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―― 本編 ――
【005】デートと跳び箱と新月の夜
しおりを挟む授業の内容は自己紹介が主体で、それが終わると今後使う教科書の配布と時間割の説明しかなくて、午前中の一時間目で本日は終わりになった。また、一ヶ月後である。次は半日は授業があるようだった。
「エドガー」
校門へと向かうと、ジェフリー殿下が追いついてきた。振り返ると、ジェフリー殿下の後ろにはずらっと取り巻き希望者が並んでいた。
「今から王宮に来ないか?」
「行きません」
「なんでだよ!?」
「え? だって俺、今日は跳び箱の練習をして運動神経の向上を目指したいし」
「……? 跳び箱ってなんだ?」
「跳び箱の上に手をついてジャンプするんです」
「面白そうだな。エドガーが王宮に来ないなら、俺がゴドフリー侯爵家に行く」
ジェフリー様が機嫌良くそう言ってから振り返った。
「王宮で鬼ごっこを希望していた者達は、きっと兄上が遊んでくれるからそのまま王宮に行っても構わない。お、俺は、今からエドガーとデートをすることになったから行けない。では、また一ヶ月後に!」
ジェフリー殿下がニコニコしつつちょっと照れながら宣言した。
みんなが口々に『デートじゃぁ仕方がない』と言っている。
「ジェフリー様、語弊があるんじゃ……」
「語弊?」
「デートなんですか? 跳び箱……」
「? 許婚が二人で遊ぶことをデートというんだろう?」
「シェリもいますよ」
「デートは近衛騎士達も見守るものだと聞いているぞ?」
「ほう」
「デ、デートは、その……仲が進むと大人の関係のデートになるのだとか」
意外とジェフリー殿下はませているのだろうかと考えて、俺は歩きながら顔を向けた。
「大人の関係とは?」
「っ、エドガーは知っているのか?」
「さぁ?」
「し、仕方ないから教えてやる。いいか? 大人の関係というのは、な?」
ジェフリー殿下が立ち止まり、俺の肩に手を置いた。俺も立ち止まると、俺の耳元でジェフリー殿下が小声で囁いた。
「手を繋ぐことなんだ!」
そしてすぐに顔を話したジェフリー殿下は、小さな手で自分の顔を覆ってしまった。真っ赤だ。俺はポカンとした。ませていたなかった。ジェフリー殿下は逆に純粋だった。まぁ子供は教会で祈ると生まれてくるのだし、手を繋ぐのは十分大人の関係ということなのかもしれないが、俺には子細は不明だ。
その後俺達は、ゴドフリー侯爵家の馬車に乗り込み、待っていたシェリと、ジェフリー殿下を校門のところで待っていた近衛騎士の一人アークと共に、ゴドフリー侯爵家へと帰還した。連絡無き訪問ではあったが、ゴドフリー侯爵家は貴人への対応はなれているので、僕らは一度応接間に通された後、シェリが用意してくれていた庭の跳び箱前へと移動した。庭にはピンク色のバラが咲いている。アークは十四歳になったシェリより三歳年上で、現在十七歳なのだという。
「よし! シェリ、お手本を」
僕の言葉に頷き、シェリが走る。そして跳び箱の前で板を蹴り、手をついてぴょーんっと跳び箱を跳んだ。なお、高さは俺に合わせて小さく低い。
「面白いな、こんなのがあるのか」
ジェフリー様がしげしげと見ている。こんなのがあるのかないのか――探したらありそうだが、これは俺がシェリに絵を描いて説明して、特注してもらった跳び箱である。
「いきます!」
続いて僕が走った。手をつく。ぴょーん。シェリに比べると高さは無かったが、なんとか飛べた。
「次は俺か」
ジェフリー様はそういうと、走った。そしてシェリよりもさらに余裕ある飛び方で跳び箱をクリアした。絶対運動神経が良すぎだろ。
「さすがは俺だな。この程度、なんと言うこともない。アーク、お前もやって見るか?」
「ご命令とあらば」
楽しげなジェフリー様を見て、近衛騎士のアークが腰の剣を壁に立てかけてから、一度深呼吸をした。そして――走り、トンっと跳んだ。そして跳び箱の上に両手をつき、逆立ちをしてから跳んで着地した。見事な前方倒立回転跳びである。
「いやぁ、さすがは素晴らしいジェフリー殿下をお守りするために、もっとさすがでなければんらない俺最高に格好良いよな、本当俺パーフェクト。な? そう思いませんか? シェリ殿」
「……、……では、僕もまた至高のエドガー様をお守りすべく、本気を出していこうかと」
「待て! エドガーを守るのは俺だ! だから次は俺が跳び箱の上で逆立ちをする!」
「じゃー俺は手を使わずに一回転しようかなぁ」
俺をのけ者にし、運動神経に秀でている三人は、跳び箱に夢中だ。疎外感を感じたが、拗ねている場合ではない。俺は俺なりに、運動神経の改善を図っていかなければならないのだからな……!
その後昼食時まで俺達は跳び箱をし、昼食はゴドフリー侯爵家が振る舞うことになったので、一緒にジェフリー様も食べてから、午後、ジェフリー様は帰っていった。
食後は、俺は日課の柔軟体操を始めた。
座って脚を伸ばし、前に両腕を伸ばして前屈する。子供なのに最初は硬かった体が、最近は目に見えて柔らかくなってきた。やはりトレーニングの成果が見えるのは気分がいい。俺の背中をゆっくりと押してくれるシェリは、本当に最高の先生だ。
さてそれから少しして。
新月のその日、俺は父上に連れられて、宮廷魔術師が研鑽に励む、王宮の奥の一角にある新月城へと連れていかれた。王宮から裏手の闇の森の間には、昔頻繁に行われた魔獣との戦のための砦や城があって、この新月城もその一つなのだという。巨大な城にはいくつかの塔がついていて、地下は研究用の魔獣や魔術師の犯罪者を捉えておく監獄になっていて、城の外には結界付きの魔術訓練を行う場所があるのだという。城の中には膨大な魔導書のある書庫や、研究専門の魔術師の部屋もひしめいている。
「エドガー、ここはね、自由度が高い場所なんだ。なにをするかは自分で決める。勿論魔獣が出た時などに共闘するため、班編制をこちらで行うこともあるし、不審なものが出た時、騎士団の騎士と共闘することもあるが、普段は自由なんだよ。だからエドガーもやりたいことは自分でみつけるようにね」
俺の頭を撫でながら、父はそう言った。そして俺にフードをかぶせると、首元を留め具で止めた。
「懐中時計は持っているね?」
「はい! なくさないようにローブの内ポケットの所に鎖を繋いであります」
「それでいい。さぁ、行こうか。今日は私の部屋を見ていくといい。エドガーの部屋は、勿論エドガー自身が好きな空き部屋を定めるように」
こうしてついていくと、宮廷魔術師団長室という木の看板が出ている城の三階の部屋のドアを、父上が開けた。中には窓辺に黒い執務机と椅子、向かって左手に書架、右手に背の低いチェストとその上に茶器、入り口正面に背の低い丸テーブルと左右にそれに合った高さの長椅子が二つ、これしかなかった。質素である。
「父上はいつもここにいるのですか?」
「宮廷魔術師団長として、王宮や騎士団から誰かがきた場合や、宮廷魔術師の誰かが要望を持ってきて私のサインが必要だという場合はここで処理をしているよ。でも私の専門は攻撃魔術だから、大体庭でカカシに向かって魔術を放っている。これがね……その……気持ちが良いんだよ!」
「そうなのですか!」
「うん! 時々王都郊外に魔獣やクマなどの害獣が出て駆除をする依頼が舞い込むんだけど、私は率先して出かけてしまって怒られるんだ。私は平和が好きだけれど、それとはちょっと別のベクトルで……攻撃魔術は楽しいんだよねぇ。私は実技が特に好きだ。理論はそうでもないんだけれどねぇ」
俺はこんなに饒舌な父を見たのは初めてだった。
このようにして、俺の宮廷魔術師としての日々もまた、幕を開けたのである。
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005話を読んで
デートの解釈違いwww
デートっていうより婚約者とのスポーツ交流かな、かわいい
鬼ごっこを押し付けられた兄王子の反応が知りたいです
解釈の違い可愛いなと思いつつかいてましたwwww
交流ですね笑 デートまでの道のりがまだまだで笑
私も兄王子の反応が気になってきましたwwww
ご感想ありがとうございます٩( 'ω' )و
すごい〜!市井でプロテインチョコを売ってるなんて!!!(笑)
己の脂肪分を思って用意したカカオ80%チョコ!うん!苦いよね🤣
色々と凄いですよね笑笑
苦さもまた⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯いつかはくせに!!!
ご感想ありがとうございます٩( 'ω' )و 嬉しいです!!