岸に潜んで、満潮を待った。波の寄せる音が、静かに響いている。月の光は弱く、辺りは暗い。
重輔が、空を見上げた。
「先生、絶好の密航日和になりましたね」
寅次郎は、笑った。
寅次郎は、重輔の、快活で、真っすぐな気性が好きだった。
「さて、そろそろ、漕ぎ出しますか」
2人は、舟を押し出して、飛び乗った。舟が、大きく揺れる。櫓(ろ)は、重輔が、握った。
寅次郎は、櫓を握る重輔を、振り返った。
「今さらですけど、重輔。君は、舟を操ったことがあるんですか?」
「ないですけど」
「そうですか」
寅次郎は、再び前を向いた。
「出してください」
舟は、闇夜の中を、静かに進んだ。櫓のきしむ音と波の音だけが、聞こえてくる。
寅次郎は、ポーハタン号を、見つめている。懐中には、密航の目的を書いた書状があった。
ポーハタン号の艦上では、ランタンを持った兵士が、何人も、巡回している。
ふと、寅次郎が、振り返った。
「上手ですね。本当に初めてなんですか?」
重輔は、えへへっと笑った。
「今さらですけど、僕の行きたいのは、あの船なんですが・・・」
寅次郎は、ポーハタン号を指さした。
「え!?」
「なんだか、横にそれて行ってません?あの船は、ミシシッピーといって・・・」
重輔は、慌てた。
「先生!あの船が、一番近いですって!」
その様子を見た寅次郎は、にっこり笑った。
「それも、そうですね。では、あの船にしましょう」
寅次郎が、ニコニコしながら、部屋に入ると、宮部が、猛然と、つかみかかってきた。
「吉田君!いったい、何を考えているのだ!?前にも言っただろう!アメリカに行くなど、正気の沙汰ではない!」
宮部に、組み伏せられて、寅次郎は、苦し気に、咳をした。
「しかも、私に黙って、決行しようなどと・・・けしからん!」
「・・・だって、宮部さん、反対する・・・じゃないですか」
「だからといって、黙っているのは、卑怯だ!君と私は、友では、なかったのか!?」
宮部は、寅次郎の胸ぐらをつかんで、上下に、揺さぶった。
「宮部さん、くるしい・・・」
寅次郎は、顔を紅潮させて、もがいている。
我に返った宮部は、寅次郎から手を放し、座り込んだ。
「どうしても、行くのか」
寅次郎も、体を起こした。
「はい、どうしても」
「首尾よく、アメリカ船に乗せてもらえたとしても、その先、どうなるか分からん。ましてや、失敗して、幕吏に捕まってみろ・・・」
宮部は、間を置いた。
「殺されるぞ」
寅次郎は、屈託のない、笑顔を浮かべた。
「それでも、いいんです。僕にとって重要なのは、行動することなんです。空論ではなく、実践こそが、世の中を変えるんだと信じていますから」
宮部の肩は、震えている。
「君は、見かけによらず、頑固な男だ」
二人の間に、沈黙が流れた。宮部の、鼻をすする音だけが、聞こえる。
しばらくして、宮部は、床の間から、長刀を一本取って来て、寅次郎の目の前に、突き出した。
「家宝の刀だ。餞別にくれてやる」
1854年3月、江戸幕府は、アメリカと、日米和親条約を締結した。
ペリーの、軍事力を背景とした強硬な姿勢に対して、幕府の代表は、ねばり強く、交渉を続けた。
1か月に渡る交渉の末、下田と函館は開港することに決まったが、通商は拒絶し、かろうじて、鎖国を維持することに成功していた。
この夜、寅次郎と重輔は、下田に到着した。これに先立って、ペリー艦隊は、神奈川沖を離れて、下田に入港していた。
2人は、港から離れた海岸に潜んで、満潮を待った。波の寄せる音が、静かに響いている。月の光は弱く、辺りは暗い。
重輔が、空を見上げた。
「先生、絶好の密航日和になりましたね」
寅次郎は、笑った。
寅次郎は、重輔の、快活で、真っすぐな気性が好きだった。
「さて、そろそろ、漕ぎ出しますか」
2人は、舟を押し出して、飛び乗った。舟が、大きく揺れる。櫓(ろ)は、重輔が、握った。
寅次郎は、櫓を握る重輔を、振り返った。
「今さらですけど、重輔。君は、舟を操ったことがあるんですか?」
「ないですけど」
「そうですか」
寅次郎は、再び前を向いた。
「出してください」
舟は、闇夜の中を、静かに進んだ。櫓のきしむ音と波の音だけが、聞こえてくる。
寅次郎は、ポーハタン号を、見つめている。懐中には、密航の目的を書いた書状があった。
ポーハタン号の艦上では、ランタンを持った兵士が、何人も、巡回している。
ふと、寅次郎が、振り返った。
「上手ですね。本当に初めてなんですか?」
重輔は、えへへっと笑った。
「今さらですけど、僕の行きたいのは、あの船なんですが・・・」
寅次郎は、ポーハタン号を指さした。
「え!?」
「なんだか、横にそれて行ってません?あの船は、ミシシッピーといって・・・」
重輔は、慌てた。
「先生!あの船が、一番近いですって!」
その様子を見た寅次郎は、にっこり笑った。
「それも、そうですね。では、あの船にしましょう」
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