愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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サンライト・ホーリースライム編

聖戦の混戦

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 前線で活躍するオーク兵はざっと100人ほど。だが、超重量級の体格は人間の5人分はユウにある。
 以前ほど飢えに苦しんではないので、闘争心はどうかなと思ったが、彼らは鉄魁のコロニーの中で、群れで行動するための社会性を進化させていた。
 今回参加してくれた兵士たちは、本能に駆られて闘う狂戦士バーサーカーではなく、鉄魁と共に戦うと決意してくれた精鋭だと言われて、ちょっと涙が出そうになった。

 エルトが陣地に戻って来たので、線状の様相を一変させたあの衝撃波について尋ねる。
 しかし、混乱しているのか上手く呂律が回っていない…
「エルト?大丈夫か?」
「嗚呼、シェル様…お慕い申し上げております」

 戦場で何を呆けたこと言っているのか…?!幸せそうな笑みを浮かべるエルトを見て逆に戦慄する。
 後ろで様子を見ていた雫が冷静に指摘をする「アクアライトの回復魔法を食らっている…私も知識でしか知らぬが、アレは単なる回復ではないぞ」
「どういうことか?」
「戦場であれだけの大規模な回復は、ともすれば怪我が治るだけで争い自体が終息しなければ痛みは消えても、傷を負う苦痛だけが残る…戦場が一瞬落ち着いたのは、治癒された人間は一時的に戦意迄もが洗い流されているのではないか?」

「なるほど…じゃあ…」
 オレは問答無用で黙って彼女の唇を奪う。舌を絡ませて唾液を交換すると、何とも言えない多幸感が流れ込んでくる。
 こちらのマナで浄化させながら彼女の咥内に押し返す。
「ぷはぁっ!…シェ、シェル様」
「おい、エルフェルト騎士団長…しっかりしろ!」
「はっ!…私は…」
 エルトはどうやら意識を取り戻したようだ。
「敵の治癒魔法を受けた際に意識を飛ばしてしまっていたようだな…」
「も、申し訳ありません…シェル様。何故か『もう戦わなくてよいのだ』という気持ちに支配されておりました」
 起き上がり頭を振る。雫の読みは当たっていそうである…ともかく、安堵する。
「大丈夫ならよかった…」

「しかし、死傷者が減るのは構わないのですが、戦意喪失は危険ですね」ブリギッタが困ったように言う。
 確かに、全員に目覚めのキスをしていくわけにもいかないしな…

 戦線はこちら側が繰り出したオーク部隊と相手側の前衛との再接触による近接戦闘、こちらのオウガ達は、やはり敵側も繰り出す式神との対戦で、怪獣プロレスみたいになっており、膠着状態に陥り、混戦になっている。

 向こうも治癒は回復目的だけでなく、スケルトンの浄化がメインであったのだろう…連発するような気配はない。
「大気中のマナの密度がかなり希薄になっている…汝の読みは合っていよう…」雫のフォローが入る。
 つまり、連発も難しい技だという事だ。

「エルトは部隊を再編して再突入は可能か?」
「それが…騎馬も例の余波で扱いが難しくなっております…」
「敵も同じような状況か?」
「そうですね…今は敵騎兵も大人しくしています」
 エルトは少し歯がゆそうだが、オレとのキスだけでは、ネガティブな反応が払拭しきれていない様だ。

「よし、カイラ、ザルクとタイガで組んで、オレと雫を前線に連れて行ってくれ」
 獣人と言うか、獣そのものに姿を変えているカイラの背に乗り、雫と共に前線に出ることにする。
「お、おやめください…シェル様…おわかりでしょうが大将首を取られたらどれだけ優位であっても終わりです」
 オーガロードの力を手に入れた白兵戦総大将ともいえるブリギッタが止める。

「いや、もうこうなったら一極集中で戦場に変化をもたらせないと…」
「フォージリッジまで撤退して持久戦と言う手もありますが」
「周辺の小さな村が襲われてそのまま南下されても面倒だ。どのみち敵の大将も来ている…最初っから最終局面という事だろ…」
「だとしても…」
「大丈夫だ、危なかったらすぐに帰ってくる。それより援護を頼むよ」

 とにかく現状の消耗戦は良くない。ケルベロス聖騎士団の重装歩兵や一般兵も前線で闘っている。その中に前回同様見知った顔がいくつもあり、既に戻らぬメンバーもいる。
 余りにもこの国にこれ以上失いたくない命をオレは抱えすぎていた。魔族の魂を持つ者たちだって、人として滅ぼされたら今度は復活できるかもわからない。

 何より敵の正体を直接見て見たかった。
 無謀かもしれないが、このままではじり貧だ。

「カイラ、行けるな?」「見くびらないで頂きたい」
「頼もしいよ」
 オレはザルクに跨る雫を見て聞く「足元の洞窟はどのあたりまで伸びている?」
 雫はにやりと笑い「汝の作戦を理解した。敵も察している可能性があるが…どこでも」
「よし、いっちょ敵陣の真ん中に飛び込んでやろう…」

「アストリッド!」「ふあぃ…シェル様」
「だいぶ弱っているな…大丈夫か?」「スケルトンを大量に失いました故…それであの…」
「いやちょっと時間内から相手はしてやれない…援護を頼みたい」
「でしたら……」
「ボクたちが援護するよ」「私らは軍隊所属じゃないからな…単独で行くなら力になるぜ」
 ナディアとレイラであった。

「ごめん、忘れてた…」
「だよね…全く酷いぜ」「バツとして後で十分付き合っていただくよ」
 ウィンディーネの風属性とサラマンダーの炎属性を持つ二人の魔人が付き添ってくれるなら頼もしい。

「あまり無理をする出ないぞ?」
 引っ込んでいたかと思っていたエラリアが傍らに立つ。
「これを預かってきた故お主に託す」
 何か小さな黒曜石のような欠片である。
「コレは?」
「分からんのか?…黒曜の逆鱗の破片じゃ」
「黒曜に会って来ていたのですか?!」
「そうじゃな…もうすぐ子が孵化するそうじゃ…お主がそれを持っていれば、たちまちその場に現れようぞ」
「ありがとうございます」女王が自ら黒曜の様子を見に行き、必要なことをしてくれていたのだ。

 よし、善は急げではないが、状況が読めるうちに…
「出陣!」ラカスタと魔人のパーティが別動隊として足元の洞窟を伝って侵入しようと動く。
 目標は敵本陣地下である。
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