人型戦略機パイロットの俺は、復讐されるようです。

猫宮乾

文字の大きさ
8 / 67
―― 第一章 ――

【第八話】軍法会議

しおりを挟む






 軍法会議の朝が来た。
 出廷した昼斗は、無表情で床を見ていた。もう長らく、表情筋を動かした記憶がない。周囲の印象も、昼斗は無口で無表情というものである。

 黒い髪と目をしている昼斗は、日本人らしい日本人だ。既に人類が人として住める権利があるという意味において大地の国境線は意味をなさなくなり、古びた地図に引かれているラインと、世界の情勢は著しく変わっているが、その中にあってまだ独立国を保っている日本、そこに古くから暮らす人々の色彩と、昼斗の鴉の濡れ羽色の黒は同一だという事だ。ここ数日の間にも、国境線は塗り替わっている。それは、Hoopの侵攻により陥落した国家がまた一つ増えたというような話だ。亡命政府の樹立も間に合わない頻度で、人類の居住可能地は、脅かされている。

「粕谷昼斗大佐」

 昔は一佐と言ったらしいが、地球防衛軍に編入されて以後、昼斗はより古い時代に使われていたらしい〝大佐〟という階級まで昇格していた。だが元々が軍人ではないから、階級にはピンとこない。

「旧東京湾の人工島――第二首都・しん東京市の切り離し沈没作戦についてであるが」

 人工島は、Hoopが水中にはいないと考えられていた時代に、一気に建築された人工的な陸地である。国内であれば、旧佐渡湾と旧東京湾に建設されていた。旧東京都には、Hoopが幾度か落下したため、その土地の多くの者や企業は、深東京市という名の人工島に居を移していた。

 しかし二ヶ月前、その深東京市と旧関東圏を結ぶ水中トンネルが食い破られ、地上トンネルは破壊され、人工島は一時間も経たない内に、Hoopの群れに飲み込まれた。放置しておけば、通じている部分から、日本本土への侵攻を許す事になる。しかし往来通路を全て封鎖すれば、人工島にいる一千万人もの居住者及び勤務者は、死ぬ以外の道が無い。Hoopが巣食う場所に、避難誘導は困難だ。

 昼斗はその日、人型戦略機のコクピットの中で、両手の指を組んでいた。
 すると、北関東基地の指令室から通信が入った。

『粕谷大佐』
「はい」
『貴方はどうすべきだと思いますか?』
「避難誘導後、その……切り離して沈没の処理を」
『それは、どの程度の時間ですか?』
「可能な限りの――」
『私の下した決断とは異なるようで同じでしょう。私もそう考えていますが、〝避難誘導可能時間はゼロ〟だと判断しています。つまり、現時点をもって、人工島を本土より切り離し措置をし、沈没させ、その上でまだ動いているHoopがいるのであれば、殲滅して下さい。命令は、以上です』

 声の主は、北関東基地の総司令官である、煙道三月えんどうみつき中将だった。二十三歳の青年将校は、生まれながらにしてHoopと戦うべく配合された遺伝子の持ち主である。本人も第二世代機のパイロット資格を持つが、現在の――〝地球〟における実力者でもあるこの人物は、いつか昼斗が看取った煙道一佐の子息である。

 昼斗は、避難を提案しようとした。それは事実だ。だが、迷わず命令を実行した。
 嫌いな海に、大嫌いな海に、一つの島を沈めた。
 そうすれば、本土がもう少しの間、持つと考えたからだ。トロッコ問題と同じだ。

 このようにして、命令ではあったが、昼斗は一千万人が居た人工島を沈没させた。
 事後、三月は嗤った。

「私は現場の判断に任せました」

 それは、嘘ではないだろう。こうして、殺戮者のレッテルを貼られた昼斗は、本日軍法会議に出廷した。そこに、三月への恨みはない。いつも、似たようなやりとりが、三月とは交わされてきた。こうなるだろうという予測も出来たし、反論する自由だってあったが、ただ、昼斗は何もしなかった。

「――降格処分とする。大佐から、大尉への降格とする。また、以後情報将校による監視を徹底する事とする」

 軍法会議の結論は、それだった。既に、第二世代や第三世代の人型戦略機があるとはいえど、昼斗を手放すはずがないこの世界は、相変わらず残酷で、けれどただ、法廷の外の紅葉だけは、非常に色づいていて秋らしく、綺麗だった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...