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ブラックベリーの霊能学
【三十七】観察結果⑤
しおりを挟む話しながら、火朽はそれとなく人型を形作るために用いている”力”の量を調節し、今度こそどこからどう見ても完璧に紬の視界に入る『人間の姿』を形成した。本来であれば、一般人の中に紛れ込むには強すぎる状態ではあるが――この姿でいようと、火朽は決めた。
理由は二つある。
一つは、この土地の人間は、大学生に限らず耐性があるので、この程度では誰も失神したりはしない事だ。
二つ目は、隣に玲瓏院紬がいれば、どんなに強い力を放っていても、拮抗状態――になる前に、消される。今の強度であれば、紬が隣にさえいれば、今まで通りだと周囲は感じるだろうと、火朽は判断した。
それに、本日までの観察において、大学構内においての講義は全て同じであるのは確認済だったし、図書館で選ぶ本や服装に関しても、ことごとく泣きたいほどに、趣味が合う。性格は合わないとこれまで感じていただけなのだ。しかしそれは、勘違いだった。
「玲瓏院くん」
「は、はい!」
声をかけられた紬が、勢いよく顔を上げる。
火朽は、一度ゆっくりと瞬きをしてから――普段周囲に見せるものと同じ、穏やかな笑みを浮かべた。
「改めまして――僕は、火朽桔音といいます。四月から編入していたのですが、手品じみた諸事情により、ご挨拶が遅れました。ずっと玲瓏院くんとお話がしたいと思っていたんです。これから、どうぞよろしくお願いいたします」
それを聞くと、紬は一瞬きょとんとした後、その後はこれまでは火朽以外の周囲に見せていたような、小さくはにかむような笑顔を浮かべた。
「こちらこそよろしくお願いします。玲瓏院紬と言います」
こうしてこの日から――二人の間には、会話が成立するようになったのである。
――その日の夜。
人の暦に合わせていたからなのか、時が経つのが早いと感じながら、火朽は食卓に料理を並べていた。非常に上機嫌である。
一方のローラは、何かあったのか、非常に不機嫌そうだったが、自分が良ければ基本的に全て良いので、火朽は柔和な微笑のまま、気合いを入れて作った、ナポリタン・ミートソース・カルボナーラ・ペペロンチーノ・たらこパスタ・イカ墨パスタ・きのこの和風ソースパスタを並べていく。全て大皿だ。軽く二十人前はあるだろうが、彼らに量は無関係だ。
鼻歌交じりに席に着き、これからがより楽しみになったなと火朽は考える。
砂鳥に声をかけられたのは、その時だった。
「何かあったんですか?」
「ええ。例の無視の件ですが、解決しまして――呆気ないものでした」
火朽が浮かべた満面の笑みを見て、砂鳥の顔が引きつった。
青褪めた砂鳥に気づき、火朽はくすりと笑ってから首を振る。
「何もしていませんよ。無視されていた理由が分かったんです。そもそも無視というのが正確だったのかも分かりませんが。今では、円滑にコミュニケーションが取れていて、僕は満足しています」
それを聞くと、安心したように、砂鳥が頷いた。
「良かったですね」
このようにして、長かった、ある怪奇現象と有能な霊能力者の出会いは、幕を下ろしたのである。
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