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僕らの夏は、所在なく
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ジーワジーワ。
蝉の鳴く声。
額に垂れる汗。
ギターをアンプに繋ぎ、ギターストラップを肩にかける。
ジャーン。
真夏の東京。人でひしめく街に、僕のギターの音が虚しく鳴る。
ドラムのマサルの方を振り返り、小さく頷くと、マサルは返事の代わりに頷き返し、ドラムスティックを天に掲げた。
カンカンカン。
スティックを打ち付ける軽い音が三度響き、僕らの演奏が始まった。
僕が鳴らす最初の音は、たどたどしいCm。
僕はギターを弾きながら、カラカラの喉で歌を歌う。
足を止める人はいない。
誰も僕らを見ていない。
それがたまらなく悔しい。悔しいのに、どうにもならない。
身体の水分が足らなくて、悔し涙も出ない。唾液もほとんど出ていない。そのくせ、体は汗でぐっしょりだ。
暑い。
東京の夏はあまりにも暑い。
故郷は、こんなに暑くなかった。
扇風機だけで十分快適に過ごせるくらいには。
ああ。
故郷に帰りたい。
どうして僕はここにいるんだろう。
「コウタ」
僕の名前を呼ぶ声に、僕ははっとして振り返った。
不思議そうな顔で、ベースのアキヒコが僕を見ている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。帰るぞ」
「あ、あぁ……」
どうやら暑さで頭がぼんやりしていたらしい。軽い熱中症だろう。これだけ暑い中、水も飲まずに三十分間歌い続けていたのだから無理もない。僕はリュックからペットボトルに入った水を取り出すと、口をつけて飲んだ。三分の二以上残っていた五百ミリリットルのペットボトルの水だったが、一分と経たずに空になってしまった。
ギターケースを背負うと、メンバーの元へ走る。
「飲み行こう」
マサルがそう言う。酒飲みのアキヒコならともかく、マサルが言うなんて珍しい。
けれど、僕は申し訳ないが頭がふらついて仕方がなく、とても酒なんて飲める状態ではなかった。
「ごめん、僕は……」
「いいから」
僕の言葉を、マサルが遮った。
「体調が悪いなら飲まなくてもいい。話したいことがあるだけだ。だから来て」
有無を言わさぬ調子でそう言われれば、それ以上何も言えずに僕は黙った。
騒がしい東京を、無言の僕らは歩いていく。
いつもの居酒屋に入った僕らは、座敷席にそれぞれ腰を下ろした。
酒と焼き鳥が美味い店。東京にしては値段も良心的で、僕らが集まる時はもっぱらここだった。
「話ってなんだよ?」
アキヒコが責めるように言う。アキヒコとマサルは、なぜだか仲が悪い。その理由は今もまだ訊けないままでいる。
「お前らさ、いつまでこうしてるつもりなの」
彼の言葉に、心臓がドキリと鳴る。
胃がキリキリする。一番、聞きたくなかった話。
それぞれが意図して避けてきた話。
「どうって」
「アキヒコもそろそろ、コウタの肩を持つのはやめたらどうだ。親友だかなんだか知らないけど、現実を教えてやるのも親友の役目だろう」
「現実って何だよ」
アキヒコがマサルの襟首をつかむ。マサルは動じずに続ける。
「まさか、メジャーデビュー出来るなんて本気で思ってるわけじゃないだろ」
「俺は本気で思ってる!」
マサルの襟首を掴んでいるアキヒコの手首に血管が浮き出ている。相当な力が込められているのが分かる。
アキヒコの言葉に、マサルは薄く笑った。
「嘘つけよ。知ってるんだよ、お前が必死で就活してること。メジャーデビュー出来る確信があるならさ、そんなことやらないだろ?」
マサルの言葉に、アキヒコは黙ったまま拳を強く握った。そして、その拳を高く振り上げる。
「お、おい、落ち着けって──」
「うるせぇ!」
アキヒコはそのままマサルを殴り飛ばした。殴られた頬を押さえ、マサルが床に転がる。
周りの客たちが、野次馬根性を隠そうともせずにこちらをジロジロと見ていた。
「……最低だな。アキヒコも、見ているだけのコウタも」
立ち上がったマサルは服についた埃を払い除けながらそう吐き捨てて、足早に店を出て行った。
取り残された僕らの間に、沈黙が流れる。
「アキヒコ……」
僕は彼の名前を呼んだが、その先の言葉は何も出てこなかった。
情けなくたじろいでいるだけの僕に、アキヒコは笑顔を向ける。
「悪い、みっともないとこ見せたな。コウタは何も気にしなくていいから」
何も気にしなくていい。
僕が無理矢理アキヒコをバンドに引き連れてきたのに。
僕がこのバンドのリーダーなのに。
なぜ僕だけが何も気にしなくていいのだろう。何もしなくていいのだろう。そんなわけがないのに。
僕が一番、知っていなければ、動かなければならないのに。
「……コウタ? どうしたんだよ、店出るぞ」
「……うん」
でも僕はまた、何も言えない。
僕はずっと、『見ているだけ』なのだ。今までも、ずっとそうだった。
アキヒコとマサルが喧嘩をするのは、よくあることだった。でも、僕はいつも見ているだけだった。
バンドのことも、将来のことも。
僕は、見ているだけ。
いや、本当は見てもいないのかもしれない。
目だけはそちらを見ているふりをして、どこか遠くを見つめているのかもしれない。
僕は、見ているふりをしているだけ。
うるさい東京の、言葉少なな帰り道。
アキヒコとは小学校から一緒だけれど、こんなに静かなのは初めてだ。
こう黙って歩いていると、どうも先程のマサルの言葉について考えてしまう。
──知ってるんだよ、お前が必死に就活してること。
アキヒコも、僕には大丈夫、上手くいくっていつも言っているけれど、本当はそんなこと思っていないのではないだろうか。ただの慰めなのではないだろうか。
アキヒコは、いつまでも夢に固執する可哀想な僕に、同情しているのだろうか。
「なあ、アキヒコ──」
言いかけた僕の口はアキヒコの手によって塞がれた。
僕が驚いてアキヒコを見ると、アキヒコは僕の口を押さえていた手を離し、唇に自分の人差し指を当てて『静かに』というジェスチャーをした。そして、顎で右斜め前を指す。
アキヒコが指した方を見ると、若い男が何やら客引きをしているのが見えた。居酒屋だろうか。それとも、キャバクラ? この辺りに詳しくない僕には分からなかった。けれど、今の僕らにとってはそれはどうでもいいことだった。
問題は、客引きをしているその男が誰であるか、だ。
「……マモル……」
そう口に出してしまった僕を見てアキヒコは焦ったような表情を浮かべたが、客引きの男──〝マモル〟が声に気づいていないことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。
「……あいつ……ライブサボって、何やってんだよ」
アキヒコが吐き捨てるように呟いた。
客引きの男の名は、マモル。僕らのバンドでキーボードを担当している男だ。
今日彼は、外せない用事があるからとライブに来なかった。ここ最近、彼は妙に付き合いが悪い。
しかしこれで合点がいった。彼は仕事をしていたのだ。アルバイトなのか、正社員なのかは分からないが、少なくともバンド活動よりもこちらに力を入れたいということはなんとなく分かった。
「お兄さん、どう? 安くしとくよ。今、人気ナンバー・ワンの子空いてるんだよ。なかなかないよ、ラッキーだ」
マモルの言葉から察するに、彼の仕事はキャバクラ、あるいは風俗店の客引きだろう。しかしほとんどの人にスルーされ、マモルは肩を落としている。
「……マモル」
そうぼそりと呟いてみたが、マモルには届かない。声をかける勇気すら、僕は持ち合わせていないのだった。
そんな僕の腕を、アキヒコがマモルのいる方とは逆方向に引く。
「行こうぜ」
アキヒコに連れられるまま、僕はその場を離れた。
蝉の声だけがいつまでも僕の耳に流れ込んでいた。
いつもの分かれ道でアキヒコと別れた後、僕は一人で東京の街を歩きながらそびえ立つ建物を眺めていた。
正社員募集のチラシが、至るところに貼ってある。
就職。僕も、考えないではなかった。
今僕は、ライブハウスでのアマチュア限定の小さなフェスやら、ライブやらの予定がいつ入ってもいいように、スケジュールの調整がきく日雇いバイトで生計をたてている。運が良ければ路上ライブの時にチップがもらえたりするけれど、その額なんてたかが知れていて、帰りに全員分の缶ジュースでも買えばあっという間になくなった。
そういうわけで、僕の収入は週二、三回の日雇いバイトのみ。そんな僕がギリギリとはいえ食いつなげているのには、むろん理由があった。
僕はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出し、画像フォルダを開いた。
代々木公園のベンチに腰掛け、桜の花びらを眺めながらにこやかに微笑んでいる女性の写真。
僕の彼女だった。名前はユミ。高校時代から付き合っている彼女で、僕が上京すると決めた時も、着いていくと言ってくれた。
ビル群を抜け、東京にしては人気のない路地に入る。それから少し歩くと、煤けた団地が見えてくる。
その団地の一番上の階の左端。
そこが僕の家だ。
錆びかけている鉄製の階段を登りきり──エレベーターは現在点検中らしく使えない──部屋番号を確認すると、僕は扉を開けた。
「ただいま」
僕がそう言うと、部屋の奥から、おかえり、という声が聞こえた。その声を聞くと、僕はほっとする。
「おかえり。今日はどうだった?」
「まあ、いつも通り……ぼちぼちかな」
彼女の問いに苦笑いしながら答える。少し心が痛い。
生活費のほとんどは、今は都内のアパレル企業に勤める彼女に賄ってもらっている。彼女の収入に比べると僕の収入なんてお小遣いにも満たないので、実質僕はヒモのようなものだ。
「ユミ……僕、本当にこのままでいいのかな」
財布と携帯しか入っていない小さな肩掛け鞄を狭いリビングのテーブルに置き、ギターケースを壁に立てかけると、僕は呟くようにそう言った。
そんな僕の微かな声もユミにはしっかり聞こえていたようで、ユミは驚いたような顔をした。
「急にどうしたの」
本当、急にどうしたというのだろう。けれども今日話さなければならないような気がする。なぜだか心が妙にざわつくのだ。バンド間のいざこざなど、初めてのことではないのだけれど。
みんな変わり始めている。僕も、変わらなければならない時が来たのかもしれない。
「ちゃんと働いた方がいいと思うんだ。もう、音楽なんて辞めて──」
僕の言葉を遮るように、バン、と大きな音が響いた。
テーブルの上の肩掛け鞄がテーブルから落ち、中に入っていた携帯が床にぶつかってゴンと鈍い音が鳴った。
彼女が思い切りテーブルを叩いたのだ。
僕は唖然とした。怒ったユミなど、今まで一度も見たことがなかった。
呆気にとられる僕を置き去りにして、彼女はこう言った。その声は震えていた。
「それがコウタくんの本音なの」
「えっ……?」
彼女が何を考えているのか分からず、僕は戸惑うしかできなかった。いつまでも黙っている僕に痺れを切らしたのか、彼女は「もういい」と言い残して、家を出て行った。
それを引き留めることすらできない己の不甲斐なさが嫌になる。
僕はその場にへたり込んで、頭を抱えた。
蝉の声だけが響いている真夏の、郊外の団地の一室で、僕は一人、体育座りで蹲っていた。
彼女は何に怒っていたのだろう。僕がきちんと働くことを彼女はよく思っていないのだろうか。いやいや、まさかそんなわけはあるまい。今の生活だって決して裕福ではないのだ。
ならば彼女は、一体何に。
ああ、それにしても。
「腹減ったな……」
僕はなんて不甲斐ないんだろう。一人では、何もできない。
昔からおちゃらけてたし、やんちゃではあったけれど、根は真面目な奴だった、と思う。
どんなに面倒なことも、嫌なことでも、面倒くせぇなんて悪態をつきながらもサボったことはなかった。
だから今日は、人生初のサボりということになる。
こんなに落ち着かないものなのか。やはり、電話の一つくらい入れるべきだろうか。
そんな思考を俺は無理矢理振り払った。
いいさ、放っておけよ。どうせこの先一生、会社なんかで働くことはない。
だって俺は、俺たちのバンドは、メジャーデビューするのだから。
俺は、ベーシストなのだから。今までも。これからも。
絶対にコウタの夢を叶える。それだけが、俺の生き甲斐なのだ。それを俺は自ら諦めようとしていた。血迷っていたのだ。
だけれどもう迷わない。マサルの野郎やマモルみたいに、情けなく諦めるのはごめんだ。
あのクソ野郎、マサルが言ったこと──俺が就活しているという話だ──は間違いじゃない。俺が仕事とバンドの二足わらじを履きこなしてコウタを支えられたら、コウタももっと活動しやすくなるだろうと思っての就活だったのだけれど、マサルはどうしたって俺を悪者にしたいらしい。頭に血が上って、うまく説明できなかったから殴ってしまったけれど、これでマサルも懲りただろう。
ああ、でも、コウタを怖がらせてしまったかもしれない。連絡しなくちゃ。
そう思ってスマートフォンをポケットから取り出した瞬間、ブブ、とスマートフォンのバイブレーションが鳴った。
コウタかと思ったが違った。ユミだった。
ユミはコウタが高校の時から付き合っている彼女だ。俺も高校時代彼女がいたのだけれど、その時何度かダブルデートとやらに行った。その時についでにLINEも交換していたのだ。
けれど、たったそれだけの繋がりだ。何を今更、連絡してくることがあるのだろう。
まさか、コウタに何かあったのか?
焦った俺は震える指先で慌ててスマートフォンのロックを解除し、メッセージの内容を表示した。
『アキヒコくん、久しぶり。今から会えない?』
メッセージの内容はそれだけだった。要件も理由も、何も分からない。
俺は不審に思いながらも、メッセージを返す。
『代々木公園付近をぶらぶらしてるから、来れるなら会えるけど。なんで?』
既読はすぐについたけれど、返信は来なかった。
揶揄っただけなのだろうか。そういうタイプには見えなかったけれど、いかんせん高校卒業以来会っていないから分からない。人間なんて変わるものだしな。
そんなことを考えながら、なんとなくしばらくそこでぼんやりしていると、女性がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
その顔を確認して俺は驚いた。ユミだ。
相変わらず綺麗な顔立ちだ。服装はTシャツにジーンズと質素で、化粧も薄くしかしていなかったけれど、それでも綺麗だ。結局美人はどんな格好でも美人なのだろう。
「アキヒコくんだよね。久しぶり。私、ユミだよ」
「ああ、久しぶり……。どうしたの、急に」
俺がそう訊くと、ユミは決まり悪そうに顔を顰めた。
「コウタくんと喧嘩しちゃって」
「喧嘩? あいつと?」
あんな虫も殺せないような性格のコウタが? 喧嘩? 怒ったのか? 全く想像がつかない。コウタとはユミ以上の長い付き合いだけれど、あいつの怒ったところなんて本気で見たことがない。
「喧嘩っていうか、私が勝手に怒って出てきちゃっただけなんだけど。コウタくんがさ、音楽、辞めるって言うから」
その言葉に頭が真っ白になった。
違う。嘘だ。コウタがそんなこと言うはずないだろう。
だってミュージシャンは、あいつの小学生の頃からの夢で。
俺は、そんなあいつを陰ながら支える格好いい親友ポジションなわけで。
俺が、一人じゃ何もできないコウタの救世主なんだ。そのはずだろう?
「アキヒコくん? どうしたの、顔色悪いよ……?」
俺は余程酷い顔をしていたらしい。ユミが死にかけの人間を見るような目をしている。
それくらい俺は動揺していた。しかし動揺を悟られぬよう、なんとか平静を装う。
「あ、いや、なんでもない……。ごめん」
ユミは俺の態度に不思議そうにしていたが、何も言ってはこなかった。気を取り直したように、ねえ、と俺に呼び掛ける。
「アキヒコくん、私、慌てて飛び出してきちゃったから、何も持ってきてないの。お願い、今晩だけでいいから泊めてくれない?」
「彼氏いるのに、いいのかよ。独り暮らしの男の家だぜ。金なら貸すから、どっか適当に──」
「大丈夫」
ユミは驚くほどにはっきりと即答した。そしてこう言葉を続けた。
「アキヒコくんなら、大丈夫」
「アキヒコくんて、昔からずっとコウタにつきっきりだよね。まるで保護者みたい。どうしてそんなに世話焼いてるの?」
「なんだろ、ほっとけないんだよな。俺が守ってやらないとっていうか。あいつ、一人じゃ何もできないしさ」
「そう? 昔はそうだったし、今もまだ優柔不断なところはあるけど……大分一人でも行動するようになったと思うけどな」
「いや、全然だよ。きっと俺がいないと駄目だね」
「ふーん。じゃあ、マサルって人と、アキヒコくんの仲が悪いのはどうして? あ、これ、コウタくんから聞いたんだけど」
「あいつ、コウタのこと馬鹿にするから。音楽の才能はあるかもしれないけど、その他が駄目すぎるって。だから全然バンドも成功しないんだって。コウタはマサルが自分の陰口を言ってるなんて、知らないだろうけどな」
「そうなんだね。マサルって人も、コウタくんが気に入らないなら辞めればいいのに」
「もうじき辞めると思うよ。あいつがバンドに残ってたのは、キーボードのマモルと仲が良いからだから。マモルはなんかバンド辞めそうな雰囲気だし、マモルが辞めればあいつも辞めるよ」
「そっかぁ」
「……なあ、ユミ」
「どうしたの?」
「やめよう」
「やめるって、何を?」
「何って、続きだよ」
俺は覆いかぶさっている裸のユミを押し退けて、その辺に脱ぎ捨ててあった俺の服を着始めた。引き剥がされたユミが不満そうに背後から声をかける。
「どうして?」
「どうしてって、気づいてないのかよ。お前、ずっとコウタの話ばっかりだ。本当は俺なんか興味ないんだろ。寂しいから埋めてほしいっていうのも嘘。本当はコウタの気を引きたいだけだ。違うか」
ユミは苦虫を噛み潰したような顔になった。図星だったようだ。
俺は自分の服の近くに脱ぎ捨ててあったユミの服を、ユミに一瞥もくれぬまま投げつけた。ユミは渋々、服を着始める。
「……アキヒコくん、つまらないくらいに鋭いね。でも、寂しいから、っていう理由もありはするんだよ」
「そうかよ」
着替えを終えた俺は振り返る。ユミも着替えを済ませてしまっていた。
俺の目を見ながら、ユミは不安げに尋ねる。
「……怒ってる?」
「別に。そもそもユミが本当にその気だったとしても、多分俺が続けられなかったと思う。俺、女の子相手に興奮したことないから」
俺がそう言うと、ユミは驚いた顔をした。
「ゲイなの?」
その言葉に、俺は首を傾げる。
「さあ。考えたことなかった。どうでも良かったし。俺、普通に女の子は可愛いと思うよ。ただ、抱きたいとは思えないってだけ。これまで付き合ってきた子も、本当に好きだったのか、今じゃよく分かんねえ」
昔から、色恋とやらには全く興味がなかった。告白されたからなんとなく付き合ってみる。けれど俺の淡白な態度に冷めてしまったらしい女の子から振られる。俺がフリーになったと聞いた別の女の子からまた告白される。で、また振られる。それの繰り返し。
俺に問題があるのだろうな、とは思ったけれど、別に直そうとは思わなかった。
「俺はコウタがいれば、それで良かったから」
意図せず洩れた呟きに、ユミが反応した。
「アキヒコくん」
「い、いや、違う。それじゃあ俺がコウタに依存してるみたいだ。違う、逆なんだ。あいつが、俺を必要とするから。俺がいなくちゃいけないから。だから俺は、そばにいてやってるだけで」
今日のコウタを思い出す。
俺が就活をしていると、今日、コウタは知ってしまった。
けれど──何も言わなかった。
今になって、急にそれが不安になってくる。
どうして何も言わない? アキヒコはバンド抜けないよな、って。僕はアキヒコがいないと駄目だからって。昔みたいに。昔みたいにさ。
息が苦しくなってきた。呼吸の仕方が分からない。
そんな俺の背中を、ユミが優しく擦る。
「歪んでるね、私たち」
彼女のその言葉と、小さな敷布団がひとつあるだけの粗末な寝室に響く蝉の声が、やたらと印象的だった。
気づいたら朝になっていた。蹲ったまま眠ってしまっていたらしい。
ユミはまだ帰らない。
酷く喉が渇いていたので、キッチンに行って水道水をがぶがぶ飲んだ。そこで僕は己の空腹を思い出した。
空腹を紛らわせるために余分に水を飲んだが、腹がたぷたぷするだけで空腹には変わりなかった。思えば昨日の昼から何も食べていない。結局、居酒屋では何も飲まず食わずだったわけだし。
ああ、腹が減った。コンビニに何か買いに行こう。
あ、いや、彼女を探しに行くのが先か?
いやいや、そうに決まっているだろう。ていうか、なぜ昨晩のうちに探しに行かなかった? 連絡しなかった?
僕は何をしているのだ。
ユミは僕にとって唯一無二の理解者で、大切な恋人だったはずだろう?
そうじゃなかったのか?
ああ、くそ。余計なことを考えるな。
とりあえずユミを探そう。電話、出てくれるだろうか。
僕はスマートフォンで彼女に電話をかける。数回のコール音の後、電話は繋がった。
「え、えっと、ユミ──」
『コウタ、いつものスタジオまで来い。今日は貸し切ってる』
「は、え、ちょっ、アキヒコ?」
僕の言葉を待たずして、電話は切れた。
今の声の主はどう聞いてもアキヒコだった。僕は確かにユミに掛けたはずだ。どうしてアキヒコが出るのだ。
しかしそんなことを考えていても仕方がない。とりあえず行ってみるしかあるまい。
アキヒコは『いつものスタジオ』と言った。恐らく、僕らが月二回貸し切っているあの小さなスタジオのことだろう。
しかし今日はスタジオ練習の日じゃないはずだ。
何を考えているのかてんで分からない。とりあえず、僕は言われたとおりにギターを持って、スニーカーを履き潰して家を出た。
僕の住む団地からスタジオまでは、バスで二十分、そこから歩いて十分。空腹にはやや堪える時間だけれど、とても食事なんてとる気にはなれなかった僕は、そのままスタジオへと直行した。
目的地につくと、僕はひとつ深呼吸をしてから、ノックもせずにスタジオのドアを開けた。
「やっと来たか」
そこにはアキヒコとユミがいた。二人とも怒っているような、悲しんでいるような、なんとも読み難い表情をしている。
「ど、どうしてアキヒコが……?」
「どうしてだと思う?」
ユミがアキヒコに相談したのだろうか。でも、卒業後、二人に接点はなかったはずだ。僕が知らないだけで、実は連絡を取り合っていたのだろうか。
「教えてやるよ。昨晩、ユミは俺の家に泊まったんだ。そして、ひとつの敷布団で一緒に寝た」
僕が答える前に、アキヒコはそう淡々と言い放った。
ユミが、アキヒコの家に行った。二人で寝た。ひとつの敷布団で。狭い、敷布団で。
浮気というやつなのだろう。こういう時は、どういう反応をすればいいのだ? 怒る? 悲しむ? 分からない。
どうして僕は分からないのだ? 思ったことを、抱いた感情を、ありのままに表現すればいいだけではないか。
違う。
怒りも沸かない、悲しくもない。
僕が感じているのは、仕方ないか、という諦めだけ。
少し淡白すぎやしないか、僕。
高校からの彼女だぞ。僕を第一に考えてくれる彼女。
ずっと好きだった人。愛した人。それは違いない。はっきりとそう言える。
けれどなぜ、浮かんでくる彼女への思いは、好きだったとか、愛しかったとか、過去形ばかりなのだろう。
その時僕は初めて気づいた。
自分の情けなさ。不甲斐なさ。それらから感じていた、彼女への負い目。
それがいつの間にか、僕の彼女への恋情を奪ってしまっていたことに。
僕は気づけばこんなことを口走っていた。
私はコウタくんに依存されたかった。
正直、バンドなんてどうでも良かった。どちらかといえば、失敗してほしかった。
生活の全てを私に預けて、私がいないと生きていけないままのコウタくんでいてほしかった。
けれど、彼は一人で立とうとした。いや、もしかしたら、私を支えようとしてくれたのかもしれない。でも、そうだとしても怖かった。コウタくんが私に飽きてしまうかもしれないと思った。私なしでは生活できない、そんなコウタくんのままなら、ずっと離れないでいてくれると思ったのだ。
一方、アキヒコくんはコウタくんに依存していた。弱い昔のコウタくんを支えることでしか己の存在意義を見いだせないから、今のコウタくんに昔のコウタくんの像を押し付けて過度に世話を焼くことで、どうにか自我を保っている。けれど、本人は全くその自覚がない。いや、わざと蓋をして、見ないようにしている。
私たちはお互い、暑さにうなされて見る悪夢のように狂っていた。それに気づいたから、妙な仲間意識が生まれたのだろう。アキヒコくんは私に、「コウタの気を引きたいのだろう、手伝ってやる」と言ってくれた。コウタくんが音楽を辞めて普通に生活をするようになったら自分が困るから、というだけなのかもしれないが、それでも構わなかった。利害が一致しただけのことだ。
だから浮気を装って──装う、という表現がこの際正しいのかは分からないが──コウタくんの本音を探るという作戦に出た。
「もう僕は、ユミのことが好きじゃないみたいなんだ」
そんな言葉が、他ならぬコウタくんの口から出るなんて知らずに。
「……は?」
先に声を発したのはアキヒコくんだった。アキヒコくんの威圧するような声にも負けず、コウタくんは言葉を続ける。
「最低なこと言ってる、ごめん。これまでユミは僕に、身に余るくらいの優しさをくれた。本当に感謝してる。でも僕はユミに何も返せなかった。それをずっと引け目に感じてた。段々、ユミといても申し訳ないっていう気持ちしか湧かなくなって。だから今も、悲しいとかじゃなくて、しょうがないって思う」
コウタくんは珍しく饒舌だった。いや、もしかしたらコウタくんは、普段からこれくらいしっかり話せたのかもしれない。
私たちが、それを封じ込めていただけで。
「ユミもアキヒコも、僕にとって大切な人だよ。だから二人のこと応援する。おめでとう。そして今までありがとう」
引き止める間もなく、コウタくんはスタジオを出て行った。
取り残された私たちは、ただ呆然と立ち尽くしているしかできなかった。
『悪い、正社員になれたからバンドやめるわ──マモル』
『ああ、じゃあ俺もやめる。──マサル』
──マモルが退会しました──
──マサルが退会しました──
グループLINEに表示されたその文字を、僕はただ眺めていた。
仕事どうしようかな。
ギター売れば金になるかな。あんな汚いギター、はした金にもならないか。
ああ、家も探さなきゃじゃん。あの部屋、ユミの名義だしな。引っ越しって金かかるだろうな。まあでも、僕あんまり荷物ないし。自分一人でもある程度はやれるかも。
それにしても、僕って本当に何もないな。
いや、何もなくなったのか。たった今。
「コウタさんって、本当ギター上手いっすよね」
「これくらい誰でも弾けるさ」
「いやいや、無理ですって。少なくとも俺には絶対無理です! でもコウタさん、歌も上手いし、こんな田舎の給料もやっすい小さな工場で働かなくたって、ミュージシャンとかなれたんじゃないすか?」
「──興味なかったから」
「そうなんすか? 勿体ないなー。じゃあ逆に何に興味あったんすか? 将来の夢とか。コウタさんの若い頃って、なんか想像できないんですよね」
「さあ、もう忘れたよ」
「えーっ、残念。あ、コウタさん、昼休憩あと五分っすよ。最後にとっておきの一曲、お願いします!」
軽く頷いて、僕はギターを弾き始める。
最初の音は、慣れた様子で奏でるCm。
ジーワジーワ。
蝉の鳴く声。
額に垂れる汗。
蝉の鳴く声。
額に垂れる汗。
ギターをアンプに繋ぎ、ギターストラップを肩にかける。
ジャーン。
真夏の東京。人でひしめく街に、僕のギターの音が虚しく鳴る。
ドラムのマサルの方を振り返り、小さく頷くと、マサルは返事の代わりに頷き返し、ドラムスティックを天に掲げた。
カンカンカン。
スティックを打ち付ける軽い音が三度響き、僕らの演奏が始まった。
僕が鳴らす最初の音は、たどたどしいCm。
僕はギターを弾きながら、カラカラの喉で歌を歌う。
足を止める人はいない。
誰も僕らを見ていない。
それがたまらなく悔しい。悔しいのに、どうにもならない。
身体の水分が足らなくて、悔し涙も出ない。唾液もほとんど出ていない。そのくせ、体は汗でぐっしょりだ。
暑い。
東京の夏はあまりにも暑い。
故郷は、こんなに暑くなかった。
扇風機だけで十分快適に過ごせるくらいには。
ああ。
故郷に帰りたい。
どうして僕はここにいるんだろう。
「コウタ」
僕の名前を呼ぶ声に、僕ははっとして振り返った。
不思議そうな顔で、ベースのアキヒコが僕を見ている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。帰るぞ」
「あ、あぁ……」
どうやら暑さで頭がぼんやりしていたらしい。軽い熱中症だろう。これだけ暑い中、水も飲まずに三十分間歌い続けていたのだから無理もない。僕はリュックからペットボトルに入った水を取り出すと、口をつけて飲んだ。三分の二以上残っていた五百ミリリットルのペットボトルの水だったが、一分と経たずに空になってしまった。
ギターケースを背負うと、メンバーの元へ走る。
「飲み行こう」
マサルがそう言う。酒飲みのアキヒコならともかく、マサルが言うなんて珍しい。
けれど、僕は申し訳ないが頭がふらついて仕方がなく、とても酒なんて飲める状態ではなかった。
「ごめん、僕は……」
「いいから」
僕の言葉を、マサルが遮った。
「体調が悪いなら飲まなくてもいい。話したいことがあるだけだ。だから来て」
有無を言わさぬ調子でそう言われれば、それ以上何も言えずに僕は黙った。
騒がしい東京を、無言の僕らは歩いていく。
いつもの居酒屋に入った僕らは、座敷席にそれぞれ腰を下ろした。
酒と焼き鳥が美味い店。東京にしては値段も良心的で、僕らが集まる時はもっぱらここだった。
「話ってなんだよ?」
アキヒコが責めるように言う。アキヒコとマサルは、なぜだか仲が悪い。その理由は今もまだ訊けないままでいる。
「お前らさ、いつまでこうしてるつもりなの」
彼の言葉に、心臓がドキリと鳴る。
胃がキリキリする。一番、聞きたくなかった話。
それぞれが意図して避けてきた話。
「どうって」
「アキヒコもそろそろ、コウタの肩を持つのはやめたらどうだ。親友だかなんだか知らないけど、現実を教えてやるのも親友の役目だろう」
「現実って何だよ」
アキヒコがマサルの襟首をつかむ。マサルは動じずに続ける。
「まさか、メジャーデビュー出来るなんて本気で思ってるわけじゃないだろ」
「俺は本気で思ってる!」
マサルの襟首を掴んでいるアキヒコの手首に血管が浮き出ている。相当な力が込められているのが分かる。
アキヒコの言葉に、マサルは薄く笑った。
「嘘つけよ。知ってるんだよ、お前が必死で就活してること。メジャーデビュー出来る確信があるならさ、そんなことやらないだろ?」
マサルの言葉に、アキヒコは黙ったまま拳を強く握った。そして、その拳を高く振り上げる。
「お、おい、落ち着けって──」
「うるせぇ!」
アキヒコはそのままマサルを殴り飛ばした。殴られた頬を押さえ、マサルが床に転がる。
周りの客たちが、野次馬根性を隠そうともせずにこちらをジロジロと見ていた。
「……最低だな。アキヒコも、見ているだけのコウタも」
立ち上がったマサルは服についた埃を払い除けながらそう吐き捨てて、足早に店を出て行った。
取り残された僕らの間に、沈黙が流れる。
「アキヒコ……」
僕は彼の名前を呼んだが、その先の言葉は何も出てこなかった。
情けなくたじろいでいるだけの僕に、アキヒコは笑顔を向ける。
「悪い、みっともないとこ見せたな。コウタは何も気にしなくていいから」
何も気にしなくていい。
僕が無理矢理アキヒコをバンドに引き連れてきたのに。
僕がこのバンドのリーダーなのに。
なぜ僕だけが何も気にしなくていいのだろう。何もしなくていいのだろう。そんなわけがないのに。
僕が一番、知っていなければ、動かなければならないのに。
「……コウタ? どうしたんだよ、店出るぞ」
「……うん」
でも僕はまた、何も言えない。
僕はずっと、『見ているだけ』なのだ。今までも、ずっとそうだった。
アキヒコとマサルが喧嘩をするのは、よくあることだった。でも、僕はいつも見ているだけだった。
バンドのことも、将来のことも。
僕は、見ているだけ。
いや、本当は見てもいないのかもしれない。
目だけはそちらを見ているふりをして、どこか遠くを見つめているのかもしれない。
僕は、見ているふりをしているだけ。
うるさい東京の、言葉少なな帰り道。
アキヒコとは小学校から一緒だけれど、こんなに静かなのは初めてだ。
こう黙って歩いていると、どうも先程のマサルの言葉について考えてしまう。
──知ってるんだよ、お前が必死に就活してること。
アキヒコも、僕には大丈夫、上手くいくっていつも言っているけれど、本当はそんなこと思っていないのではないだろうか。ただの慰めなのではないだろうか。
アキヒコは、いつまでも夢に固執する可哀想な僕に、同情しているのだろうか。
「なあ、アキヒコ──」
言いかけた僕の口はアキヒコの手によって塞がれた。
僕が驚いてアキヒコを見ると、アキヒコは僕の口を押さえていた手を離し、唇に自分の人差し指を当てて『静かに』というジェスチャーをした。そして、顎で右斜め前を指す。
アキヒコが指した方を見ると、若い男が何やら客引きをしているのが見えた。居酒屋だろうか。それとも、キャバクラ? この辺りに詳しくない僕には分からなかった。けれど、今の僕らにとってはそれはどうでもいいことだった。
問題は、客引きをしているその男が誰であるか、だ。
「……マモル……」
そう口に出してしまった僕を見てアキヒコは焦ったような表情を浮かべたが、客引きの男──〝マモル〟が声に気づいていないことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。
「……あいつ……ライブサボって、何やってんだよ」
アキヒコが吐き捨てるように呟いた。
客引きの男の名は、マモル。僕らのバンドでキーボードを担当している男だ。
今日彼は、外せない用事があるからとライブに来なかった。ここ最近、彼は妙に付き合いが悪い。
しかしこれで合点がいった。彼は仕事をしていたのだ。アルバイトなのか、正社員なのかは分からないが、少なくともバンド活動よりもこちらに力を入れたいということはなんとなく分かった。
「お兄さん、どう? 安くしとくよ。今、人気ナンバー・ワンの子空いてるんだよ。なかなかないよ、ラッキーだ」
マモルの言葉から察するに、彼の仕事はキャバクラ、あるいは風俗店の客引きだろう。しかしほとんどの人にスルーされ、マモルは肩を落としている。
「……マモル」
そうぼそりと呟いてみたが、マモルには届かない。声をかける勇気すら、僕は持ち合わせていないのだった。
そんな僕の腕を、アキヒコがマモルのいる方とは逆方向に引く。
「行こうぜ」
アキヒコに連れられるまま、僕はその場を離れた。
蝉の声だけがいつまでも僕の耳に流れ込んでいた。
いつもの分かれ道でアキヒコと別れた後、僕は一人で東京の街を歩きながらそびえ立つ建物を眺めていた。
正社員募集のチラシが、至るところに貼ってある。
就職。僕も、考えないではなかった。
今僕は、ライブハウスでのアマチュア限定の小さなフェスやら、ライブやらの予定がいつ入ってもいいように、スケジュールの調整がきく日雇いバイトで生計をたてている。運が良ければ路上ライブの時にチップがもらえたりするけれど、その額なんてたかが知れていて、帰りに全員分の缶ジュースでも買えばあっという間になくなった。
そういうわけで、僕の収入は週二、三回の日雇いバイトのみ。そんな僕がギリギリとはいえ食いつなげているのには、むろん理由があった。
僕はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出し、画像フォルダを開いた。
代々木公園のベンチに腰掛け、桜の花びらを眺めながらにこやかに微笑んでいる女性の写真。
僕の彼女だった。名前はユミ。高校時代から付き合っている彼女で、僕が上京すると決めた時も、着いていくと言ってくれた。
ビル群を抜け、東京にしては人気のない路地に入る。それから少し歩くと、煤けた団地が見えてくる。
その団地の一番上の階の左端。
そこが僕の家だ。
錆びかけている鉄製の階段を登りきり──エレベーターは現在点検中らしく使えない──部屋番号を確認すると、僕は扉を開けた。
「ただいま」
僕がそう言うと、部屋の奥から、おかえり、という声が聞こえた。その声を聞くと、僕はほっとする。
「おかえり。今日はどうだった?」
「まあ、いつも通り……ぼちぼちかな」
彼女の問いに苦笑いしながら答える。少し心が痛い。
生活費のほとんどは、今は都内のアパレル企業に勤める彼女に賄ってもらっている。彼女の収入に比べると僕の収入なんてお小遣いにも満たないので、実質僕はヒモのようなものだ。
「ユミ……僕、本当にこのままでいいのかな」
財布と携帯しか入っていない小さな肩掛け鞄を狭いリビングのテーブルに置き、ギターケースを壁に立てかけると、僕は呟くようにそう言った。
そんな僕の微かな声もユミにはしっかり聞こえていたようで、ユミは驚いたような顔をした。
「急にどうしたの」
本当、急にどうしたというのだろう。けれども今日話さなければならないような気がする。なぜだか心が妙にざわつくのだ。バンド間のいざこざなど、初めてのことではないのだけれど。
みんな変わり始めている。僕も、変わらなければならない時が来たのかもしれない。
「ちゃんと働いた方がいいと思うんだ。もう、音楽なんて辞めて──」
僕の言葉を遮るように、バン、と大きな音が響いた。
テーブルの上の肩掛け鞄がテーブルから落ち、中に入っていた携帯が床にぶつかってゴンと鈍い音が鳴った。
彼女が思い切りテーブルを叩いたのだ。
僕は唖然とした。怒ったユミなど、今まで一度も見たことがなかった。
呆気にとられる僕を置き去りにして、彼女はこう言った。その声は震えていた。
「それがコウタくんの本音なの」
「えっ……?」
彼女が何を考えているのか分からず、僕は戸惑うしかできなかった。いつまでも黙っている僕に痺れを切らしたのか、彼女は「もういい」と言い残して、家を出て行った。
それを引き留めることすらできない己の不甲斐なさが嫌になる。
僕はその場にへたり込んで、頭を抱えた。
蝉の声だけが響いている真夏の、郊外の団地の一室で、僕は一人、体育座りで蹲っていた。
彼女は何に怒っていたのだろう。僕がきちんと働くことを彼女はよく思っていないのだろうか。いやいや、まさかそんなわけはあるまい。今の生活だって決して裕福ではないのだ。
ならば彼女は、一体何に。
ああ、それにしても。
「腹減ったな……」
僕はなんて不甲斐ないんだろう。一人では、何もできない。
昔からおちゃらけてたし、やんちゃではあったけれど、根は真面目な奴だった、と思う。
どんなに面倒なことも、嫌なことでも、面倒くせぇなんて悪態をつきながらもサボったことはなかった。
だから今日は、人生初のサボりということになる。
こんなに落ち着かないものなのか。やはり、電話の一つくらい入れるべきだろうか。
そんな思考を俺は無理矢理振り払った。
いいさ、放っておけよ。どうせこの先一生、会社なんかで働くことはない。
だって俺は、俺たちのバンドは、メジャーデビューするのだから。
俺は、ベーシストなのだから。今までも。これからも。
絶対にコウタの夢を叶える。それだけが、俺の生き甲斐なのだ。それを俺は自ら諦めようとしていた。血迷っていたのだ。
だけれどもう迷わない。マサルの野郎やマモルみたいに、情けなく諦めるのはごめんだ。
あのクソ野郎、マサルが言ったこと──俺が就活しているという話だ──は間違いじゃない。俺が仕事とバンドの二足わらじを履きこなしてコウタを支えられたら、コウタももっと活動しやすくなるだろうと思っての就活だったのだけれど、マサルはどうしたって俺を悪者にしたいらしい。頭に血が上って、うまく説明できなかったから殴ってしまったけれど、これでマサルも懲りただろう。
ああ、でも、コウタを怖がらせてしまったかもしれない。連絡しなくちゃ。
そう思ってスマートフォンをポケットから取り出した瞬間、ブブ、とスマートフォンのバイブレーションが鳴った。
コウタかと思ったが違った。ユミだった。
ユミはコウタが高校の時から付き合っている彼女だ。俺も高校時代彼女がいたのだけれど、その時何度かダブルデートとやらに行った。その時についでにLINEも交換していたのだ。
けれど、たったそれだけの繋がりだ。何を今更、連絡してくることがあるのだろう。
まさか、コウタに何かあったのか?
焦った俺は震える指先で慌ててスマートフォンのロックを解除し、メッセージの内容を表示した。
『アキヒコくん、久しぶり。今から会えない?』
メッセージの内容はそれだけだった。要件も理由も、何も分からない。
俺は不審に思いながらも、メッセージを返す。
『代々木公園付近をぶらぶらしてるから、来れるなら会えるけど。なんで?』
既読はすぐについたけれど、返信は来なかった。
揶揄っただけなのだろうか。そういうタイプには見えなかったけれど、いかんせん高校卒業以来会っていないから分からない。人間なんて変わるものだしな。
そんなことを考えながら、なんとなくしばらくそこでぼんやりしていると、女性がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
その顔を確認して俺は驚いた。ユミだ。
相変わらず綺麗な顔立ちだ。服装はTシャツにジーンズと質素で、化粧も薄くしかしていなかったけれど、それでも綺麗だ。結局美人はどんな格好でも美人なのだろう。
「アキヒコくんだよね。久しぶり。私、ユミだよ」
「ああ、久しぶり……。どうしたの、急に」
俺がそう訊くと、ユミは決まり悪そうに顔を顰めた。
「コウタくんと喧嘩しちゃって」
「喧嘩? あいつと?」
あんな虫も殺せないような性格のコウタが? 喧嘩? 怒ったのか? 全く想像がつかない。コウタとはユミ以上の長い付き合いだけれど、あいつの怒ったところなんて本気で見たことがない。
「喧嘩っていうか、私が勝手に怒って出てきちゃっただけなんだけど。コウタくんがさ、音楽、辞めるって言うから」
その言葉に頭が真っ白になった。
違う。嘘だ。コウタがそんなこと言うはずないだろう。
だってミュージシャンは、あいつの小学生の頃からの夢で。
俺は、そんなあいつを陰ながら支える格好いい親友ポジションなわけで。
俺が、一人じゃ何もできないコウタの救世主なんだ。そのはずだろう?
「アキヒコくん? どうしたの、顔色悪いよ……?」
俺は余程酷い顔をしていたらしい。ユミが死にかけの人間を見るような目をしている。
それくらい俺は動揺していた。しかし動揺を悟られぬよう、なんとか平静を装う。
「あ、いや、なんでもない……。ごめん」
ユミは俺の態度に不思議そうにしていたが、何も言ってはこなかった。気を取り直したように、ねえ、と俺に呼び掛ける。
「アキヒコくん、私、慌てて飛び出してきちゃったから、何も持ってきてないの。お願い、今晩だけでいいから泊めてくれない?」
「彼氏いるのに、いいのかよ。独り暮らしの男の家だぜ。金なら貸すから、どっか適当に──」
「大丈夫」
ユミは驚くほどにはっきりと即答した。そしてこう言葉を続けた。
「アキヒコくんなら、大丈夫」
「アキヒコくんて、昔からずっとコウタにつきっきりだよね。まるで保護者みたい。どうしてそんなに世話焼いてるの?」
「なんだろ、ほっとけないんだよな。俺が守ってやらないとっていうか。あいつ、一人じゃ何もできないしさ」
「そう? 昔はそうだったし、今もまだ優柔不断なところはあるけど……大分一人でも行動するようになったと思うけどな」
「いや、全然だよ。きっと俺がいないと駄目だね」
「ふーん。じゃあ、マサルって人と、アキヒコくんの仲が悪いのはどうして? あ、これ、コウタくんから聞いたんだけど」
「あいつ、コウタのこと馬鹿にするから。音楽の才能はあるかもしれないけど、その他が駄目すぎるって。だから全然バンドも成功しないんだって。コウタはマサルが自分の陰口を言ってるなんて、知らないだろうけどな」
「そうなんだね。マサルって人も、コウタくんが気に入らないなら辞めればいいのに」
「もうじき辞めると思うよ。あいつがバンドに残ってたのは、キーボードのマモルと仲が良いからだから。マモルはなんかバンド辞めそうな雰囲気だし、マモルが辞めればあいつも辞めるよ」
「そっかぁ」
「……なあ、ユミ」
「どうしたの?」
「やめよう」
「やめるって、何を?」
「何って、続きだよ」
俺は覆いかぶさっている裸のユミを押し退けて、その辺に脱ぎ捨ててあった俺の服を着始めた。引き剥がされたユミが不満そうに背後から声をかける。
「どうして?」
「どうしてって、気づいてないのかよ。お前、ずっとコウタの話ばっかりだ。本当は俺なんか興味ないんだろ。寂しいから埋めてほしいっていうのも嘘。本当はコウタの気を引きたいだけだ。違うか」
ユミは苦虫を噛み潰したような顔になった。図星だったようだ。
俺は自分の服の近くに脱ぎ捨ててあったユミの服を、ユミに一瞥もくれぬまま投げつけた。ユミは渋々、服を着始める。
「……アキヒコくん、つまらないくらいに鋭いね。でも、寂しいから、っていう理由もありはするんだよ」
「そうかよ」
着替えを終えた俺は振り返る。ユミも着替えを済ませてしまっていた。
俺の目を見ながら、ユミは不安げに尋ねる。
「……怒ってる?」
「別に。そもそもユミが本当にその気だったとしても、多分俺が続けられなかったと思う。俺、女の子相手に興奮したことないから」
俺がそう言うと、ユミは驚いた顔をした。
「ゲイなの?」
その言葉に、俺は首を傾げる。
「さあ。考えたことなかった。どうでも良かったし。俺、普通に女の子は可愛いと思うよ。ただ、抱きたいとは思えないってだけ。これまで付き合ってきた子も、本当に好きだったのか、今じゃよく分かんねえ」
昔から、色恋とやらには全く興味がなかった。告白されたからなんとなく付き合ってみる。けれど俺の淡白な態度に冷めてしまったらしい女の子から振られる。俺がフリーになったと聞いた別の女の子からまた告白される。で、また振られる。それの繰り返し。
俺に問題があるのだろうな、とは思ったけれど、別に直そうとは思わなかった。
「俺はコウタがいれば、それで良かったから」
意図せず洩れた呟きに、ユミが反応した。
「アキヒコくん」
「い、いや、違う。それじゃあ俺がコウタに依存してるみたいだ。違う、逆なんだ。あいつが、俺を必要とするから。俺がいなくちゃいけないから。だから俺は、そばにいてやってるだけで」
今日のコウタを思い出す。
俺が就活をしていると、今日、コウタは知ってしまった。
けれど──何も言わなかった。
今になって、急にそれが不安になってくる。
どうして何も言わない? アキヒコはバンド抜けないよな、って。僕はアキヒコがいないと駄目だからって。昔みたいに。昔みたいにさ。
息が苦しくなってきた。呼吸の仕方が分からない。
そんな俺の背中を、ユミが優しく擦る。
「歪んでるね、私たち」
彼女のその言葉と、小さな敷布団がひとつあるだけの粗末な寝室に響く蝉の声が、やたらと印象的だった。
気づいたら朝になっていた。蹲ったまま眠ってしまっていたらしい。
ユミはまだ帰らない。
酷く喉が渇いていたので、キッチンに行って水道水をがぶがぶ飲んだ。そこで僕は己の空腹を思い出した。
空腹を紛らわせるために余分に水を飲んだが、腹がたぷたぷするだけで空腹には変わりなかった。思えば昨日の昼から何も食べていない。結局、居酒屋では何も飲まず食わずだったわけだし。
ああ、腹が減った。コンビニに何か買いに行こう。
あ、いや、彼女を探しに行くのが先か?
いやいや、そうに決まっているだろう。ていうか、なぜ昨晩のうちに探しに行かなかった? 連絡しなかった?
僕は何をしているのだ。
ユミは僕にとって唯一無二の理解者で、大切な恋人だったはずだろう?
そうじゃなかったのか?
ああ、くそ。余計なことを考えるな。
とりあえずユミを探そう。電話、出てくれるだろうか。
僕はスマートフォンで彼女に電話をかける。数回のコール音の後、電話は繋がった。
「え、えっと、ユミ──」
『コウタ、いつものスタジオまで来い。今日は貸し切ってる』
「は、え、ちょっ、アキヒコ?」
僕の言葉を待たずして、電話は切れた。
今の声の主はどう聞いてもアキヒコだった。僕は確かにユミに掛けたはずだ。どうしてアキヒコが出るのだ。
しかしそんなことを考えていても仕方がない。とりあえず行ってみるしかあるまい。
アキヒコは『いつものスタジオ』と言った。恐らく、僕らが月二回貸し切っているあの小さなスタジオのことだろう。
しかし今日はスタジオ練習の日じゃないはずだ。
何を考えているのかてんで分からない。とりあえず、僕は言われたとおりにギターを持って、スニーカーを履き潰して家を出た。
僕の住む団地からスタジオまでは、バスで二十分、そこから歩いて十分。空腹にはやや堪える時間だけれど、とても食事なんてとる気にはなれなかった僕は、そのままスタジオへと直行した。
目的地につくと、僕はひとつ深呼吸をしてから、ノックもせずにスタジオのドアを開けた。
「やっと来たか」
そこにはアキヒコとユミがいた。二人とも怒っているような、悲しんでいるような、なんとも読み難い表情をしている。
「ど、どうしてアキヒコが……?」
「どうしてだと思う?」
ユミがアキヒコに相談したのだろうか。でも、卒業後、二人に接点はなかったはずだ。僕が知らないだけで、実は連絡を取り合っていたのだろうか。
「教えてやるよ。昨晩、ユミは俺の家に泊まったんだ。そして、ひとつの敷布団で一緒に寝た」
僕が答える前に、アキヒコはそう淡々と言い放った。
ユミが、アキヒコの家に行った。二人で寝た。ひとつの敷布団で。狭い、敷布団で。
浮気というやつなのだろう。こういう時は、どういう反応をすればいいのだ? 怒る? 悲しむ? 分からない。
どうして僕は分からないのだ? 思ったことを、抱いた感情を、ありのままに表現すればいいだけではないか。
違う。
怒りも沸かない、悲しくもない。
僕が感じているのは、仕方ないか、という諦めだけ。
少し淡白すぎやしないか、僕。
高校からの彼女だぞ。僕を第一に考えてくれる彼女。
ずっと好きだった人。愛した人。それは違いない。はっきりとそう言える。
けれどなぜ、浮かんでくる彼女への思いは、好きだったとか、愛しかったとか、過去形ばかりなのだろう。
その時僕は初めて気づいた。
自分の情けなさ。不甲斐なさ。それらから感じていた、彼女への負い目。
それがいつの間にか、僕の彼女への恋情を奪ってしまっていたことに。
僕は気づけばこんなことを口走っていた。
私はコウタくんに依存されたかった。
正直、バンドなんてどうでも良かった。どちらかといえば、失敗してほしかった。
生活の全てを私に預けて、私がいないと生きていけないままのコウタくんでいてほしかった。
けれど、彼は一人で立とうとした。いや、もしかしたら、私を支えようとしてくれたのかもしれない。でも、そうだとしても怖かった。コウタくんが私に飽きてしまうかもしれないと思った。私なしでは生活できない、そんなコウタくんのままなら、ずっと離れないでいてくれると思ったのだ。
一方、アキヒコくんはコウタくんに依存していた。弱い昔のコウタくんを支えることでしか己の存在意義を見いだせないから、今のコウタくんに昔のコウタくんの像を押し付けて過度に世話を焼くことで、どうにか自我を保っている。けれど、本人は全くその自覚がない。いや、わざと蓋をして、見ないようにしている。
私たちはお互い、暑さにうなされて見る悪夢のように狂っていた。それに気づいたから、妙な仲間意識が生まれたのだろう。アキヒコくんは私に、「コウタの気を引きたいのだろう、手伝ってやる」と言ってくれた。コウタくんが音楽を辞めて普通に生活をするようになったら自分が困るから、というだけなのかもしれないが、それでも構わなかった。利害が一致しただけのことだ。
だから浮気を装って──装う、という表現がこの際正しいのかは分からないが──コウタくんの本音を探るという作戦に出た。
「もう僕は、ユミのことが好きじゃないみたいなんだ」
そんな言葉が、他ならぬコウタくんの口から出るなんて知らずに。
「……は?」
先に声を発したのはアキヒコくんだった。アキヒコくんの威圧するような声にも負けず、コウタくんは言葉を続ける。
「最低なこと言ってる、ごめん。これまでユミは僕に、身に余るくらいの優しさをくれた。本当に感謝してる。でも僕はユミに何も返せなかった。それをずっと引け目に感じてた。段々、ユミといても申し訳ないっていう気持ちしか湧かなくなって。だから今も、悲しいとかじゃなくて、しょうがないって思う」
コウタくんは珍しく饒舌だった。いや、もしかしたらコウタくんは、普段からこれくらいしっかり話せたのかもしれない。
私たちが、それを封じ込めていただけで。
「ユミもアキヒコも、僕にとって大切な人だよ。だから二人のこと応援する。おめでとう。そして今までありがとう」
引き止める間もなく、コウタくんはスタジオを出て行った。
取り残された私たちは、ただ呆然と立ち尽くしているしかできなかった。
『悪い、正社員になれたからバンドやめるわ──マモル』
『ああ、じゃあ俺もやめる。──マサル』
──マモルが退会しました──
──マサルが退会しました──
グループLINEに表示されたその文字を、僕はただ眺めていた。
仕事どうしようかな。
ギター売れば金になるかな。あんな汚いギター、はした金にもならないか。
ああ、家も探さなきゃじゃん。あの部屋、ユミの名義だしな。引っ越しって金かかるだろうな。まあでも、僕あんまり荷物ないし。自分一人でもある程度はやれるかも。
それにしても、僕って本当に何もないな。
いや、何もなくなったのか。たった今。
「コウタさんって、本当ギター上手いっすよね」
「これくらい誰でも弾けるさ」
「いやいや、無理ですって。少なくとも俺には絶対無理です! でもコウタさん、歌も上手いし、こんな田舎の給料もやっすい小さな工場で働かなくたって、ミュージシャンとかなれたんじゃないすか?」
「──興味なかったから」
「そうなんすか? 勿体ないなー。じゃあ逆に何に興味あったんすか? 将来の夢とか。コウタさんの若い頃って、なんか想像できないんですよね」
「さあ、もう忘れたよ」
「えーっ、残念。あ、コウタさん、昼休憩あと五分っすよ。最後にとっておきの一曲、お願いします!」
軽く頷いて、僕はギターを弾き始める。
最初の音は、慣れた様子で奏でるCm。
ジーワジーワ。
蝉の鳴く声。
額に垂れる汗。
応援ありがとうございます!
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