図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 第六章:学校わらし ――

【036】連絡先を書いた紙

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 翌日。
 目を覚ますと、亮にいちゃんが帰っているようで、おみそ汁のにおいがした。
 ぼくは顔を洗ってから、亮にいちゃんのところへ行った。

「おはよう、瑛」
「おはよう」

 やっぱり亮にいちゃんがいてくれるとほっとする。
 そう考えてから学校へ行った。実はぼくは、今日、なしとげたいことがある。
 哀名に、メッセージアプリの連絡先を聞きたい。

 勇気を出して、放課後声をかけてみようと思っている。
 だから朝からそわそわしながらすごして、放課後を待った。
 哀名はぼくが観察したかぎり、いつも教室を三番目に出る。目立たないように、空気のように、ひっそりと出て行く。

 すると本日も三番目に哀名が立ち上がったので、それとなくぼくも席を立つ。教室では、七海さんとか女子の話し声がする。

 哀名が廊下を少し歩いたところで、ぼくは声をかけた。

「哀名、ちょっといい?」

 小声で聞いた。人目があるからだ。

「なに?」
「その……連絡先を教えて欲しくて。ぼくのID、これだから、よかったら連絡して」

 ぼくは押しつけるようにして、自分のIDを書いた紙をわたした。
 受け取った哀名がおどろいたような顔をしていたから、恥ずかしくなってぼくは先に学校から出た。そして早足で歩いて行くと、神社の石段が目に入った。

「おはよ、瑛」
「透くん……」
「どうかしたの? なんだか急いでたみたいだけど」
「……透くんってモテる?」
「普通かな。なんで? ああ、この前のカノジョとケンカでもしちゃった?」
「カノジョじゃないよ……今日ね、連絡先を聞いたんだけど……連絡くるかなぁ……?」
「まだ交換してなかったのが以外だけどね。ちょっと話そうか? 聞いてあげるよ」

 そう言うと立ち上がって、透くんが石段をのぼりはじめた。ぼくもついていく。
 そしてぼくたちは、ベンチに座った。

「それで?」
「夏休みになるから、その間も話せたらなって思って……」
「嫌なら連絡してこないだろうし、あきらめなよ」
「う……こなかったら、もう立ちなおれないかも……」
「恋の一つや二つや三つで折れてたら、人生大変だよ?」
「そうなの?」
「そうなの。悩んでないで、連絡を待ってみればいいよ」
「そうだね。ありがとう、透くん」
「どういたしまして」

 話していたら、少し気が楽になった。

「そうえいば、もうすぐ夏休みだよね? 瑛は、どこかに行くの?」
「うん。亮にいちゃんとお父さんと、テーマパークに行くんだよ」
「へぇ、どこの?」
「となりの弥生市の、弥生ハイランドパーク!」
「ふぅん。いつ行くの? 夏休みに入って二日目から!」
「そうなんだ。楽しめるといいね。何ごともないことを祈るよ。まぁ、俺が――……ううん。なんでもない。そろそろ帰ったら?」
「う、うん? うん……帰るけど、なに?」
「なんでもないよ。じゃあ、またね」

 透くんに手を振られたので、ぼくは帰ることにした。


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