不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第一章

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サタヴァはルクを足元に横たわらせたまま、森の中で夢を見ている。

体が浮かぶように飛んで暗い水の上にやってきた。そこにかかっている吊り橋が見える。以前夢で訪れた場所だ。

吊り橋のたもとに兜をかぶった少女が立って話しかけてきた。

「…この場所へネックレスを持ってきてほしいの。

あれは私の片割れの持ち物なの。あれがここにないと、あの子の魂は安らげない。

邪な魔道士があれを芯とし、魔神を呼ぶ術式を展開した。

今は人は魔法を使うことがなかなかできないけど、あれを使えば魔法の真似事くらいはできる。

もっとも、魔神など呼べはしない。あれはそもそも異界との裂け目を大きくするだけの術式。

でも術式のせいで、振動と風が次第に強くなってきた。

ネックレスは渦の近くまで飛ばされてしまった。

術式の場所からは移動したけど、効果はそのまま続いてしまってる…

異界との裂け目が大きいままだと、様々なものを呼び込んでしまう。止めないと危険なの。」

サタヴァは返事もせず、ぼんやりと少女が話すのを見ている。

少女は話を続けた。

「頼めそうなのは、あなたくらいしかいないの。

ほうっておけば、あの辺りには魔獣や亡霊たちが異界から呼ばれ、
それこそ数知れずあらわれ、しかもどんどん増えるばかりになるの。

あなたには術式が展開される前にネックレスを取り上げてほしくて、夢を通じて話そうとしていたのだけど、間に合わなかった。

でも今からでも、
ネックレスをこの場所に持って来てくれれば、

術式を消し異界との裂け目を元の大きさへ戻すことができる。

これまで通り多少は何か出てくるだろうけど。

お願い、あのネックレスを取り戻して。渦の近くに落ちたの。場所は近づけばわかるはず。」

「なぜ俺なんだ」サタヴァはようやく重い口を開いた。

「私は死んでいる。」少女は言う。「魂はすでに天にあるの。私が動くことはできないの。

でもあなたは生きている。

亡霊や魔物が出てきても対抗する力を持っている。

…ところで、協力してくれるのなら、いいものをあげれると思うの。

ネックレスをこの場所に持って来てくれたら、それをあげる。」

「俺にはもう欲しいものなどない」サタヴァは言う。

「あなたにはなくても、あなたの友人の一人は欲しがるはずよ。
手に入れてお友達に渡してあげたらいいんじゃないかしら。」

「俺の友人」サタヴァは口ごもる。
「友人はいなくなった…

みな、あの場所で倒れている者は命を失っていた…」サタヴァは下を向いてしまう。

「そう、それね。

あなた、倒れていた人たち、一人一人全員の顔を確認したわけじゃないでしょ?

友人の持ち物が遺体と同じ場所に置いてあっただけでしょ。」

その言葉がサタヴァの頭に入るまでやや時間がかかった。サタヴァは顔を上げ目を見開いた。

「あ、…あの中には、いない?」

「ここの森、みんなで集まってた小屋があるでしょ。

そこへ行ってみるといいわ」

サタヴァは背中から後ろへひっぱられるように、少女からどんどん遠ざかった。起きる時が近づいたのだ。

サタヴァは目が覚めるやいなや、ガバっと身を起こすと、
ルクと共に急いで鍛冶屋の小屋をめざした。

小屋の場所を見つけ、戸に近づく。心臓の鼓動が早くなる。

戸を叩きその前で待っていると、後ろから「イャッホウー!」と叫ぶ者から、バシバシ背中を柔かい枝で叩かれた。

見るとクガヤだった。「来た来た!良かった!探しに行く手間が省けた!」

ヤトルも手に枝を抱えて走って来た。「あー、サタヴァさんだ!会えて良かったあ…」

サタヴァは二人を見るとその場に崩れ落ちてしまった。

「あれ、ど、どした」クガヤが焦って声が裏がえった。

「お前、何泣いてるんだ。
ヤトルちょっと!こいつ中に入れるの手伝って!」

二人はサタヴァを小屋の中へ入れた。二人はサタヴァと離れている間に、砦で起こったことを話した。

天幕の入口で止められ、そこに武器を置いた二人だったが、

ここから先へ行きたいわけではなく、
入口の方へむかいたいだけだと見張りの者に説明をしようとしたところ、

以前、隊に地図を渡してくれた担当の男があらわれたのだった。

以前出会った簡易宿舎は引き上げとなり、行軍に同行して村から砦まで来ていたらしい。

「おい、お前らあの時の!元気だったか?」男は顔をしかめた。「なんでこんなところまで来てるんだ?」

二人は男にここに来た経緯を簡単に話した。

「そうか、お前ら、もうこれで完了ですと言われなかったから、ずっと本隊についてくる形になってたんだな。

本来は最初に備品を配ったあたりの町村に、何回か納品すれば良かったんだぞ。」

男は見張りの者に言った。

「こいつら正規兵じゃないし、用事おわってるんだ。他に聞きたいこともあるし、連れてくわ。」

そして二人を引っぱって階段の方へ走った。

そして、階段の下の見えづらい戸の中へ二人共々隠れるように入った。

「お、おい!勝手にどこへゆく!」見張りは追ってきたが階段のあたりで見失い、そのあたりを探しはじめた。

こんなわけでサタヴァが天幕のところに来たときに、見張りは男と二人を探しつづけて不在となり、
門もまだ開いたままであったのだった。

男は見張りがその場からいなくなると、急げ!と二人を誘導した。

「お前らこっちについてこい、このまま外に行くぞ。」

男は声をひそめて話しながら歩いている。

「わかってないようだから言っておくけど、お前らここにいたら、このまま兵士として戦わされるぞ!

大した訓練もない、武器もない状態で。まず生きては戻れないぞ!」

男の説明によると、当初は薬草採取の任務としていても、ここまでついて来てしまっていれば、
人数が不足してきたこともあり、そのまま兵士として戦いに使われてしまう可能性が大だ
ということだった。

「最初会ったあたりの町村とかで、任務終了にして、そこで帰らせる予定だと聞いてたんだけど。

それでその辺の町村に、話回してたんだけどな。

行き違いになったのは俺の説明不足でもあるから、こっそり逃がすからな。

もうここへ戻るなよ!

あ、報酬は最初の町村のあたりか、
帝都の中心あたりの窓口か、どちらか受け取りやすい方で受け取ってくれ。話しとくから。」

「待ってください、もう一人、外に出た人がいて、ここで待ち合わせしてるんです!

入口のあたりにいたらわかるかなって話してて、それで入口に行こうとしてたんです。」

「あの黒髪だろ?
顔はわかるから、もし戻ってきて見かけたら、お前らを外に出したと話しとくわ。

それか、お前ら外でそいつに会えたなら、そいつにもここに戻ってくるなと伝えといてくれ。

お前ら全員命がけで戦わされる羽目になるからな!急いでここから離れろよ!」

男とはそこで別れて二人は砦から外へ出た。

「…てなわけで、自分らの武器はそこに置いたままで、外に出たんです。

その人がサタヴァさんに会えたら話してくれると言ってくれたし、砦に寄らない方がいいと思いまして。」ヤトルは言う。

話を聞きながらサタヴァはだいぶ落ち着いてきて、ほっと息をつき、心から安らいだような笑顔を浮かべた。

「ところで鍛冶屋のおやじさんここに来たんだよ。

俺らサタヴァを見つけて探し歩くつもりだったけど、

その間ここを拠点にしていいとか言ってくれてたんだ。

でもさっきすごい振動が来てて、ちょっと外を見に行くって出かけたんだ。」

「そうそう。それで僕らは炊事と風呂に使う枝集めてたところなんだ。」三人は今夜は小屋に泊まることとなった。
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