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―― 第二章 ――
【第十七話】距離感
しおりを挟むどことなく気まずい思いを抱きながら週末を過ごした昼斗は、翌週も昴と共に、昴の運転する車で基地へと向かい、見事に止んだ陰口や嫌がらせについて考えていた。階級も高く地位もある昴が直接監視をしているからなのか、その昴が、目の前で昼斗に何かあった際に怖い顔をして笑うからなのか、基地の人々は、最近昼斗に関して、いない存在のように扱う。
昼食はいつも食堂で取るのだが、ここのところはざるそば以外を頼んでも安全だ。そんな事を考えながら、昼斗はかつ丼を見る。対面する席で、昴はパスタを食べている。
割りばしを手にしながら、それとなく昼斗は昴の様子を窺った。
正直、距離感を掴みかねていた。
嘗て、義弟になるはずだった、二十三歳の情報将校は、非常に端正な顔をした年下の青年であり、物腰は穏やかで、いつも微笑を湛えているが――既に二週間ほど共に暮らすようになり、昼斗も気が付いた事がある。
昴の目が笑っていない場合や、ふとした時に、非常に冷酷な顔をしているのを、何度か目にした。昼斗は気づかない振りをして接しているが、そういった昴の表情を目にした際、強く感じる事がある。やはり、恨まれているのだろうと。直感的に、好かれていないように思えていた。
だが、だからこそ分からない事も多い。
この日もそろって帰宅したのだが、リビングのソファに座っていると、後ろから両腕を回して、抱きしめるようにされた。
「どうかした? 今日の昼斗は、一日、いつもより難しい顔をしていたけど」
「別に……」
「ふぅん?」
気遣うような台詞をはいてから、昴は掠める取るように昼斗の唇を奪った。
一瞬の事だったため、昼斗は反応が遅れる。
このように、キスをされる事も増えてきた。また、平日であっても、たとえば夜中に目を覚ました時になど、抱きしめて眠られている頻度も増加し、昼斗は困惑しっぱなしだ。
少なくとも、自分と目が合っている時の昴は、いつもニコニコと笑っている。
逆にそれは、まだ上辺しか見せられていないという事ではないのかと、昼斗は考えている。実際、監視者とパイロットだ。義理の兄弟といった家族になる未来は、来なかったのだから、いくら〝義兄〟と呼ばれようとも、自分達は他人である。内面を教えてもらう日など、来ないのかもしれない。そうは思いつつも、昴と過ごしていると、ぬるま湯の中にいるように穏やかで、季節はどんどん冬に近づき寒くなっていくというのに、ここのところ昼斗の心は、温かくなりつつある。だからこそ、なおさら距離感が分からない。
「夕食にしようか」
昴は腕を離してから、キッチンへと消えた。それを見送ってから、ソファに深々と背を預けて、深々と昼斗は息を吐いたのだった。
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