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【五十二】幸せの定義Ⅰ
しおりを挟む今日は、全身を舐められている。もう体に力が入らない。舐められている箇所から、快楽が染みこんでくるのだが、今日は果てられないようにされている。黒薔薇の刻印の魔力が、俺の体を苛んでいる。
「ぁァ……あっ、ッ……」
弱い足の傷をなめられた時、恐怖で俺はすすり泣いた。すると魔王は楽しそうに笑うのだ。そこばかりを執拗に舐める。舌は俺の肌を往復し、太股の付け根に到達した。
「あ……」
魔王が漸く、直接的に俺の性器に触れてくれたのは、二時間が経過した頃の事だった。陰嚢をもみしだかれ、俺は必死で息をする。今日の魔王の手つきは優しく、そのまま俺の陰茎を握ると、とても優しく擦った。ゆっくりと昂められ、俺は気持ちよさに浸りながら吐精した。
「明日、お前を正式に娶る事にした」
「……っ、ぁ……」
「黄泉の国からも招待客を呼んである。俺の力で、一時的に実体化させてな」
この時の俺は、ただ甘い快楽に浸っていたから、その意味を深く考えてはいなかった。
翌日。
唐突に婚姻の儀を宣言された。とは言っても、俺はいつも通り、初めは玉座の間で貫かれているだけだった。状況が変わり始めたのは、一人二人と招待客が現れてからだ。俺は、正面の席に座る人々を見て、恐怖から震えた。そこには――ミネスの姿やユーガ殿下の姿、過去に俺を辱めた人々の姿があったのである。
皆冷めた目で俺を見て、侮蔑の言葉を投げかけてくる。魔王は気分がよさそうに、俺の耳の中を舌で嬲りながら、いちいち感想を述べる。
「そうかそうか。貴殿に抱かれていた時は、そのように淫らだったのか、我が妃は」
「ええ」
誰とも分からない相手まで、俺の痴態を力説している。羞恥で震えると、ゆるゆると魔王が突き上げてくるから、俺はすすり泣いた。
「死神とは言い渾名がついたな」
招待客の一人が述べると、魔王が哄笑した。そして俺の胸の突起を摘まみながら、意地の悪い声を出す。
「果てろ」
公衆の面前で、俺は何度も射精させられた。しかし本日は、気絶する事を許されず、たたき起こされては体を暴かれた。みんながそんな俺を見ていた。
俺が解放されたのは、月が高くなってからの事だった。ぼんやりと、俺は薬指にはまる魔石つきの指輪を見る。結婚指輪だ。ぐったりと椅子に背を預けていると、正面の席で琥珀酒を飲んでいた魔王が、こちらを見た。口角を持ち上げている魔王は、端正な顔で残忍な瞳をしている。もう見慣れてしまった表情だ。
「子も産まれ、婚姻も結び、俺の愛があると刻印が嘯いている現在、これ以上望む幸せはあるか? 最高のハッピーエンドだろう? めでたしめでたしだ」
それを聞き、俺は唇を噛んだ。
これが、俺の一生なのだろうか。確かに、魔王が言った結末は、お伽噺でよくあるものだ。だが、本当に幸福なのか? 違う。
違う。
違う――そう考えたら、堰を切ったように、俺の目から涙が零れた。すると魔王が目を丸くした。
「何故、泣くんだ?」
「俺は……っ、ぁ……こんなの、こんな結末、望んでなかった。ああ……あの日手を離さなければ、あそこで……死ぬか、俺も、俺もミネスと一緒に救出されていたら、うあ、こんな事に、俺が、俺が悪いんだ。でも、嫌だ。もう嫌だ」
ガクガクと震えながら俺は泣き、両手で顔を覆った。魔王が驚愕したように立ち上がり、俺へと歩み寄ってくる。そして不意に俺を抱きしめた。
「そんな事を考えていたのか」
「う……うう……もう、もう限界だ」
暫しの間、魔王は泣いている俺を抱きしめていた。その温度が優しく感じてしまう自分を、俺は呪った。
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