図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 序章:図書室のマスク男の噂 ――

【005】図書室のマスク男⑤

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 翌日の日曜日は、薺のお見舞いに、家族みんなで出かけることになっていた。
 朝起こされた頃には、ぼくは昨日の図書室での一件を夢のように感じていた。着がえをしながら自分に言い聞かせる。やっぱり、ウワサはただのウワサでしかなかった。結果は簡単。いたのは人間。

 朝の十時に父と兄と家を出た。
 お昼は早めにファミレスで食事をしようと話しているから、本日はまだ朝食を食べていない。

 きさらぎ総合病院の小児科の入院病棟へと向かう。
 お父さんが働いているのも、この病院だ。
 病室に入ると、薺がベッドの上でゲームをしていた。

「あっ、お父さん、亮|にいちゃん、瑛にいちゃん!」

 顔を上げた薺の色は白い。病室からほとんど外に出ないせいだろう。

「ほら、お土産だぞ!」

 亮にいちゃんがゲームのソフトのダウンロード用カードを、薺に手渡す。薺の亮がキラキラしている。

 喜んでいる薺の顔を見るのは嬉しかったけれど、ぼくの胸の中がもやもやとする。
 ぼくだって欲しい。
 だけど亮にいちゃんもお父さんも、瑛にもたまに買ってくれるけれど、〝一番〟は薺だ。ぼくは薺がうらやましい。ただ、そこでワガママを言ったりはしない。だって病気の弟にしっとするなんて、それこそ〝子ども〟だ。

 それにぼくだって薺が嫌いなわけではない。

 そのまま三十分ほど面会をしてから、薺と別れて病院から外に出る。

「瑛は何を食べるんだ?」

 お父さんの声に、ぼくは両方のほほを持ち上げる。

「チーズハンバーグ!」

 ぼくの声に、亮にいちゃんが迷った顔をした。

「俺もハンバーグが食べたいな。でもパスタも捨てがたい」

 三人の空間ができあがる。ここには薺はいない。入ってこられない。それを可哀想だと思うこともあるけれど、時々勝った気分になってしまうしまう。ぼくはそんな自分が嫌いになるけど、どうしていいのかわからない。ぼくも本当は、〝一番〟になりたい。

 その後は三人できさらぎ市の駅前まで向かい、ファミレスに入った。


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