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【十三】
しおりを挟む「うまくいったのでしょうね?」
母の第一声に、僕は笑うしかなかった。
「本日、どうして僕にこんなに嫌われちゃったのかわからないと泣きそうな笑顔で言われました」
「……なにをしたんだい? 父親として、気になるんだけど!」
「まぁ普通の日もありましたけど、ほぼ毎日ハードなプレイを。あ、ご安心ください。いわゆるソフトなやつです」
「「「「「「「「「「はぁあああああ!?」」」」」」」」」」」
「……この二ヶ月半、性交渉を交わしていたということでいいのよね?」
「ええ」
「……ちなみに、もちろんその都度、愛を囁いたのでしょうね?」
「いいえ。どちかといえば、振り返った限り、愛の言葉より、卑猥な言葉攻めの回数の方が多いです」
僕の回答に、周囲がみんな吹いた。咳き込みまくっている人々を気にせず、僕は腕を組んだ。
「気配的に、このままいくと、愛の告白にたどりつきません。そこで、食事会を開くので、陛下達からそれとなく僕の好意を伝えて説得してもらえませんか? 多分、友人に頼んだら、気配的に、やばいと思うんです。僕の評判とかじゃなくて、彼女のメンタルが。共通の友人ばかりなので」
「ま、まぁ、食事会は必ずするし、回数は多いほどいいから、僕は賛成だけど……うん、手順的にはうちの場合は、普通はこっちが気に入ってからっていうのが自然だからありなんだけど、恋愛を親に頼むって男としてどうなんだ?」
「――いいでしょう。会ってみたいですし。最悪その場で示談金をお渡ししましょう」
「感謝致します。日取りはいつがよろしいでしょうか?」
「だからどうして国王の僕を無視するの?」
こうしてスケジュールを縫いまくり、明後日の午後四時以降をフルで空けてもらった。異例の事態である。翌日大学で、普通に研究し、春香たちを見送ったあと、礼を見た。
「明日食事するから、空けといてっていうか、空いてるよね」
「え、あ、は、はい!」
「じゃあ今日はもう帰ろう。おやすみ」
さて、どうなることやら。当日、僕はアシェッドと春香に言った。
「今日ちょっと礼と出てくるから、鍵閉めてって。はい、これ。後で返して」
「どこに行くんだい?」
「ふたりが出かけるなんて珍しいわね」
「ちょっとね。礼、行くよ」
「は、はい!」
時間を伝え忘れていたことを思い出したが、礼は動揺など決して見せずについてきた。このいつもどおりさ加減、やっぱり絶対お后様には向いてる。それから、僕の迎えの車に乗った。
「どこに行くんですか?」
「当てて」
「んー……お寿司ですかね?」
「どうして?」
「前に、ゆっくり話すのに最適なお寿司屋さんがあるって言ってたから!」
「ああ、今度連れて行ってあげるよ。残念だけど、別の場所」
こうして僕達は、王宮へと到着した。
出迎えてくれた職員に僕は荷物を渡した。
一緒に降りたものの、礼が動きを止めた。
「あの、ここ……」
「僕の家だよ。一番ゆっくり話せるでしょう?」
「……」
「早くして。食事が冷める」
僕は礼を促して歩いた。礼は、少し思案したような間を置いたあと、僕の一歩後ろをついてきた。二人で向かった先は、比較的小さな部屋である。わざと小さいのだ。親しさを演出する仕様である。真ん中に丸いテーブルがあり、白いクロスがかかっている。壁の両サイドに男性一人女性二人ずつの職員がいる。執事とメイドみたいな出で立ちだ。しかしきちんとした公務員である。僕達の姿に、両親が立ち上がった。そして完璧に国民に見せる用の笑顔を浮かべた。さてどうなるか。一瞥して、まず複雑な笑がこみ上げてきた。完璧な姿勢でお辞儀している。
「お顔をお上げください。私は父の、雅仁と申します」
「本日はようこそおいでくださいましたね。母の、京子と申します」
「――ご紹介いたします。僕の留学時代からの付き合いの友人で、今も共同研究を行っている、礼さんです」
僕ら家族は、いつもどおり、国民の前で振舞う完全笑顔になった。さて、彼女はどう出るのか。一瞥していると、やっと彼女が顔を上げた。あげるタイミングがちょっと遅かったけど、まぁ平均から見れば許容範囲内である。
しかし、浮かんでいた表情を見て、僕は絶句した。
これまでに一度も見たことがない、儚く可憐な微笑が浮かんでいたのだ。
思わず見惚れた。見惚れない方が無理だ。え?
「お初にお目にかかります、国王陛下、王妃様。今、王太子殿下より恐れ多くもご紹介いただきました、礼と申します。本日は、ご一緒させていただけること、誠に嬉しく思っております。本当に、ありがとうございます」
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