人型戦略機パイロットの俺は、復讐されるようです。

猫宮乾

文字の大きさ
48 / 67
―― 第六章 ――

【第四十八話】価値観

しおりを挟む
 その場に――Hoopの飛来を告げる緊急警報が鳴り響いた。
 腕を離した保が強張った顔をする前で、昼斗は神妙な表情で頷く。

「行ってくる」
「……気をつけろよ」

 昼斗の名を呼び、招集するアナウンスを耳にしながら、バシンと保が昼斗の肩を叩いた。頷き返してから、昼斗は背後を見る。そして踵を返して走り始めた。

 向かった先は格納庫で、そこには環が待機していた。
 環は昼斗を見ると、心なしか不安そうな瞳をした。

「最近、体調不良で病院にかかったって、相良から聞いたぞ。大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「そうか。まぁ心苦しいのは、問題があっても、パイロットに代えがいない事だな」
「機体にはもっと代えがきかないだろ?」

 昼斗がそう言って笑うと、環が目を瞠った。それから首を振る。

「俺はそうは思わない。生み出してる機体だから愛着はある。でも、人の命には代えられない。危なくなったら、A-001は破棄して、お前だけでも脱出ポッドで戻れよ」
「環……」

 それは、昼斗が端緒に出会った研究者の見解とは、百八十度逆の考えだ。
 だが――A-001には、脱出ポッドは存在しない。
 昼斗が〝イメージ〟した事がないからだ。

「生きて帰れ。待ってるから」

 環の表情には、嘘は見えない。だから昼斗は、微笑して頷いた。
 梯子を上ってハッチを抜け、コクピットへと至る。そして球体に触れて、機体を起動しながら、モニターに表示されているHoopの情報を見る。このまま行くと、旧東北圏にHoopが飛来するらしい。パイロットスーツの感触を、掌を握ったり開いたりして確かめながら、昼斗は精神を集中させた。

「A-001出撃します」

 その後指示を待って、そう述べてから、昼斗は操縦桿を引いた。

《浮気者が》

 昼斗は機体の声に、吹き出しそうになった。先日テストした時の事を思い出す。

「お前は、俺が他の機体に乗るのが嫌なのか?」

 軽口を返しながら、AI言語プログラムは機微にとんでいるなと考える。

《嫌に決まっているだろ。お前は、俺のパイロットなんだろ? 俺だって、お前だから力を貸すんだ。お前以外には、興味が今のところないぞ》

 昼斗は喉で笑って頷いてから、出撃した。
 格納庫のシャッターを抜けて高く飛行し、まず視界に入ったのは海だった。大嫌いになってしまった海だが、今は目にしても辛くはない。多分、観覧車に乗った時に、〝赦された〟からだ。昼斗にとっては、紛れもなく昴が救世主だった。水平線の向こうには、沈もうとしている太陽が見える。蒼い海には、陽の筋が伸びている。

 自動操縦に切り替わり、目的地の旧栃木以降――旧福島全域上空に入ったところで、昼斗は操作方法を切り替える。空から落下してくる、〝黒〟が見える。それが飛来してきたHoopだというのは、すぐに理解出来た。

 モニターに視線を戻せば、その数が表示される。数百、その数は、決して少なくはない。クレーターを蠢くように見せるほどの巨体をしたHoopは、ダム湖に巣を作っていた幼生と比較するならば、本来一つ一つが巨大だ。

 昼斗の眼差しが、鋭く変わる。

《俺には、分からんな。自分を害する周囲のために戦うなどという、人間の良心が》

 その時、機体の声がした。昼斗は吹き出すように笑った。

「自己満足だ、ただのな」

 こうして、交戦が始まった。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...