結婚したい男

猫宮乾

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【一】結婚したい男

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 いくつかのスペースコロニーが建設されて、早五百年。
 人口が爆発してしまった地球から少し離れた位置に、二十一世紀で見たならば、超科学と呼ばれる技法で、人間が住まうコロニーが建設された。

 なおその後、地球由来の人類は減少の一途を辿った。結果、宇宙的戦国時代と呼ばれる現在では、地球外から来た人型知的生命体の方が個体数が多くなった。そして人型では無い知的生命体が地球を奪いに来る為、戦っている。主にスペースコロニーから飛行艇や人型兵器で出撃している。

 ここもそんなスペースコロニーの一つ――『ネ』だ。
 コロニーは十二あって、それぞれに、子丑寅~と十二支の名前が割り振られている。正式名称は、第一号コロニーであるが、みんな、『ネ』と呼んでいる。

 スペースコロニー『ネ』の、第三区画。
 旧日本国直轄居住区、『和国ワコク』……首都・東都トウト。第六東京湾に面した島型居住区画の一角で、晴宮周ハルミヤアマネは、珈琲を飲んでいた。

 普段着用している、拡張型現実利用操作装置――眼鏡型の機械は、テーブルの上に置いてある。コンタクトレンズ型が最近の主流だが、周は好んで眼鏡型のコンソールを利用している。視線操作である点は変わらない。

 周は、戦闘用兵器の研究者である。今では数少ない、『地球系』の人間でもある。
 空調で白衣の裾が揺れている。目の前のテーブルには、仮想ディスプレイが並んでいて、午後の日程を映し出している。タッチスクリーンの表面に指で触れながら、周は目を細めた。

 周囲の評価としては、周は、いつも冷静沈着で(時に冷ややかな毒舌を放つ)、天才科学者だとされる。ダークブロンドの髪の色に、同色のくすんだ濃い金色の瞳をしているのだが、それらはちょっと目を惹く。というのも、地球系人類は、他惑星から派生した人類から見ると、容姿が整って見える場合が多いからだ。種族的な美醜概念の違いである。仮にここが、人口爆発中の地球だったならば、平均的な容姿という評価だったに違いない。

 今年で三十二歳。
 最近、周は同じ事ばかり考えている。
 ……――結婚したい。

 もう家に帰って軍から支給された冷たいレトルトのご飯をレンジに放り込む生活は嫌だ。動きが鈍い清掃用ドローンの、融通のきかない掃除の中で、所々にホコリがある生活も嫌だ。何より、一人寂しく眠るのが嫌だ。人肌が恋しいのであって、決してエアコンで暖まりたいわけではないのである。

 料理をはじめとした家事をしてくれて、夜一緒に寝てくれる相手が欲しいのだ。
 最初はハウスキーパーを雇おうかと考えたが、さすがに夜の添い寝はサービス外らしい。しかしいちいち娼館に行くのは面倒くさい。よって専ら、性処理は多忙なここの所、右手だった。しかし――一昨日の任務を機に、漸く仕事は落ち着いてきた。

 周の仕事は、新米パイロットへの、機体操作訓練である。実際に出撃していくパイロット達を、護衛艦の中から見守り、戦闘後に使い方を改めて教えたり、機体側に不備があれば調整する役割だ。第一線の開発からは退いた。特別技能を持つ研究者からの軍属という事で、周の階級は、和国軍の大佐である。

 顔よし、頭よし、仕事よし――……性格(?)。
 折角暇が出来たのだから、この機会こそ逃さずに、結婚したい。
 愛など無くて良い。条件だけ見てくれたら満足だ。自分ほど結婚相手に向いている男はいないだろうと、周は思う。しかしながら……周側の要求が非常に高い。

 そもそも全てをドローンが担うようになったご時世に、専門の職業の人間以外で、家事が出来る女性が少ない。というのも、地球系人類のように、二足歩行で手があるとは限らない為、地球系人類と外惑星由来人類が共同生活を送る上では、ドローンが必須なのだ。

 そして男女平等が叫ばれるこのご時世……ただでさえ、台頭しているのは、男性が家事をしながら家を守り、女性が戦うアマゾネス系人類であるという現状の中では、周がイメージする家庭的な女性を見つけるというのは、その時点でハードルが上がっている。女性は家にいるものだという価値観は、和国内の祖先を日本国に持つ、ごく一部の家庭の宗教のように扱われている。

 何より、外見だ。
 アマゾネス系人類は、人型かつ、地球系人類の女性型に非常に近いから、外見的にクリア出来なくは無い。しかし、地球系人類とは違い、女性でも平均身長は2mはある。身長187cmの周としては、出来れば自分より背が低い女の子が良い。決してロリコンというわけではないが。そしてなるべく、柔らかい女性が良い(胸的な意味で)。しかしアマゾネスの胸は、端的に言えば筋肉だ。猿型人類に近いものがある。

 つまり周は、出来れば、地球系人類の女性が良いという願いを抱いている。しかし地球系人類は、現在減少の一途を辿っていて、ほとんどいない。いた場合も、士官である事が多く、軍属で、バリバリと働いているので、家にいるようなタイプは見た事が無い。アマゾネスの女性優位史観は広がりを見せている。

 別に周は、アマゾネスが嫌いなわけではない。ただ、タイプでは無いだけだ。
 結婚はしたいが、相手が誰でも良いわけではないのである。

 眼鏡型の指令装置を、周は一瞥した。手に取り、レンズを見ながら、視線操作で『結婚』と入力する。すると――『お見合いパーティ』の文字が踊った。これまでの間、周は結婚したいと何度も思っていたが、具体的な行動に出た事は無かった。しかし折角出来たお休みだ。今回こそ、結婚相手を見つける為に、努力したいと周は考えた。


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