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第178話 ある三人の傭兵 ②
しおりを挟む四種族連合軍 仮設基地――――
リース達は賢者ルカインのテントを訪ねていた。
テントの中は薄暗く、しかし至る所に本や何かの薬瓶などが散乱していた。
中央にテーブルと椅子、飲みかけのコップが置いてあり、賢者ルカインは水を飲みながら待っていた。
「ようこそ我がテントへ、歓迎するぞ。アゲイン公国の騎士団とリース公子。」
リースはギョッとする。
「我々が来る事を知っていたのですか?」
しかし賢者はゆっくりとした所作で手招きをし、相手を迎え入れる。
「うむ、予想はしておったが、師匠からの文が届いておったでな。」
賢者は懐から一通の手紙を取り出し、リースに見せる。
「ならば話は早い、賢者ルカイン殿、是非我等にお力添えを………。」
リースが言い終わる前に、賢者は手でそれを制し、話の腰を折る。
「みなまで言わんでも解っておる。ここへ来た理由も、儂を尋ねに来た事も含めてな。」
「では、今ミニッツ大陸のアテナ王国がどうなっているのかもご存じなのですね。」
「うむ、解っておる。ワーズ帝国の専横をなんとかしたいのじゃろう?」
「仰る通りです、ですので………。」
しかし、またしても賢者はリースの言葉を遮る。
「残念じゃが、お前さん達に力を貸す訳にはいかん。」
「な、何故ですか?」
リースは困惑し、賢者は髭をしごきつつ瞳を閉じる。
「このままでは、ワーズ帝国がアテナを………。」
「解っておる、じゃがなリース殿、儂は今ここを動くつもりはないぞい。」
「しかし、このままでは………。」
「焦る気持ちは解らんでもない、じゃが、儂はアリシアの先代の王とは旧知の中でな、このバルビロン要塞をこのままにはしておけんのじゃ。要塞を奪還し、モンスターの脅威を取り除かんとな。」
「確かに、儀によって助太刀する意味はあるかと思いますが、しかし、我々だって急いでいるのです。」
リースは食い下がり、何としても賢者ルカインを仲間にしたかった。
だが、賢者はここを動くつもりはないと言った。これではリース達がここへ来たのは、時間の無駄だったと言わざるを得ない。
リースは今一度、賢者に頭を下げる。
「お願いします賢者殿、我等に力添えを。」
しかし、ルカインは首を縦に振らなかった。
「残念じゃが、気持ちは変わらん。リース殿の考えや、その行いは立派じゃが、儂にもここを動けぬ理由があるのじゃ。」
リースは考え、そして如何にして賢者ルカインを仲間に出来るか考えた。そして。
「賢者殿は、このバルビロン要塞を四種族連合軍が奪還するまで、動かないという事ですね?」
「うむ、すまんのう。」
ここで、リースは決意する。後ろを振り返り、ここまで付いて来たゴートやクリスの顔を見やり、そして、頷く。
騎士ゴートと騎士クリスは、そのリースの気持ちを察する。
「いけませんリース様、貴方は大事な身の方。ここで無茶をする訳にはいきませんぞ。」
「父上の言う通りですリース様、お考え直し下さい。」
「いや、ここまで来たのならば、もう後戻りは出来ない。」
リースは今一度、賢者ルカインを見つめ、こう切り出した。
「ならば賢者殿、我等アゲイン騎士団は、四種族連合軍に参加し、バルビロン要塞を奪還するまでここに駐留致します。」
「ほう、そなた達も参戦するのかの? だったら是非も無い。協力、感謝するぞい。」
「はい、そして、要塞奪還が成った暁には。」
「うむ、その時は儂はリース殿達の力になってもよかろう。」
「ありがとうございます、賢者殿。では、我等は準備を整えつつ、この基地の指揮官に挨拶をしに行って参ります。」
リースの意思は固いようだ、騎士ゴートも騎士クリスも、リースを守り抜くと誓ったので、共に戦場へ行く事を認めた。
「ここの指揮官は小者じゃ、気分を害されぬようにな。リース殿。」
「そうでしたか、解りました。では賢者殿、我等はこれで失礼します。」
リース達は、賢者に頭を下げ、テントを後にした。
こうして、リース達アゲイン騎士団もまた、要塞戦に参加する事となった。
仮設基地 指揮官用テント――――
マトック達三人の傭兵は、指揮官ザーリアスに呼び出され、指揮官用テントまで移動をしていた。
「あーあ、やんなるぜ。なんでまた指揮官に呼び出されなきゃならねえんだ?」
「マトック、聞こえますよ。声を下げてください。」
「いいじゃない、聞かれたってどうせまたお小言言われて終わり、いつもの事でしょ。」
「そうそう、ケイトの言う通りさ。どうせろくでもない事だろうよ。呼び出しってこたぁさ。」
三人はぞろぞろと歩きながら会話をし、しかしテントに近づいたところで声を小さくする。
三人を代表して、マトックが声を出す。
「傭兵ギルドの三名、お呼び出しにより参上しました。」
「入れ。」
入幕の許可が下りたので、三人はテントの中へ足を踏み入れた。
テントの中は散乱としていた。物があちこちに置かれて、雑多なイメージしかない。
「指揮官殿、我等をお呼びとか、何か用ですか?」
マトックが指揮官のザーリアスに声を掛けると、ザーリアスは振り向き、その目を鋭く見開く。
「フンッ、貴様等か? 宝物庫まで辿り着いた傭兵というのは?」
「いえ、辿り着いてはいません。その手前で撤退しましたから。」
「なんでもいい! そこまで進軍しておきながら、何をやっておるのだ! この無能め!」
ザーリアスは怒鳴り散らし、三人を叱責した。だが、そもそも要塞内部への無茶な作戦を指揮したのは、ザーリアスだった。
四種族連合軍において、指揮官ザーリアスはあまり評判が良くなかった。
前任のバルク将軍が指揮を執っていたころは、軍の消耗率が最小限に収まっていたが、ザーリアスが指揮官になってからは、軍の消耗率が高く、次々と突撃作戦しか指揮しなかった無能指揮官だった。
「ふむ、そうだな。例えばだ、例えばの話をしよう。お前等が宝物庫まで進軍し、その途中モンスターによって進軍を阻害された場合、エルフやドワーフ、獣人を盾に使いつつ財宝を手にできそうならば、それは可能か?」
マトックは信じられないといった様子で答える。
「味方を盾にするのですか?」
それを聞き、イズナは横を向き、ぼそりと呟く。
それを聞き逃さなかったザーリアスは、イズナの方を向き、目をギョロリと剥く。
「おい女、何か言ったか?」
「いえ、別に。四種族連合軍が聞いて呆れると言っただけです。」
「フンッ、傭兵風情が! 図に乗るなよ! 作戦に口を挟むな!」
「………。」
イズナもケイトも、そしてマトックも、今のザーリアスの発言には頭に来ていた。
が、ここで三人はグッと堪え、話を聞く。
「その作戦には賛同しかねますが、宝物庫まで辿り着いた場合は、ちゃんと仕事をしますよ。」
「当たり前だ! そもそも、これはアリシアの問題なのだ! ユニコーン軍はその尻拭いをしているだけだ! 財宝という旨味が無ければ誰がこんな僻地へ来るものかよ!!」
ザーリアスは、バルビロン要塞内部に蓄えられている財宝を頂く為、この奪還作戦に志願したのだった。
傭兵達もまた、お宝を頂戴する為に参戦していたが、分はわきまえている。
全ての財を頂くつもりは無かったのだが、ザーリアスは違った。
アリシア王国の財宝を、根こそぎ奪いたいのだった。
しかし、長きに渡る作戦の失敗により、本国からの再三の撤退命令を無視し、ここに居座っているのだった。
「兎に角明日! もう一度突撃を掛ける! いいな! 今度こそ上手くやれよ! お前等傭兵が何人死のうと目的を果たせばそれで良いのだ! 解ったな!」
この言には、流石に三人共怒り心頭だった。
「解りました! しかし、どう動くかは俺達に任せて貰う!」
マトックがそう言い放ち、三人はテントを足早に出て行く。
そして、指揮官用テントから離れた所で、憤慨するように声を荒げた。
「何なんだ! あいつは!」
「どちらが無能でしょうね。」
「まったく! 頭にきちゃうわね!」
三人は大声を出して、その溜飲を下げた後、改めて今後どうするか検討するのだった。
「どうすっかな~。」
「まさか、ザーリアスの作戦をそのまま行うのですか?」
「んな事する訳ねえだろ。仲間を盾にするなんざ、御免だね。」
「じゃあどうするの?」
「うーん、どうすっかなー。」
作戦開始は明日の朝、それまでに答えを巡らす三人の傭兵であった。
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