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……第一章
緑茶?
しおりを挟むその後僕は、回廊を比較的足早に歩いて、厨房へと到着した。
「お、グレイ様。会議の準備か?」
すると顔馴染みの、厨房の下っ端シェフであるマークに声をかけられた。金色の短髪をしていて、白い服を着ている。
「ええ」
僕はわずかに両頬を持ち上げて、可憐に笑ってみせる。宰相府の人間の方が、王宮内での立場が上なので、僕は『グレイ様』と呼ばれることも珍しくない。この時、僕は気さくな演出はせず、いつも優雅に笑っておくことにしている。僕は自分の売り方を考えているのである。なるべく、高く!
「おせんべいという品の噂を聞いたのですが、ご存じですか?」
「ああ、せんべいな。あれなら書類を見ながら食べられていかにもよさそうだ。なんでも王配殿下が先日開いた王族の皆様の茶会でも、それはそれはフェル殿下がお気に召したんだとか噂になってるなぁ」
思い出すようにマークが言う。なんとフェル殿下のお気に入り、か。有益な情報を得てしまった。
「今日はそちらをご用意頂けませんか?」
僕は小さく首を傾げて、なるべく穏やかに優しい声で問いかける。するとマークが満面の笑みに変わった。
「いいぞ。それと、せんべいなら、合わせて飲むなら和国から一緒にきた緑茶が今は人気だな。それも持っていくか? 淹れ方は簡単だ。茶葉を淹れて、お湯を入れるだけだからな」
「ありがとうございます、ぜひお願いします」
マークは気が利く。普段の仕事は専らじゃがいもの皮を剥くことのようであるが、こうして宰相府の人間への応対も担ってくれていて、顔の広さも馬鹿にはならない。ただ本人はお気楽なところがあり、快活で、悪く言えばなんにも考えていなさそうな人物である。いい人そうではあるが、玉の輿判定には引っかからない。
「ええと、緑茶はこうやって――」
その後僕は、マークから簡単に緑茶の淹れ方を教わった。
それらをカゴに入れ、来た道を引き返す。来た時よりは、ゆっくりと歩く。おせんべいの他にも、宰相閣下がお気に入りのクッキーも入れてもらったのだが、両方割れやすそうなので、注意をして歩く。
回廊は吹き抜けで、通路の左右には木が植えられている。段々色づき始めているが、本格的な紅葉はまだだ。このノルノッド王国には、四季があるのだが、色づくのは秋、十一月くらいである。ちなみにフェル殿下が留学していた隣の国、アルバルド帝国は、冬が非常に長いという噂だ。寒そうである。
その後、仕事をするフロアに戻った僕は、その足で小会議室へと向かった。
そしてテーブルの上にカゴを置き、いつでもお茶を淹れやすい準備をする。お湯は、魔導石がちりばめられた布の上に薬缶を置くと勝手に沸く。この布は、休息時に宰相府各地で用いられているし、王宮では一般的な品だ。魔導石は、この国の名産品でもある。
それらを終えてから、僕は自分の席へと戻った。
「おう、おかえり」
「ただいま、ルーク」
親友の顔を見て、僕は微笑した。誰が何処で見ているのか分からないので、僕らは職場でもお互い自分の表情を取り繕うことは決して忘れない。この地道な努力こそが、玉の輿への近道だと僕は考えている。こうしてその後は書類仕事をし、昼食を挟んで続きを必死にこなして、なんとか僕とルークは、打ち合わせの始まる十六時の三十分前に仕事を終え、その後は小会議室へと出かけて、お茶の準備を調えた。おせんべいの配置は、我ながら完璧に中央で、丸いテーブル席に五人用の椅子を用意したのだが、どこからでも取りやすい。クッキーはいつも宰相閣下が座る壁際の奥に近い場所とした。
「ふぅ……間に合ったな」
開始五分前、ルークが言った。宰相閣下は常に分刻みのスケジュールなので、時間はぴったりか、少し遅れてからしかこない。ただ、遅れることは滅多にない。宰相閣下はかなり時間に正確だ。
「そうだね」
頷いた僕は、それからドアの方を見た。ナザリアを呼んでこなければ。
「声、かけてくるね」
「ナザリアか。じゃあ、俺はカップの準備をしてるな」
ルークに向かい頷いてから、僕は仕事をする部屋へと戻った。するとそこには丁度入ってきた宰相閣下とフェル殿下の姿があり、その正面にナザリアがいた。これならば、別段ナザリアに声をかける必要はないだろう。そう思っていたら、フェル殿下が僕を見た。
今日はおせんべいですよ。
僕はにこりと微笑して、そう念じる。するとフェル殿下が目を据わらせた。
それからすぐに、彼らは僕の方へ歩いてきた。するとすれ違う時に、フェル殿下に小声で言われた。
「どこから仕入れてくるんだ、俺の個人情報を……」
「確かに気に入ったとは聞いてましたけど、前に辛党だと話しておられたので、丁度よいのではないかと思いまして」
「――そうか。その気配りを、今後の俺の補佐官としての仕事でも発揮してくれることを期待するぞ」
「お任せ下さい」
僕は理知的な笑顔を心がけて、微笑してから頬に手を添えた。
玉の輿には乗りたいが、仕事は仕事、僕は公私は切り分けずに折角の接点であるから大切に活用していきたい所存であるが、僕は仕事だって頑張りたい。今の僕には、玉の輿願望が八割とすると、残りの一割の生きがいは、仕事だと言える。最後の一割は、弟のこととか友だちのこととか、まぁ、そういった大切な人間関係だ。
さて、小会議室へと入ったので、僕は緑茶を用意する。ルークがそれをみんなの前へと運んだ。それが済み、僕とルークも席に着く。宰相閣下はやはり定位置に座り、クッキーをチラ見していた。その隣がフェル殿下、次に僕、その隣がルークで、宰相閣下の逆の隣がナザリアである。今日は顔合わせをするのだろうか? 僕は、宰相閣下が口を開くのを待った。
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