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オレンジチョコパフェとホットコーヒーとオレンジゼリー
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「ご馳走様でした」
けふっ。
口許を覆った手で両手を合わせ、私は会計を済ませた。期間限定とクーポンに眩んで手が伸びたが、腹は膨らんでも心と財布は少々寂しくなる。店を出ると、あんなにもパフェを宣伝していた旗もすっかり落ち着いている。ひと仕事を終えたみたいに。
私に食べてもらうためだけに踊っていたのかしら。
運動がてら普段のルートより遠回りして帰る。しばらくしたらマスク下の喉が渇いて、自販機が目に留まった。
「緑茶、麦茶、スポーツドリンク……」
コーンスープやおでんと温かいものは癖のあるラインナップが並ぶ。
「……ホットコーヒーでいいよね」
オレンジチョコパフェは酸味がありつつも甘かった。ブラックに挑戦しよう。
スカートポッケに仕舞った財布を取り出し、五十円二枚と十円も同じく二枚。温かい缶を選んだからきっと熱々だろう。
いそいそと袖を伸ばしていると、賑やかな音が人気のない道に響く。
「だいたい当たる人なんかいるの? 聞いたことないんだけど。はぁーあ、あっつ!!」
即席ミトンは見事負け、袖ごと右手をぶんぶん振る。誰かが通りかかったら煩い女子高生がいる、と白い目で見られるに違いない。
想像に引いていれば、頭上でいかにもおめでたそうな音が鳴った。これは、もしや。
しかし千円超えたフェミレスの豪華なパフェを一人で完食し、コーヒーも入れる予定のお腹では……。
そういえば、颯馬君はおしるこが好きで夏は嘆いてたな。
「あったしオレンジもーらい!!」
しゃがんだままの私の頭上で「ピッ」
ゴトン、と落ちてきた缶を視線が捉える。細長い小麦色の腕が後ろから伸びてきて、「つめたー!」とはしゃがれる。煩かった。
顔を上げると見慣れた女子。太眉にツインテールは昔からずっと変わらない。
「ごちになります!!」
耳がキンとし、私は顔を顰めた。
「なんなの……」
「ファミレスからみるちゃん出てくるの見えたから追い掛けてきた!!」
「ストーカーかよ」
あからさまにため息をつく。足音や気配を消してまで追い掛けたいかな普通。
「一緒に休憩しよ!!」
なんだかんだ幼なじみの太陽スマイルに完敗し、冷めた缶コーヒーと晴美が選んだ缶で乾杯。彼女が缶を逆さにしても「出てこない」としょんぼりした声を出す。いやそれ、振るやつだから。
電柱と塀に凭れ、互いに一服。舌に残る苦さが嫌な記憶を呼び起こした。そう遠くない……今朝あったこと。
『別れて欲しい』
バレンタインに手作りのチョコレートを渡し、ホワイトデーにはデートへ出掛けた。どちらも人生初。ドキドキとキュンキュンが止まらなくて、味見したチョコも一緒に食べたソフトクリームもとびきり甘く感じられた。永遠でなくても、もうしばらくスイートな心地を味わえると信じていた。
理由を聞いても教えてくれず、颯馬君は別の女と私の横を過ぎ去っていったのだ。さすがクラスの人気者。恋人は困らないらしい。
「みるちゃーん、あたしにもコーヒーちょうだい?」
「どうせ飽きただけでしょ」
「ぬぐっ。違うもん! ほーら、オレンジのゼリージュースあげるから」
こっちがOKしていないのに、晴美は私の持っていた缶と交換してくる。一口飲むなりニコニコしている。本来、晴美は苦かったり辛い私と反対のものが好きだ。長年の仲で気を利かせてくれたのだろうか。
「なんで嬉しそうか聞いてくれないの?」
「それって自分から聞くもの?」
「いいじゃん! 正解はー、みるちゃんと過ごせるからでした!!」
屈託のない笑顔で答える幼馴染を前に、缶を持つ手に力が入る。
毎日放課後は自由だ。誰にも時間を縛られない。校門前で待たなくてよく、電話しなくていいから夕飯だってゴールデン番組の開始と同時に食べられる。
ほう、と息が漏れる。缶を傾けると酸味と甘味が程よいオレンジゼリーが口の中に広がり、ぷるぷる食感に微笑む。
「ありがと」
感謝を伝えたら、何が、と首を傾げている。数年ぶりに幼なじみと過ごす時間も悪くなく、私はゼリーを飲み干した。
けふっ。
口許を覆った手で両手を合わせ、私は会計を済ませた。期間限定とクーポンに眩んで手が伸びたが、腹は膨らんでも心と財布は少々寂しくなる。店を出ると、あんなにもパフェを宣伝していた旗もすっかり落ち着いている。ひと仕事を終えたみたいに。
私に食べてもらうためだけに踊っていたのかしら。
運動がてら普段のルートより遠回りして帰る。しばらくしたらマスク下の喉が渇いて、自販機が目に留まった。
「緑茶、麦茶、スポーツドリンク……」
コーンスープやおでんと温かいものは癖のあるラインナップが並ぶ。
「……ホットコーヒーでいいよね」
オレンジチョコパフェは酸味がありつつも甘かった。ブラックに挑戦しよう。
スカートポッケに仕舞った財布を取り出し、五十円二枚と十円も同じく二枚。温かい缶を選んだからきっと熱々だろう。
いそいそと袖を伸ばしていると、賑やかな音が人気のない道に響く。
「だいたい当たる人なんかいるの? 聞いたことないんだけど。はぁーあ、あっつ!!」
即席ミトンは見事負け、袖ごと右手をぶんぶん振る。誰かが通りかかったら煩い女子高生がいる、と白い目で見られるに違いない。
想像に引いていれば、頭上でいかにもおめでたそうな音が鳴った。これは、もしや。
しかし千円超えたフェミレスの豪華なパフェを一人で完食し、コーヒーも入れる予定のお腹では……。
そういえば、颯馬君はおしるこが好きで夏は嘆いてたな。
「あったしオレンジもーらい!!」
しゃがんだままの私の頭上で「ピッ」
ゴトン、と落ちてきた缶を視線が捉える。細長い小麦色の腕が後ろから伸びてきて、「つめたー!」とはしゃがれる。煩かった。
顔を上げると見慣れた女子。太眉にツインテールは昔からずっと変わらない。
「ごちになります!!」
耳がキンとし、私は顔を顰めた。
「なんなの……」
「ファミレスからみるちゃん出てくるの見えたから追い掛けてきた!!」
「ストーカーかよ」
あからさまにため息をつく。足音や気配を消してまで追い掛けたいかな普通。
「一緒に休憩しよ!!」
なんだかんだ幼なじみの太陽スマイルに完敗し、冷めた缶コーヒーと晴美が選んだ缶で乾杯。彼女が缶を逆さにしても「出てこない」としょんぼりした声を出す。いやそれ、振るやつだから。
電柱と塀に凭れ、互いに一服。舌に残る苦さが嫌な記憶を呼び起こした。そう遠くない……今朝あったこと。
『別れて欲しい』
バレンタインに手作りのチョコレートを渡し、ホワイトデーにはデートへ出掛けた。どちらも人生初。ドキドキとキュンキュンが止まらなくて、味見したチョコも一緒に食べたソフトクリームもとびきり甘く感じられた。永遠でなくても、もうしばらくスイートな心地を味わえると信じていた。
理由を聞いても教えてくれず、颯馬君は別の女と私の横を過ぎ去っていったのだ。さすがクラスの人気者。恋人は困らないらしい。
「みるちゃーん、あたしにもコーヒーちょうだい?」
「どうせ飽きただけでしょ」
「ぬぐっ。違うもん! ほーら、オレンジのゼリージュースあげるから」
こっちがOKしていないのに、晴美は私の持っていた缶と交換してくる。一口飲むなりニコニコしている。本来、晴美は苦かったり辛い私と反対のものが好きだ。長年の仲で気を利かせてくれたのだろうか。
「なんで嬉しそうか聞いてくれないの?」
「それって自分から聞くもの?」
「いいじゃん! 正解はー、みるちゃんと過ごせるからでした!!」
屈託のない笑顔で答える幼馴染を前に、缶を持つ手に力が入る。
毎日放課後は自由だ。誰にも時間を縛られない。校門前で待たなくてよく、電話しなくていいから夕飯だってゴールデン番組の開始と同時に食べられる。
ほう、と息が漏れる。缶を傾けると酸味と甘味が程よいオレンジゼリーが口の中に広がり、ぷるぷる食感に微笑む。
「ありがと」
感謝を伝えたら、何が、と首を傾げている。数年ぶりに幼なじみと過ごす時間も悪くなく、私はゼリーを飲み干した。
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