愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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ジパング編

久遠の弄筆日輪の輝き

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 雫によるサンライト・ホーリースライムの統合は、一見何も変わったように見えなかった。
 雫自身は、全身が光り輝き、その存在が神に等しいと思わせるいでたちを見せたが、すぐに収束しオレが良く知る雫の姿に戻った。

 ユグレシアは「核の守護者としての役目を終えることになったのか…」と、寂しそうな顔をした。
「世界樹が世界の中心にあり、生命の根幹をなして支配するという構図が終焉を迎えた…これからはお前たちの世界が全てを支配するのであろう」

「最期にお前との接吻は、わらわを個体としての意識と共感を得られて少しうれしかったぞ」
「何だよソレ…気に入ったなら幾らでも…相手してやるよ」
「ふふ…お前が太古の根源種の契約者なのだな…あまりに自然体で気づかなんだ…確かにアルヴァとは違うな」

「どうかな…オレは流されやすいんだ…全然自分に自信がないまま周囲に翻弄されてここまで来たよ」
「ふむ…まぁ……恒久の時と言えども、変化を封じた輪廻は死んでいると同義であった…」

「何だよ…言葉遊びなら…」

 よく見れば、ユグレシアの美しい素足は、床、つまり世界樹の一部と融合し始めていた。
「な、何だよソレ…?」
「先ほど言ったではないか…エルフはその役目を終えたのだ」
 いや、全然意味が分からないのだが…だが、今目の前で起きている現象は理解できる。
 エルフが世界樹と一体化して植物に変化しているということだ。

 振り向くと、イリュミナリアもエルシオンティアもすでに床に根付いている。
 ハラリと着流しが落ちる時には、元々そこに生えていた樹木の一部になっている。
 たった一枚の着流しの着衣が、文化文明を纏う生物としての矜持だったが如くの美しい生命体のエルフが、人間たちを支配し使役するという構造を核を占領されることで、破棄したことにより、自らの本質に戻ったということなのだろうか…

 アルヴァは、もしかしてエルフ族の生命としての進化も視野に入れて、人間を支配し使役し、アクアライトの支配と統合を持って次のステップを目指していたのかもしれない。

 エルフの支配など…アルヴァが死んだ時点でなくなっていたのだ。
 世界樹はここに残るのか…一つの時代が終焉を迎えた事実だけが残る。

「シェル様よ…」小夜が樹木の一部となったエルフの幹に果実の桃がっていることに気づく。
「これは…」その幹はエルシオンティアだったと思われる。
 オレは、その実を見て何かを感じなくはなかったが、大きな関心を抱くことは無かった。

「まあ、おそらく他にエルフが残っていたとしても同じことになっているだろう…帰ろう」
「これからどうなるんやろうかねぇ…。まあ、アタシはどーでもええっちゃけど、なんかワクワクすんね! まあ、なるようになるばい!」お銀も解放された感覚を持ったのであろう明るく振舞う。

「雫…こうなった理由は分かるのか?」
 オレはたまらず雫に聞く。サンライト・ホーリースライムを支配下に置いたのだ。
 オレにその知識と経緯が流れ込んで来たら耐えられない気がするので、適度に翻訳して欲しいという意味も込めて聞く。
「世界樹がサンライト・ホーリースライムを囲う檻として存在していた。その力を全身に巡らせ生命の樹として君臨したのだ…だが、【樹木は動けぬ】が故に、端末で動く存在を欲した。原子生物の中で最も効率よく活動する動物が人類の祖先であった…」

「ちょっとまった、雫…その話、長そうだけど…もしかして、オレがスレインに接触し、君を生み出したのと同様な行為を…世界樹がしたということ?」
「汝の言う通り……そうなる」

 なんと…樹木が意思をもって世界をすべるために…って、森の精霊とエルフが呼ばれるのはそれがそのままの意味であるなら当然なのだ…だが、精霊は悠久の時を生きる中で、久遠の弄筆ろうひつ物語を描くことを真面目に取り組むモノがもうアルヴァ以外に居なくなっていたのだ……

「あれだけの理想を固めた身体は中々巡り合えないが…形骸化してしまったら意味もないのか…」
「汝は我よりもあのような見た目だけが良い人形が良かったのか?」
 雫が少しすねた顔をしてこちらを見ている。え?嫉妬しているのか?

「雫…前にも言ったけど、最後は君に帰るよ……今更浮気とかを責めるのか?」
「そうではない…が、我の身体を慮ってしばらく抱いていないであろう…?」
 うーわ…何その萌えるシチュエーションは…可愛すぎるだろ…

「サンライト・ホーリースライムを捕らえる檻って言ってたな…世界樹は…その役目を無くしてどうなるんだ?」
「あえて、サンライト・ホーリースライムの力をすべて取り除くことをすれば、これだけの大樹を維持は出来ないであろう…本体は朽ちる可能性がある…だが、今は我とリンクして支配下に入っただけだ。アースライトもそうだが、特に意図せぬ場合は周囲の影響を考えて現状を維持する想定である」

「そうか…まあ、どうすべきかはオレ達が勝手に決めるより、このジパングの住人に託す方が良いのかもしれないな…」

 そう言えば気になっていることが…
「サユリは居るかい?!」
「ここに…」「おわっ!」何回このリアクションするんか…と言うくらい毎回意表を突く。

「なあ、体の調子とかどうだ?…その、エルフがどうなったか見ただろう?」
「ご心配いただき恐縮ですが…特に体が植物に戻るなどの症状はございません」
「そうか…エルフの根源種としては、消えてしまうかと思ったが…残るものもあるということか」

 サユリは何を思うか頭巾越しではわからないが…ふと後ろに視線を送った後にまた、唐突に敬拝と共に正体を隠してしまった。

「エルフの支配が無くなったとはいえ、そう簡単に天誅組の様な組織が共に仲良く…とは行きますまい…ですが、シェル様が捕虜も解放してくださったということで、若い世代も多少なりとも戻りましょう……」
 八咫烏の陰陽師の小夜は、オレに向かって深々と頭を下げた。
「この国の未来を憂いていた組織のモノとして、厚く御礼申し上げます…」
「まあ、オレ達は国を救うために動いていた訳じゃないからついでだな…まあ、それでも良かったよ」

「なあ、シェル様はこれからどうするんだい?」アカツキが興味津々で聞いてくる。
「どうせなら、アタシらとバリバリ仲良く楽しく過ごさんかい? ほら、グズグズせんごつさっさと決めんしゃいよ! アタシと一緒なら絶対退屈せんばい、ふふっ!」お銀は楽しそうだ…

「オレは悪いが自分の国に帰るよ…お前たちとの日々は長くはなかったけど楽しかったよ…」

 麓までたどり着くと、ラカスタの猫耳メイド三人が待っていた。
「制圧するような重苦しいマナが霧散いたしましたので、目的を達せられたことかと思いましたが先ずはお帰りなさいませシェル様」カイラが頭を下げる。

「うん、終わったと思う。待たせて悪かったね…こっちでは何かあったかい?」
「…特には。何もなかったわよね?」カイラは後ろを振り向いてジャガーと虎のメイドに聞く。
 ザルクとタイガは顔を見合わせて少し笑い「はい、そうですね」と答えた。

 色々思うところはあったが、留守番を命じたのはオレなのでそれ以上は不問に伏して、堺を目指す。
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