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―― 第七章 ――
【第五十九話】昴 ⑦
しおりを挟む傘の柄を持つ手には、茶色い手袋を嵌めている。無機質な表情をしていた昴だが、花を手向ける昼斗が、隣で泣きそうな顔をしているのを一瞥し、唇を噛みたくなっていた。昼斗はベッドの上は別として、泣いたりしない。それが逆に痛々しい。
表情を見ているだけで、辛いのだろうとよく分かる。
分かってしまうくらいの期間は、既に共に在る。
昼斗の肩が震えている。それは冬の寒さが理由ではないだろうと、昴にもよく分かっていた。本当は――抱きしめて、存分に慰めてあげたかった。きっとまたこの義兄は、自分のせいだと悔やんでいるのだろうと、痛いほどに気持ちが分かる。
――でも、今更どんな顔をして?
――あんな風に傷つけたのに?
理性の言葉で、昴は伸ばしかけた腕をとどめ、ギュッと手を握る。そもそも自分は、昼斗を恨んだままであるはずで、それなのに、どうしてこんな風に胸が締め付けられるのだろうかと、内心にすら説明を付けられない。
けれど隣を歩く昼斗の辛そうな顔を見ていると、遣る瀬無くなる。
慰めたくてたまらない。
ここにきて、昴はいよいよ自覚した。とっくに自分は、粕谷昼斗という人間を好きなのだと。けれどごちゃごちゃのメンタルは、自覚したその感情のやり場を教えてはくれない。
「ねぇ、昼斗? 海鮮も美味しいと俺は思うんだよ」
捻りだした雑談が苦しい。
「海鮮か」
「アサリが好きなら、ホタテも行けるんじゃない?」
「別に俺はアサリが好きなわけじゃない。お前のクラムチャウダーが美味しいって思っただけだよ」
「缶詰そのままの味でしょ?」
「嘘だ。塩とか胡椒とか」
「それはいれてるよ」
昴はそう告げてから、ぽんと昼斗の頭に手を載せた。すると俯いたままで、昼斗が足を止めた。
「泣きたいなら、泣けばいいのに」
「――泣いても、なんにもならないだろ? 泣いて、戻ってくるなら、いくらでも泣くさ」
昼斗のそんな声が、昴には辛い。けれど、どうしても両腕で抱きしめる事が出来ない。
もう、自分にそんな権利はないのだと、昴がそう思う一番の理由は、昼斗の瞳が暗いままだからだ。それでも、そばにいたい。確かにそう感じながら、傍らにいる。
「俺は、生きてるよ」
「ああ」
「俺は、死なないよ」
何気なく昴がそう口にすると、勢いよく昼斗が顔を上げた。
そして、泣きそうな笑顔を浮かべた。その表情の理由はよく分からなかったけれど、昴は目を閉じ、少しでも救いになれればいいのにと願った瞬間だった。
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