47 / 101
【SeasonⅠ】―― 第九章:図書室ピエロ ――
【047】待ち合わせ
しおりを挟む亮にいちゃんと手を繋いで帰ってきた夜、ぼくは寝たけど、お父さんと亮にいちゃんは遅くまで話をしていたみたいだった。朝起きたら、二人ともはればれとした顔をしていたから、なにかいい話をしていたんじゃないかと思う。今日は土曜日だ。
そう考えていたら、亮にいちゃんがバイトに行ってから、お父さんがぼくを抱きしめた。もうそんな年じゃないから、恥ずかしい。
「な、なに?」
「昨日はよくやったな。話は聞いた」
「……別に。ぼくは、当然のことを言っただけだよ」
「大人になったな」
その言葉に、ぼくは目を丸くした。ぼくは、あれほどこだわっていた頃は、全然〝子供〟だったけど、今は少しは、〝大人〟になったのだろうか? そうであれば嬉しい。それは自分のためでもあるけれど、みんなを助けられるという意味でもそうだ。
「瑛は自慢の息子だよ。これからも、亮と薺を頼んだぞ」
「うん」
ぼくは大きく頷いた。
さて、今日はぼくが一人で、薺のお見舞いに行くことになっている。着替えを持っていく。お父さんが用意してくれたカバンを持って、ぼくはお父さんより先に家を出た。お父さんは夜勤だ。
ぼくが病院についたのは、午後の四時三十五分のことだった。うで時計でしっかりと確認するくせがぼくにはついている。
「薺! お見舞いにきたよ!」
「――うん、ナナちゃん。そっか、今日くるんだ。会ってくるよ」
「薺?」
「あ! 亮にいちゃん!」
鏡に向かってブツブツと話していた薺が、やっとぼくに気がついた。変だなと思いながら、ぼくはベッドに歩み寄る。
「これ、着替えだよ。棚に入れておくね」
「うん! ありがとう」
上半身を起こしている薺は、体調が良さそうだ。今日は点滴もしていない。
それを確認してほっとしていると、薺がじっとぼくを見た。
「あのね、瑛にいちゃん」
「ん?」
「ナナちゃんに教えてもらったんだけどね」
「うん」
「今日、すごく楽しいお友達が来るんだって」
「お友達?」
新しい入院患者だろうか? 病院には学校もあるから、そちらに来たのかもしれない。夏休みも学校はあるみたいだ。あんまりぼくにはよく分からないけど。
「内緒だけど、瑛にいちゃんにだけ教えてあげる。これからね、トイレで会うんだよ」
「トイレで?」
「うん! 瑛にいちゃんも一緒に遊ぶ?」
「……」
トイレは遊ぶ場所ではないし、汚いと思う。ぼくはお兄ちゃんとして、注意した方がいい。どうせなら、薺の友達にも伝えた方がいいだろう。
「分かったよ、一緒に行く」
「じゃあ今から行こう! もうすぐ来るんだよ!」
そう言うと、薺がベッドから降りた。そしてスリッパをはくと、病室の出口に向かう。ぼくも静かにその後にしたがった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる