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―― 第一章 ――
【十二】◆大学時代 ―― 一年 9 ――
しおりを挟む「どうぞ!」
「ああ。珍しいな、話なんて」
エントランスで相馬を出迎えると、首を傾げられた。俺は曖昧に笑って振り返る。
「俺の草野球サークルの先輩が、お前に会いたいらしくてさ」
「先輩?」
「心理の三年生。それと、ノートと過去問回してくれたのもあって、コピーしといたから渡したくて」
俺がつらつらと説明をすると、靴を脱いだ相馬が中へと入ってきた。
居室へと案内すると、湊川先輩が笑顔でこちらを見た。
「初めまして。相馬くん?」
「はい。相馬匡と言います」
「俺は湊川。二年の渡会日和って子に、相馬くんの話聞いたんよ」
湊川先輩がそう続けるのを聞きながら、俺は相馬の分の麦茶も用意した。
三人で白いテーブルを囲んで、絨毯の上に座る。
「ああ、この前確か、行動心理学の講義で隣になりました」
相馬が頷いている。知り合いらしいと判断しながら、俺は二人を見ていた。
「日和ちゃんと俺、一個サークルが一緒なんよ。それで、相馬くんがその時、サークル入ってないって話してたって聞いてな。そうしたら、別のサークルで一緒の創介の友達やって知ったから、お誘い」
湊川先輩はそう口にすると、ニヤリと笑った。
「料理サークル。興味ない?」
「え?」
相馬はそれを聞くと、僅かに困ったように動きを止めた。
「活動は出来る日だけ、同じ講堂で自作したお弁当を食べる事。時々、料理対決なんかもするし、夏冬はよそのサークルと一緒でサークル旅行企画したり、打ち上げとかもあるけどね。基本はみんなでお弁当を食べようってノリなんよ」
湊川先輩の話を聞いて、俺は色々なサークルがあるんだなぁと漠然と考えていた。
「夏休み入ってすぐの土曜に、ずばり第二回料理対決があるんよ。勿論、創介は参加や! 相馬くんもどうだね?」
「へ?」
聞いていなかったから、俺は目を丸くした。俺には料理スキルなどない。
「灯里も行くのか?」
「え」
「行くよな?」
「え、ええと……」
俺が言葉に詰まっていると、湊川先輩の双眸が細くなった。完全に、『空気を読め』という顔をしている。俺はテーブルの下で拳を握った。
「――行く。どうせ夏休みは帰省もしないしな。腹が減るし!」
「さっすが、創介」
「……それなら、ちょっと顔を出すだけなら」
相馬が曖昧に頷いた。すると湊川先輩が手を叩いた。
「決まりやな。いやぁ料理サークルは、新入生も少ないからね、今からでも十分馴染めるし、本当に大歓迎や」
ニコニコしている湊川先輩を見て、俺は首を捻る。
「料理対決って何作るんですか?」
「うん。次はパスタやんね。来られるメンツで四班に分かれて、各種ソースを作る!」
「湊川先輩って料理出来るんですか?」
「ん? 俺は審判だよ」
そんなやりとりをしながら、この日は更けていった。
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