図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 第二章:トンカラトン ――

【017】ウワサ集め

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 月曜日のお昼休み。
 ぼくは、早速みんなにトンカラトンについて何か知らないか聞いてみることにした。
 ひっそりと、目立たないように、だ。これはぼくと水間さんが内緒で調べることだからだ。

「ねぇねぇ」

 ぼくはろうか側のとなりの席の人潟ひとかたくんに声をかけた。

「ん?」

 給食から顔を上げて、人潟くんが僕を見る。その目の色は茶色に見える。
 人潟くんは、たいていの場合正面を向いていて、今ぼくを見るたいせいも、少しだけ首を動かした状態だ。

「あのさ、トンカラトンって知ってる?」
「トンカラトン?」

 人潟くんは、不思議そうな声を出した。知らないようだと思っていたら、ぼくは後ろから肩を叩かれた。振り返ると、後ろの席の山瀬やませくんがぼくを見ていた。

「それって、自転車に乗ってる、包帯がグルグル巻きの?」
「知ってるの? ぼ、ぼくは名前しか知らなくて。詳しく教えて」
「うん。あのね、ぼくの兄貴が中学校で聞いてきたんだけどさ、自転車で街の中を走ってるんだって。一人のこともあれば、大勢のこともあるみたい。で、ばったり会うと、言ってくるんだって」
「なんて?」
「『トンカラトンと言え』って」
「トンカラトン……」
「そう! それでもし、『言え』って言われる前に『トンカラトン』って言ったり、他の話をしたり、『言え』って言われてるのに黙ってたりすると、日本刀で切り裂かれて、そいつも新しいトンカラトンにされちゃうんだって! 怖いよなぁ……兄貴の同級生が見たんだってさ!」

 ぼくは初めて知ったトンカラトンのくわしい都市伝説を、頭の中に必死でメモした。

「山瀬くん、教えてくれてありがとう」
「いいってことだよ。ぼくも誰かに話したかったんだよねぇ」

 山瀬くんはニコニコしている。たしかに〝ちゅういかんき〟は大切だ。
 うなずいてから、ぼくは人潟くんにも顔を向けた。

「人潟くんもありがとうね」
「ううん。そうか……トンカラトン……自転車に乗って外にいるなら、学校にいれば安心だね」
「そうだね」

 たしかに、校舎の中には出ないだろうし、小学校は自転車での通学はしないから、そうぐうする危険はほとんどないだろう。だけどぼくは、それでは困る。なんとかして、居場所を探さないといけない。そして図書室ピエロにつながる手がかりを見つけるのが、ぼくと水間さんの使命だ。

 その内に、給食の時間とお昼休みは、終わってしまった。
 なかなかの成果だと思う。


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