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―― 第七章 ――
【第五十七話】残滓の回収
しおりを挟む太平洋側から、敵の二機がオホーツク海へと移動している。逆に旧沖縄側には、敵の人型戦略機が一機移動している。瀬是機と、復古機体である保の搭乗機は、沖縄への異動を命じられた。純粋に実力からの判断で、昼斗は単独一機で、旧北海道へと向かう。
ミミズの背のように海面をうならせているHoopの大群と、目視できる敵機影を睨めつけながら、昼斗は天叢雲剣の感触を、機体の掌で確かめていた。
《久しぶりだな。俺が癒してやったその体、まだ生きているようで何よりだ》
すると機体の声がした。先程、みんなは声がしないと言っていたが、やはり聞こえたものだから、昼斗は微笑する。
「お前が癒してくれたのか? 目を覚ましたら、怪我が治っていて驚いたんだ」
昼斗の明るい声音を聞くと、機体が溜息をついたような気配がした。
《俺は自分の大切なものをきちんと愛でるという事を、識(し)っている。昼斗は、俺のものだろう? だから、俺は的確に大切にする。それが、〝知性〟というものだ。なにも頭部と四肢があるから、頭がいいというわけではないんだぞ》
それを聞いて、人型戦略機は人体を模しているだろうと言いかけて、昼斗は止めた。敵機が迫っていたからだ。超電磁砲刀を持ち上げて、鋭い視線をモニター越しに向ける。
《あれを倒したいのか?》
「ああ、そうだ。だから、力を貸してくれ」
《お前に頼られるのは、悪い気がしない。俺は今が、〝楽しい〟》
短くそんなやり取りをしてから、昼斗の機体は大地を蹴るようにして、離陸した。巣で絵に現地の人間の非難は完了していたが、揺れた陸地には地震に似た振動が走る。天叢雲剣の束を握りしめ、超電磁砲刀としての高威力のエネルギーを表出させ、昼斗は敵の人型戦略機に対して向け、迷うことなく踏み込んだ。
海上で互いの武器が交わり、火花が散る。打ち合う度に、高エネルギー反応が生じるが、どちらも引かない。二度・三度と打ち合ってから、斜めに昼斗は斬り捨てた。しかしそれで終わりではない。海中に沈んでいく敵の人型戦略機は無視し、昼斗は押し寄せてくるHoopに立ち向かう。陸地を侵略させるわけにはいかないという一心で、切り裂けば、Hoopの破けた体からは青色の体液が飛び散って、海の藻屑となる。
夕陽が冬の海の水面を染め上げるまでの間、そうして昼斗は戦っていた。
『昼斗!』
瀬是から通信が入ったのは、目視できる範囲での最後の一体を、昼斗が屠った時の事だった。モニターを見ると、いつも怜悧な瞳をしている瀬是が、泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。
「どうした?」
『助けて、助けてくれ』
「瀬是?」
『このままじゃ、死んじゃう』
「瀬是!?」
『保が死んじゃ――』
そこで雑音が混じり、通信が遮断された。その声に、背筋がサッと冷える。
昼斗はタッチパネルを操作し、旧沖縄側の映像を拾おうとした。すると、機体がまた溜息をつくような気配をさせた。
《これで、俺以外の秘宝は、残滓だったとはいえ――全てラムダに回収されたみたいだなぁ。はぁ。Dと言ったか? もう反応がない》
最初何を言われているのか分からず、視線を彷徨わせた後、昼斗は衛星からの通信を拾った。そうしてモニターに映し出された光景を見て、絶句した。
「!」
保が搭乗していたはずの、D-001復古期の頭部が無い。吹き出しているオイルと特殊液が、血液のように海に飛び散っている。昼斗が見ているモニターの中で、ゆっくりと傾き、そのまま保が乗っていたはずの期待は、飛沫を立てて海の中へと消えていった。
硬直していた昼斗の耳に、管制室から通信が入る。
『貴方は貴方の仕事を終えました。帰投して下さい』
三月の声だった。
「でも、保が――」
『D-001は既に沈黙しています。粕谷大尉、帰投を』
その言葉の意味を、昼斗は暫しの間理解したくなくて、硬直したままだった。
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