166 / 222
第165話 指名依頼 ①
しおりを挟むセコンド大陸中央部 エストール大神殿――――
朝日でうっすらと明るくなった礼拝堂に、巫女が女神像の前で祈りを捧げていた。
冬の寒さに負けじと、体を水で清め、巫女服に着替えてからの日課である祈り。
最初は辛かったが、今では慣れて来ているのか、淀みなく流れる様に準備が出来ていた。
また、辛くも無くなっていた。寧ろ祈る事で心が穏やかささえ感じる様になっていた。
巫女が祈りを終えると、そのタイミングを見計らったかの様に、一人の人物が巫女の前に歩んで来た。
「巫女殿、精が出るわね。」
サーシャである、ハイエルフのサーシャは女神教会にとっての、良き隣人である。
その事を知ってか知らずか、巫女の側仕えは突然の来訪を快く思ってはいなかった。
だが、当の本人もまた、試されているという事を理解していなかったのだが。
そんな側仕えとは裏腹に、巫女とサーシャは落ち着いた様子で言葉を交わす。
「まあ、サーシャ様。いつこちらへ?」
「たった今よ、それより良い報告を持って来たわ。聞く?」
サーシャはもったいぶって言葉を掛け、巫女はワクワクしつつも冷静に聞く姿勢を執る。
「聞かせて下さいサーシャ様、それで、どうでしたか?」
「うーん、結論から言って、二人の勇者候補が居たわ、で、直接会ってきたの。」
「まあ、流石サーシャ様ですね。」
「ふふ、まあね、でね、一人は只の筋肉野郎だったわ。聖剣を持ち上げたけどね。」
「え!? 持ち上がったのですか? でしたらその方こそ勇者なのでは?」
この言葉を聞いたサーシャは、首を左右に振り、手の平を上へ向け断言する。
「いえ、あれは違うわ。間違いなく違う。と、思いたい。筋肉で持ち上がったみたいなものだし。」
「え?! 聖剣は力持ちの方でも持ち上がるのですか?」
「んな訳ないでしょ! きっと何かの間違いよ! それよりも、もう一人の方よ。」
「もう一人の方ですか、どうなりましたか?」
「うーん、そいつもはっきり言って勇者じゃなかったわ。一応聖剣を持ち上げたけどね。」
「え!? 持ち上げたのですか? でしたら………。」
巫女は今度こそ目をキラキラさせながら、期待の籠った思いで尋ねた。
「その方は、聖剣を持ち上げたのですよね? では、勇者では?」
「うーん、その事なんだけどね、ハッキリ言って勇者じゃなかったわ。私の鑑定眼でこっそり鑑定したから、でもね、その男、面白い男なのよ。」
「面白い殿方ですか?」
「そう、職業は忍者。まあ、それはさして珍しくないんだけどね、ファーイースト国に多く居るから。それよりもクラスよクラス。なんと超忍だったのよ!」
「ちょうにん? 何ですか? それは。」
巫女は興味深々といった様子で、サーシャに話を促した。
「まあ聞きなさい、巫女殿。私も長い事生きてるけど、超忍なんて見た事も聞いた事もないわ。普通忍者ってのは上級職でもマスター忍者までよ。それを更に超えるクラスなんて、面白いと思わない?」
「は、はい。そうでしょうね。私には解りませんが、聞いた事も無いクラスというのはそれ程凄いのですか?」
巫女はクラスについてそこまで詳しくなかったが、当のサーシャは興奮していた。
「凄いなんてもんじゃないわよ! 今まで見た事も無いクラスよ! 世の中はまだまだ未知に溢れているって事でしょ? 私もまだまだ知りたい事が増えたわ!」
「そ、それはなによりですね、サーシャ様。」
巫女は少し引いたが、サーシャが珍しく興奮しているので、きっと相当な殿方なのだろうなと思う巫女であった。
「しかもその男、義勇軍なのよね。そして、実力を隠している節があるのよ。ね! 面白そうでしょ?」
「そ、そうですね。勇者候補では無かったのは残念ですが、そういう殿方が居るというのは心強いですね。」
巫女は冷静に対処し、サーシャは興奮気味に話し、側仕えは興味無さげに聞いていた。
しかし、巫女は肩を落とした。勇者を見つけたと思っていたのだが、そうでは無かったので落胆した。
「中々居ませんね、勇者に相応しい殿方は。」
「焦っちゃ駄目よ、巫女殿。世の中は広いわ。必ず居る筈よ。勇者は。」
「そうですね、引き続き探したいと思います。」
巫女がそう言って、自分の部屋へ戻ろうとしたところ、サーシャが不意にこう言った。
「巫女殿、もしかしてかもしれないけど、あの殿方。巫女と同じ女神の使徒かも………。」
サーシャは自信が無かったので、その言葉は小声だった。
その言葉を聞き逃したのか、巫女は礼拝堂を後にした。
「まあ、その内解るわ。ジャズ、早く来なさい。いいわね。」
礼拝堂には、誰も居なくなってしまい、静かに、厳かに女神像が佇んでいた。
クラッチの町――――
俺は噴水広場で食後の休憩をしていた、満腹感が心地よい。
広場には他に何人かの人が寛いでいる。そんな中に、一人のローブを身に纏った人物が居た。
「うん? 黒ローブではなさそうだが、はて? あんなのこの町に居たっけな?」
それとなく見ていると、その白いローブを身に纏ってフードを目深に被った人は、おもむろに立ち上がり、こちらへと歩いて来た。
「な、なんだ?」
そして、俺に声を掛けてきた。
「あの、もし、貴方はアリシアの英雄殿ではありませんか?」
ふーむ、声からすると女性だが、さて、アリシアの英雄か………。
「人違いでは?」
すっとぼけてみたが、目の前の女性はフードを外し、その素顔を露わにした。
びっくりした。物凄い美少女だ、エルフの美少女だった。
「なぜ? とぼけるのですか? アリシアの英雄殿。」
「い、いえ、ただ何となく。」
ふーむ、それにしても、サーシャといいこの美少女エルフといい、何で俺がアリシアの英雄だと見抜くんだ? 何が何やらさっぱりだぞ。
「なぜ俺の事をアリシアの英雄だと?」
「貴方のその白銀に輝くオーラですわ。それで、もしかして英雄殿なのではと思いまして。」
「なるほど、オーラですか。」
流石にオーラまでは消せない。やり方が解らん。
「それで、俺に何用ですかな? エルフのお嬢さん。」
俺が尋ねると、エルフの美少女はコホンと咳払いを一つ、そして、畏まった様子で語り始めた。
「私はユーシア。御覧の通りエルフです。アリシアの英雄殿、貴方に依頼をしたいのです。」
「依頼ですか? 一応自分は冒険者ですので、お話はギルドを通して貰えますか。」
俺が言うと、ユーシアは困った様な表情をして、更に言葉を続けた。
「いえ、冒険者ギルドへは依頼を頼めないのです。それに、これはアリシアの英雄殿への個人的な依頼ですので。」
ふーむ、個人依頼という事か。しかし、わざわざアリシアの英雄に依頼とは、よっぽどの難しい依頼の予感がするな。
やれやれ、中々ゆっくり出来んな。何時になったらスローライフを送れるのやら。
「解りました、お話だけでも聞いてみます。但し、依頼を受けるかどうかはこちらで判断致します。よろしいかな?」
「はい、それで構いません。では、改めて依頼内容を伝えます。」
ユーシアは期待の籠った眼差しでこちらを見つめ、両手を胸の前で組み、まるで祈る様に語った。
「アリシアの英雄殿、貴方に依頼したい事は、私の母の形見である、魔法の杖、ウィザードロッドを取り返して欲しいのです。」
「魔法の杖? 母の形見とは随分と重い内容ですな。それで、誰にウィザードロッドを奪われたのですかな?」
「はい、それは、オークです。モンスターのオークの軍勢に奪われたのです。」
オークの軍勢? そりゃまた、穏やかじゃないな。
「何処で奪われたのですか?」
俺が訊くと、ユーシアは暗い表情をして、東側の方向を指差し、こう言った。
「バルビロン要塞………です。」
20
あなたにおすすめの小説
おじさんが異世界転移してしまった。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる