甘いマスクは、イチゴジャムがお好き

猫宮乾

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―― 第一章:マスク ――

【十二】熱い信念

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 高雅は椅子に深々と背を預け、この日は書類仕事をしていた。
 それが一段落したところで、ティーサーバーで珈琲を飲もうと、立ち上がる。
 そしてプラスティックのカップに珈琲を注いだ。

 本日は曇天で、白い雲を見ていると、どことなく気分が落ち込む。
 なお現在、梓藤は他の部署との合同会議の最中で、坂崎は非番だ。だから静間と高雅の二人で本部にいる。カップを傾けながら、何気なく高雅が静間を見た。静間が口を開いたのは、その時だった。

「見つけたよ」

 険しい顔をして、静間が言った。

「何をですか?」
「不審者。高等知能を持つマスクか、その支援者、即ち死刑囚と同等の罰が決定している犯罪者の可能性が高い相手だよ」
「えっ!」
「冬親ちゃんと廣瀬ちゃんが仕掛けてた、隠しカメラの映像を解析して、見つけたんだ。これを見て」

 歩みよった高雅が後ろから覗くと、静間がある映像を拡大し、鮮明になるよう処理をした。そこには地下に続く扉を開く男が映っていた。その上、一度出てきてから、斧を持って、再び中へと入っていく姿が捉えられている。

「すぐに学園の教職員の写真と照合しないとね」
「待って下さい、この人……俺と坂崎さんを案内してくれた、吹屋先生です」
「何、顔見知りだったの?」
「……そ、そうなります。でも、マスクだなんて全く気がつきませんでした」
「まぁ、高等知能を持つマスクは擬態が得意だし、見分けるためには排除銃か排除刀を突きつけないかぎり、判別は難しいからね。それにあちらも、捜査官を監視したくて、案内役を買って出た可能性もある。マスクを舐めてはいけないんだよ。一般的なマスクと違って、本当に高等知能があるマスクは厄介なんだよ」

 静間の声に、大きく高雅は頷いた。そして力強い声を放つ。

「すぐに急行します!」
「ダメに決まってるでしょ」

 すると間髪いれずに、静間がそう告げた。

「ど、どうしてですか!? 斑目さんを惨殺した犯人が分かったんですよ!?」
「単独行動は危険極まりないよ。それこそ廣瀬ちゃんの二の舞になるかもしれないじゃん」

 その声に、高雅は反論を持たず、息を呑む。

「とりあえず、冬親ちゃんの会議が終わるまで待とう。それと、坂崎さんを呼びだせるようなら、あちらにも頼まないとね」

 冷静な声の静間は、困ったように笑っている。その表情を見据えて、高雅は頷いた。

「分かりました……」
「うん」
「……ちょっとトイレに行ってきます」
「そう」

 頷き静間が見送る。高雅は本部を出るとその足で、トイレではなく本部がある建物のエントランスへと向かった。そして受付で、車の鍵を借りる。その後外はへと出て、今にも雨が降り出しそうな雲をチラリと見てから、第一係の者が使っていい覆面パトカーに乗り込んだ。先程受け取った鍵でエンジンをかける。

「いてもたってもいられねぇよ、こんなの。梓藤さんはああ言ったけど、必ず俺が倒して、斑目さんの敵を取ってやる!」

 そう決意し、高雅は車を走らせた。
 次第に、雨が降り始めた。まるでその雨は、車を追いかけてくるような、そんな雨脚だだった。学園に到着した高雅は、車から降りる。そして真っ直ぐに職員室へと向かった。そして扉を開けて見渡すが、そこには吹屋の姿が無い。

「確か、マスクの調査で前にいらっしゃった捜査官の方ですよね?」

 すると歩みよってきた、壮年の教員が声をかけてきた。

「はい。吹屋先生にお会いしたいんです」
「今、丁度授業中ですので……そうだ、授業が終わったら、以前もお通しした小会議室に行くように伝えますので、どうぞそちらでお待ち下さい」

 教員の声と配慮に、高雅は会釈を返してから、足早に職員室を出た。
 そして階段を駆け上り、小会議室に入る。この部屋は扉が一つだから、都合がいいと考えながら、戸の左の壁際に立つ。そして排除銃を取り出して、深呼吸をした。まずは、吹屋が本当にマスクなのかを確認する必要がある。尤も、人間だとしても手引きしたのが確定すれば、排除対象とは理解しているのだが。

 高雅が待っていると、時計が四時を少しまわった時、戸が開いた。
 その瞬間を逃さず、高雅は吹屋のこめかみに、ピタリと銃口をあてがう。
 すると、電子音が、ピーピーピーと三度鳴ってから、合成音声が響き渡った。

『現在の対象の脳波は、マスクです。繰り返します、マスクです。すぐに排除すべきです』

 女性的な機械の声に、高雅は思わず口走った。

「やっぱりお前が……」

 怒りが沸いてくる。あの映像に映っていた斧で、首を刎ねたに違いないと考えると、憤怒がこみ上げてきて全身を覆い、わなわなと震えてしまう。

 だが、そのように思考をしていたのが悪かった。気づくと高雅は足払いをされており、息を呑んで体勢を立て直した時には、吹屋に距離を取られていた。吹屋は、高雅が立つ位置とは、戸を挟んで逆側の壁際まで後退している。

 しかしこの距離ならば、銃撃できる。
 高雅は吹屋の青白い顔を視界に捉え、睨めつける。
 頭の中に、優しく接してくれた斑目の事が甦る。なにより、自分のことを、妹のことを覚えていてくれた、本当に心が温かい人だった。そう考えると、妹の記憶も脳裏を過る。マスクは、妹を殺めた敵でもある。この手で絶対に吹屋を屠り、復讐を果たしてやると、高雅は決意しながら、銃口を吹屋へと向けた。

 高雅は引き金に指をかけ、吹屋の頭部に狙いを定める。
 今、排除できるのは、自分だけだ。初めての任務となった地下での騒動では、ただ立っていることしかでいなかったが、今は違う。心の中に、熱い信念がある。

「これがお前の最期だ!」

 強く叫びながら、高雅は排除銃の引き金を引いた。
 直後その場に、銃声が響き渡る。
 高雅にはその光景が、スローモーションのように見えた。金色の弾丸が飛んでいく。

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