軍用義体を取り上げられてセクサロイドに脳殻移植されたTS重サイボーグ傭兵(元40代おっさん)が少年の性癖をバキバキに折る話 代表作

ぱふぇ

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ACT 2:ORIGIN

[2] ムコを狙う追手の襲来。逃走劇の果てに、ブラッドはムコの本当の力を目撃する。[執着/凌辱未遂]

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 ムコが一体何者なのか――マジで理解したのは、ブッチャーが乗り込んできたあの夜だった。

 スクラップヤードから引きずり出して数週間、俺はムコが戦うのを何度か見てた。って言っても大したもんじゃない、下層地区で暮らしてりゃ誰でも遭遇するクソみたいなトラブルだ。
 路地で絡んできたチンピラとか、店で調子に乗った迷惑客とか。毎回ムコは数秒で片をつけた。関節技をキメて、神経系に一撃ブチ込んで、あるいは掌底一発でそいつを地面に沈めた。

 ああ、確かに何かの片鱗は見えてた。ムコが秘めてるヤバいもんのさ。
 でも今思えば、あれはただの反射だ。同じ動きを何千回もやってるから、考えなくても体が動く類の。
 本当のムコに何ができるのか、俺は全く分かってなかった。

 ムコの軍用グレードの脳殻には戦闘ファームウェアが入ってる――それは診断で確認した。軍用サイボーグに標準搭載されてるフルパッケージが全部そこにあって、ムコの神経回路の奥深くでとぐろ巻いてる。冬眠中の捕食者みたいに。
 でも脳殻移植時のデータ破損のせいで、俺の技術じゃ解読できないぶっ壊れたコードの壁の向こうに閉じ込められてた。ムコは意識的にアクセスできない。
 引き金が溶接されて固まった、装填済みの銃を持ち歩いてるようなもんだった。

 ……ブッチャーが訪ねてくるまではな。



 あの夜のことだ。
 聞いたことのない警報が工房に鳴り響いた。
 爺ちゃんが何十年も前に設置した骨董品のセキュリティシステムが、突然マジメに仕事をした。外周センサーが侵入者を検知してから正面玄関がドアごと吹っ飛ぶまで、稼げた時間は90秒ってところだった。

 その時は何が起きてるのか全然わかんなかったが、ハッキリしてることはあった――誰かがこんな時間に軍用グレードの電子対抗壁ICEをハックしようとしてる。
 返金求めて戻ってきたキレた客とかじゃない。マジでヤバい事態で、ムコ絡みに決まってる。絶対そうだ。
 どっちにしろ、今すぐ動かなきゃ死体袋行きだ。

 俺たちは裏口まで全力で走った。
 俺のバイクがそこにあった。クソうるさいヤマザキの大型二輪。15の時から乗ってる、近所の遺品エステートセールで買ったやつ。エンジンが咳き込むような音を立てて始動した。
 ムコが後ろに跨がって、両腕が俺の腰に回ってくる。
 あのバカでかい乳がムニュゥッと薄いスカジャン越しに密着して、今それどころじゃねえと自分に言い聞かせた。
 正面玄関がブリーチされる爆音が聞こえたのと同時に、スロットルを全開にした。
 後輪が一瞬空転してからアスファルトを噛んで、加速Gで内臓が背骨に叩きつけられた。

 時速100キロで幹線道路に出て、深夜のまばらな車両の間を縫うように走らせた。
 バックミラーに映る追跡車は――バイクが2台。いや、もう1台合流して3台だ。
 散開して、俺たちを囲い込もうとしてやがる。統制が取れてる。ストリートのチンピラなんかじゃない。プロの仕事だ。
 ムコが風の音に負けないように耳元で叫ぶ。

「わざと泳がされてる、誘導されてるぞ!」
「ああ、気づいてるよ!!」

 でも気づいたところで意味ない。逃げられる方向は、奴らが空けてる方向しかない。
 幹線道路から外れて工業地区に入った。企業戦争中の統廃合で荒れて放置されてるエリアだ。
 オイシイフーズの廃プラント近くで追い詰められた。

 開けた敷地に飛び出して、一瞬で分かった――俺たちは詰んだ。
 荷降ろし場ローディングドック。三方が倉庫の壁で囲まれてる。広さは20メートル四方ってとこか。頭上にはガントリークレーンのボロボロの骨組みが長い影を落としてて、輸送コンテナがいくつかオモチャみたいに転がってる。
 袋小路。逃げ場なし。

 ブレーキを全力で踏んだ。急制動でヤマザキがスリップして、盛大にコケる。コンテナの脚に激突する直前、ムコと俺は蹴って離れて転がった。

 ムコが俺の腕を引っ張り上げて、一番近いコンテナの陰に引きずり込んだ。
 錆びた冷たい金属が背中に当たる。息が荒い。心臓が肋骨をブチ破りそうなぐらい暴れてる。ここで死ぬ。そう思った。マジでここで終わりだ。

 コンテナの端から数センチだけ顔を出して覗いた。

 追跡バイクが半円状に展開して、エンジンをアイドリングに落とす。3台のヘッドライトが重なり合って、白い光の円錐の中に俺たちのいるコンテナを固定した。
 装甲バンが後ろから到着した。リアハッチが開く。
 6人の人影が降りてくる。

 ヒシガミ系のセットアップで固めたコーポニンジャみたいな集団だ。
 頭部は生身で残してる。アジア系の顔立ちで、眼窩にはバイザー型の光学系オプティクスがインプラントされてる。首から下は防弾皮膚バリスティックスキンに換装されていて黒い。
 全員が同じサブマシンガンを、マズルを下に向けたローレディポジションで構えてる。
 TC-22カネミツ 。5.7ミリ高速弾を使うコンパクトなブルパップ。市街戦の定番だ。軍用サイボーグの複合装甲は抜けないが、生身や軽装甲の人間を殺すには十分すぎる。

 リーダー格っぽい、髪を後ろで結い上げた男が口を開いた。

「標的確認。忘れるな、ダメージは最小限に抑えろ。ボスは自分の投資を無傷で回収したがってる」
「非武装のセクサロイドだぞ。30秒で終わる」

 ムコがただの無力なドールだと思い込んだこと、それが奴らの最初の間違いだった。
 そして二つ目の間違いは……

「繰り返す。ボスの指示だ。第一標的はいかなる状況下でも殺すな。第二標的――ガキは始末しても構わん。邪魔なら消せ」

 その言葉が、ムコの脳殻の奥深くで何かをトリガーした。



 ムコは両手を上げて、コンテナの陰から出て行った。
 あの白い人工皮膚リアルスキンがヘッドライトに照らされて、マジで光ってた。
 サイボーグニンジャたちの武器が即座にスナップし、6本の赤い照準レーザーが胸に収束した。
 そして――

 ムコが
 一番近くにいたニンジャの頭が横に跳ね飛んだ。

 これは後でムコが喋れるようになってから聞いた話だが――あの瞬間、ムコの脳殻の中で何かがカチッとはまったんだ。
 火器管制FCS。弾道予測アルゴリズム。近接戦闘プロトコル。眠ってた戦闘ファームウェアが一気にオンラインになって、ムコのアクティブメモリに雪崩れ込んだ。

 ムコは白と黒の残像ゴーストになって4.5メートルを瞬時に詰めた。クグツメの長い脚が垂直に跳ね上がって、スニーカーの底が男の顎の下から突き上げる。
 男の指がトリガーで痙攣した。カネミツがパパパッと火を噴いて、制御を失った弾がムコの胴体を縫う。人工皮膚リアルスキン層が帯状に裂けて、その下のクロームが露出する。火花が散った。
 ムコは減速しなかった。
 着地して、回転、肘を喉に打ち込む。ニンジャがひしゃげた気管を押さえて倒れる。武器が地面に落ちる前に、ムコはそれを空中で掴み取った。
 カネミツSMGじゃない。もっといいもんだ。
 そいつのベルトに納められてた――振動刀ヴィヴロブレード。70センチの単分子モノエッジ。ムコの指が起動スイッチを見つけた。

 ――ウ゛ン、とスズメバチの群れみたいな音でブレードが唸りを上げる。

「クソッ、標的が武装した! 撃て撃て撃て!!」

 ムコはもう動いてた。
 4万ヘルツで高速振動するエッジがタイトな弧を描いて、2人目の肘関節を切断した。防弾皮膚と強化骨格を温めたバターみたいに溶かす。腕と銃が別々に地面に落ちた。
 男の悲鳴は、ムコの手刀が喉に食い込んだ時に途切れた。頸椎が複数箇所で砕ける鈍い音。義体が崩れ落ちた。

 2人死亡。30秒経ってない。
 残りが発砲した。

 ローディングドックがマズルフラッシュと5.7ミリ弾の鋭いパンパンパンって音で爆発する。
 俺はコンテナの後ろで体を丸めて、流れ弾が飛んできて死ぬのを待った。

 ムコは低い姿勢で弾丸の雨を掻い潜った。
 予測不可能な軌道で、常に最小抵抗のルートを取る。

 最高級セクサロイド・クグツメに積まれてる高精度バランサーと超高密度の触覚センサーが、人間のニューロンが発火するより遥かに速く、ムコの動きを補正してる。
 空気の流れから弾道を読み取る。地形のあらゆる微細な傾斜を、重心のわずかなズレを、リアルタイムで拾って回避姿勢に修正する。
 元々はセックスの時にどんな体位でも完璧なバランスを維持するための機能だ。それが今、ムコを生かしてる。

 それでも全部は避けられない。
 肩。太もも。肋骨。人工皮膚リアルスキンが次々と裂けて、銀色のフレームがさらに露出する。
 でも貫通しなかった。ただ下のチタン・セラミック複合材が火花を散らして、ちょっとずつ削れて剥離していくだけだ。
 カグラザカのドールは要人警護も兼ねる軍用グレード。5.7ミリじゃ抜けない。

 ムコの振動刀ヴィヴロブレードがもう一人の喉をかっさばく。白い人工血液が噴き出して、コンクリートを濡らす。
 残り3人。

 奴らは陣形を崩して挟撃を試みた。左右に散開して、クロスファイアの射線を作る。
 ムコは躊躇いなく得物ブレードを投げた。
 単分子モノエッジが15メートルの空間を回転しながら横切って、一人の胸に柄まで埋まった。男はそれを見下ろして、何が起きたか理解する前に膝から崩れた。

 最後の2人が同時に撃った。
 ムコは近くの死体を掴んで盾にした。弾丸が次々と背中に突き刺さる。死体を押しながら前進して、射手の一人に投げつけた。
 男がそれを避ける一瞬の隙に、ムコは間合いを詰めてた。
 ニンジャが慌ててカネミツを振り回す。銃床でムコの顔面をブン殴ろうとした。ムコは銃身を受け止めた。引き寄せた。膝を腹部に叩き込んだ。一発。二発。三発。
 男がよろめいた時、ムコの長い脚が鋭く上がった。回し蹴り。男の首が不自然な角度に曲がって、地面に倒れた。

 最後の一人――結い髪野郎――は、カネミツを落としてサイドアームを抜いた。
 HVP-50 クロダ。
 アンチボーグ・ハンドキャノン。
 無改造の人間には扱えない。軍用サイボーグの複合装甲をブチ抜きバイタルを叩き潰すための代物だ。

「無傷で連れ帰れって命令だったんだがな」

 結い髪が吐き捨てる。

「クソ喰らえだ」

 ズドンッ!! と、
 12.7ミリ徹甲弾がムコの肋骨に直撃した。

 今度はマジでヤバい。タングステンカーバイドの徹甲芯がフレームをかみ砕き、内部に食い込む。ムコが実際に半歩よろめいた。
 結い髪はまた撃った。同じ場所を狙って。
 ムコは体を捻って、2発目を肩で受けた。左腕がだらりと垂れ下がって死んだ。
 3発目が来る。
 ムコは転がった。ズドンッ――ムコがさっきまでいた場所にクレーターができる。
 ムコは振動刀ヴィヴロブレードが刺さったままの死体まで走って、片手で刃を引き抜いた。刀身が死体の胸から滑り出て、またブチ切れたスズメバチみたいに唸りを上げる。
 4発目。
 ムコが間合いに踏み込んだ瞬間に発射された。

 ――キィンッ!!
 振動刀ヴィヴロブレードが一閃する。

 飛来する徹甲弾が、空中で真っ二つにぶった斬られる音。
 単分子モノエッジが、弾丸の軌道上に一瞬だけ存在した。

 ありえねえ。人間の反射神経じゃ絶対に不可能だ。でもムコの戦闘ファームウェアが弾道を予測して、クグツメのボディが応答し、マイクロ秒単位でエッジを正確な位置に置いた。

 結い髪が一瞬、動きを止めた。信じられないものを見た顔だった。

 その躊躇の一瞬で、ムコはもう目の前にいた。
 5発目は、ムコが奴の足を払った時に大きく外れた。ズドンッ――俺が隠れてるコンテナのすぐ横に大穴を開けやがった。
 ムコの脚が垂直に蹴り上がる。結い髪の頭が後ろに弾け飛ぶ。
 男が倒れた。ムコが即座に馬乗りになって、振動刀ヴィヴロブレードをまっすぐ突き立てた――バイザーに、光学系オプティクスに、その下の脳殻に。
 義体が一度痙攣して、静止した。

 静寂。
 6人の殺し屋サイボーグニンジャが、コンクリートの上で死んでるか死にかけてる。
 そしてムコが、その虐殺の中心に立ってた。白い返り血にまみれて。
 ボロボロのスカジャンが片方の肩から垂れ下がってる。人工皮膚リアルスキンがズタズタに裂けて、剥き出しの内部構造が生々しい。左腕は力なく垂れ下がって死んでる。

「ム、ムコ……」

 俺は脚がガクガク震えてて、まともに立ってられない。コンテナの縁に手をついて、なんとか膝が崩れ落ちるのを堪えた。
 でもムコが手を上げた。止まれ。
 そして気づいたんだ。まだ終わってねえって。

 ブッチャーがドックの端の影から姿を現した。
 ゆっくりと、わざとらしく拍手しながら。パン。パン。パン。金属質な破裂音が殺戮場に響く。
 奴は部下の死体を一瞥もせずに通り過ぎた。
 フルフェイスのカーボンコンポジット頭部に、非対称に配置された5眼の光学系群オプティクス・クラスターが光ってる。
 人間離れした重義体ヘヴィ・リグの巨体が、ムコの前で止まった。

『美しいぜ、ムコ』

 複数の声が何重にも重なり合った歪な合成音声が、奴のボコーダーからシロップみたいにネットリと滴る。
 声に明らかに陶酔が混じってた。

『俺の最高精鋭6人を、ティッシュみたいに千切りやがった。変わらねえな、その太刀筋は――見りゃわかる。ファックトイに閉じ込められても、お前の本質は何一つ変わっちゃいねえ』

 ムコは何も言わなかった。ただ見てた。振動刀ヴィヴロブレードをまだ右手に握ったまま。

『ブッチャーだ。その目、俺のこと覚えてねえだろ? 記憶が飛んでやがる。クソッタレ、がっかりだ』

 ブッチャーが首を傾けた。
 人間らしい仕草だったが、あの5眼の頭でやると昆虫みたいに見えた。

『恐怖。嫌悪。怒り。――どれでもいい、その表情筋が感情で歪むのを、何年も楽しみにしてたのによ』

 一歩近づく。

『……まあいい。お前はまだそこにいるんだ。自分は誰にも屈しないって信じてる、あの高慢なクソ野郎がな。その下品な体で、まだ兵士のつもりでいやがる』

 ブッチャーの声がゾッとするほど甘くなった。

『――もう一度壊し甲斐があるってもんだ』

 ムコが動いた。――速い。
 距離を詰めて、振動刀ヴィヴロブレードを横薙ぎに振るってブッチャーの喉を狙った。
 ブッチャーは強化サイバネされた前腕で受け止めた。刃が軍用グレードの装甲で滑る。
 あのデカい図体に隠れた反応速度は、ムコと互角だった。

 ブッチャーも抜刀した。一回りデカい80センチのブレードが唸りを上げる。

 二人は斬り合った。
 エッジエッジがぶつかり合って、4万ヘルツの高速振動が共鳴する。

 ブッチャーはリーチがあった。質量があった。装甲があった。
 ムコは速度があった。精度があった。失うものが何もなかった。
 でもムコのボディは限界だ。動くたびに内部でエラー警告が鳴りまくってるはずだ。左腕は死んでる。胴体のフレームが砕けてる。そんな状態で戦ってた。
 そしてブッチャーはサイボーグ同士の戦い方を熟知してた。ムコが関節を、センサー群を狙うたびに、ブッチャーはもうそれを守るために動いてる。まるでムコの次の手を知ってるみたいに。

 ブッチャーはほとんどムコを弄んでいた。

 二人が距離を取った。互いに円を描くように動く。じりじりと間合いを測りながら。

『その新しいボディは気に入ってもらえたか? ファッカブルな肉人形。クッ、よく似合ってるじゃねえか』
「……全部お前が仕組んだのか?」

 あの低い男声が、張り詰めた空気を裂く。ムコが初めて口を開いた。
 ブッチャーがニタァ、と笑った気がした。

『……ああ、大層な計画だったろ? お前の高潔な魂を堕とすには、これくらいやらねえと……なあ!?』

 ブッチャーが斬りかかった。
 ムコが振動刀ヴィヴロブレードで受け止める。エッジがヴン!! と噛み合って、至近距離で睨み合う。
 
「ッ……!!」
『感謝しろよ。お前の体から脳殻を引きずり出した時、一発ブチ込んで終わりにすることもできたんだぜ?』

 ブッチャーが囁くように言った。

『でもしなかった。そのボディは俺が与えた、第二の人生のリース契約だ』

 さらに圧力をかける。ブッチャーの質量が勝ってる。ムコはじりじりと押し込まれていく。

『……そしてお前は、その残りの人生の一瞬一瞬を! 膝をついて、お前を所有してる男のペニスを崇拝することに……費やすんだ!!』
「……ハッ!!」

 ムコが刃を逸らして斬り上げた。ブッチャーの顔面を狙って。
 ブッチャーはわざと腕で受け止めて、刃を装甲に食い込ませ、ロックした。
 そのわずかな硬直時間で、ブッチャーのもう片方の手がムコの手首を掴む。掴んで、捻って、そのまま持ち上げた。
 ムコの足が地面から離れる。振動刀ヴィヴロブレードがコンクリートに転がった。

「っぐ……!」

 ムコが呻く。
 ドッ、と鈍い音。ブッチャーがムコを地面に叩きつけた。
 あの細い体が、重義体の下敷きになる。

『そうだ、その声』

 興奮した声で言った。

『もっと聞かせろ』

 ブッチャーの手がムコの胸を鷲掴みにした。強化義肢サイバネティクスの指が白い柔肌に容赦なく食い込んで、あのたっぷりした爆乳を蹂躙する。

「――んっ、……く……っ」
『おお、いいぜ……クソッ、最高だ……♡ 何がいいって? お前がこれを感じてるって知ってる。セクサロイドの拾う刺激全部が――』

 その指先が乳首をつまんで、ビンッ!!♡ と凶悪にひねり上げる。

『――お前をマインドファックする』
「アァ゛あ゛っ……!?♡」

 ムコの体が反射的に弓なりに反った。伸ばされた乳首を庇うように、痛みから、あるいは刺激から逃れようと本能的に体を浮かせる。
 長い脚がじたばたと無意味にバタつく。蹴りを入れようとするが、ブッチャーの重量に完全に押さえつけられて効かない。スニーカーの踵がコンクリートを虚しく掻くだけだ。
 ブッチャーがムコの顎を掴んで、顔を強制的に上向かせる。

『ハッ……抵抗は構わねえ……♡ むしろいい。もっと暴れろ。その方がソソる』

 ブッチャーの指はまだ乳首をつまんだまま離さない。今度はゆっくりと、胸全体を釣り上げるようにじわじわ引き離していく。
 長ッがい乳を容赦なくふん伸ばされて、ムコが首を晒して悶絶する。

「――~~……ッ、ッッ♡」

 ブッチャーの腰が動く。
 目に見えてわかる股間の膨らみがムコの下腹部を圧迫する。擬似膣ヴァギナユニットのすぐ数センチ上。脅迫するように。

『感じるか? お前のために硬くなってる。今からお前を女にするペニスだ。せいぜい煽ってしっかり勃たせろよ……? これでお前を真っ二つに割ってやる……」

 ブッチャーの親指がムコの唇を甘くなぞる。
 呼吸が荒くなってる。発声装置ボコーダーがそれを拾って、獣じみた息遣いを増幅した。

『フーッ、フーッ……たまんねえ……ついに、ついにだ。お前を俺専属の娼婦にしてやる、ムコ……♡ ベッドに鎖でつないで、コキ捨てザーメンダンプにする。俺のザーメンは今後1mlたりとも余さず、お前の穴という穴に注ぐッ……♡』

 ムコが首を逸らして抵抗する。

『……いずれ懇願するようになる。セクサロイドOSがそうさせる。お前の自由意思を上書きしていく、徹底的なファックで膣奥を打ちのめされるたびにな。その間ずっとお前の意識はそこにあって、最後には穴を埋めてくれって懇願するだけのオナホール野郎になっていくのを、全部感じることになる』

 ムコが必死にあがく。生きてる右手が地面を引っ掻いて、コンクリートが爪を削る。
 でもブッチャーの圧倒的な重量から逃れられない。

『きっちり躾けた後は? お前のつるんでたマスかき野郎どもに貸し出してやるよ。何に成り下がったか見せてやる。「あの」ムコが今じゃ、喉にチンポ突っ込まれて窒息しながら必死にしゃぶって崇拝する、ザーメン狂いのコックサッカーで、誰にでも奉仕したくて必死になってるってなあ……!!』

 ブッチャーは自分の歪んだ妄想に酔いしれてて、気づいてなかった。
 ムコの損傷した左腕が、地面を這うように動いてるのを。
 最初は痙攣してるように見えた。でも違った。
 近くの死体から何かを掴んだ。
 クロダ50だ。
 さっき結い髪が5発撃って、シリンダーにはあと1発残ってる。
 ゼロ距離。照準は不要。
 ムコは撃った。



 キックバックが炸裂した。
 重サイボーグが重サイボーグを殺すための銃。生身の人間の手首をブチ折る反動だ。でもムコにはもう関係ない。すでにぶっ壊れた左腕で撃ったんだから。
 関節部が完全に粉砕されて、千切れた左腕がフリスビーみたいにクルクル回転しながら飛んでった。

 弾はブッチャーの顔面に命中した――あの5眼の半分に。
 光学系オプティクス3つ吹き飛ばした。

『『『――……っがぁぁあああああッ!!!』』』

 複数の声が同時に叫ぶような、割れた絶叫が迸る。

 ムコが前に踏み込んで、生きてる右手で振動刀ヴィヴロブレードをすくい上げる。
 ビッ、と刃先がブッチャーの喉元1ミリで静止する。

「どこだ」

 ムコが聞いた。絶対零度の声で。

「俺の元の義体は」

 ブッチャーのボコーダーが震える。

『っく……くハッ……ハハハッ……』

 白い人工血液が顔面を伝って流れ落ち、喉には単分子モノエッジが食い込んで、もう一押しで頸動脈を切断できる。
 なのにこの異常者、ムコに形勢逆転されて興奮してやがる。

『……ハァ……知らねえよ、フィクサーが持ってった。いい値がついたぜ……お前のその新しいファックミートボディに費やした大金を、ほぼ回収できるくらいにな……」

 エッジがもっと深く押し込まれた。ブッチャーの喉に青白い人工血液の線を引く。
 発声回路ボコーダーがグリッチして、声にノイズが混じる。

『……あの義体なんて……どうでもいい。全部お前のためだ。お前を壊すこと。お前を所有すること。お前を――』
「黙れ」
『キレイサッパリ忘れたなんて言わせねえぞ……ムコ』

 ブッチャーの残った光学系オプティクスが明滅する。

『お前と俺で何人殺した、兄弟......? 思い出せよ、ジャカルタを。それともウラジオストク。上海。ラゴス。サンパウロ。シンガポールの惨事クラスターファックは? あの殺し全部。あの仕事オプス全部……』

 ムコの刃が揺らいだ。ほんのわずかに。

『俺たちは奴らのイヌだった。お前は――最高のイヌだった。今更他の何かになれると思ってんのか? 俺はお前の過去だ。俺はお前がかつてだ。いくらお前でも、自分自身の一部を殺すことはできねえ……』

 ムコの目の奥で何かがチラつく。
 開こうとするドア。脳殻の内側を引っ掻く爪みたいな記憶の欠片。

 ムコが躊躇した。
 0.5秒。
 致命的だった。

 ブッチャーの腕が跳ね上がった。強化義肢サイバネの手首が食虫植物みたいにガシャンと割れて開いて、バレルが出現する。隠し武器。最後の切り札。
 マイクロランチャーが発射された。

 ムコが糸を引かれた操り人形みたいに後ろに吹っ飛んだ。

 コンクリートを転がって、10メートル離れたコンテナに激突して、起き上がろうとして、できなくて、崩れ落ちた。

「ムコ!!」

 頭が追いつく前に、俺は遮蔽から飛び出してた。
 あの殺戮場を横切って走った。死体を、血を、散乱した武器を飛び越えて。視界がトンネルみたいに狭まって、その先にあるムコのくしゃくしゃになった姿しか見えなかった。

 ブッチャーの頭がゆっくりとこっちを向く。まだ地面に倒れたまま、残った2つの眼がチカチカ光る。

『ハッ......報告にあったペットってのはお前か。ただのクソガキじゃねえか』

 近くに転がってる死体。腰のホルスターに、あの極太のシリンダーが見えた。クロダ50だ。残弾は分からない。たぶん何発か残ってる。
 引き抜くと、ズシリと手に沈む3キロ超えの重量。

 工房で何度も客のを整備してきた。パーツを外して、フレームを磨いて、シリンダーの遊びを調整して。でも作業台の上でだ。こうして両手で構えると――全然違う。
 これ撃ったら手首が折れる。骨が砕けて腱が千切れる。
 分かってる。でも――
 ムコの前に立って両手でブッチャーに向ける。ブレまくる。腕がこんなに震えてて、銃口が空中で円を描いてる。

 ブッチャーが笑った、マジで笑いやがった。

『撃てよ。お前の手首がポッキリ逝くぞ』

 その時――タービンの金切り声が空気を切り裂いた。
 見上げると、AVエアロヴィークルが雲層から急降下してくる。
 機体に企業ロゴ。オムニゲンの企業警備。この一帯を所有してるバイオ系メガコーポで、俺たちが死体の山を築いてるこの場所、傘下のオイシイフーズの廃プラントも奴らの資産だ。
 ブッチャーの最後の一発を感知したのか。何にしろ、コーポの法執行部隊がこのローディングドック全体をキルゾーンに変えようとしてる。
 ブッチャーの光学系オプティクスがAVの降下を追った。

『いいぜ……今夜は十分楽しませてもらった』

 そう言ってるが、義体は反応してない。
 奴は死にかけてた。たぶん。こういう重サイボーグだと、判断が難しいけど。
 ……ブッチャーは最後にこう言い残した。

『おい、ガキ。そのドールを預かっとけ。……また取りに来る』

 AVが低空旋回に入った。サーチライトが突き刺さるように降りてきた。
 奴らに照準されるまで時間がない。
 ムコの腕を掴んで引っ張った。チタン・セラミック複合材フレームに軍用グレードのアクチュエータがみっしり詰まったボディは、見た目に反して死ぬほど重い。

「……クソッ、ムコ!! 頼む、動けって! 動け……っ!」

 ムコの目は開いてたけど焦点が合ってなかった。たぶん視界にクリティカルシステムエラーがスクロールしてる。俺の声が届いてるかどうかも分からなかった。

 どうにかバイクまでムコを引きずった。あの体が壊れた人形みたいにバイクに寄りかかって倒れ込む。
 後ろではAVが着陸して、警備チームが展開してる。
 連中が包囲網を完成させる前に、俺たちは幹線道路網に消えた。

 工房に着いた頃には、もうムコはピクリともしなかった。
 俺はムコを中に引きずり込んで、ドアをロックして、3日間外に出なかった。
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