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―― 本編 ――
【一】思い出した前世の記憶
しおりを挟む朝は四時に起きる。そして六時まで鍛錬をして、朝食とする。
その後一人きりの伯爵家から王宮へと移動し、朝の謁見時に控えて、国王陛下のお言葉を賜りつつ、近衛騎士に混じって護衛に立つ。その後は昼まで書類仕事をし、午後は平時であれば特務部隊の鍛錬に顔を出した後、また仕事をする。有事の際は、昼夜を問わずに仕事となる。そうして夜中の零時頃帰宅し、入浴して眠る。一日三時間眠ることができたらマシな激務の職場で、肉体労働と頭脳労働が両方襲いかかってくるが、家がなかった幼少時よりはよいと思っている。
元々魔力の強い孤児だった俺は、後継者のいなかった先代のレゼルヴ伯爵に引き取られ、養子として育てられた。その際に、現在名乗っている、クラウドという名ももらった。
魔術のほか、ありとあらゆる対人戦及び魔獣対応のための武力を学び、現在俺は王宮において、騎士団の特務部隊の隊長職にある。現在、二十七歳。仕事一筋で、使命は御年二十三歳の国王陛下をお守りすることだ。
と――、これが俺の現状なのだが、俺は思い出した。
きっかけがあるとするならば、先ほど床で転倒した国王陛下を庇って、シャンパンタワーに頭から突っ込み、珍しく気絶して、今起きたことではないだろうか。額に包帯が巻かれている感覚がする。
何を思い出したかと言えば、ここがゲームの世界だということだ。
俺は前世でもブラック企業の社畜であり、毎日睡眠時間は少なかった。
ゲームのテストプレイをするというのが俺が過労死する直前の記憶で、それはBLゲームであり、俺は死んだ魚のような目をしながら、ひたすらメイン主人公を操作して、攻略対象を陥落させていたのだった気がする。
どんな内容のゲームだったかというと、ある王国に双子の王子がいて、兄である第一王子が、先代国王陛下の急な崩御により即位する。この人物が主人公である。現在俺がお仕えしているニルス陛下と名前も色彩も完全に一致している。
だが王弟である二卵性双生児のユーリ殿下。こちらの方が非常に優秀で何でもできる(という設定だった)。この人物も存在している。だが若い国王陛下を、周囲は支えていたし、王弟殿下も支えていた。支える筆頭は、同じく父を失い若くして宰相になった二十七歳のランド宰相閣下。この人物も存在している。他の攻略対象としては、近衛騎士団長で幼なじみであったヘリスだとか、宮廷魔術師団の天才のエゼネだとか。彼らも皆存在している。
そして俺、クラウド・レゼルヴの役どころであるが、ユーリ殿下を唆して王位簒奪を計画させる悪役である。俺が操った結果ユーリ殿下はニルス陛下を害しようとするが、宰相閣下をはじめとした周囲がそれに気がつき、俺は断罪され処刑される。つまり、死ぬ。
ゲームの中において俺は、常に黒装束で、フードを目深に被っていて、顔は見えなかった。これは現在の特務部隊の正装でもある。
俺は窓を見た。そこには自分の顔が映っていて、やはり頭部には包帯を巻いている。黒い髪に青い目、控えめに言って細マッチョ、といったところの体格で長身だ。
「……」
そして実際に俺は、昨日までユーリ殿下を唆す計画を立てていた。まだ周囲には一言も伝えていなかったのが救いだ。ゲームでは私利私欲として一行で流されていた俺の動機であるが、考えてみるが特に理由は無い。
怖い。
もしこのタイミングで思い出していなかったら、俺は実行して、きっと処刑されていた。
青ざめるなと言う方が無理で、俺は完全に日和った。
なお俺の処刑後のストーリーは、ニルス陛下がここまでに名前を挙げた人々と恋に落ち、好きな相手を攻略できるという物語だった。俺はその部分は比較的好きだった。BLゲームの担当をしていたら、BLに抵抗感は消え、中々男同士の恋愛というのも乙なモノだと俺は思っていたものである。
俺のイチオシは、宰相閣下×国王陛下だったが、会社に届くお便りには様々なCPに対する要望があった。しかし顔も見えず年齢不詳の悪役モブである俺ことクラウドは、よくて嫌い、悪くてみんな興味を持っていなかった。うん。
コンコンと、ノックの音がした。
「失礼する」
その声に顔を向けると、そこには宰相閣下が立っていた。嫌そうな顔をして入ってきた宰相閣下は、それからゆっくりと顔を上げ、そして硬直してぎょっとした顔をした。
「……? 誰だ?」
「……? クラウド・レゼルヴだが……」
なんだろうかと素直に名乗る。もし俺が計画を実行していたら、俺を処刑した相手だが、個人的にはいわゆる推しであったので、麗しい顔だなぁと眺めてしまった。
「!? 顔をさらせない醜男だから常に顔を隠しているという噂は――……?」
「……は?」
俺は困った。そういった話は、特にゲームには出てこなかった。ただ悪名高かったので、しかも寡黙だったので、クラウドというキャラクターが散々な言われようをしていたのは間違いない。
「あっ……ああ……いいや、失礼した。ところで、具合はどうだ? 陛下が心配なさっておられてな」
「平気だ」
「そのようだな。では失礼する」
そのまま踵を返して宰相閣下は出て行った。黒い艶やかな髪が揺れていた。紫色の瞳も非常に綺麗だったが、ゲームにおいて断罪場面以外では絡みがなかった俺とも、リアルな世界になってくるとやはり生まれるのだなと漠然と思う。
◆◇◆
病室からでて暫く歩いた宰相のランドは、角を曲がってからどんどん早足になった。
そして最終的にほぼ小走りで宰相執務室に入り、ガチャリと施錠してからその場に座り込んだ。
「どういうことだ……!?」
脳裏を駆け巡っているのは、先ほど目にしたクラウドの麗しすぎる顔である。
元々ランドは、実を言うとクラウドの事が非常に気になっていた。
王宮で同じ歳の二人、国王陛下の朝の謁見時にのみ顔を合わせるのだが、特に話をしたことはなかった。だが、自分と同じくらい朝早くに王宮へとやってきて、黙々と仕事をし、有事の際には部隊を指揮して魔獣を討伐するクラウドの姿勢に好感を持っていた。
真面目を絵に描いたような人物。
そんな印象だったから、いつかじっくり話をしてみたいと思っていた。
本日は夜会で、クラウドが怪我をした。
それを目撃していて、別に陛下は心配していなかったが、陛下をだしにお見舞いに行ったのが今である。そこで初めて、顔を見た。
「いやいやいやいやいや、ちょっと男前すぎるだろうが!」
気づくとカッとランドの顔が熱くなってきた。
これまでは真面目で好感が持てると思っていただけだが、それが完全に別のモノに変化した。話したことがほぼないというのも変わっていないのだが――……。
「好みすぎる……」
ランドは、いかにもシモが固そうなイメージがあるが、宰相職と麗しい外見も手伝いモテる。タチにもネコにもモテる。だが彼個人の嗜好として、細マッチョの男前に突っ込んで喘がせるのが大好きである。
だが相手は実力派の魔術師であり騎士であり、宮廷内でも一目置かれている存在だ。
本人が喋らないから何を考えているのかはさっぱり分からないが、その時になればなんだってできるほどの権力もあるといえる。だというのにこれまで、特に目立った行動はなかった。そこもランドは好ましいと思っていた。
しかしながら現在――。
「押し倒したい……ッ!」
煩悩に忠実な宰相閣下は、執務机まで歩み寄ると、興奮のあまり手で机をバシバシと叩いた。それくらいクラウドの顔がドストライクだったのである。
「だが迂闊に手を出しても、武力的にも負けるだろうし、おかしな噂をたてられでもしたら、俺が王宮から追放されてしまう。今のまま俺はより権力を得たいのだが」
ランドもまた実力派ではあったが、彼の場合は権力欲も旺盛であるし、知謀策略もお手の物である。ランドの本性を知る周囲は、彼を『(ゲスいな……)』と思っていることも珍しくはない。しかしそれはランドにはなんの問題でも無かった。
「両腕を拘束して、魔力封じをして……ああ、それがいいだろうな……あとはいかにして弱みを握り、なんとかしていいくるめて、どうやって押し倒すかだけだな!」
悪巧みをするとき、ランドの顔は輝きを増す。今、ランドは非常にいい笑顔を浮かべていた。
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