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12(完結)
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オーバーシアーの艦長室から漆黒の宇宙を見つめている。
既知宇宙の境界線。その向こうに未踏の深淵が広がっている。これから50年の歳月をかけて、その闇の中に潜り込んでいくことになる。もう後戻りはできない。
俺が答えを出してから、全ては急速に動き出した。
地球軍上層部は驚くほど迅速に対応した。彼らにとって、これは単なる一将校の私事ではなかった。人類の活動領域を大きく広げる可能性がある、歴史的な一大事だった。暗黒域探査への参加権が手に入り、深宇宙進出の足掛かりを得られる。その政治的価値は計り知れない。
通常なら数年はかかるはずの手続きが、わずか数週間で完了した。異例の速さで書類が処理され、委員会が設置され、前例のない数々の特例措置が次々と承認されていった。俺の法的身柄は甲虫族帝国に移管することになったが、地球軍の軍籍は残したまま、「連邦異種間協力特使」という形だけの肩書きを与えられた。
ステーション巡回チームは解散、俺の部下たちは新たな任務のため地球圏へ帰還することになる。別れの集いで、マルティネスは涙を堪えながら敬礼してくれた。
パトリックとの別れが一番辛かった。「正直、驚いた」と彼は言った。
「だが、お前の目を見れば分かる。本気なんだな」
彼は黙って俺を強く抱きしめ、ただ「気をつけろ」と静かに囁いた。彼らは俺の選択を、そして新しい人生を、心から祝福してくれた。
無意識に腹に手が触れる。
中にはもう、ヴェクスの卵がある。
女王の特別な勅許を得て行われた産卵。あの夜のことを思い出し、頬が熱くなる。俺はヴェクスのものとなった。心だけでなく、法と、生命の結びつきの中で。
なんという皮肉だろう。これまで異種族からの性的な関心に苦しめられ続けてきた俺が、自らの意思で異種族のものとなることを選んだ。
しかし不思議と後悔はない。
むしろ、この選択に至れたことを誇りに思う。彼は最初から俺を一個の知的存在として扱い、尊重してくれた。そんな甲虫族に出会えたからこそ、この決断ができた。
振り返れば、全ては必然だったのかもしれない。ゼクスカとの衝突、ヴェクスとの出会い、そして暗黒域から迫る脅威。全てが俺をこの決断に導いた。
地球を、人類を、過去を置いていく。だがそれはただの喪失ではない。新しいものを得るために、古きを手放すのだ。
それに、科学者たちの予測が正しければ、卵との共生で体も変わる。宿主になることによる生命活動の変化について、医療班から長々とした説明を受けた。甲虫族の卵が分泌する物質が人間の細胞に働きかけ、遺伝子レベルでの変化を引き起こすだろうと。老化が抑制され、寿命が大幅に伸びる可能性があるらしい。
『不安か?』
後ろからヴェクスの声がする。彼の巨体が近づいてくる気配を感じる。
「いいや。だってお前がいる」
答えながら、自分でも驚くほど本心からそう感じていた。
『我々は歴史を作ることになる。人類初の暗黒域進入。そして私の種族で初めて、ただの繁殖の手段ではない、真の意味でのパートナーを得た個体となる』
「重圧だな」
『共に受け止めよう』
彼のキチン質の胸甲が背中に触れ、副腕が優しく肩に回る 暗黒域に向かって艦首を向けた巨大な艦の中で、俺たちはしばし無言で寄り添っていた。巨大なビューポートの外では、準備を終えた艦隊が次々と航行態勢に入っていく。暗黒域探査艦隊の全戦力だ。
二人で窓の外を見つめる。
これから長い旅が始まる。その先には何が待ち受けているのか。
最近の観測データが示すのは、暗黒域に潜むものの目覚め。単なる敵性勢力ではない。我々の理解をはるかに超えた、古の超知性だという。連邦評議会の科学顧問団は、それを「旧き者」というコードで呼んでいる。
従来なら軍事力での制圧を試みただろう。それが連邦のやり方だった。だが今、ここにいるのはヴェクスと俺だ。俺たち自身が、異なる種の結びつきを体現している。甲虫族の戦士と人間の軍人。一見すれば相容れない二つの存在が、暴力以外の道を見出した。
俺たちなら、暗黒の向こうにある「何か」と、別の道を探れるかもしれない。
戦争以外の……対話の選択肢を。
オーバーシアーのエンジンが轟き始め、巨大な艦がゆっくりとドックを離れていく。
もはや恐れはなかった。
そうだ。これは俺が選び取った道なのだ。
人類が異種族からセクハラを受けまくっているSF未来世界で人間男性軍人(42歳)が虫系種族に産みつけファックされる話
(了)
既知宇宙の境界線。その向こうに未踏の深淵が広がっている。これから50年の歳月をかけて、その闇の中に潜り込んでいくことになる。もう後戻りはできない。
俺が答えを出してから、全ては急速に動き出した。
地球軍上層部は驚くほど迅速に対応した。彼らにとって、これは単なる一将校の私事ではなかった。人類の活動領域を大きく広げる可能性がある、歴史的な一大事だった。暗黒域探査への参加権が手に入り、深宇宙進出の足掛かりを得られる。その政治的価値は計り知れない。
通常なら数年はかかるはずの手続きが、わずか数週間で完了した。異例の速さで書類が処理され、委員会が設置され、前例のない数々の特例措置が次々と承認されていった。俺の法的身柄は甲虫族帝国に移管することになったが、地球軍の軍籍は残したまま、「連邦異種間協力特使」という形だけの肩書きを与えられた。
ステーション巡回チームは解散、俺の部下たちは新たな任務のため地球圏へ帰還することになる。別れの集いで、マルティネスは涙を堪えながら敬礼してくれた。
パトリックとの別れが一番辛かった。「正直、驚いた」と彼は言った。
「だが、お前の目を見れば分かる。本気なんだな」
彼は黙って俺を強く抱きしめ、ただ「気をつけろ」と静かに囁いた。彼らは俺の選択を、そして新しい人生を、心から祝福してくれた。
無意識に腹に手が触れる。
中にはもう、ヴェクスの卵がある。
女王の特別な勅許を得て行われた産卵。あの夜のことを思い出し、頬が熱くなる。俺はヴェクスのものとなった。心だけでなく、法と、生命の結びつきの中で。
なんという皮肉だろう。これまで異種族からの性的な関心に苦しめられ続けてきた俺が、自らの意思で異種族のものとなることを選んだ。
しかし不思議と後悔はない。
むしろ、この選択に至れたことを誇りに思う。彼は最初から俺を一個の知的存在として扱い、尊重してくれた。そんな甲虫族に出会えたからこそ、この決断ができた。
振り返れば、全ては必然だったのかもしれない。ゼクスカとの衝突、ヴェクスとの出会い、そして暗黒域から迫る脅威。全てが俺をこの決断に導いた。
地球を、人類を、過去を置いていく。だがそれはただの喪失ではない。新しいものを得るために、古きを手放すのだ。
それに、科学者たちの予測が正しければ、卵との共生で体も変わる。宿主になることによる生命活動の変化について、医療班から長々とした説明を受けた。甲虫族の卵が分泌する物質が人間の細胞に働きかけ、遺伝子レベルでの変化を引き起こすだろうと。老化が抑制され、寿命が大幅に伸びる可能性があるらしい。
『不安か?』
後ろからヴェクスの声がする。彼の巨体が近づいてくる気配を感じる。
「いいや。だってお前がいる」
答えながら、自分でも驚くほど本心からそう感じていた。
『我々は歴史を作ることになる。人類初の暗黒域進入。そして私の種族で初めて、ただの繁殖の手段ではない、真の意味でのパートナーを得た個体となる』
「重圧だな」
『共に受け止めよう』
彼のキチン質の胸甲が背中に触れ、副腕が優しく肩に回る 暗黒域に向かって艦首を向けた巨大な艦の中で、俺たちはしばし無言で寄り添っていた。巨大なビューポートの外では、準備を終えた艦隊が次々と航行態勢に入っていく。暗黒域探査艦隊の全戦力だ。
二人で窓の外を見つめる。
これから長い旅が始まる。その先には何が待ち受けているのか。
最近の観測データが示すのは、暗黒域に潜むものの目覚め。単なる敵性勢力ではない。我々の理解をはるかに超えた、古の超知性だという。連邦評議会の科学顧問団は、それを「旧き者」というコードで呼んでいる。
従来なら軍事力での制圧を試みただろう。それが連邦のやり方だった。だが今、ここにいるのはヴェクスと俺だ。俺たち自身が、異なる種の結びつきを体現している。甲虫族の戦士と人間の軍人。一見すれば相容れない二つの存在が、暴力以外の道を見出した。
俺たちなら、暗黒の向こうにある「何か」と、別の道を探れるかもしれない。
戦争以外の……対話の選択肢を。
オーバーシアーのエンジンが轟き始め、巨大な艦がゆっくりとドックを離れていく。
もはや恐れはなかった。
そうだ。これは俺が選び取った道なのだ。
人類が異種族からセクハラを受けまくっているSF未来世界で人間男性軍人(42歳)が虫系種族に産みつけファックされる話
(了)
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