愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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アースライト・ホーリースライム編

機械と蒸気と歯車の国

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 鋼鉄帝国ガルバルディ帝国。

 蒸気戦艦が到着した港から見える風景は期待と想像を超えたものだった。

 巨大な鉄骨クレーン、様々な湾岸機械。
 石炭と木炭を燃焼させて吹き上がる黒煙と蒸気。
 モダンだが量産された生地に工夫を凝らした金属装飾で個性を生み出し働く人々。

 軍人に監視され、下を向いて表情が死んでる支配層と労働者と言う構図を想像していたのだが、良い意味裏切られた。

 ホンネを言うと度肝を抜かれたと言う表現がただしいだろう。
 湾岸の市場は活気に溢れて、笑顔も多い。

 少し離れた軍港に着くと、到着を待っていた軍幹部の制服の女性達が並ぶ。
 女流社会であるのは間違いない。

 女帝アウグスタは船上であれだけ痴態を晒しても、ヴァレリアとライリーを従え、さも平然と下船する。

 戦勝国パレードであれば国を挙げての大騒ぎであったであろうが、実際にはその真逆で女帝は裁判にかけられ国家賠償を命じられての帰国であるからその面々は厳しい顔をしている。

 確実必勝を目論み、機械を上回る魔法生物にひっくり返された絶望と驚愕と慚愧心が彼女達の中で渦巻いて居るに違いない。もっとも、表情にはおくびにも出さないので分からないが。

 ただ拘束されたままのルドルフが拘束台に固定されたまま護送される姿を見る視線だけは異なる。
 ソレは失望と怒りさらに言えば『男性に対する侮蔑』が混ざって居る気がした。
 こんな中で、結果を出し続けて出世したルドルフには、多少同情の余地はあるのかも知れない。

 アウグスタが降り立った皆の前に立って宣言する。
「我らがガルバルディ帝国の存亡を掛けた先の大戦ではエリダリア王国との交戦の上、今回和平交渉に至った。支えてくれた諸君には様々思う事もあるだろうが、今後も国の為民の為尽力頂きたい。差し当たっては、友好の架け橋としてエルダリア王国かからの使者を紹介する…」

 ブリギッタは王国派遣団団長、レイラ、ナディアは民間調査、オレと雫は外交使節大使という建付けだ。
 帝国から補佐としてヴァレリアとライリーが外相担当窓口。ガンツは現場窓口になる。

 出迎えた帝国の制服組が自己紹介をする。全員軍服で胸には輝かしい勲章がずらりと並んでいる。

 赤い末広がりのウェーブのかかった髪、細い眼鏡…「クララ・シュトール生産力総帥であります。…ゴスプラン相当拝命しております」 彼女の左手は義手だ。
 生産力…人民のことを指して言っているのか?市場の明るい笑顔とは若干の乖離を感じる。ゴスプランとは…一体何なのか…

 七三分けで僅かな解れ毛が鼻先に掛るがおそらくそれも髪型なのか…黒髪が艶やかで細身に鋭い釣り目、しかも片目は歯車の意匠の眼帯「ロザリンド・ヴェルクマイスター人民潤滑省総帥であります」
(潤滑油省……?)(プロパガンダ・文化・福利厚生担当のことですぜ…)こっそりガンツが後ろから教えてくれる。 

 少し背が低く、全身を露出することなくキッチリ軍服で整えている、金髪を奇麗に後ろにまとめている巨乳美女「セレナ・クロイツァー機械教総帥であります」
(国教の最高責任者です…)頼まなくてもガンツが教えてくれる。
「錆びは原罪、磨くことは救済!」
 やべぇこと言ってる…ガンツが付け加える(異端審問機関「浄油局」のトップも兼任してます)
 本当にやべぇ奴だった。

 続いて前に出てきたのが長身瘦躯の女性が自己紹介をする「フリーデリケ・フォン・レーベンシュタイン科学技術総帥です」その異様なシルエットはかなり特徴があると言える。制服は同じようなものを身に着けているが、脚は恐らく両方とも義足。足首がそのままストレートで地面まで筒のように伸びている。腕も自前の腕とは別に背中から別の腕が伸びている。顔の半面を仮面で覆っている上に濃い紫の髪の毛をサイドを剃り上げて弁髪まとめている。
 …科学技術の総帥?ルドルフが責任者なのではないのか?冷たい視線はやや人としての温もりを感じない…

「皆長旅にてお疲れでしょう…先ずは宿舎にご案内いたします。その後に会合を開かせていただきます」
 ロザリンドが黒髪を少し弄り眼帯を弄る。眼帯がカシャカシャとギミックを動かす。盗撮でもされているのか?
 すると、前方から見知った顔が現れる。前回捕虜代表としてガンツと共にいた補給担当クラーラ・アイゼンブラットとスナイパーのヴィルヘルム・クロイツフェルトだった。
「ご案内いたします…こちらへ」

 宿舎は、本当にシンプルなレンガ造りの長方形をベースにした建物で、個性も何もない。
 区画整理された敷地内に理路整然と並んで建てられた中の一つという感じであった。
「シェル様がこちらに乗り込んでくるということは…ある程度帝国の革命の方針が固まったということですか?」クラーラはそんなことを聞いてくるが…現時点ではノープランである。女帝は押さえてしまっているので、あとはルドルフを介してアースライトホーリースライムをどう取り込むのかという話になる。
 勿論帝国民に、いくら味方に近いと言っても教えられない。

 ブリギッタも難しい顔をしている。
「このような理路整然とした街の作りはある意味感心するが…この無個性な感じは…軍事的意味合いでは有効かもしれんな…」

「我が主よ…」雫が問われることもなく声を掛けてくるのは珍しい。
「どうした?」……よく見ると顔色が良くない…こんな普通の人の様な弱さを見せる雫は初めてである。
「我も想定しえなかった…どうやら本体と離れ過ぎた故に繋がりが途絶えてしまった様だ…」
「な…つ、つまり…?」「そう、その最悪のパターンである。スレインとしての能力は今の私には期待しないでいただきたい…」
「それは…一番ヤバイ奴なのでは…」思わず周囲を見渡す。
「ブリギッタ…マズイ、雫が体調を崩している」
「それは大変だが…何かシェル殿まで影響受けるのか?」
 ああ、そうか、ブリギッタはオレと雫の本当の関係を知らないのか…雫は本体との連携が切れた状態で、他の彼女たちの支配のリンクを解くことが出来ず、自らのマナをひたすら消費して行っているのだ…
「マズイ…マジで…」こんな敵国の真っただ中で、これ以上雫が消耗することになれば…

「レイラ…ナディア!」
「どうしたシェル様…雫どのも…」レイラとナディアが何かを察してフと寄り添ってくれる。
「緊急事態だ…雫のマナが枯渇しかかっている」
「!!…我らの支配をお解き下さい…裏切るような事は致しません」
「雫!出来るか?」
「汝の命じるままに…」

「ナディア…?」「ふふ……」ニヤリと笑う顔がコワイ…
「大丈夫ですよ…シェル様ちょっとふざけてみただけじゃないですか…過ごした時間は支配とは関係ありません」
「はぁぁぁ…ホントやめて」心底ビビった。
 そして、今のオレは本当に無力な只の青年になってしまっていることに気づく。
 雫は「今の段階でそもそも海を隔ててしまったエルダリアには支配が及ばないので回路を閉じた…これで少し時間は稼げるが…じり貧だ」
 普段からあまり語らない雫が一気に語るのを聞いても危機感が伝わる。

 …無限のマナ…か…しかもこの機械化帝国はそもそも魔法が使われない
 そう言った気配を感じないのだ。
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