赤の書 彼女の選ぶ道

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第二章 捕虜からの脱獄

第21 囚われの檻

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「そうだ。

なぁ脱出ルートを知っているなら、俺たち何とかして逃げないか? 」



えっ?何を言っているのこの子?



「無理よそれは。

さっきも言ったけど、脱出ルートの前には兵隊がいっぱいいるし、それに、その先がどうなっているかは知らないわ。

足と手にはこんなモノだって、ついているのに、どうやって自由に動き回るというの? 」





「うぅ、そう、……だよね。

やっぱり無理なんだよね。

何も、僕たちには何もできないんだ。

お母さん」



あの男の言葉が思い浮かぶ



『弱い奴が何をやっても何も変えられない』





私は唇を噛み締めた



そんな事はないと自分に言い聞かせた。







「お兄ちゃん?」



「アルヤ、マルク。おいで」



「その子たちは」



「あぁ、昨日ここで出会ったんだ

4歳と5歳だってよ、まだ小さいのに親元を離されて可哀想に」



そんな子たちまで捕まえて酷い事をしているのね。

親元から離されてしまうのは確かに可哀想だわ



「なぁ、ほんとうにお前は選別人が来る日までここに居るつもりなのか」



「居るも何も、私はここに来たばかりよ。

ここの勝手だって知らないわ」



「なぁ、協力して逃げないか?

このままじゃ俺たち一生親に会えなくなっちまう」



「そりゃ、協力はしたいけど、今の私には情報が少なすぎるわ。

それにこの牢に、足枷を外す案はあるの? 」



「カギはあの看守が持ってる。だから俺たちで何とかして、あの看守からカギを奪う方法を考えるんだ 」



「それはまあいいとして、足枷は? どうやって外すの」



「それは、わからねぇ」



「それじゃあ無謀すぎるわ

ただ捕まって終わるだけよ」





「じゃあ、どうすりゃあいんだよ。

諦めて座ってろっていうのか? 」



「はー、まずは足枷と手錠の鍵を探すところから始めるしかないわ」



「わかった」



そういって、ミゲルは奥へと引っ込んでいった。



つまりは現状おとなしくしているしかないと言う事だった。





ここでは会話もあまりないみたい。

皆黙んまりね。

昨日連れてこられて、みんな初めましてだものね。

そりゃ、話す会話も無いわよね。



「おいてめえら、喜べ飯だ」



看守が鉄格子を何回も叩きながら大声を荒げる。



耳が痛い。うるさくて仕方がないわ。





「おい、ガキども、今から飯を運ぶのを手伝え。いいな

変な動きしやがったら容赦なく殺すぞ」





みんなが脅えている



「おい、そこの女子2人さっさとこっちに来い! 」



「ひぃぃぃぃっ、」



2人はびくびくしながら、看守の方へ歩いていく



「ディアンカとレベッカだ」



ミゲルがそう言う



2人は私と同い年くらいかしら、一人はもう少しお姉さんって感じもするけど。

ミゲルを見た。

そうね、丁度ミゲルと同い年かしら。

なんかミゲルってこの中じゃ背も高いから、大分年上にも見えてしまうけど私と2個違いなのよね。





「おめぇらもさっさと来るんだよ。 

ボケ、ガキ全員だ! 」









みんな脅えながら支持に従った。



ミゲルに続いて、隠れるように歩くアルヤとマルク。

私も後を追った。



足枷は子供の私たちにはとて重たく、右と左の足首に重りのような塊を付けられる。

そしてそこを鍵で固定してあるのだが、足の間には鎖が付いていて、普通に歩けるのは歩けるのだが、大きく一歩は踏み出せない。



少し小股になってしまう感じだ。

足と足の間を鉄の鎖が伸び切ってしまい、転びそうになる。

慌てずに歩けば歩けるが、とても遅く感じてしまう。



「早く来いって言ってんだよ。ボケ!」



んー、どう考えたって早くは歩けないわ。



「おい、おめぇ、何で足引きずってやがんだ?」



看守は私の顎に木でできた棍棒のようなもので当てて上に引き上げてくる。



「すみません。私、怪我をしていて。今は、うまく歩けないの」



「あぁん? だったらもういらねぇよ。 

さっさと檻戻ってろ 使えねぇ」



「ね、ねぇ、看守さん?」



「あーん? んだよ?」



「この足枷を、御飯を皆に運ぶ間だけ外してくれないかしら? 」



「何だと? 

何で、そんな事する分けねぇだろうが。 バカか」



「お願い。 そうしてくれたら、私も普通にお手伝いができると思うの。

これが重すぎて、痛みが増すから、足を引きずってしまうの。

これがなければ思うように動かせるわ。」







「お前逃げようとか考えてるのか?

無理だぞ」





そう逃げるなんてのは無理。

だって手にも足と同じ手錠が付いているのだから。足ほどではないが、これも少し重い。

手を上に上げたりはできるけど、ずっとは無理ね。

手が痺れて怠くなってしまう。



そんなのをつけたまま逃げるのは無理よ



「はい。逃げようなんては考えてないです。

手には手錠が付いていますし、 

走って逃げたって、怪我をしている私にはすぐ追いつかれて捕まってしまうと思う。

だからお願い、足についてるこれを外してくれるだけでいいんです。」





「っち、たく、しょうがねぇな。

まぁ、外してやってもいいか

変な真似したら、ただじゃ済まねぇぞ」





「ありがとう。おじさん。

でも、この手のやつも外してくれたらもっと効率よく運べると思うんだけど」



「そいつは無理だ。

おまえ、舐めてんのか?」



急に看守の表情が変わる。



怖い、けど、引かないわ。



「そんなことありません。

だって看守さんも一緒に来て監視するつもりなんでしょ?



だた、私が、みんなよりも多く運べば、その分早く終わります。

そうしたら、看守さんも手間が減るんじゃないかと思って」





「てめぇが逃げない保証は? 」



「提示することはできません。

でも、示すことはできます。

私は見ての通り怪我もしていますし、傷だらけです。



こんな状態の私が走っても、あなた達が押し寄せれば私はひとたまりもないと思っています。

それに、看守さんが監視しているのに、走るのもままならない私が逃げると思いますか?」





看守は少し黙ってこちらを見つめていた。





「お前、面白いやつだな。

そこまで言うなら、お前のその意志、示してみろよ。

ちょっと待ってろ。 外してやるから」







そういって看守さんは机の引き出しの3番目を開けて鍵を取り出した。



それをこちらに持ってくる。

鉄でできた鍵だ。



「ほら、貸せ」



鍵穴に鍵をさし回すと、



カチャリと鉄の外れる音がする。

取れた。



「手も出せ」



私の体を縛る鉄と言う鉄がすべて取られた。





「わかってんだろうな。何か問題を起こしたら、お前の腕や足が無くなるぞ」



なんて恐ろしい事を言いうのかしら。

考えただけで涙が出そうになる。

でも、そんな表情を見せてはダメ。





「さっさと飯を運びに行け」



背中を足で押された。



「ありがとうございます」



さっさと終わらせよう







こうして、私はみんなよりも沢山運んで、地下のみんなに食糧を届けた。



「本当に早く終わらしやがった。

えらいなお前」



看守は私の頭を撫でた。



「じゃあ早くこれ着けろ」



それはさっき私が外した鎖のついた鉄。

男をそれを差し出してきた。



ただ、黙って従うしかない。



手錠も、足枷も、外れたのは幸運だったけど、どう見たって逃げられない。



まだお腹もずきずき痛い。

蹴られた足も、足の付け根も、動かすだけで痛み出す。



今逃げ出すのは無謀すぎる。







「よし。てめえら、食って皿を檻の前に出して置け」





ミゲルたちは御飯に手を付けようとしなかった。



「どうしたの?

食べないの?」



「いや、食べるよ」





ふん、一向に手を付けないわね。



敵の施しは受けないみたいな意地なのかしら。



確かに、持ってきたモノはとても粗末な見た目をしているけれど。



あとこのスープみたいなの。

スプーンは無いのかしら?



「ねぇ、これ、スプーンとか無いの? 」



「無いよ」



ミゲルはそう言う



どうして? これじゃあ食べられないわ。



反対側の檻の人はどうしているのだろう?



眺めてみると、みんな悲しそうに手でそれを食べていた。



手で食べる?

そんな事私したことがないわ。



手で食べていい物なの?

と言うより、その光景にただただ私は驚いた。





お母様たちはそんな事は絶対にしてはいけませんって、私を叱った事よ。



してはダメな事をしなければ食べられないの?



今まで習ってきた習慣もあって、私には手で中の野菜をつかんで食べるという行為自体、どうしても出来かねてしまった。



「なんだ、今日のは美味いぞ」



そういってミゲルがパクパクと手でつかんで食べだした。



他のみんなも食事の手が止まらない。すするようにみんな食べていた。



大人の人も子供も。

その汚れた手で器の中のものを掴み、湯気の立つスープを飲み込んでいた。



その日の私の御飯は、同じ房の中にいる彼らに上げる事にした。





皆食べ終わり、ひと段落ついていた時だ。



「お前、そろそろ準備しとけよ」



どういう事?

私は首を傾げた



「もうじき看守の呼び出しが来る」



また来るの?

あのうるさい房の檻を叩きつける音を響かされるのは苦痛だった。

嫌だな。



そうこうしている内に、扉が開き兵隊とメイドさんが入って来た。



手には押し車?のような台車を引いていて、各独房のに近づいてい行く



「食べた食器はここに入れろ」



そういわれ、皆独房の隙間から手を伸ばし、そこの深い台車の中に食べた食器を入れていった。





「あれ?何でだ? 

おかしい」



何がおかしいのだろうか?

ミゲルがあまりにもいつもと違うという風に驚いていたので気になって聞いてみた。



「どうしたの? 」





「ほんとだったら、昨日みたいく俺たちが食器をまた運ぶはずなんだけど、

今日はそれがない」



そうなの?また私たちが運ぶはずだったんだ。

でも、台車があるなら、この方が私たちに運ばすよりも遥かに効率的なんだけど



檻の横のつけられた松明入れの火がゆらゆらと揺れる。



きっと外はもう夜なのだろう。

周りの檻からも眠る人たちが増えた。

そしてさっき出されたご飯は晩御飯。



お腹がなる



はぁ。お腹がすいたわ。

こんな事なら、自分で食べるべきだったかしら。

考えてみたら、朝から何も食べてない私のお腹は締め付けられるように痛かった。



「なぁ、おい」



ミゲルが私を呼ぶ



「どうしたの? 」



「ほんとうにここを出ないのか? 」



しつこいわね。

この人



「出たいのは出たいけど、出る方法がないわ」



「なぁ、俺たちで協力して出よう」



はぁ、

何の作戦も無いのにどうやって出るつもりなのかしら。

さっきも言ったのに。



でも、私も何もしなかったわけではないけど。



「一応ね、ミゲルの話聞いたから、私なりにやってみたの。



そしたらね。この足のやつと、手のやつを外す鍵の場所はわかったわ」



「あぁ、知ってる。見てた。だから俺はお前は逃げるつもりなんじゃないかと思って。

お前って頭キレるだろ。」





え?私が。

そんなことない。

私は失敗ばかりしてるようにしか思えないけど。





何処かキレているのかしら?

見方が変わった人なのねきっと。



「だとしても、監視はどうして撒くつもりなの? 」





「夜寝静まったころになると看守たちは寝るだろう?

その時を狙うんだ。」



「その時を狙うって言ったて、

看守が寝るのはほんの一時の時間だけよ? 」





正確には、ほんの一時と言う言葉は間違っている。

彼らは寝ない。



私たちを監視したり、入口を見張ったりする事が彼らの仕事だから。

だけど、ここには、そんな心配が要らないのか、看守は眠るという。

果たして本当にそうなのだろうか?



と、思ったのだけれど、目の前で現に足を組んだまま、うつむいて寝ている。



本当だった。



「これだったら行けそうだろう」



何だか自信満々に言うけど、大丈夫なのかしら?

めちゃくちゃ寝ているようには見えない。

まるで仮眠程度だわ。



「物音を立てたら起きちゃうんじゃ? 」



「なら、やってみるか? 」



ミゲルは誇らした様な顔をしながら、下に落ちている小粒の石を看守の近くに投げた。



「ほらな。起きないだろ」



得意げに私を見下ろす。



当たり前だわ。

そんな小粒の石の音など、誰一人反応しないし、誰も気づかないわ。



「そんなんじゃ誰も気づかないわ。

周りを見ても、檻の人間だって誰一人気づいてないでしょう

それじゃあ意味がないわ」



はぁー、やっぱりこの人の言う事はどうも適当すぎるわ。

一緒に逃げることはやめておこう。



「だったら、どうしたらいいんだよ? 」



まだ、諦めないのね。

気持ちはわかるけど、



「そうね、するならこの鉄格子を、そこの壁の下に落ちてる石の破片で思いっきり叩いてみればいいんじゃないかしら」



そんなことしたら皆の注目を浴びることになるけれど



「わかった」



え?本当にやるつもりなの?



止める前に、ミゲルは思いっきり塀に壁のかけらを打ち付けていた。





カンカンと甲高い音が部屋中に響き渡る。



寝ていた囚われの人たちもすべて飛び起きてこちらを見た。



看守も同じように反応していた。



「なにやってんだ、てめぇらぁ! 」



看守は長い棒を持って、こちらに向かって来た。





「どうしよう……」



ミゲルは震えあがっていて、涙目でこちらに救いの目を求めてきた。





「てめぇ、何ふざけてやがんだ」





「ご、ごめんなさい」



看守は持っていた棒で思いっきりミゲルのつま先目掛けて振り下ろした。





いぎゃぁぁあぁ



ミゲルはとても痛そうにしていたが、自由の利かない体では、足を抑えることもできない。



「なんだ、挑発でもしてやがんのか?」





言葉を発しないほど脅えている。





「次やったら殺すぞ。

周りにも迷惑なんだよ」



ミゲルはお腹を棒で突かれ、こちらまで吹き飛んできた。



かなりの衝撃だったらしい、ミゲルは涎を垂らしながら蹲っていた。



看守は下の位置に戻り、監視を続けた。





「だ、大丈夫?」



ミゲルをのぞき込んだが、あまりにも痛かったらしい、蹲って起きる気配がない。





はぁ、逃げる作戦はしばらく無理そうね。



私も体を休める事にした。
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