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―― 第六章 ――
【第四十五話】無視
しおりを挟むこうして昴は、昼斗に話しかけなくなったし、昼斗もまた、言われた通りに昴に対して話しかけなくなった。それまでは、〝義兄さん〟と呼び、終始笑顔で昼斗の隣に立っていた昴の態度の変化には、基地の人々もすぐに気が付いた。
昼斗は時折何か言いたそうに昴を見て、そしてたまに声をかける。しかし返ってくるのは露骨な無視だ。子供でも分かる態度の変化。いいや、寧ろ子供の方が馴染みがあるかもしれない、稚拙な対応――しかし、基地の人々の多くはそれを歓迎した。
昴が着任してから、そばにいる際、昼斗への嫌がらせは収まっていた。
理由はほかでもなく、階級の高い昴が、怖い顔をするからだ。
だが今回、その昴が公認して、嫌がらせを認めているかのような、そんな空気が溢れた。
昴と昼斗は、いつも二人で食堂に訪れる。その時、昼斗が頼んだざるそばの上に、〝トッピング〟だとして生ごみが載せられていても、今の昴は何も言わず、無表情だ。昼斗自身は以前から何も言わない。このようにして、嫌がらせは元に戻り、いいや悪化した。
昼斗の前に足を出し、昼斗が躓き、そこへ誰かがコップの水をかけても、昴は何も言わなくなった。その変化に喜んだ者は、多数いる。閉塞的な基地という環境下にあって、周囲は常に鬱憤の捌け口を探している。それには最適なスケープゴート、それが昼斗だった。
元々、パイロット適性があった昼斗には、〝適性が無かった人々〟からのやっかみもあった。妬み、嫉妬。人類の危機に際しても、それらは根絶されない。いいや、限界状況下にあるからこそ、人間のありのままの醜さも表出しがちだ。
この日は、薬味の代わりに、蟻の死骸が出てきた。それを目にした瞬間、並大抵の嫌がらせでは表情を変えなかった昼斗が、珍しく泣きそうな目をした。Hoopを彷彿とさせる蟻は、昼斗にとって、恐怖を喚起する。両者の類似を知る者は多かったし、だからこそ嫌がらせのために、厨房の誰かもニヤニヤ笑いながら用意をしたのだが、箸を持って凍り付いた昼斗は、何か言いたそうに唇を震わせ、直後気絶した。
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