人型戦略機パイロットの俺は、復讐されるようです。

猫宮乾

文字の大きさ
10 / 67
―― 第一章 ――

【第十話】初めての朝食

しおりを挟む




 ――引越しを、したのだったか。
 朝。
  昼斗は瞼を開けて、白い天井を見上げ、最初自分が何処にいるのか分からなくなった。似たような天井は多いが、初めて見るような気がした。白い升目が規則正しく並んでいて、そのところどころにライトが嵌めこまれている。

 ぼんやりしていると、頬に触れられた気がした。元々、その感触で昼斗は目を覚ましたのだ。視線だけを緩慢に左へ向けると、そこには昴の姿があった。

「!」
「おはよう、義兄さん。食事にしよう?」
「っ……あ、ああ」
「昼斗? どうかした?」

 慌てて昼斗は飛び起きた。すると鼻をくすぐる味噌汁の香りがした。ゆっくりと二度瞬きをし、それから改めて昼斗は昴を一瞥する。

「昼斗は和食が大好きだって、姉さんが言ってたから、今日は和食を作ってみたんだ」
「……」
「口に合うといいんだけどね」

 そう言って昴が微笑を深めてから、不意に昼斗の額にキスをした。触れるだけだったが、その柔らかな感触に、昼斗は虚を突かれて目を見開いた。

「さぁ、冷めない内に」
「い、今……」
「ん?」
「……」
「どうかした? 早く食べよう。これから、基地にも行かないとならないんだからね」

 昴はそう言うと、ポンポンと掌で二度、昼斗の頭を撫でるように叩いた。
 呆然としつつも、昼斗はおずおずと頷き、寝台から降りる。
 この家には、ベッドは一つきりしかない。昨夜は先に昼斗が眠ったから、昴がどうしていたのかを、彼は知らなかった。

 夢でも見ているような心地で、昼斗はダイニングのテーブルへと歩み寄る。そして昴が引いてくれた椅子を見た。

「座って?」
「あ、ああ」

 頷いて従ってから、卓上に並ぶ、朝食を目にして息を飲んだ。輝くような黄色の厚焼き玉子、焼き鮭、ひじきの煮物、きんぴらごぼう、レタスときゅうりのサラダには黄色のコーンと星型のチーズが乗っていて、よい香りがする味噌汁には油揚げとねぎが見える。白米は一粒一粒が煌めいて見えた。和風の完璧すぎるような朝食だった。

 目を瞠っていると、対面する席に座った昴が咳払いをしたから、昼斗は顔を上げた。
 そこには優しく頬を持ち上げている昴の顔がある。やはり、光莉に似ていると感じたが、それはあくまでも造形だけだ。昴が用意してくれた厚焼き玉子は綺麗だが、光莉の卵焼きはいつも焦げていた。けれど光莉の瞳は、いつも穏やかだった。しかし昴の瞳は、昼斗から見ると、笑っていないように見えた。ただ口元が弧を描いているだけに感じる。

「いただきます、っていうんでしょう? 日本では」
「ああ……いただきます」
「俺は、今回の件があるまで、ずっと海外にいたからね」

 そう言って微苦笑してから、昴もまた手を合わせた。光莉の話によれば、二人の父親は日系独逸人で、母親は日系米国人だったらしい。ただ祖父母の日本人の元に戸籍があったと、そんな話を昼斗は聞いた事がある。光莉も昴も、Hoopに備えて生まれてきたという話だ。逆に、このご時世になる以前より、完全に民間人である者が関わる方が珍しかったのだという。

「味はどう?」

 昴の声で、昼斗は我に返った。最近、味がしないざるそばしか口にしていなかったからなのか、泣きそうなくらい美味しく感じる。まっとうな人間らしい食事をしたのが、一体いつ以来なのか、昼斗本人にも不明瞭だった。

「……まぁまぁだ」
「そこはお世辞でも美味しいというところじゃないのかな?」

 すると昴が冷ややかな声を放った。途端に昼斗は萎縮する。背筋が冷たくなった。ビクビクしながら箸を持っていると、自然と目が潤んでくる。

「見た目は……いい」
「俺が聞いているのは、味だけど?」
「……しょっぱい」
「しょっぱいってスラング? 塩辛いって意味だと検索で出てきたんだけど、キチンと砂糖も入れたんだけど」
「お、俺は……出汁の味が好きで……」
「それはだし巻き卵とは違うの? 俺が作ったのは、厚焼き玉子だけどね?」
「……っ、そ、その、焦げてないし、だ、だから」
「だから何? 不味いんでしょう?」
「……でも、その……焦げていないから」

 光莉よりは上手だと、昼斗は言おうとして止めた。昴の不服そうな顔を目にし、そこは姉弟そっくりだなぁと内心で考えていた。

「? 火加減はレシピサイトに載っていたし、調味料の量も適正だと思うんだけどね。昼斗の舌が、間違っている可能性はどの程度?」
「え、えっ……? 分からない」
「参考にならないサンプルだなぁ。でも――今日から俺が、暫くは毎日作るんだから、慣れてほしいし、きちんと言ってね。言ってもらえないよりは、嬉しかったよ。義兄さんって、不味くても食べそうだから」

 若干不貞腐れた声ではあったものの、そう言ってから、昴が笑った。その表情を見ていたら肩から力が抜けて、気づくと昼斗も苦笑していた。思えば、表情筋を動かすのは、久方ぶりの事だった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...