黒薔薇の刻印

猫宮乾

文字の大きさ
52 / 61

【五十二】幸せの定義Ⅰ

しおりを挟む




 今日は、全身を舐められている。もう体に力が入らない。舐められている箇所から、快楽が染みこんでくるのだが、今日は果てられないようにされている。黒薔薇の刻印の魔力が、俺の体を苛んでいる。

「ぁァ……あっ、ッ……」

 弱い足の傷をなめられた時、恐怖で俺はすすり泣いた。すると魔王は楽しそうに笑うのだ。そこばかりを執拗に舐める。舌は俺の肌を往復し、太股の付け根に到達した。

「あ……」

 魔王が漸く、直接的に俺の性器に触れてくれたのは、二時間が経過した頃の事だった。陰嚢をもみしだかれ、俺は必死で息をする。今日の魔王の手つきは優しく、そのまま俺の陰茎を握ると、とても優しく擦った。ゆっくりと昂められ、俺は気持ちよさに浸りながら吐精した。

「明日、お前を正式に娶る事にした」
「……っ、ぁ……」
「黄泉の国からも招待客を呼んである。俺の力で、一時的に実体化させてな」

 この時の俺は、ただ甘い快楽に浸っていたから、その意味を深く考えてはいなかった。


 翌日。
 唐突に婚姻の儀を宣言された。とは言っても、俺はいつも通り、初めは玉座の間で貫かれているだけだった。状況が変わり始めたのは、一人二人と招待客が現れてからだ。俺は、正面の席に座る人々を見て、恐怖から震えた。そこには――ミネスの姿やユーガ殿下の姿、過去に俺を辱めた人々の姿があったのである。

 皆冷めた目で俺を見て、侮蔑の言葉を投げかけてくる。魔王は気分がよさそうに、俺の耳の中を舌で嬲りながら、いちいち感想を述べる。

「そうかそうか。貴殿に抱かれていた時は、そのように淫らだったのか、我が妃は」
「ええ」

 誰とも分からない相手まで、俺の痴態を力説している。羞恥で震えると、ゆるゆると魔王が突き上げてくるから、俺はすすり泣いた。

「死神とは言い渾名がついたな」

 招待客の一人が述べると、魔王が哄笑した。そして俺の胸の突起を摘まみながら、意地の悪い声を出す。

「果てろ」

 公衆の面前で、俺は何度も射精させられた。しかし本日は、気絶する事を許されず、たたき起こされては体を暴かれた。みんながそんな俺を見ていた。

 俺が解放されたのは、月が高くなってからの事だった。ぼんやりと、俺は薬指にはまる魔石つきの指輪を見る。結婚指輪だ。ぐったりと椅子に背を預けていると、正面の席で琥珀酒を飲んでいた魔王が、こちらを見た。口角を持ち上げている魔王は、端正な顔で残忍な瞳をしている。もう見慣れてしまった表情だ。

「子も産まれ、婚姻も結び、俺の愛があると刻印が嘯いている現在、これ以上望む幸せはあるか? 最高のハッピーエンドだろう? めでたしめでたしだ」

 それを聞き、俺は唇を噛んだ。
 これが、俺の一生なのだろうか。確かに、魔王が言った結末は、お伽噺でよくあるものだ。だが、本当に幸福なのか? 違う。

 違う。

 違う――そう考えたら、堰を切ったように、俺の目から涙が零れた。すると魔王が目を丸くした。

「何故、泣くんだ?」
「俺は……っ、ぁ……こんなの、こんな結末、望んでなかった。ああ……あの日手を離さなければ、あそこで……死ぬか、俺も、俺もミネスと一緒に救出されていたら、うあ、こんな事に、俺が、俺が悪いんだ。でも、嫌だ。もう嫌だ」

 ガクガクと震えながら俺は泣き、両手で顔を覆った。魔王が驚愕したように立ち上がり、俺へと歩み寄ってくる。そして不意に俺を抱きしめた。

「そんな事を考えていたのか」
「う……うう……もう、もう限界だ」

 暫しの間、魔王は泣いている俺を抱きしめていた。その温度が優しく感じてしまう自分を、俺は呪った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

卵を産んでしまったハーピィ男子の話

志田
BL
ハーピィのヒューイは相棒の天族のディオンに片想いをしていた。ある日、卵を産めるようになったのをきっかけに、こっそりディオンの子どもを作ろうと衝動的に計画するが…。異種族×異種族。おバカ受。

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

Bランク冒険者の転落

しそみょうが
BL
幼馴染の才能に嫉妬したBランク冒険者の主人公が、出奔した先で騙されて名有りモブ冒険者に隷属させられて性的に可哀想な日々を過ごしていたところに、激重友情で探しに来た粘着幼馴染がモブ✕主人公のあれこれを見て脳が破壊されてメリバ風になるお話です。 ◯前半は名有りモブ✕主人公で後半は幼馴染✕主人公  ◯お下品ワードがちょいちょい出てきて主人公はずっと性的に可哀想な感じです(・_・;) ◯今のところほとんどのページにちょっとずつ性描写があります

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...