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第一章
ゴブリンは蜘蛛の女王に気に入られました1
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「へぇ……生きてたのね?」
勝利を喜んだ後は約束を守りにいく。
杖を返すのだ。
ドゥゼアが杖を持ちレビスとユリディカ、それに猿リーダーを連れてアラクネのところに向かう。
ボス猿が来なかったのは戦いの反動が治り切らなかったのと戦いがあったことを他の魔物が知れば襲いかかってくる可能性も否めないのでボス猿という存在をとりあえず残しておく必要があったのだ。
猿リーダー蛇肉と酒の果物をデカい布で包んで持ってきている。
せめてものお詫びやお礼である。
アラクネはドゥゼアたちを見ると愉快そうに笑った。
ボス猿の雄叫びが聞こえてきていたので戦いが始まっていたことは分かっていた。
そして勝った後の騒ぎも聞こえていたのでもちろん勝利したのが猿なことも分かっていた。
しかし被害は出ただろうと思った。
簡単には勝てないはずでゴブリンであるドゥゼアがその場にいたならまず巻き込まれて死んでいたはずだとも思っていたのだ。
けれどドゥゼアはピンピンしている。
逃げもせず猿を説得して、戦いで生き残り杖を持って帰ってきた。
これが愉快でなくて何という。
約束を果たす魔物の方が少ない中で圧倒的に不利な約束を押し付けられたゴブリンがそれを守った。
「いいわ」
アラクネが合図を送るとクモたちが糸に巻かれたゴブリンたちを引きずってきた。
糸をちぎって解放されたゴブリンはドゥゼアたちを見て驚いた顔をしていた。
ゴブリンたちですらドゥゼアに見捨てられるだろうと思っていたのである。
やつれた感じはあるけど手は出されなかったようで無事であった。
「こちらを」
ドゥゼアは杖を差し出す。
猿の想像からは少し外れたけれどなんやかんやと杖は活躍してくれた。
ただのコレクションにしておくには惜しい品であるけれど今はアラクネのものだ。
どう使うかはアラクネ次第なので口を出すことじゃない。
アラクネは杖を受け取って軽く状態を確かめると後ろに控えていたクモにそれを渡した。
クモは杖を持って奥に引っ込んでいく。
「それで……そのでっかいやつは?」
猿リーダーが背負う大きな風呂敷にアラクネは目を移した。
パンパンに何かが入っているのだし気になって当然。
「ウキ!
お詫びの品ウキ!」
猿リーダーは風呂敷を降ろして広げる。
中は蛇肉と果物でそれを見てアラクネはニヤリと笑った。
「蛇も倒してしまったのね」
杖を手にしたところでせいぜい手痛いダメージを与えて追い返すのが関の山だと思っていたのに蛇肉が出てきた。
言われなくとも蛇の結末が分かる。
「あなたね?」
ドゥゼアがフワリと浮き上がる。
よく見ると細い糸がドゥゼアにくっつけられていて優しく引き上げられている。
そのためにまるで浮いているようにアラクネの前まで持って行かれる。
一度なんとか蛇を追い返しただけの猿が杖一本で蛇に勝てるようになるはずがない。
だとしたら何か要因がある。
不思議な賢いゴブリンに違いない。
「あなたが猿たちを勝利に導いたのかしら?」
アラクネは指先でドゥゼアの頬を撫ぜる。
怯えた色を一切見せないで強い意志を秘めてアラクネを真っ直ぐ見返してくる。
ボス猿だって表立って怯んだりすることはないが少し圧力をかけてみれば単体で勝てない相手であることは分かっているのでその感情が見え隠れする。
なのにドゥゼアはあくまでもそんな感情を見せない。
アラクネは捕食者としてかなり強い部類に入る。
普通の魔物ならこのように正対して正気ではいられない。
「あなた、私のものになるつもりはない?」
真っ赤な唇の端を上げたアラクネは息がかかりそうなほどにドゥゼアに顔を寄せた。
意外なお誘いに流石にドゥゼアも驚く。
表情が変わってアラクネは嬉しそうに目を細めた。
「なんの冗談……」
「冗談じゃないわ。
あなた面白そう。
望むなら一生私が守って、養ってあげてもいいわ」
「なぜだ?」
「言ったでしょう?
あなたが面白いからよ。
ゴブリン……いや、他の魔物と違うものをあなたから感じるわ」
本能的なものだろうか。
アラクネはドゥゼアからどうにも普通の魔物とは違った雰囲気を感じていた。
元は人であるということまで分かっていないのだろうけどその異質な雰囲気が気に入っていた。
ある程度強くなり固定の巣を持つとあまり外敵に悩まされることはなくなる。
安定を手に入れる代わりに暇になるといってもいい。
だから気まぐれにドゥゼアたちを生かしてみたりもした。
強者が故の退屈さ。
ドゥゼアがいれば少しは他のクモたちだけじゃ得られない楽しさがありそうだと思った。
レビスとユリディカがざわっとなる。
「猿が果物もくれるし、ご飯だって取ってきてあげる。
あなたとつがいになるつもりはないけれど……気が向いたらそういうこともしてあげるかも」
ゴブリンには過ぎたる甘いささやき。
そこまで評価してもらうと嬉しさもある。
レビスとユリディカが緊張した面持ちでドゥゼアを見つめている。
「申し訳ないがその話は受けられない」
ほんの少しだけ考えるそぶりを見せてドゥゼアは答えた
「あら、私じゃダメ?
それとも何か希望があって?」
「……俺にはやらなきゃならないことがあるんだ」
勝利を喜んだ後は約束を守りにいく。
杖を返すのだ。
ドゥゼアが杖を持ちレビスとユリディカ、それに猿リーダーを連れてアラクネのところに向かう。
ボス猿が来なかったのは戦いの反動が治り切らなかったのと戦いがあったことを他の魔物が知れば襲いかかってくる可能性も否めないのでボス猿という存在をとりあえず残しておく必要があったのだ。
猿リーダー蛇肉と酒の果物をデカい布で包んで持ってきている。
せめてものお詫びやお礼である。
アラクネはドゥゼアたちを見ると愉快そうに笑った。
ボス猿の雄叫びが聞こえてきていたので戦いが始まっていたことは分かっていた。
そして勝った後の騒ぎも聞こえていたのでもちろん勝利したのが猿なことも分かっていた。
しかし被害は出ただろうと思った。
簡単には勝てないはずでゴブリンであるドゥゼアがその場にいたならまず巻き込まれて死んでいたはずだとも思っていたのだ。
けれどドゥゼアはピンピンしている。
逃げもせず猿を説得して、戦いで生き残り杖を持って帰ってきた。
これが愉快でなくて何という。
約束を果たす魔物の方が少ない中で圧倒的に不利な約束を押し付けられたゴブリンがそれを守った。
「いいわ」
アラクネが合図を送るとクモたちが糸に巻かれたゴブリンたちを引きずってきた。
糸をちぎって解放されたゴブリンはドゥゼアたちを見て驚いた顔をしていた。
ゴブリンたちですらドゥゼアに見捨てられるだろうと思っていたのである。
やつれた感じはあるけど手は出されなかったようで無事であった。
「こちらを」
ドゥゼアは杖を差し出す。
猿の想像からは少し外れたけれどなんやかんやと杖は活躍してくれた。
ただのコレクションにしておくには惜しい品であるけれど今はアラクネのものだ。
どう使うかはアラクネ次第なので口を出すことじゃない。
アラクネは杖を受け取って軽く状態を確かめると後ろに控えていたクモにそれを渡した。
クモは杖を持って奥に引っ込んでいく。
「それで……そのでっかいやつは?」
猿リーダーが背負う大きな風呂敷にアラクネは目を移した。
パンパンに何かが入っているのだし気になって当然。
「ウキ!
お詫びの品ウキ!」
猿リーダーは風呂敷を降ろして広げる。
中は蛇肉と果物でそれを見てアラクネはニヤリと笑った。
「蛇も倒してしまったのね」
杖を手にしたところでせいぜい手痛いダメージを与えて追い返すのが関の山だと思っていたのに蛇肉が出てきた。
言われなくとも蛇の結末が分かる。
「あなたね?」
ドゥゼアがフワリと浮き上がる。
よく見ると細い糸がドゥゼアにくっつけられていて優しく引き上げられている。
そのためにまるで浮いているようにアラクネの前まで持って行かれる。
一度なんとか蛇を追い返しただけの猿が杖一本で蛇に勝てるようになるはずがない。
だとしたら何か要因がある。
不思議な賢いゴブリンに違いない。
「あなたが猿たちを勝利に導いたのかしら?」
アラクネは指先でドゥゼアの頬を撫ぜる。
怯えた色を一切見せないで強い意志を秘めてアラクネを真っ直ぐ見返してくる。
ボス猿だって表立って怯んだりすることはないが少し圧力をかけてみれば単体で勝てない相手であることは分かっているのでその感情が見え隠れする。
なのにドゥゼアはあくまでもそんな感情を見せない。
アラクネは捕食者としてかなり強い部類に入る。
普通の魔物ならこのように正対して正気ではいられない。
「あなた、私のものになるつもりはない?」
真っ赤な唇の端を上げたアラクネは息がかかりそうなほどにドゥゼアに顔を寄せた。
意外なお誘いに流石にドゥゼアも驚く。
表情が変わってアラクネは嬉しそうに目を細めた。
「なんの冗談……」
「冗談じゃないわ。
あなた面白そう。
望むなら一生私が守って、養ってあげてもいいわ」
「なぜだ?」
「言ったでしょう?
あなたが面白いからよ。
ゴブリン……いや、他の魔物と違うものをあなたから感じるわ」
本能的なものだろうか。
アラクネはドゥゼアからどうにも普通の魔物とは違った雰囲気を感じていた。
元は人であるということまで分かっていないのだろうけどその異質な雰囲気が気に入っていた。
ある程度強くなり固定の巣を持つとあまり外敵に悩まされることはなくなる。
安定を手に入れる代わりに暇になるといってもいい。
だから気まぐれにドゥゼアたちを生かしてみたりもした。
強者が故の退屈さ。
ドゥゼアがいれば少しは他のクモたちだけじゃ得られない楽しさがありそうだと思った。
レビスとユリディカがざわっとなる。
「猿が果物もくれるし、ご飯だって取ってきてあげる。
あなたとつがいになるつもりはないけれど……気が向いたらそういうこともしてあげるかも」
ゴブリンには過ぎたる甘いささやき。
そこまで評価してもらうと嬉しさもある。
レビスとユリディカが緊張した面持ちでドゥゼアを見つめている。
「申し訳ないがその話は受けられない」
ほんの少しだけ考えるそぶりを見せてドゥゼアは答えた
「あら、私じゃダメ?
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