痒い

レオン

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掻い

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額から汗が滴り落ちる。汗でシャツが皮膚にべったりと張り付き気持ちが悪い。
どこを見渡しても人、人、人。満員電車は重労働で疲れはてた者にかかる最後の追い討ちだ。車両の中でも中央で立っている俺には座席に座っている勝ち組の姿を見ることができない。今までここの電車を利用して座った事など一度もない。
もしこの車両の中にゴキブリを3匹程放ったらどんな反応をするだろうか?
そんなくだらない想像をしていると自宅の最寄りの駅についてしまう。
今日もこの電車が脱線したらどうなるかを脳内シミュレーションしようとしていた。
 しかし下半身に不快感を感じた。足の付け根が痒い。
汗をかいた肌で歩いたことで擦れ痒くなったのだろう。しかし車内はぎゅうぎゅうで手を足に届かせることができない。しかも前と横にいるのは女性だ、手を下に向け動かすと痴漢だと思われてしまう。
しかし不快感はさらにましていき、その感情は足をかけないことへの怒りへと近くなった。イライラする。
痒みをまぎらわそうと床を蹴る。
ドン!ドン!
鈍い音が車内に響く。隣にいた女が犯罪者を見るような目でこちらを見てきた。左の男はイヤホンをつけているため音は聞こえていないようだった。
しかし痒みはおさまらない。
「お、おふ。あ、あぁー!」
自然と声が出てしまう。
足をかきたい!
貧乏揺すりが止まらない。
足の痒みは限界を越える。
俺は手を体で密集している下に向かって突っ込んだ。柔らかい感触と共に自分の足への刺激を感じた。
無我夢中に足をかきむしる。服の上からじゃ痒みはおさまらず、ズボンの中に手を突っ込んで足をかいた。
「キャー!この男の人痴漢です!」
目の前の女が甲高い声で叫んだ。
周りの乗客が一斉に俺を見る。
後ろにいた男が動いたせいで緩くなっている俺のズボンが動き重力に伴って下がっていった。
「東京駅。東京駅」
無機質な電子音と共に電車のドアが開く。
「キャー!」
「ワー!」
「おいおい……嘘だろ」
みんな様々な感想をポツリと吐き残しドアから外へと逃げるように出ていった。
痒みがおさまった俺はなぜか泣いていた。
痒みがおさまったうれし涙なのか、こんな大事へとなってしまった事への驚きか。
そんな事を考えていると、黒い武装服を着て、大統領のSPが持ってそうな盾を持ったALSOKのような人が来た。
「標的発見!射殺準備完了!」
その人達はそう言い俺に銃を突きつけてきた。
何が起きているか戸惑っている俺に容赦なくそいつは発泡してきた。
ぶしゅ!
ASMRの様に気持ちいい音がする。
足の付け根に穴が空いている。
その後もALSOKは発泡を続け、ついに俺はその場に倒れてしまった。
痛し痒しだな……………。
意識がぶっ飛ぶ直前に俺はそんな下らない事を考えていた………。
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