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ACT 3:BEGINNING
[11] 帰路、ブラッドはムコへの感情の正体と向き合えずにいる。[NTR妄想/イラマ奉仕/愛人プレイ]
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俺たちは無言でドールハウスを出た。
エレベーターを降りる。メインフロアを横切る。喘いでるドールと男たちを通り過ぎて。正面玄関を出て、冷たい夜の空気が顔に叩きつける。まだ無言。
ムコは何事もなかったみたいに歩いてる。ブーツのヒールが歩道を等間隔に叩く音だけが、俺たちの間に落ちる。
ヤマザキを停めた路地まで半分来たところで、俺は限界を迎えた。
「……なあ、何だったんだよさっきの!」
思ったより大声だった。通りすがりの何人かが振り向く。
「何がだ」
先を行くムコは足を止めなかった。低い声だけが肩越しに返ってくる。
俺は早足でムコに追いついて、前に回り込んだ。ヒール込みで180センチ超えのセクサロイドボディが立ち止まって、俺を見下ろす。街灯を背負ってて、逆光で表情が読めない。
「何がって……お前PMCのボスの膝に座って、あ、あんなこと言って……自分から申し出たんだぞ!? ヤらせるって!」
「うまくいっただろう」
あっさりと返ってくる。
「そういう……っ、そういう問題じゃねえよ!」
「じゃあ何が問題だ」
俺は言葉に詰まった。
手のひらの付け根を目に押し当てる。眼球の奥で圧力が膨れ上がってる。ストレス性の頭痛か、このまま血管がブチ切れて死ぬのか。この際どっちでも驚かない。
さっきの光景がフラッシュバックして、声がリフレインする。
ムコの腰が揺れて、あの低い男の声が、信じられない淫語を紡いでいく。ムコが言うところを見たことがない言葉。知ってたことすら知らなかった言葉を。
――チンポで遊ぶオモチャ――
――俺の中に射精するためなら何でも差し出す気になるまで――
――レイプしろ――
「~~……っ、お前、いつからあんな喋り方するようになった? あんな言葉どこで覚えたんだよ……っ」
「あの言い回しは自然に出てきた」
「はぁ!? あんなのが自然に出てくるわけ——」
言いかけて、俺は自分で口を閉じた。
あいつがアダーに跨ってた時のことを思い出す。
目の奥に宿ってた、あの捕食者めいた光。雰囲気全体が強烈に性的で、どこか脅迫的なものに変質してた。相手を絡め取って骨までしゃぶり尽くしそうな……。
あれは、俺の知ってるムコじゃなかった。完全には。
セックスを最大限武器化する方法を知ってる。冷たく計算高く、異なる優先順位に従って動いてる何か別の「知性」。
「……セクサロイドOSの影響か」
俺はゆっくり言った。
ムコは数秒黙ってた。夜の街を見つめたまま、何かを内省してるみたいに。
「ああ。……活性化したのを感じた。いつもより強く」
セクサロイドOSの人格オーバーレイ。
カグラザカが、クグツメを完璧なコンパニオンにするためにプログラムした人工ペルソナ。
これについては前から仮説を立てていた。
そのAI疑似人格はムコの本来の意識と並行して走ってて、ムコは常にそれと綱引きをしてる。ボディの主導権を奪われないように。普段はムコが優勢だけど、時々、小さく滲み出してくる。
「ブッチャーとの対決で、戦闘ファームウェアが復帰したのと似ている。意識的にアクセスできなかったサブルーチンが、突然オンラインになったように。今夜も……同じようなことが起きたと思う」
ムコが言った。その顔はなんとなく思案げだった。
俺は言葉に出しながら、整理した。
「……生死がかかった状況に差し迫って、生き延びるために必要だったから休眠システムが覚醒した」
「ああ」
「で、今回……また窮地に追い込まれて、今度は代わりにセクサロイドOSが活性化したってことか? 暴力じゃ切り抜けられない危機だって判断して、システムが別の生存戦略を選んだ?」
ムコが首をわずかに傾げた。
「妥当な仮説だ」
ムコの頭の中で走ってる2つのシステム――戦闘サブルーチンと、セクサロイドOS。
どうやら両方とも、自己保存本能を持ってるらしい。
片方がムコを救えない時、もう片方が出てくる。
ブッチャー戦では、戦闘サブルーチンが覚醒してムコを殺戮マシンに変えた。
今夜は逆だ。
刀を抜いたところで、死ぬのは俺たちの方だった。
だからムコのもう半分が浮上してきた。
冷たく計算高く、性的に無節操な——
男を快楽で誘い込んで、喜ばせて、手のひらで転がすために設計された——
完璧な娼婦のペルソナ。
……正直、その結論はあまり安心材料にならない。
「……つまり、何だ。セクサロイドボディに乗っ取られたのか? アダーに色目使ってた時、あれはお前とOSどっちだ」
「両方だ。OSが言葉や推奨行動を提供した。だがそれを使う判断を下したのは俺だ」
俺はムコをじっと見つめた。
「もしアダーがイエスって言ったら、本当にやる気だったのかよ」
返答がない。
声が尖った。
「マジで聞いてんだよ。……もしあいつがその場で膝をつけって言ったら、プライベートルームについてこいって言ったら、お前は……」
「体は武器だ」
ムコが俺の言葉を断ち切った。
「必要とされる形で、必要な時に使う。このボディは元々その目的で作られた。利用しない理由がない」
声に感情の色が一切ない。ムコにとって、マジでそれだけシンプルなんだ。
それが俺に突き刺さったんだと思う。
俺は黙り込んだ。
あいつにとって、体はただの武器。
それがムコの哲学だ。
40年以上全身義体として生きてきたんだ、あいつは。
その過程で、生物学的な衝動も、肉体に根ざした羞恥心も、全部置いてきた。有機的なパーツを一つ残らず機械に置き換えて、体がただの交換可能なハードウェアになった時——それが自分を構成するものだっていう感覚は、たぶんぼやける。
そんな奴にとっちゃ、セックスは本当に何も意味しないんだろうな。
たぶんムコにとって、誰かとヤることと誰かを撃つことの間に本質的な違いはない。目的を達成するための手段。
でも俺は、そういう風にできてない。
「……帰るぞ」
俺はヤマザキに脚を投げて、エンジンをかけた。古いバイクが咳き込んで唸り始める。
ムコが後ろに乗る。細い腕が腰に回って、柔らかい体が背中に押し付けられる。
本当は言いたいことが山ほどあった。
お前はただの道具じゃないって言いたかった。自分をそんな風に扱うのはやめろって。尊厳とか、人間の品位について何かこう、気の利いた説教の一つでもしたかった。
でも言えない。
だって俺にどんな権利がある?
俺だって散々、ムコの体を自分の欲望のために使ってきた。あいつが「手伝おうか」って言ったから、それに甘えて。
スロットルを全開にして、夜の街に突っ込んだ。
◇
俺たちは無言で走った。
ネオンの看板が速度で引き伸ばされて、色の筋になって視界の端に流れていく。
夜風が顔を殴りつける。頭冷やすにはちょうどいいはずなのに……全然効いてねえ。
望んでもないのに、イメージが勝手に浮かんでくる。
バシリスクのボスの愛人としてのムコ。
昼は側近、夜になれば専属の娼婦。
権力持った男が手元に置くには、これ以上ないパッケージだろうよ。
胸糞悪いくらい鮮明に想像できた。
アダーがソファにどっかり座って、通信越しに現場のチームを怒鳴りつけてる。そのおっ広げた太ももの間に、跪いてるムコ。あの長い脚を深いスクワットで折りたたんで、膝を大きく開いて、デカ尻をヒールの上にどっしり落として。
アダーは仕事しながら、ついでみたいにムコの喉を使ってる。チンポをしゃぶられてるのがただのバックグラウンドノイズみたいに。
白髪の頭が上下する。ムコの整った顔がチンポの形に歪められてる。頬がへこんで、あのぽってりした小さい唇が下品に伸びきって、鼻からフッ、フッ、って浅い呼吸が漏れる。
アダーは会話を止めることなくイく。部下に命令を吠えながら、白髪を一掴みして、ムコの喉奥に対して擦りつける。そこで保持。ムコの細い首がモノの形に膨らんで、両手が跳ね上がってアダーの太ももにしがみつく。
通話終了。たっぷりチンポで窒息させて、ようやく引き抜く。見下ろして一言。
「身綺麗にしとけ。すぐミーティングだ」
ムコの顔はぐちゃぐちゃだろう。唾液と精液が混じった糸が、腫れた唇と空気を求めて突き出た舌、萎えかけのチンポの間を繋いでる。ドロッとしたのがムコの鼻孔で泡立って、小さな鼻提灯を作ってる。
ムコはただ、頷く。舌がチロッと出て、はみ出たザーメンの一筋を捕まえて無表情で飲み込む。ヒールで立ち上がって、「側近」の顔に切り替わる。次にボスがチンポ濡らしたくなるまで。
あるいは――何かのパーティーで、トロフィーみたいに飾られてるムコ。部屋中の男が知ってる。ボスの隣に立ってるあれが何なのか。ドアが閉まったら何をするのか。
ゲストの一人がアダーに近づく。耳元で何か囁く。目はムコのデカ乳から離れない。
アダーは肩をすくめるだけだ。
「廊下の先に部屋がある。30分で返してくれ」
ムコが躊躇なくゲストについていく。閉じたドアの向こうに消える。
しばらくして戻ってきて、何事もなかったみたいにボスの隣に収まる。
アダーが興味なさそうに聞く。
「どうだった?」
「取るに足らない。すぐイった」
ムコが世間話みたいに答える。
太ももをぴったり閉じて、出されたばかりのザーメンが脚を伝って垂れないようにしながら。
――ハンドルを握る手に力が入りすぎて、指の関節が白くなった。
胸の奥で何かがキュッと締まる。ムコが他の男に組み敷かれて、使われてる絵面を想像しただけで、心臓のあたりが妙に苦しい。
……なんだよ、これ。
嫉妬? 独占欲? まさかな。
バカじゃねえの……。
俺とムコは何でもない。
セックスはしてる。定期的に。でもそれはただの……生理現象の処理だ。俺の体が発散を必要として、ムコのセクサロイドOSが提供するように促すから発生してる。
っつーか考えてみりゃ、俺はムコに聞いたことすらないんだよな。
お前、本当にやりたいのか? それとも、全部OSがそうしろって言ってるからやってんのか?
ムコ自身の意志がどこまで絡んでんのか、俺は知らない。
……聞くのが怖かったのかもしれない。
本当のところ、何が違うんだ?
ムコが俺にヤらせることと、他の男にヤらせることと。
俺を特別にしてるものって何だ?
たぶん、何もない。
俺はただ、最初にムコを見つけた奴ってだけだ。目覚めた時にたまたま目の前にいて、セクサロイドOSにマスターとして登録された人間。
もし俺より先に誰かがあのコンテナを開けてたら、ムコが「溜まってるな、抜いてやろうか」って聞くのはそいつに対してだ。気が向いた時にKカップ使わせてくれるのもそいつに対してだ。
マジで最悪なのはな、ほんの数時間前、俺はその「権利」に酔って気持ちよくなってたってことだ。
クラブの外にいたコーポのボンボンども。ムコに向かって二穴同時だの輪姦だの喚いてた連中。俺は考えるより先にムコの前に出て、腰に手を置いた。実際には俺のものでも何でもないのに、所有欲むき出しで見せつけた。
あいつらの唖然とした顔を肩越しに眺めながら、俺は最高にいい気分だった。何かに勝ったみたいに。
勝った? 何に?
先着順に? システムログのプライマリユーザー欄に名前が載ってる栄誉に?
……ああクソ、俺、マジで情けない。
もしアダーが今夜、指をパチンと鳴らしてムコに股開けって言ってたら。もしムコが、下層のボロ工房でガキと暮らすより、PMCのボスに囲われる方がマシだって判断したら。
俺に何が言える?
行くな?
俺と一緒にいろ?
何の権限で?
もしムコが街中のPMCボスだろうがコーポ重役だろうが、あるいはさっきのボンボンどもだって、他の誰かに抱かれるって決めたら、それはあいつの選択だ。あいつが自分の体で何をするかについて、俺に口出しする権利なんてない。
じゃあなんで。
なんで、ムコが他の誰かと一緒にいるところを想像しただけで、胸がこんな感じになるんだよ。
……きっとただのアドレナリンだ。
そう、それだ。今夜の臨死体験で脳の化学反応がおかしくなってんだ。銃を向けられて、殺されかけて、ギリギリで切り抜けた。こんな夜の後で正気でいられる奴の方がおかしい。
深く考えんな。明日になりゃ忘れてる。
エンジンを吹かした。ヤマザキをもっと速く走らせて、自分の思考から逃げようとする。風圧で頭の中を空っぽに吹き飛ばしてくれ。
でも俺の腰に回ってるムコの腕が、しっかり安定していて、温かくて。
うまくいかなかった。
エレベーターを降りる。メインフロアを横切る。喘いでるドールと男たちを通り過ぎて。正面玄関を出て、冷たい夜の空気が顔に叩きつける。まだ無言。
ムコは何事もなかったみたいに歩いてる。ブーツのヒールが歩道を等間隔に叩く音だけが、俺たちの間に落ちる。
ヤマザキを停めた路地まで半分来たところで、俺は限界を迎えた。
「……なあ、何だったんだよさっきの!」
思ったより大声だった。通りすがりの何人かが振り向く。
「何がだ」
先を行くムコは足を止めなかった。低い声だけが肩越しに返ってくる。
俺は早足でムコに追いついて、前に回り込んだ。ヒール込みで180センチ超えのセクサロイドボディが立ち止まって、俺を見下ろす。街灯を背負ってて、逆光で表情が読めない。
「何がって……お前PMCのボスの膝に座って、あ、あんなこと言って……自分から申し出たんだぞ!? ヤらせるって!」
「うまくいっただろう」
あっさりと返ってくる。
「そういう……っ、そういう問題じゃねえよ!」
「じゃあ何が問題だ」
俺は言葉に詰まった。
手のひらの付け根を目に押し当てる。眼球の奥で圧力が膨れ上がってる。ストレス性の頭痛か、このまま血管がブチ切れて死ぬのか。この際どっちでも驚かない。
さっきの光景がフラッシュバックして、声がリフレインする。
ムコの腰が揺れて、あの低い男の声が、信じられない淫語を紡いでいく。ムコが言うところを見たことがない言葉。知ってたことすら知らなかった言葉を。
――チンポで遊ぶオモチャ――
――俺の中に射精するためなら何でも差し出す気になるまで――
――レイプしろ――
「~~……っ、お前、いつからあんな喋り方するようになった? あんな言葉どこで覚えたんだよ……っ」
「あの言い回しは自然に出てきた」
「はぁ!? あんなのが自然に出てくるわけ——」
言いかけて、俺は自分で口を閉じた。
あいつがアダーに跨ってた時のことを思い出す。
目の奥に宿ってた、あの捕食者めいた光。雰囲気全体が強烈に性的で、どこか脅迫的なものに変質してた。相手を絡め取って骨までしゃぶり尽くしそうな……。
あれは、俺の知ってるムコじゃなかった。完全には。
セックスを最大限武器化する方法を知ってる。冷たく計算高く、異なる優先順位に従って動いてる何か別の「知性」。
「……セクサロイドOSの影響か」
俺はゆっくり言った。
ムコは数秒黙ってた。夜の街を見つめたまま、何かを内省してるみたいに。
「ああ。……活性化したのを感じた。いつもより強く」
セクサロイドOSの人格オーバーレイ。
カグラザカが、クグツメを完璧なコンパニオンにするためにプログラムした人工ペルソナ。
これについては前から仮説を立てていた。
そのAI疑似人格はムコの本来の意識と並行して走ってて、ムコは常にそれと綱引きをしてる。ボディの主導権を奪われないように。普段はムコが優勢だけど、時々、小さく滲み出してくる。
「ブッチャーとの対決で、戦闘ファームウェアが復帰したのと似ている。意識的にアクセスできなかったサブルーチンが、突然オンラインになったように。今夜も……同じようなことが起きたと思う」
ムコが言った。その顔はなんとなく思案げだった。
俺は言葉に出しながら、整理した。
「……生死がかかった状況に差し迫って、生き延びるために必要だったから休眠システムが覚醒した」
「ああ」
「で、今回……また窮地に追い込まれて、今度は代わりにセクサロイドOSが活性化したってことか? 暴力じゃ切り抜けられない危機だって判断して、システムが別の生存戦略を選んだ?」
ムコが首をわずかに傾げた。
「妥当な仮説だ」
ムコの頭の中で走ってる2つのシステム――戦闘サブルーチンと、セクサロイドOS。
どうやら両方とも、自己保存本能を持ってるらしい。
片方がムコを救えない時、もう片方が出てくる。
ブッチャー戦では、戦闘サブルーチンが覚醒してムコを殺戮マシンに変えた。
今夜は逆だ。
刀を抜いたところで、死ぬのは俺たちの方だった。
だからムコのもう半分が浮上してきた。
冷たく計算高く、性的に無節操な——
男を快楽で誘い込んで、喜ばせて、手のひらで転がすために設計された——
完璧な娼婦のペルソナ。
……正直、その結論はあまり安心材料にならない。
「……つまり、何だ。セクサロイドボディに乗っ取られたのか? アダーに色目使ってた時、あれはお前とOSどっちだ」
「両方だ。OSが言葉や推奨行動を提供した。だがそれを使う判断を下したのは俺だ」
俺はムコをじっと見つめた。
「もしアダーがイエスって言ったら、本当にやる気だったのかよ」
返答がない。
声が尖った。
「マジで聞いてんだよ。……もしあいつがその場で膝をつけって言ったら、プライベートルームについてこいって言ったら、お前は……」
「体は武器だ」
ムコが俺の言葉を断ち切った。
「必要とされる形で、必要な時に使う。このボディは元々その目的で作られた。利用しない理由がない」
声に感情の色が一切ない。ムコにとって、マジでそれだけシンプルなんだ。
それが俺に突き刺さったんだと思う。
俺は黙り込んだ。
あいつにとって、体はただの武器。
それがムコの哲学だ。
40年以上全身義体として生きてきたんだ、あいつは。
その過程で、生物学的な衝動も、肉体に根ざした羞恥心も、全部置いてきた。有機的なパーツを一つ残らず機械に置き換えて、体がただの交換可能なハードウェアになった時——それが自分を構成するものだっていう感覚は、たぶんぼやける。
そんな奴にとっちゃ、セックスは本当に何も意味しないんだろうな。
たぶんムコにとって、誰かとヤることと誰かを撃つことの間に本質的な違いはない。目的を達成するための手段。
でも俺は、そういう風にできてない。
「……帰るぞ」
俺はヤマザキに脚を投げて、エンジンをかけた。古いバイクが咳き込んで唸り始める。
ムコが後ろに乗る。細い腕が腰に回って、柔らかい体が背中に押し付けられる。
本当は言いたいことが山ほどあった。
お前はただの道具じゃないって言いたかった。自分をそんな風に扱うのはやめろって。尊厳とか、人間の品位について何かこう、気の利いた説教の一つでもしたかった。
でも言えない。
だって俺にどんな権利がある?
俺だって散々、ムコの体を自分の欲望のために使ってきた。あいつが「手伝おうか」って言ったから、それに甘えて。
スロットルを全開にして、夜の街に突っ込んだ。
◇
俺たちは無言で走った。
ネオンの看板が速度で引き伸ばされて、色の筋になって視界の端に流れていく。
夜風が顔を殴りつける。頭冷やすにはちょうどいいはずなのに……全然効いてねえ。
望んでもないのに、イメージが勝手に浮かんでくる。
バシリスクのボスの愛人としてのムコ。
昼は側近、夜になれば専属の娼婦。
権力持った男が手元に置くには、これ以上ないパッケージだろうよ。
胸糞悪いくらい鮮明に想像できた。
アダーがソファにどっかり座って、通信越しに現場のチームを怒鳴りつけてる。そのおっ広げた太ももの間に、跪いてるムコ。あの長い脚を深いスクワットで折りたたんで、膝を大きく開いて、デカ尻をヒールの上にどっしり落として。
アダーは仕事しながら、ついでみたいにムコの喉を使ってる。チンポをしゃぶられてるのがただのバックグラウンドノイズみたいに。
白髪の頭が上下する。ムコの整った顔がチンポの形に歪められてる。頬がへこんで、あのぽってりした小さい唇が下品に伸びきって、鼻からフッ、フッ、って浅い呼吸が漏れる。
アダーは会話を止めることなくイく。部下に命令を吠えながら、白髪を一掴みして、ムコの喉奥に対して擦りつける。そこで保持。ムコの細い首がモノの形に膨らんで、両手が跳ね上がってアダーの太ももにしがみつく。
通話終了。たっぷりチンポで窒息させて、ようやく引き抜く。見下ろして一言。
「身綺麗にしとけ。すぐミーティングだ」
ムコの顔はぐちゃぐちゃだろう。唾液と精液が混じった糸が、腫れた唇と空気を求めて突き出た舌、萎えかけのチンポの間を繋いでる。ドロッとしたのがムコの鼻孔で泡立って、小さな鼻提灯を作ってる。
ムコはただ、頷く。舌がチロッと出て、はみ出たザーメンの一筋を捕まえて無表情で飲み込む。ヒールで立ち上がって、「側近」の顔に切り替わる。次にボスがチンポ濡らしたくなるまで。
あるいは――何かのパーティーで、トロフィーみたいに飾られてるムコ。部屋中の男が知ってる。ボスの隣に立ってるあれが何なのか。ドアが閉まったら何をするのか。
ゲストの一人がアダーに近づく。耳元で何か囁く。目はムコのデカ乳から離れない。
アダーは肩をすくめるだけだ。
「廊下の先に部屋がある。30分で返してくれ」
ムコが躊躇なくゲストについていく。閉じたドアの向こうに消える。
しばらくして戻ってきて、何事もなかったみたいにボスの隣に収まる。
アダーが興味なさそうに聞く。
「どうだった?」
「取るに足らない。すぐイった」
ムコが世間話みたいに答える。
太ももをぴったり閉じて、出されたばかりのザーメンが脚を伝って垂れないようにしながら。
――ハンドルを握る手に力が入りすぎて、指の関節が白くなった。
胸の奥で何かがキュッと締まる。ムコが他の男に組み敷かれて、使われてる絵面を想像しただけで、心臓のあたりが妙に苦しい。
……なんだよ、これ。
嫉妬? 独占欲? まさかな。
バカじゃねえの……。
俺とムコは何でもない。
セックスはしてる。定期的に。でもそれはただの……生理現象の処理だ。俺の体が発散を必要として、ムコのセクサロイドOSが提供するように促すから発生してる。
っつーか考えてみりゃ、俺はムコに聞いたことすらないんだよな。
お前、本当にやりたいのか? それとも、全部OSがそうしろって言ってるからやってんのか?
ムコ自身の意志がどこまで絡んでんのか、俺は知らない。
……聞くのが怖かったのかもしれない。
本当のところ、何が違うんだ?
ムコが俺にヤらせることと、他の男にヤらせることと。
俺を特別にしてるものって何だ?
たぶん、何もない。
俺はただ、最初にムコを見つけた奴ってだけだ。目覚めた時にたまたま目の前にいて、セクサロイドOSにマスターとして登録された人間。
もし俺より先に誰かがあのコンテナを開けてたら、ムコが「溜まってるな、抜いてやろうか」って聞くのはそいつに対してだ。気が向いた時にKカップ使わせてくれるのもそいつに対してだ。
マジで最悪なのはな、ほんの数時間前、俺はその「権利」に酔って気持ちよくなってたってことだ。
クラブの外にいたコーポのボンボンども。ムコに向かって二穴同時だの輪姦だの喚いてた連中。俺は考えるより先にムコの前に出て、腰に手を置いた。実際には俺のものでも何でもないのに、所有欲むき出しで見せつけた。
あいつらの唖然とした顔を肩越しに眺めながら、俺は最高にいい気分だった。何かに勝ったみたいに。
勝った? 何に?
先着順に? システムログのプライマリユーザー欄に名前が載ってる栄誉に?
……ああクソ、俺、マジで情けない。
もしアダーが今夜、指をパチンと鳴らしてムコに股開けって言ってたら。もしムコが、下層のボロ工房でガキと暮らすより、PMCのボスに囲われる方がマシだって判断したら。
俺に何が言える?
行くな?
俺と一緒にいろ?
何の権限で?
もしムコが街中のPMCボスだろうがコーポ重役だろうが、あるいはさっきのボンボンどもだって、他の誰かに抱かれるって決めたら、それはあいつの選択だ。あいつが自分の体で何をするかについて、俺に口出しする権利なんてない。
じゃあなんで。
なんで、ムコが他の誰かと一緒にいるところを想像しただけで、胸がこんな感じになるんだよ。
……きっとただのアドレナリンだ。
そう、それだ。今夜の臨死体験で脳の化学反応がおかしくなってんだ。銃を向けられて、殺されかけて、ギリギリで切り抜けた。こんな夜の後で正気でいられる奴の方がおかしい。
深く考えんな。明日になりゃ忘れてる。
エンジンを吹かした。ヤマザキをもっと速く走らせて、自分の思考から逃げようとする。風圧で頭の中を空っぽに吹き飛ばしてくれ。
でも俺の腰に回ってるムコの腕が、しっかり安定していて、温かくて。
うまくいかなかった。
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