甘いマスクは、イチゴジャムがお好き

猫宮乾

文字の大きさ
14 / 39
―― 第一章:マスク ――

【十四】第一係の唯一の規則

しおりを挟む
 有能を自負するマスクは、寧ろ元の高雅よりも早く処理をしていったが、静間と坂崎が帰っても、まだ報告書の作成は終わらなかった。時間がどんどん過ぎていく。時々溜息をつきながら、マスクはサンドイッチを囓った。一つは残して家で食べようかと考える。

 すると会議を終えた様子で梓藤が入ってきた。

「調子はどうだ?」

 梓藤が自分の真後ろで立ち止まったのが分かる。パソコンを覗きこもうとしているのだろうと、マスクは考えた。

「あと十分の一程度なので、一応今夜中には終わるかなって」

 高雅らしく、マスクは苦笑するような声を放つ。そして画面を見ながら、マウスで現在作成したファイルの一覧を表示した。

「こんな感じです。見て下さい!」

 今度は努めて明るい声を発し、マスクが振り返ろうとした時のことだった。
 ひんやりとした感触を、後頭部に感じた。

 ピーピーピーと電子音が鳴り響く。

『現在の対象の脳波は、マスクです。繰り返します、マスクです。すぐに排除すべきです』

 気づかれたことに、マスクは狼狽えた。

「やっぱりな」

 梓藤の呆れたような声が続く。

「ど、どうして……」
「イチゴ味のチョコすら食えない高雅が、買うわけがないだろ、イチゴ味のサンドイッチなんて」
「!」
「ああ、マスクはイチゴジャムがお好きだったな」

 呆れた声が、ずっと続いている。マスクは反論を持たなかった。こんな些細な事で、露見するとは思ってもみなかった。

「全く、高等知能が聞いて呆れる」
「なっ、俺は――」

 バン、と。発砲音がした。梓藤が反論を聞かずに、排除銃を放ったのである。
 高雅だった体に接着していたマスクは、頭部を破壊されたため、沈黙した。それは即ち、死である。頽れた高雅の体を、いいや既にマスクだった遺体を、梓藤は抱き留めると、血飛沫を全身に浴びながら、ゆっくりと床に寝かせた。

「死ぬなって言ったのにな」

 梓藤の声が、淡々と響いて、本部の宙へと静かに溶けていった。






 ―― 第一章:完 ――


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...