不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第二章

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影は何名いるのだろうか。四、五、六…

サタヴァは霧に隠れながら自分の周りを取り巻きつつある人数を数えた。

 九人…?把握できた人数は、それくらいいるようだ。

彼らは帝国か砦の兵士に見えた。剣は腰に帯びているが鎧などは身につけておらず軽装だ。一方、サタヴァは二本の剣を右と左に一本ずつ帯びている。

なにか声がしたと思うやいなや、いきなり三人がサタヴァに剣先を向け近づいてきた。こちらへ急襲するつもりなのか…?いや、意図がわからない。話し合いの余地は無いか?

 本当の目的を探らねば…

「待て!お前たちは何者だ!」サタヴァは呼びかけた。三名はためらうようにお互いの顔を見て、剣の構えがあやしくなる。

 野の何処からか、「怯むな!亡霊だ!切り捨てろお!」と声が響いた。先ほどちらと聞こえた声の主らしい。

 柱となる者が戦う命を出したので、他の者達は戦わざるをえなくなり、再度こちらに向かって来る。サタヴァも両の手にそれぞれ剣を持ち攻撃に備えた。

 ヲマエラは戦え、と命じる者は、最後まで戦う者の背後にいる。

先日の三名の亡霊の兵士らもそうだった。嫌な構図だ、とサタヴァは頭の隅で考える。

三名は同時に斬りかかってきた。その刃の行く先はサタヴァ一人を狙っているため、三名は密集隊形となっている。

サタヴァは右手の剣で一番左の相手の剣の側面と自分の剣の側面とを合わせた。

左へ素早く移動しながら右足を軸に左まわりで半回転する。

剣を合わせている相手は、前に向かって切りつけたはずの相手がいきなり右横に現れたため慌てた。前に切ろうとしたままの剣の運びを、途中から横の方向へ変更することは難しい。

サタヴァは右手の剣で相手の剣をそのまま相手の前方へ流しながら、相手の膝裏を自分の膝で押し、完全に相手の体勢を崩しながら、側面から押した。

押された相手の体は、密集していた残り二名に引っ掛かり、巻き込みながら三名ともに倒れた。

同時に背後からの気配も感じていたため、左手の剣を背中に垂らす。

背中を守るため、後ろで剣を右から左へ動かすと、背後から袈裟斬りしてきた剣と当たる。

剣はその位置に置いたまま、体を反転させ相手に向き直る。相手の剣は左手の剣と合わせており、右手の剣で無防備になっている相手の喉元へと向ける。

喉に剣先を突きつけられた相手は怯えた表情で降参すると呟き、剣を取り落とした。退却するのかと思いきや、その姿はかすれて消えてゆく。足元に倒れた先程の三名も、霧へ溶け込んでいくように姿を失った。この者達は…亡霊のようだ。

戦っても生きた人間を殺傷する可能性はない。サタヴァはホッとした。

「四人やられたようです!」誰かが話している声が聞こえる。恐らく残りの者が連絡しているのだろう。

「くそっ!後ろ側へと回り込め!」例の命令を下している者の声が聞こえる。

ザアッと音なき音をたて、いつの間にやらあらわれた三名が後ろから斬りかかった。

サタヴァは何やら背筋にゾッと寒気がしたため、すぐ前方へと逃げた上で後ろを振り返ると、相手の中の一名が、先に重りのついたロープをサタヴァへ投げていた。

移動する前だと射程範囲だったため、やられてしまっただろう。

投げたのは三名のうち真ん中の男だった。男は無表情にロープを手元に手繰り寄せており、その間に左右の二名が前に進み出てサタヴァへ斬りつけてきた。

この場合、サタヴァは、右手の剣で右の敵の剣を、左手の剣で左の敵の剣を受けてしまえば良さそうだが、それだと身動きが取れなくなってしまう。

そうなるとロープを手繰り寄せている男が、両手を取られ無防備となったサタヴァを好き放題に狙い撃つだろう。

サタヴァは左側へ進み右手の剣で二名の剣を受けた。

右手の平は上を向け、手の平に剣の柄をのせるような持ち方である。すぐ持ち方を変えるためあまり握り込まない。
サタヴァの剣の刃は右へ向け相手二人の刃を同時に受けている。
二つの剣を一本の剣でまともに受けとめると、相手の力加減により容易く折れる可能性がある。

そのため、サタヴァは二人の正面から斜めの場所へと移動していた。剣の受け方も刃同士ではなく側面を側面にあてる。打ち合うはずの刃は垂直には当たっていないことになる。

この状態で持ち方を親指を下にした握りに変えぐいっと受けた剣を前に押し込むと、二人は反射的に押し返して来る。狙い通りだ!

刃をすべらせて手前の男の剣を持つ手を斬る。自分の押す力でこちらの刃が深く入ったらしく、男は短く叫び退きしゃがんでしまう。

左側から、ロープの男が、先の重りごとロープを左手で再度投げてよこした。同時に右手で斬りかかってくる。

サタヴァは頭を下げ、重りとロープをかわし、左手の剣で今きた剣を受ける。

ロープと重りはサタヴァに当たらず通り過ぎてしまい、なんと右側のもう一名の者の胴体と、しゃがんでいた者の頭に命中した。

味方の攻撃で二人は呻きながら倒されてしまった。「しまった!」ロープの男は思わず気がそれた。

この機をそらさず、サタヴァは右手の剣で相手の胴体をなで切りした。

ロープの男も倒れた。都合三名が新たに消えてゆく。

残りはあと二名。

霧の中、今度は前方と後方から同時にかかってきた。

右手の剣で前の剣を受けつつ、後ろの攻撃を避けるため前方へと移動する。

このとき、剣同士があわさった場所は変えないようにしている。

そこを支点として下から半円を描きながら前方へと進む。

持ち手の方を相手側に持っていっているため、刃が同じ方向に二本とも向いているようになった。

剣を合わせていた相手は、後ろから攻撃しようとしていた味方へ、自分を含めて二本の剣先が向いているのに気づき、慌てて体勢をこちらに向けようとするが、サタヴァはその間を取らせなかった。

剣の刃先は後ろを向いたまますべらせ、相手が剣を握っている手を柄の根本に近い側で切った。
うっ、と言いながら切られた相手は剣を取り落とし…そしてその姿は消えていった。

サタヴァは最後の相手に向き直ったが、ちょうど剣の先はそちらを向いているので、体を反転させるだけだった。

最後の相手は、後ろからしかけているので、余裕があると思ったのだろうか。それとも、普段から命令を下すばかりで戦う感覚を忘れていたのであろうか。

サタヴァは直感的に命令をしていたのがこの最後の相手だと見抜いた。

だが、ただ普通に切りつけてきただけだった。

しかも打って出るために、自分からこちらへの距離を縮めていた。

サタヴァが振り向いたときには、すでにその剣を相手の首元に突きつけることとなっていた。ためらわず首元をかすめるように切る。

相手は敗北を悟ると、一瞬、虚ろな眼差しでこちらを見た後、かき消えた。

終わった…
何故このような戦いをする羽目となるのだろう。

 巡りあわせというものだったのだろうか。

 流浪する兵士の亡霊とは、もう会いたくはなかった。

夜も更けている。サタヴァはルクの部屋に戻って休むことにした。
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