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―― 本編 ――
【十一】ヴァルプルギスの夜会(★)
しおりを挟むその後、週末の間ランド宰相閣下は約束通り休憩は挟んでくれたけれど、俺を寝かせてくれなかった……。美味しかったのは最高だったが、いよいよ帰る段階になった俺は、清浄化魔術で体を清めた後、正装を身につけながら虚ろな目をしてしまう。いくらなんでもヤりすぎだ。ゲームには、宰相閣下は絶倫だといった設定はなかったはずなんだけどな……。
「クラウド、これを」
その時、俺の背後に立った宰相閣下が、俺の首にネックレスを後ろからかけた。巨大な紫色のアメジストが嵌まっている。
「? これは?」
「同伴者には、自分の瞳と同じ首飾りを送るのが礼儀だろうが。俺の家では、代々生まれた時に用意するんだ」
「えっ……俺、そんなのは持ってないぞ……」
「青――サファイアの首飾りは俺がそれとセットの飾りをつけさせて用意し、自分で当日身につけていくから気にするな。ヴァルプルギスの夜会の日に、いかにもお前は忘れそうだから、虫除けもかねて、つけておけずっと」
「虫? 結界魔術が込められているのか? そういう気配はしないけどな」
「魔術でなくても防衛は可能だということだな」
なにか諦めたような宰相閣下の言葉は、いつも通り不可解なので、俺は気にしないことにした。その後玄関の外、門まで送ってもらい、俺は徒歩で帰った。
「隊長……? あの、お相手は一体……?」
週明け。
王宮に行くと、ルインが恐る恐るというように俺に言った。
「なにがだ?」
「なにがって、その……えっと……素敵なネックレスですね! お洒落ですか!? 隊長がアクセサリーに気を遣ってるのはじめて見ちゃいました、魔術がこもってるもの以外をつけてるの!」
ルインの声は明るかったが混乱に満ちていた。俺は謁見の間に行かなければならない時間だったので、軽く首を振る。
「少しな。謁見の間に行ってくる」
こうして俺は謁見の間へと向かった。そして謁見の最中なのだが、ほぼ全員が俺の首元をチラチラと見ていることに気づいた。俺はそれまで宰相閣下からの贈り物の存在を八割くらい忘れていたのだが、みんなが見ている。気まずい。外したら怒られるだろうか? だが、確かに外したら俺は何処かになくすか忘れてしまいそうだ。
幸い、この場では誰も俺に問いかけてこなかった。宰相閣下も素知らぬ顔をしていた。
――以後。
視線は跳んでくるが、誰も俺に聞かなかった。なので結局俺はネックレスについてほぼ忘れて過ごした。その内に、ヴァルプルギスの夜会の日が訪れた。
会場入り口前で、俺は宰相閣下と待ち合わせている。
陛下とユーリ殿下は、先に中に入っているので、二人でその横に立つ形になる。
「待たせたな」
先に到着していた俺に、宰相閣下が声をかけた。すると俺とおそろいのネックレスをしている。俺の目の色によく似たサファイア。この宝石の色だけが、俺達のネックレスの違いだ。
「行くぞ」
「ああ」
特に気に留めず、俺は中へと入った。そして宰相閣下が陛下の右に立ったので、俺は左に立つ。俺の手前にユーリ殿下がいる。が。シンっと、会場が静まりかえった。ぎょっとしたようにニルス殿下とユーリ殿下が振り返っている。
「……宰相閣下? 説明を」
ニルス殿下が引きつった顔で笑っている。
「会場の説明は既に今朝終えたと思いますが?」
宰相閣下は無表情。何処吹く風だ。その時ユーリ殿下と俺は、ローブのフード越しに目があった気がした。
「クラウド隊長」
「はい」
「その……宰相閣下と……知らなかった」
「はい?」
なんの話だろうかと首を傾げると、ニルス殿下がパンっと手を叩いて明るい表情に変わった。若干冷や汗をかいている様子でもあるが。
「まさか宰相閣下とクラウド隊長が同伴して――つまり恋人同士だなんて! 式が楽しみだね!」
式?
恋人?
同伴するだけで、そこまで決まるのだろうか? 俺はそんなことは知らない。え? そうなのか? どうすれば? 焦って俺は、宰相閣下を見た。
「まだ式の日取りなどは未定です。恋人――だと俺は思っておりますが、クラウドの気持ちが見えにくくて悩ましい。あまり急かさず、見守って頂きたい」
にっこりと、宰相閣下が笑った。誰もが見惚れるような優しい笑みだ。俺には向かない部類の顔――まぁ、作り笑いなのだろう。俺も作ってもらっても全然いいんだけどな。
「ごめんね、そうだね。見守るよ。クラウド隊長、宰相閣下もまたゲス――……気難しいところがあるけれど、嫌いにならないであげて。ね?」
「……はい」
国王陛下の命令は絶対なので、俺は頷いておいた。
こうしてその後招待客達がぞくぞくと集まり始め、本格的にヴァルプルギスの夜会が始まった。ずらりとニルス陛下とユーリ殿下の前に、挨拶客の列が出来る。だがみんな、俺と宰相閣下のネックレスを見ている。
「あ」
だが――ただ一人、真っ直ぐにニルス陛下を見ている招待客……コーレル男爵の姿を見つけて、思わず俺は声を出した。ゲームで俺が洗脳した相手である。そしてゲームだと手には、媚薬入りの酒を持っているのだが……なんだと……こちらも手にグラスとワインを持ってるぞ……?
あのグラスに媚薬が塗られているのだ。ワインの中身にはない。だからワインを調べても何も出なかったと言うことで(グラスはその場で割れる設定)、犯人不明とこの段階ではゲーム上では語られる事件だ。
え? 俺は洗脳していないぞ? まさか、ただの、酒だよな?
いや……でも……万が一媚薬が入っていたら? それは――護衛として、俺はストップしなければならないだろう。俺に疑いがかかるかも知れないが、それとは別に仕事だ。
「ニルス陛下、今年も素敵なワインをお持ちしました」
コーレル男爵の番が来た。ニルス殿下は笑顔だ。
コーレル男爵が酒を注ぎ始めた。まずい。飲酒可能年齢になってから毎年の儀式のようなものだから疑う人は誰もいない。
「どうぞ」
コーレル男爵がワイングラスを差し出した。どうする……? と、思った時には、俺は反射的に、代わりにグラスを奪っていた。
「?」
ニルス殿下が首を傾げている。コーレル男爵が虚を突かれた顔をした。
周囲はみんな不思議そうだ。
え……この後どうしよう……な? 俺はワイングラスとコーレル男爵を交互に見る。
「な、なんですかいきなり! 別に媚薬なんて入ってな――」
するとコーレル男爵が墓穴を掘ってくれた。非常に小声だったため他の人には聞き取れていない様子だったが、俺のローブの録音機能でばっちり記憶できた。ありがとう!
コーレル男爵は慌てて口を押さえているが、証拠は得た。
「クラウド? お前も飲みたかったと言うことか?」
すると宰相閣下から見当違いの声が届いた。そこで俺は、周囲はまだ事態に気づいていないのだったとハッとして、顔を向ける。
「……、……そ、そうだ。その……」
なにかいいごまかし方はないか。ないか? ないのか!?
「宰相閣下と同伴した記念に飲みたかったんだ!」
俺はよく分からない言い訳を放ち、それからワイングラスの中身を一気に煽る。考えた中で一番勢いで誤魔化せそうなセリフがそれだったのである。それよりも早く中に本当に媚薬が入っているか、確かめなければならない。どうせ媚薬だったとしても、俺の体は無効化の訓練をしているし大丈夫なはず!
「ふ」
一気に飲み干した直後――カッと全身が熱くなった。
予想外だった。
「あ」
俺は唇を震わせる。それから慌てて手で押さえた。熱い。体が熱い。まずい。なんだこれ。こんな強度の、俺の訓練すらすり抜ける媚薬が存在するのか!? ゲーム上最強の媚薬だからなのか!?
「っ……ルイン」
俺はとりあえず男爵を拘束すると決める。
「はい、隊長!」
「ローブの機能で音声を拾っていたな?」
「はい。俺も録音しました」
「コーレル男爵をお連れしろ。グラスに残滓がある」
「わかりました。隊長は? 大丈夫ですか?」
「……ああ」
ゾクゾクと背筋を快楽が駆け上がっていて、俺は身震いしたが、正装なので誰にも気づかれていないのをいいことに、頷いた。まだ何があるか分からないから、夜会が終わるまでは耐え抜いて、護衛を続けたい。
ルインが男爵を連れていったので、招待客達は首を傾げつつ、だが場の空気はすぐに戻った。どんどん熱くなる体で、俺はひたすらに耐えて目を光らせた。
そして夜会が終了し、俺は立っているのが限界になってしまった。
出したい。それに――欲しい。思いっきりぶち込まれたい……。
「帰るか。先ほどの騒動についても改めて聞かせてもらう」
宰相閣下が俺の隣に立った。そして歩き出した。入り口までその後ろを必死についていった俺は、思わず人気がなくなったところで、宰相閣下の背中の服を掴んだ。
「クラウド?」
「――い。シた……い」
「なに?」
「ランド……俺っ……ぁ……」
「クラウド!」
しゃがみ込みそうになった俺を、宰相閣下が抱きとめた。それが逆効果だった。全身に熱が走る。
「熱い、ああ、っ――熱い、やっ、うあ……ッ、ランド、抱いてくれっ」
「なにがあった?」
「媚薬を飲んで、ぁ……」
宰相閣下の服をギュッと俺は掴んだ。すると宰相閣下が俺のフードを外した。
俺が涙の滲む目を向けると、宰相閣下が息を呑む。
「事情は後で必ず聞かせてもらう。いいだろう、処理を仕事として部下に頼むのではなく、俺を頼ったクラウドも俺を嫌がっていないと判断する」
「ン、ぁ……」
その後のことを俺は良く覚えていない。
気づくと、夜会が行われた階にあった客間のベッドの上――即ち今、俺はベッドの上にいた。自分から宰相閣下に乗って、思いっきり動いている状態で我に返った。すると宰相閣下と目があった。
「ん、ぁ……ッ、は……」
「クラウド、俺が分かるようになったか?」
「う、ん……ン……あ……でもまだ熱……ッ、もっとしてくれ」
硬く熱いものが、俺を奥深くまで貫いている。俺は体を動かすのを止められない。
そしてまた俺の意識は飛んだ。
その後意識が戻ってはまた飛ぶの繰り返しで、俺はこの夜のことを、断片的にしか覚えていない。
すると――朝、にしては日が高くなっていた。
俺が目を覚ますと、俺の横で苛立たしそうな顔をしていた宰相閣下が俺を見た。
「誰に盛られた?」
「違うんだ。男爵のワイングラスに塗られていると判断して、その確認のために飲んだんだ。あんなに強いとは思わなかった」
「不愉快だ。お前を発情させていいのは俺だけだ。きちんとコーレル男爵にはわからせておく」
「動機なんかは今頃ルイン達が調べているはずだ」
ゲームだと、ルインはその報告を何故か宰相閣下に報告するのだが、今回はどうなるのだろうか。しかしニルス陛下が無事でよかった。だけど……俺は洗脳していないのに、何故? ゲームの世界だからなのか? だとすれば、今後も事件は続いていくの、か……?
俺が俯いたとき、ギュッと宰相閣下が俺を抱き寄せた。
「俺がそばにいる。俺がきちんと支える。だから、そんな顔をするな。俺の前では笑っていろと言ったはずだ」
その手の温もりは優しく、髪を撫でられた俺は、思わず宰相閣下を見る。すると優しく俺を見て笑っていた。作り笑いとも異なる。ドクンっと、俺の胸が啼いた。次第にバクンバクンと鼓動の音がうるさくなる。なんだこれ。
「クラウド、もう少し休め」
「あ、ああ……」
頷いた俺に、宰相閣下がシーツをかけ直してくれた。俺は急に胸が煩くなった事態に、え、嘘だろ、コレって、恋とかそういう……と震撼した後、再び微睡んだ。
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ありがとうございます!!!!