2 / 114
森の奥に住む魔法使い②
しおりを挟む魔法使いは、200歳の誕生日までに人間の花嫁を得る必要がある。200歳までに人間と契を結ばなければ、魔力を失い、ただの人間になってしまうのだ。
アウルの200歳の誕生日は3ヶ月後である。
何年も前から、クロウは、全く焦らないアウルを焚き付けてなんとか花嫁候補を探させてはいたが、本人のやる気がない上に、運も味方につけられず、こんなギリギリまで何もないままだった。
「アウルが自分から相手見つけてたなんて…。でも誘惑魔法?何回か失敗してなかった?」
「今回は完璧だ。本人だけでなく、家族にも花嫁になる事を賛成するような誘導魔法をかけた。その上、今日女の村からこの森までの道には全く障害がないようにした。天気にも手を加えた。気持ちよくこの森に来る。解呪出来るような魔法使いも近くに住んでいない。あとは誘惑がかかっているうちに契を結んじまえばこっちのもんだ」
「……わ、悪い魔法使い……!!」
「はあ?昔からある手法だろうが」
「昔はね!今は流行らないよ!」
「文句ねぇように後で女の家族に記憶操作するわ」
アウルは悪びれもせずにイスにふんぞり返っていると、トントン、とドアを叩く音がした。
「ほら、来たぜ」
アウルが立ち上がって玄関に向かう。
クロウもアウルの後を追う。
ドアを開ける。
「こんにちは。マリカです」
玄関には、18歳くらいの茶色の髪を長く伸ばした、目のパッチリした愛らしい少々が立っていた。
「ヘェ~可愛い。アウルのタイプってこんなんだったのか」
小さな声でクロウはアウルに話かける。アウルはなぜか何も言わない。じっと怖い顔でマリカと名乗った少女の顔をみつめている。
「アウル様の花嫁にして下さい」
彼女はニッコリ微笑む。
その時だった。
アウルは突然マリカの長い髪を鷲掴みにした。
「アウル!!」
クロウは悲鳴を上げた。
アウルはクロウの事は無視してマリカに怒鳴りつけた。
「テメェ、誰だ!」
アウルの鷲掴みにしたマリカの長い髪はスポっと取れた。カツラだったようだ。下からは短髪の黒髪が現れた。
こうしてよくよく見ると、マリカは少女ではない。少年のようだ。
「似てはいるが、テメェあの時の女じゃねぇな。なんのつもりだ、何しに来た」
アウルは少年の顎を掴み、睨みつけた。
少年も負けじとアウルを睨みつける。
「ふん、さすがにすぐバレるか」
「テメェは……あの女の血族か?随分と似てんな」
「双子の弟だ。名はジャス」
ジャスと名乗った少年は、顎を掴んでいたアウルの手を強く払う。
「あれ?家族にも賛成するような誘導魔法かけたんじゃなかったの?」
クロウがアウルに尋ねる。
アウルは少し考え込んだ。
「テメェ、三日前のあの日いなかったな…」
「何のことだか知らないが、とにかく、姉にかけた訳のわからない術を解け。その為に僕は来たんだ」
ジャスが訴える。
アウルはフン、と鼻を鳴らした。
「断る」
「は?」
「すぐ帰れ。そしてマリカを連れて来い」
「冗談じゃない!」
「同じ事言わせるんじゃねぇ。テメェは魔法使いの恐ろしさを知らねぇようだな」
アウルはスッと手をかざす。
ジャスの足元に火柱が上がる。ジャスは青い顔で後ずさる。
「…いつでも殺せるって事か」
「『殺しは』しねぇよ。人を殺すのは禁忌魔法だからな」
アウルはニヤニヤする。
「どうするべきか考えな。早めにな」
そう言ってジャスを玄関から追い出し、ドアをバタンと締めた。
「あー、今回も失敗?」
後ろからクロウが少し面白そうな声で尋ねる。アウルはクロウを睨む。
「失敗させねぇ。どうにかしてあの女を連れてこさせる」
「へえ」
珍しい、という言葉をクロウは飲み込んだ。
アウルにも執着する人間がいたなんて。
「どんな子なの?マリカって」
クロウは興味津々に聞く。
「3日前テメェが紹介した、人間の薬売りの娘だ」
「あー、あの、ちょっと遠い村のね。あそこの薬なかなかでしょ?」
「ああ。大した腕だ。マリカがほとんど調剤しているらしい。あの腕なら魔法薬調剤にも役に立つ」
「あはは、完全に花嫁っていうか助手扱いじゃん。可哀想」
クロウの言葉に、アウルは心外、といった顔をした。
「何言ってんだ。俺の花嫁になって後悔なんかさせねぇってのに」
「どこからそんな自信がくるのさ」
とクロウは苦笑してみせた。
ただクロウは知っている。アウルは何気に有言実行の男だ。後悔させない、と言ったなら本当に後悔させないように大事にするのだろう。
それをあの少年に言ってやれば、もっとうまくいくのにね、とクロウは心の中で呟いた。
「ちゃんと連れてくるかなー、あのジャスって子」
「知らねぇ」
アウルは面倒くさそうに目をつぶる。
そんなアウルの頭をクロウは子供にするように撫でる。
「まあ、まだ三ヶ月あるから大丈夫大丈夫」
「テメェ子供扱いすんじゃねぇ」
不貞腐れながらも頭を撫でる手を払わないアウルを、クロウは微笑みながら見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる