不運なプリンスの闘い~未来の天皇は家族の危機に立ち向かう~

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本編

第2話 成年式

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 英弘7(2025)年9月

 理仁おさひと親王しんのうは成年式に臨んでいた。これは父の葛城宮かつらぎのみや維仁ゆきひと親王しんのう以来約40年振りの儀式であった。

 本来であれば普徳23(2011)年の健仁の20歳の誕生日に行われるはずだったのだが、成年前に皇籍離脱したため理仁の成年式までかなりの期間が空くこととなった。

 装束は葛城宮家の私費から費用を捻出して新調し、檜扇ひおうぎ空頂黒幘くうちょうこくさくは父のものを再利用した。

 装束姿の理仁の空頂黒幘くうちょうこくさくが外され成年用の冠が被せられ、顎に紐を掛けて結び余った部分がパチンパチンという音と共に切断される。

 これは成年式を象徴する音とされている。

 その後、理仁は立ち上がり穏やかな笑顔を浮かべる天皇の前で感謝の言葉を述べる。

 「本日は冠を賜りまして、誠にありがとうございました。成年皇族としての責任の重さを自覚し務めを果たしてまいりたいと思います。」

 続いて天皇皇后の隣に座る両親の下へ向かい感謝の言葉を述べる。

 「成年式を挙げていただき、誠にありがとうございます。成年皇族としての自覚を持ち、務めを果たしたく存じます」

 その様子を天皇皇后は勿論、他の皇族達も感慨深く見つめていた。自分達の一族の未来の全てがこの成年皇族の両肩に掛かっているからだ。

 その後、加冠の儀を終えた理仁は縫腋袍ほうえきのほうに着替え馬車で宮中三殿を訪問。成年の報告を行う「賢所皇霊殿神殿に謁するの儀」を執り行った。

 その後、燕尾服に着替え、宮殿にて「朝見の儀」に臨んだ。

 天皇皇后に対し「成年皇族としての責務の重さを自覚し、学業に勤しむと共に経験を積み、これまで賜りましたご恩にお報い申し上げたく存じます」と抱負を語った。

 天皇は「成年おめでとう。学業に励まれながら皇族としての務めを果たされることを願います」と

 皇后は「様々な経験を積まれることを祈ります」とそれぞれ言葉を掛けた。

 ◇◇◇

 天皇から最高位の勲章「大勲位菊花大綬章」を賜った後、葛城宮邸へと戻った理仁は記者からの質問を受けていた。

 「成年式を終えられたご感想をお聞かせ下さい」

 「まず滞りなく儀式を終えられましたことに安堵しております。これからは成年皇族としての自覚を持ち、皇室の一員としてその務めを果たしてまいりたく思います。」

 理仁は笑顔でそう記者からの質問に答えた。

 こうして皇居で行われる一連の儀式を終える事となった。

 ◇◇◇

 都内・とある高級ホテル

 成年式を終えた理仁は家族と共に東京都心にある高級ホテルを訪問していた。両親が主催する内宴へと参加していた。

 「理仁、成年式お疲れ様。あのちっちゃかった子がこんなになって...姉さまは感動したわ」

 理仁の次姉・誠子内親王せいこないしんのうはそう感慨深そうに言葉を掛ける。

 「ありがとう、誠子姉さま。文子姉さまも来てもらいたかったけど...やっぱまだ難しかったね」

 「赤ちゃん産まれて間もないしね」

 そう言って少し残念そうな2人。ただし、1について全くといって触れられていなかった。基本的に皇室内では完全なタブーと化していたからだ。

 また余談だが理仁が小学校~高校に在学している間学校の図書室からの本は神道系を除いて全て撤去されていた。これもの前例が影響したからである。

 内宴にて葛城宮と天皇がそれぞれ祝いの言葉を語ってから食事が始まる。

 誠子は見事な所作を見せて周囲の参加者やスタッフを感嘆とさせていた。

 「少し化粧を直してくるわね」

 「行ってらっしゃい」

 誠子はそう言うと席を立ちあがり、理仁はそれを見送っていた。しかし、これは来たるべきXデーへの第1歩であることに誰一人として気付く者はいなかった。

 ◇◇◇

 「うええっ...!」

 誠子は周囲に人がいないことを確認してからトイレの個室に入り、今まで食べた食事を全て戻してしまった。ここ数年蓄積されたストレスはそろそろ限界に近付いており、これまでは人がいる場では我慢できていたものの今ではそれも危うい状態にまで悪化していた。

 (こんなところで立ち止まってられない...学業優先でもまだ1ヶ月近く大学の休みがあるんだから...公務に参加するあの子を支える為に...しっかりしろ私...!)

 精神的には限界を迎えつつあった彼女だったが弟を支える為にそう心の中で自身を奮い立たせている。

 成年の儀式の後は伊勢神宮や神武天皇陵、曾祖父の陵への参拝。そして祝宴が控えている。更にその1週間後には日本で開催中のスポーツ大会の観戦を共に行う予定である。

 姉として重責を担う弟を支える為、彼女は立ち上がった。

 顔を見ると少し青白く血色が悪く見える為軽く化粧を整える誠子。

 (女は心の傷をコンシーラーで隠しているだけ...ちょっと前に見た映画にそんなセリフがあったわね...)

 そんなことを考えながら化粧を整えた誠子は会場へと戻った。

 ◇◇◇

 内宴が滞りなく終わった翌日。理仁は休む間もなく伊勢神宮を参拝。成年式を終えた事を報告した。その後神武天皇陵を参拝する為に奈良県に移動し参拝。御手振りが可愛らしいと大きな話題を呼んだ。そして、曾祖父の陵の参拝を終え最後の成年式関連行事、祝宴に臨んだ。

 首相が皇族方より先にグラスに口を付けたことが一部で騒がれた事を除いて滞りなく終わるはず

 祝宴に際しスタッフが膝をついているのを見てアンチが一斉に「葛城宮家が職員を跪かせている!」と一斉に非難の声を上げ始めたのだ。

 基本的にこの様な場ではスタッフは参加者の視線に配慮し、必要に応じて動けるよう跪くのが一般的である。

 しかし、この様なアンチの情報は瞬く間に拡散し葛城宮も「またかよ…」と頭を抱えてしまった。

 そして、最悪の事態へと繋がる事となる。
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