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第三章
共同研究の誘い2
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「……はぁ、相変わらずだな」
本気で怒るかと思われたが大きなため息をついただけで新徳はさほど気分を害してはいなかった。
「それで何の用だい? ここを訪ねるなんて珍しいじゃないか」
「分からないか?」
「分からないねぇ」
「お前……メール見てないな?」
「メール?」
「そうだ」
夜滝は体を起き上がらせるとタブレットを操作する。
「ああ……きてたねぇ」
「そんなことだろうと思った。だから直接来たんだ」
新徳から来たメールが未開封のままになっていることに今気がついた。
「しょうがないじゃないか。こんな時期だろ?」
今はどの研究者も忙しい。
他の人なんか気にかけている場合ではなく、メールを見ていないことだって十分にあり得る時期なのである。
そんな時期だと新徳も知っているはずなのだから文句言われる筋合いなんてなく、むしろ新徳の方が悪いとすら夜滝は思っている。
「で、メールの中身は?」
「読め」
「いるなら話してくれた方が早いじゃないか」
「ふん……すまないが助手君お茶でもくれないか?」
「分かりました」
新徳は夜滝の向かいのソファーに座った。
圭は紅茶を淹れて新徳の前に置く。
「……相変わらずいい茶を用意しているな。うちの部屋のコーヒーがまずく感じられる」
「コーヒーも良いもの用意してやればいい」
「水みたいに飲むのにそんなに用意してられるか」
夜滝もそれなりの頻度で紅茶は飲むが新徳のコーヒーを飲むペースとは比べ物にならない。
「それに時にまずくなきゃいけない時もあるからな」
眠気覚ましにも飲むことがある。
美味いコーヒーだと味わってしまうがまずいコーヒーなら一気に飲んで目覚ましになってくれる。
まずい方が都合がいい。
美味いものが飲みたくなったら食堂なり外なりに足を伸ばせばいい。
「それで話なんだが平塚博士の毒槍の技術を借りたい」
「毒槍? 私の毒棒君のことかい?」
「そのネーミングセンスについては置いておいて今期の報告書を読ませてもらった」
「出したばかりなのに早いねぇ」
「気分転換のようなもので読んだがちょうど良くてな」
「何がちょうどいいんだい?」
「先日RSIでB級モンスターの素材を買い入れたんだ。その中に強力な神経毒を持っているモンスターがいたんだ。それを武器として使えないかと考えていたのに平塚博士の研究を見たんだ」
「ほう」
「単純に槍にするだけなら難しくはないが神経毒を発生させるメカニズムがそちらの毒槍と似ていてな。一から作り上げるよりもノウハウがあるほうが早いだろう」
「しかしB級ほどの素材ならそう加工せずともいいんじゃないかねぇ?」
「確かに単に武器として組み込むだけならいいが私が注目したのは抑制技術だ。君の研究の目的にも合っていると思うが?」
毒を使いたいというだけなら大きく加工することはない。
槍であれば使いやすいかもしれないが武器の形として使われる中では剣の方が多くてメインとはいかない。
夜滝には槍のノウハウがあるとしても既存の剣の技術の方が色々ある。
それでも夜滝のノウハウを使いたいのは槍にしたいというよりも槍で使われた技術を応用したいからであった。
「ふーん?」
どうしてわざわざ強い毒を抑制したいのか分からなくて夜滝は肩をすくめた。
「今回のものはモンスターが相手を痺れさせて動けなくし、食糧として相手を捕らえておくために使われるものなんだ。そのためによほど大量に毒を摂取しない限りは死には至らない。その特徴を利用して強い覚醒者が毒を撒き、弱い覚醒者がトドメを刺すという方式を取れないかと思ってな」
「んー?
それなら強い覚醒者が倒してしまった方が早いじゃないか?」
「それはそうなんだが……近年やはりゲート事故も増えている。高等級覚醒者が全ての面倒を見切れるものでもない。平塚博士は弱い覚醒者が毒の力で自ら戦えるようにすることを目指しているものだったが私は強い覚醒者に持たせて弱い覚醒者が補助する形に出来ないかと考えている」
「なるほど」
「それに利点はまだあるんだ。この神経毒は体を痺れさせるが死に至るものではなく、さらにその洗浄が容易なんだ」
敵を倒すという目的だけによって考えれば毒は有効な手段である。
しかし毒を使った装備の難しいところは倒した後の素材が毒で汚染されてしまうことである。
肉や内臓はもちろん皮なども毒によって使えなくなってしまうことも多い。
今やモンスターの素材は資源でもあり毒に冒されて使えないというのは覚醒者たちから忌避されてしまう。
そこで新徳は手に入れたモンスター素材の毒に目をつけた。
「毒の量をコントロールして弱めに投与すればある程度の効果を見込めつつ毒は肉を焼いたり、皮を洗浄したりして取り除くことができる」
まったくそのまま使えるわけではないけれど他の毒で殺してしまうよりもはるかに除去することが容易な毒であった。
毒の効果を最大限発揮しなくても動きを鈍らせる程度になら後の素材としての影響は少ないことが分かった。
「毒の量を抑えて使えるようにするために平塚博士の研究が役立ちそうだと思ってメールを送ったのだがな」
新徳がカップに残った紅茶を飲み干した。
本気で怒るかと思われたが大きなため息をついただけで新徳はさほど気分を害してはいなかった。
「それで何の用だい? ここを訪ねるなんて珍しいじゃないか」
「分からないか?」
「分からないねぇ」
「お前……メール見てないな?」
「メール?」
「そうだ」
夜滝は体を起き上がらせるとタブレットを操作する。
「ああ……きてたねぇ」
「そんなことだろうと思った。だから直接来たんだ」
新徳から来たメールが未開封のままになっていることに今気がついた。
「しょうがないじゃないか。こんな時期だろ?」
今はどの研究者も忙しい。
他の人なんか気にかけている場合ではなく、メールを見ていないことだって十分にあり得る時期なのである。
そんな時期だと新徳も知っているはずなのだから文句言われる筋合いなんてなく、むしろ新徳の方が悪いとすら夜滝は思っている。
「で、メールの中身は?」
「読め」
「いるなら話してくれた方が早いじゃないか」
「ふん……すまないが助手君お茶でもくれないか?」
「分かりました」
新徳は夜滝の向かいのソファーに座った。
圭は紅茶を淹れて新徳の前に置く。
「……相変わらずいい茶を用意しているな。うちの部屋のコーヒーがまずく感じられる」
「コーヒーも良いもの用意してやればいい」
「水みたいに飲むのにそんなに用意してられるか」
夜滝もそれなりの頻度で紅茶は飲むが新徳のコーヒーを飲むペースとは比べ物にならない。
「それに時にまずくなきゃいけない時もあるからな」
眠気覚ましにも飲むことがある。
美味いコーヒーだと味わってしまうがまずいコーヒーなら一気に飲んで目覚ましになってくれる。
まずい方が都合がいい。
美味いものが飲みたくなったら食堂なり外なりに足を伸ばせばいい。
「それで話なんだが平塚博士の毒槍の技術を借りたい」
「毒槍? 私の毒棒君のことかい?」
「そのネーミングセンスについては置いておいて今期の報告書を読ませてもらった」
「出したばかりなのに早いねぇ」
「気分転換のようなもので読んだがちょうど良くてな」
「何がちょうどいいんだい?」
「先日RSIでB級モンスターの素材を買い入れたんだ。その中に強力な神経毒を持っているモンスターがいたんだ。それを武器として使えないかと考えていたのに平塚博士の研究を見たんだ」
「ほう」
「単純に槍にするだけなら難しくはないが神経毒を発生させるメカニズムがそちらの毒槍と似ていてな。一から作り上げるよりもノウハウがあるほうが早いだろう」
「しかしB級ほどの素材ならそう加工せずともいいんじゃないかねぇ?」
「確かに単に武器として組み込むだけならいいが私が注目したのは抑制技術だ。君の研究の目的にも合っていると思うが?」
毒を使いたいというだけなら大きく加工することはない。
槍であれば使いやすいかもしれないが武器の形として使われる中では剣の方が多くてメインとはいかない。
夜滝には槍のノウハウがあるとしても既存の剣の技術の方が色々ある。
それでも夜滝のノウハウを使いたいのは槍にしたいというよりも槍で使われた技術を応用したいからであった。
「ふーん?」
どうしてわざわざ強い毒を抑制したいのか分からなくて夜滝は肩をすくめた。
「今回のものはモンスターが相手を痺れさせて動けなくし、食糧として相手を捕らえておくために使われるものなんだ。そのためによほど大量に毒を摂取しない限りは死には至らない。その特徴を利用して強い覚醒者が毒を撒き、弱い覚醒者がトドメを刺すという方式を取れないかと思ってな」
「んー?
それなら強い覚醒者が倒してしまった方が早いじゃないか?」
「それはそうなんだが……近年やはりゲート事故も増えている。高等級覚醒者が全ての面倒を見切れるものでもない。平塚博士は弱い覚醒者が毒の力で自ら戦えるようにすることを目指しているものだったが私は強い覚醒者に持たせて弱い覚醒者が補助する形に出来ないかと考えている」
「なるほど」
「それに利点はまだあるんだ。この神経毒は体を痺れさせるが死に至るものではなく、さらにその洗浄が容易なんだ」
敵を倒すという目的だけによって考えれば毒は有効な手段である。
しかし毒を使った装備の難しいところは倒した後の素材が毒で汚染されてしまうことである。
肉や内臓はもちろん皮なども毒によって使えなくなってしまうことも多い。
今やモンスターの素材は資源でもあり毒に冒されて使えないというのは覚醒者たちから忌避されてしまう。
そこで新徳は手に入れたモンスター素材の毒に目をつけた。
「毒の量をコントロールして弱めに投与すればある程度の効果を見込めつつ毒は肉を焼いたり、皮を洗浄したりして取り除くことができる」
まったくそのまま使えるわけではないけれど他の毒で殺してしまうよりもはるかに除去することが容易な毒であった。
毒の効果を最大限発揮しなくても動きを鈍らせる程度になら後の素材としての影響は少ないことが分かった。
「毒の量を抑えて使えるようにするために平塚博士の研究が役立ちそうだと思ってメールを送ったのだがな」
新徳がカップに残った紅茶を飲み干した。
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