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玲瓏院の一族
【七】僕には見えない編入生②
しおりを挟む先程まで確かにみんなは、名前だけは先週くらいから耳にするようになった、『火朽』という人に対して、どこにもいないのに声をかけてはいたが、うん、どこにもいないよ!
「楠原祈梨さん」
けれど、まるで誰かが返事をしたかのような間を置いてから、先生が続けて出席確認を始めた。あいうえお順からなる学籍番号順であるから、ここからはいつも通りだった。
「南方まほろさん」
「時岡悟史くん」
「日之出渉夢くん」
「宮永秋生くん」
「玲瓏院紬くん」
最後に名前を呼ばれた僕は、狼狽えながらも、必死で返事をした。
「今日も七名、全員に会えて私は嬉しいよ」
すると、確認を終えた、夏瑪先生が言った。僕は呆然とした。どう考えても、先週までは六名だったからだ。先生自身の事を数えているとも思えない。
「本日の発表者は、宮永くんだったね。それでは、講義を開始しよう」
その後、宮永による発表が始まった。狐につままれたような気分のままで、僕の頭にはさっぱり入ってこない。状況が、まるで理解できなかった。
ディスカッションの時も、みんなは、教室に『火朽桔音』という人物が存在しているかのように、討論を交わしていた。夏瑪先生も含めてだ。時折無言の時間があると、みんなは僕の横の空席を注視し、そしてさも誰かが話し終えた風に頷き、時には質問などをしている。
こうして、何一つ頭に入ってこないまま、僕はその日のゼミを終えた。
みんなで和気藹藹と、教授室に行く話になっている。
夏瑪先生に声をかけてもらったので、僕も向かう事にした。
なんだか怖い。みんなで僕をからかっているとしか思えない。
きっと教授室で、ネタばらしがある事だろう。彼らは僕をモニタリングして、遊んでいたのだと思う。いいや、先生まで一緒なのだから、何かの実験だったのかもしれない。
そう考えながら、僕はみんなよりも早く教授室へと向かった。
大体の場合、最初に入室した者が、お茶の用意をする事になっている。
鍵を開けてくれる先生は、別としてだ。
普段であれば面倒だから、わざと遅れて入室するのだが、僕は真っ先に入り、奥の給水スペースへと向かう。そして、グラスを七つ用意した。僕が知るゼミのメンバー六人と先生の分だ。
……当然、僕には見えない火朽という人物のグラスを、僕は用意したりはしない。
だって、絶対からかわれていると思っていたのだから。
お盆に乗せて、みんながテーブルを囲んで座るソファの方へと戻る。
僕は最初に先生へと麦茶のグラスを差し出してから、それぞれの前に配っていった。
ここのソファにも定位置がある。
この教授室のソファでは、僕は二人がけのソファにいつも一人で座っている。
だから最後に、自分のグラスを手にして、盆をテーブルの上に置き、静かに座った。
すると――室内に、奇妙な沈黙が流れた。
「あ、ああ! 玲瓏院くんも、たまには、グラスの数を間違えたりもするよね!」
「そ、そうだね、まほろ! 私持ってくる!」
声を上げたのは、女子二人だった。
彼女達は、僕が見守っていると、給水スペースの方に消えた。
そしてすぐに新しいグラスを……僕の隣に置いた。誰も座っていないのに……。
「……」
ネタばらしの気配は、無い。僕は思わず、夏瑪先生を見た。
しかし先生は、いつもと同じ表情で、悠然と微笑んでいる。
他のみんなは、討論時と同じように、僕の横の空席を見ながら、雑談をしている。
さも、『火朽』という人物がそこに、座っているかのように。
何も言葉が見つからない。
僕は、気まずさを覚えて、席を立った。
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