僕は王室初のクズかもしれない。

猫宮乾

文字の大きさ
15 / 16

【十五】

しおりを挟む

 礼は真面目な話、天才だ!
 会話もできるし、これなら、どこにだって外交に連れて行ける。
 続いて、僕はトイレに、母はピアノの楽譜を取りに行く感じで、少し時間をずらして席を立ち、別の部屋で合流した。

「ありがとう、母さん」
「よかったわね、両思いで。まさかこの展開は予想していなかったけど。何よりあの子、かなり王族に向いていると思うの。逃してはダメよ」
「わかってるよ。僕も今日尚更確信したっていうか、それより両思いでしかも片思いされてた事実が嬉しすぎてどうしていいかわかんない」
「私が暴露した感じで何か言ったら許さないわよ。こっちにも計画があるんだから。これから立てるんですけれどね」
「とりあえず今日、帰りに送っていって、そのままプロポーズしてくる」
「頑張りなさい。失敗したら、もう一度、最初から完璧に計画を練って食事会よ。あの子が落ちるまで、繰り返しましょう」
「ありがとう」

 こうして王宮の職員から、手配しておいた婚約指輪を受け取り、それをポケットに入れて、僕は礼と車に乗った。

「はぁ、緊張した!」
「とてもそうは見えなかったけどね。王族に会う練習をしてたみたいに完璧だったよ」
「練習!? 練習方法なんかあるんですか!? こんなの、私と春ちゃんくらいしか、できない芸当ですよ! いきなり会っちゃうなんて!」
「――春香も今日の君みたいな話し方ができるの?」
「高校生の頃、柾仁さんのものまねをみんなでしたんです! 私が一番似てて、二番目が春ちゃんで、三番目は、殿下の知らない女の子です!」
「……どういう経緯でそんなことを? 君、女子高の出身だよね?」
「もしも柾仁さんのお后様のような高貴な方の奥様になった場合に備えての練習という特別秘密授業があって、高貴な方は柾仁さんしかしらなかったので、ものまね大会だと気づいた瞬間から、柾仁さんの顔をいっぱい思い出したんです!」
「そんな授業があったんだ」

 即廃止命令だそう。完全に、僕のお妃候補選びだったな、それ。今回はちょうど良かったけど、なんてこった。まぁ、付け焼刃で礼のレベルは無理だろうけどね。ニコニコ笑いながら、僕はそんなことを考えていた。

 こうして、雑談しながら、僕らは研究室へと戻った。
 そして合鍵で中に入った。マスターキーから勝手に作っておいたのである。
 礼は特にその事実には気づいていない。

 あとは、どうやってプロポーズするかだ。なんて言おうかな。

 簡易キッチンに立ったまま腕を付いて、頬杖をついた。

 僕が眺める前で、礼が荷物をしまっていく。
 そういえば今日は、久しぶりにたくさん話した。
 思えば最近、SEX三昧だった。僕のせいだけど。
 本当は、一緒にいられることや、話ができることだけでも、幸せなんだよね。
 ガス代にのったままの、鍋を見た。
 お味噌汁を最近作っていない。

「ねぇ、礼」
「なんですか? あ! 今日は、ごちそうさまでした!」
「――僕の作った味噌汁さ、本当に美味しかった?」
「え? はい! 私は、大好きです。今日食べたお料理も美味しかったけど、もっと好きです!」

 久方ぶりに、満面の笑みが僕に向いた。作り笑いじゃない。
 昔から知っているからよくわかる。僕が、好きな笑顔だ。

「――一生、僕が作ったお味噌汁、飲んでくれない? 毎朝一緒に」
「もちろん良いで――……え?」

 僕は、なぜなのか、笑顔じゃなく、かといって怖くもなく、ごく普通の表情で告げていた。ただし、指輪の箱を手に持って、蓋を開けておくことを忘れなかったのは偉い。味噌汁だけじゃ伝わらないからね。普通男女逆の古めかしいプロポーズだし。

「それってあの――……」

 礼が指輪と僕を何度か交互に見たあと、真っ赤になった。
 伝わっているらしい。

「あ、あの! 十二単って、重いんですか?」
「……そうらしいけど、軽量化に努めるよ」

 重いって言ったら絶対に断られると、僕は確信していた。
 礼はそういう性格なのだ。そこは熟知している。

「ありがたくお受けいたします!」

 すると礼が、泣きそうだけど、でもすごく嬉しそうな、そんな顔で微笑んだ。
 グッときすぎて苦しくなって、思わず歩み寄り、僕は彼女を抱きしめた。

 少しの間抱きしめていると、礼が静かに泣いていることに気がついた。
 涙を拭ってあげてから、僕は左手の薬指に指輪をはめた。

「礼、愛してる。ごめんね、最初の日、好きすぎてさ。押し倒しちゃった」
「……男の人と女の人は考え方が違うって、私は全然知りませんでした!」
「君は何も悪くないんだよ」

 彼女の額にキスをして、僕は更に腕に力を込めた。
 こうやって抱き合うのも、思えば初めてだ。
 華奢すぎて、折れそうだ。けど胸はそれなりに大きいからあたっているという僕の煩悩は収まるべきである。

「結婚を前提に付き合ってくれる?」
「はい」
「僕のこと好き?」
「はい!」
「――いつから?」
「ずっと昔からです! 柾仁さんはいつ私の気持ちに気づいたんですか?」
「墓場まで持っていく秘密だよ」
「あ……え!? じゃあ最初から!?」
「どうかなぁ――これから忙しくなるから、頑張ろうね」
「え、え!? 教えてください!」

 実際には今日だけどね。ま、墓場まで持っていく秘密に変わりはない。
 その後、唇に触れるだけのキスをした。
 そして、王宮に連絡し、速報の手配をしてもらった。
 あとは外堀を埋めるだけであり、それは彼らがプロだから、任せればいい。

「礼、おいで」

 僕はそのまま仮眠室に行き、礼を今までにないくらい優しく抱いた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。 彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。 クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。 悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...