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―― 第八章 ――

【第六十七話】本当の復讐の意味

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 ――このようにして、Hoopは飛び去り、以後飛来する事もなくなり、世界には平和が訪れた。カレーの鍋を見ていた昼斗に、後ろから昴が抱き着く。

「す、昴!」
「何?」
「カレーが焦げる」
「焦げても焦げなくても、昼斗の作るカレーは不味いよ」
「っ」
「まだ鍋を焦がさないだけ、俺の方が上手だね」
「んン」

 昴に顎を掴まれ、そのまま昼斗は唇を貪られた。世界からHoopの影が去ってから、最初の春。基地の道路の両脇には、フキノトウと尽くしが顔を覗かせている。慌ただしくクリスマスは過ぎ去ったけれど、二人はゆったりと春を迎えた。迎える事が叶った。

 昴に口腔を嬲られた昼斗は、唇が離れてから、恨みがましい瞳を向ける。
 しかし取り付く島もなく、昴は微笑しているばかりだ。

「好きだよ、昼斗」

 昴は、最近、〝義兄さん〟と呼ばなくなった。その理由を、一度昼斗は尋ねた事がある。

『恋人の事を、兄弟扱いしないだけだけど、それが何?』

 と、昴は言っていた。ノートパソコンのキーボードを叩きながら拡大鏡がわりの眼鏡をかけていた、〝義弟〟の姿に、昼斗は頷くにとどめた。

 その後さらに、二日目のカレーを取り分けて、二人は食卓に着いた。

「うん。清々しいほどに美味しくないよ」

 昴はそう言いながらも、間食してくれた。本当に、〝根はいい子〟なんだよなぁと、出勤間際に、昼斗はチェストの上の写真立てを見る。今では、光莉と昴が並んだ写真の隣に、昴と昼斗が二人で撮影した写真もある。

「ほら、行くよ!」

 昴の声に、慌てて昼斗はエントランスへと向かった。本日は、人工島の慰霊祭がある。大勢の人を、昼斗が殺した島の慰霊だ。だが、最近は不思議なことに、昼斗は苛まれるような悪夢を見ない。いつも、二人で寝転んだベッドの上で、昴の隣で目を覚ます。

 やはり、昼斗にとっては、昴は癒しなのだと、昼斗当人はそう感じている。
 基地の人々も、最近は昼斗に優しい。
 昴が伴っていなくても、ざるそばに異変はない。昼斗個人はその理由は知らないが、特別知りたいわけでもなかったから、これでいいのかもしれない。

 ただし困るのは――昴による溺愛だ。

「なぁ、昴」
「ん?」
「べ、別に、そんな風に俺の事を甘やかさなくてもいいんだぞ」

 エントランスで靴を履きながら、靴ひもを結びなおされ、昼斗は思わず述べた。
 すると一拍の間動きを泊めてから、昴が綺麗な笑顔を浮かべた。

「これは、復讐だから」
「え?」
「――俺に心配させた、復讐だよ。これから、覚悟していて。どれだけ俺が心配させられたと思ってるの? 生涯、許さない。心配させられた復讐に、俺は注がせてもらうよ、この愛を」

 昴はそう言って立ち上がると、チュッと音を立てて昼斗の唇にキスをした。
 そんなこんなで、現在の昼斗は、実に平和である。復讐されている最中らしいが。

 今日も二人で車に乗り込んで、もうじきあるというイースターというイベントのチラシを見た。昴はハンドルに手をかけながら、昼斗に対して笑う。

「ねぇ、昼斗?」
「ん?」
「俺は、執念深いから、生涯昼斗を愛し続けるという復讐をするから、覚悟していてね」

 それを聞いた昼斗は、吹き出した。

「なぁ、昴」
「なに?」
「それじゃあ、俺が嬉しいだけだから、何の復讐にもならないぞ」

 二人の乗る車は、その後基地へと入っていく。
 ――このようにして、世界には平和が訪れた。それこそ昴の溺愛ぶりは凄くて、酷くて、昴の友人である三月や環、瀬是は遠い眼をしたものであるが、その束縛に、昼とは気づかない。そんな風にして、新たな日々が始まる。

 桜の花びらが舞い散る季節、それは、ある種の新たなる始まりとなる。

 その後、地球系人類は、ラムダ系人類と条約を結ぶ日が来る。けれどそれは、昼斗にはあまり関係のない話である。その後も、人間は、生きていった。けれどその礎、呼吸する権利を得たのは、紛れもなく、粕谷昼斗という一人のパイロットの奮闘があったからであり、後に彼は、大佐に復帰後――少将、そして中将・大将と昇格していくが、それはまた別のお話だ。

 世界には戦乱が溢れている。激動の十年を生きた青年の物語は、愛の元に一つ、幕を下ろしたのであった。



 ―― END ――



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みんなの感想(13件)

祭崎飯 代(さいさきいい よ)

面白かったですー!!
エノシガイオス含め、魅力的な人達ばかりでした!
良いお話を読ませて下さり、ありがとうございまっするー!(*☆∀☆*)9

猫宮乾
2022.10.23 猫宮乾

ご覧下さり本当に本当に有難うございました!!
あたかいお言葉に感無量です(〃▽〃)ポッ♡
こちらこそ、本当に有難うございました!!

解除
くりあ
2022.10.21 くりあ

すごく面白かったです!!SFBLとは!!なかなか、見たことないジャンルだったので、とても楽しく読むことができました!

でも、1番気になるのは、ラムダの騎士さんのその後……彼(?)は、どうなったのか、すごくきになる~(笑)
秘宝さんが溺愛スパダリっぽいから、あのまま攫われてもいいなぁとニヤニヤしてました!

猫宮乾
2022.10.21 猫宮乾

ご覧下さり、誠に有難うございました!!
SFBL(の人型ロボットは特に)は個人的に数がもっと増えたらいいなぁと思うジャンルで、お楽しみ頂けたとの事、本当に感無量です!

彼は……笑笑 もっとも溺愛スパダリ要素ありますよね笑笑 ニヤニヤしていただけて、とても嬉しいです。本当に有難うございます(〃▽〃)ポッ!!

解除
ゆゆ
2022.10.21 ゆゆ

初めまして。いつもお話し読ませて頂いてます。
完結おめでとうございます!!とても読みごたえがあり、素敵なお話しでした。

昼斗くんを昴が生涯かけて大切にしてくれそうで良かったです。保くんもエノシガイオスもかっこ良すぎる。昴負けてる…。
三月さんにも基地連中にも言いたいことありすぎますが、戦時中だから精神が正常ではないんですよね多分…綺麗事ではすまないのだろうと考えさせられました。
これから先、昼斗くんが自分を大切にする未来がみたいですね。
連載お疲れさまでした。

猫宮乾
2022.10.21 猫宮乾

はじめまして! ご覧下さり、誠に有難うございます!!
完結感謝です、素敵だと仰って頂き、とても嬉しいです!!

昴による溺愛(と、出来たら昴の格好良さ)は、後日談として今後短編かけたらいいなと思っております。
ただ現時点では、私も負けていると思いながら、書いておりました……!
基地の人々は、まさに精神がちょっと傾いているのだろうなと思います。

大切にする未来、落ち着き次第なのですが、11月頃かけたらなと思っておりますので、書きましたらお付合い頂けましたら嬉しいです。温かいお言葉有難うございました!!

解除
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