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081:三年後の未来

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『ダイス』と、イリスが唱えたのは、両親を失ったキンタロウが泣き疲れ眠りについた頃だった。
 イリスの目の前に自身よりも大きなサイコロが2種類出現する。赤いサイコロと青いサイコロだ。

「ワシらがいるのは96マスじゃな。4以上が出ればゴールじゃ。3以下なら死んでもお主を守ってみせるぞ」
 イリスは眠るキンタロウに向かって囁いた。その声は眠るキンタロウに届いたのか少し口元が緩んだように見えた。

「では振るぞ」
 イリスは風の魔法を使い、宙に浮かぶ赤いサイコロと青いサイコロを動かした。風の魔法の力が加わることによってサイコロは宙に浮く力を失い白い床を転がる。

 プレイヤーではないイリスがサイコロを振ることができるのは、サイコロを振るためだけに特化した召喚獣などが存在するからだ。

 転がり続けるサイコロは白い床との摩擦により静止する。層を決める赤いサイコロは5の目が出ている。そして進むマスを決める青いサイコロの目は4だ。
 キンタロウとイリスが次に進むマスが決定した。『第5層100マス』つまりゴールだ。2人は赤と青の光に包まれワープが開始する。
 100マス目の層は、第1層でも第6層でもどの層でも関係なく同じ100マスのゴールにたどり着くのだ赤いサイコロを振る意味としては100マスに到着しなかった時のためのものでしかない。

「ユウジよ。アヤカよ。ゴールしたぞ」
 100マスのゴールにたどり着いたイリスが開口一番に放った言葉だ。
 100マスのゴールは神様が作った盤上遊戯の世界でよく見る『何もない真っ白な空間』だった。

「なるほどなるほど。赤子の君はこうやってゴールするのか。実に興味深かった」
 イリスの背後で足音を立てながら拍手をする男が近付いてきた。妖精のイリスですらその男が声を出し拍手をするまでその存在に気が付かなかったのだ。
 そんなことができる人間はスキル保持者かこのゲームを作った神様意外あり得ない。つまりイリスとキンタロウの目の前に立つ人物こそが神様なのだ。

「お主は神様……だな」
「ご明察。その通り。私がこのゲームを創造した神だ」
 全身真っ黒のスーツの男。細目で黒髪の男だ。一般的な容姿とは裏腹にただならぬ異質なオーラを放っている。

「では金色のサイコロを振るといい」
 神様は眠っているキンタロウの右手にサイコロをのせた。サイコロの大きさは一般的なサイコロのサイズで小さいが赤子のキンタロウにとっては大きい。口に入れてしまえば喉をつまらせてしまうほどに。
 眠っているキンタロウはサイコロを振ろうという意識はもちろんない。しかしキンタロウの手のひらサイコロが落とされれば振ったことになるのだ。

 元の世界に戻るための金色のサイコロ。これでキンタロウが元の世界に戻ることは確定した。しかし、妖精であるイリスはどうなるのだろうか?
 ユウジとアヤカとの約束を守るためキンタロウを見守る使命がイリスにはある。共に現実世界に行けないのならイリスはどうしたらいいのだろうか?

「元の世界に戻った場合、ワシはどうなるのじゃ? あっちの世界とこっちの世界では空間が違う。ワシは存在できない」
「ああ、それなら問題ない。君はこの赤子の心の中で眠るのさ。君の本来の能力が発動する時、君は再び目覚めるだろう」
「それなら良い。ワシはこの子を守ると約束したのでな」

 妖精イリスは現実世界には存在できない。なのでキンタロウの心の中に入り眠りにつくことでキンタロウと共に現実世界に行くことが可能になる。
 イリスの本来の力は1回限りの生物を生き返らせる『蘇生スキル』だ。その力が発動する時、つまりキンタロウが命を落とした時、イリスは再び目覚めキンタロウの前に現れることとなる。
 その時がこないことを願いながらもイリスの体は細かい緑色の粒子となりキンタロウの中へと吸い込まれるように消えていく。

(どんなに辛いことがあってもワシがそばにいる。だから元気にすくすくと育つのじゃ。お主は二度とこの世界に戻ってきてはならん)
 イリスはささやかな願いを込めながらキンタロウの心の中に眠りについた。いつ起きるか分からぬ深い眠りに。

 そして眠っているキンタロウの右手にあるサイコロはバランスが崩れゆっくりとキンタロウの手のひらから落ちていった。
 神様が赤子のキンタロウに渡したのは金色のサイコロは3面ダイスだ。サイコロの目には『現在』『未来』『過去』が書かれている。
 金色のサイコロの目が確定した途端、赤子のキンタロウを金色の光が包み込んだ。その後、キンタロウはワープし元の世界へ帰って行ったのだった。

 眠っているキンタロウの手のひらから落ちた金色のサイコロの目は『未来』が出ていた。キンタロウは『3年後の未来』へワープしたのだ。場所はユウジの実家。つまり祖母の家だ。
 祖母にとっては3年間行方不明だったキンタロウが3年前と何一つ変わらない姿でひょっこり帰ってきたのだからその時の衝撃は考えられないものだっただろう。変わったものといえばキンタロウの両親のユウジとアヤカがその場にはいないことだ。
 キンタロウだけ帰ってきたことによって祖母は薄ら気付いている。ユウジとアヤカは帰らぬ人になったのだと。

 こうしてキンタロウは3年後の未来にワープしたのだ。そして『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』の世界で両親から譲り受けた『妖精のイリス』はキンタロウにとって形見のような存在だったのだ。  
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