32 / 101
【SeasonⅠ】―― 第五章:人体模型の怪 ――
【032】一人の夜
しおりを挟む夏休みまで、あと一週間になった。だんだんぼくは、荷物を持ち帰るようになった。泰我先生に言われたからだ。
……。
昨日は日曜日だったから、もしかしてと思って公園に行ってみたけれど、水間さんは来なかった。泰我先生は、何か聞いただろうか? 見ているといつもの通り明るくて、ぼくには判断できない。
「はぁ……」
思わずため息をつくと、人潟くんがぼくを見た。
「どうかしたの?」
あいかわらず、少しだけ首をかたむけてぼくを見ている。
「ううん。今日もたくさん持って帰らなきゃと思って。人潟くんは、もう色々持って帰った?」
「ぼくは持って帰らないんだ」
「ああ、最後の日にお母さんかお父さんが車で来てくれるんだね」
ぼくは一人なっとくした。人潟くんは、ニコニコ笑っている。
「楠谷くんは、夏休みはどこに行くの?」
「テーマパークだよ! 亮にいちゃんが、のり気でさ。家族サービスだよ」
「そうなんだ」
そんな話をしていると、泰我先生が入ってきたので、帰りの会が始まった。
ぼくは話を聞きながら、たまにチラリと哀名の背中を見た。哀名とも、図書室以来、話していない。それも少しさびしい。
なんだか最近、すっきりしない。
そう考えながら家に帰ると、スマホではなく家の電話に耳をあて、亮にいちゃんが苦しそうな顔をしていた。なにか、とってもなやんでいる顔だ。
「――分かりました。うかがいます」
亮にいちゃんが電話を切ったとき、ぼくはリビングに入った。
すると亮にいちゃんが振り返った。
「瑛。今日父さんは準夜勤なんだけど、俺は少し出かけてくる。なべに肉じゃがが入っているから、一人でレンジで温めて食べられるか?」
「うん」
「一人でお留守番できるか?」
「ぼく、もう小学六年生だよ? 大丈夫だよ」
「そうだな。じゃあ、少し出かけてくる」
そう言うと亮にいちゃんが、制服のままで出かけていた。
なんだろうかと考えながら、ぼくはお鍋のふたを開ける。そうしながら、ふと考えた。今日は、亮にいちゃんもお父さんもいない。だとすると、夜に学校にぼくがいってもバレない。
人体模型のウワサを思い出す。
夜の七時から、人体模型は校舎を走るらしい。今日なら、人体模型に話が聞けるかもしれない。ぼくは一人決意した。やっぱり、水間さんを手伝いたい!
こうしてぼくは急いで肉じゃがを食べ、七時にそなえた。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ぽんちゃん、しっぽ!
こいちろう
児童書・童話
タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる