媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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少女の代わり②

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 その日の夜、クロウはまたアウルの家に向かっていた。

 アウルに仕事が入ったので伝えるためだ。


 ふと、森の中で人影が見えた。

 ジャスだ。まだアウルの家の近くにいたようだ。小さなテントまで立てている。

 クロウは少し考えて、ジャスの目の前に現れてみた。

「やあ、ジャスくん」

 突然現れたクロウに、ジャスはビクッと体をこわばらせた。

「凄いね、テントまで持ってきてたんだ。昨日もここに泊まってたの?」

「……長期戦になるって覚悟してたから」

 目を合わせないようにしてジャスは答える。

「あんまり魔法使いの事は知らねえけど、そんな僕でも聞いたことあるから、魔法使いアウル。『死者をも蘇らせる大魔法使い』って」

「うわー、アウルったら、凄い二つ名ついてんじゃん」

 クロウはわらってみせる。

「死者なんて蘇らせれるわけないじゃん。大袈裟大袈裟。まあ、魔力は超強いし、魔法技術もピカイチだから、大魔法使いってーのは間違ってないかもだけどね」

 クロウの話にジャスは無反応を決め込んでいる。


「いいこと教えてあげようか?誘惑魔法の解呪の仕方」

 耳元で囁かれた言葉に、ジャスは顔色を変えて立ち上がる。

「簡単な事だよ?強い刺激を与えれば誘惑魔法は解呪できる。例えば、瀕死になるくらいまで殴っちゃえば確実に戻るよー」

「ひ、瀕死?」

「そうそう、前も、大雨の中出かけて肺炎になって死にかけた子がいてね、それで解呪されたこともあって……」


「ふざけるな」

 静かに怒るジャスに、クロウはキョトンとする。

「瀕死になるまでなんて、そんな簡単にできるはず無いだろ!これだから魔法使いは価値観が狂ってて嫌なんだ!」

「そんなに怒らないでよーせっかく教えてあげたのに」

 クロウはプクッと頬を膨らませて見せた。

 そんなにクロウを見て、ジャスは冷たく言う。

「大魔法使いアウルの事もそうだけど、僕が本当に警戒しているのはあなただよ、『王政潰しのクロウ』」

「うわ、俺にもカッコいい二つ名付いてるんだね」

 クロウは笑いながら反応するが、目は一切笑っていない。

「王政が代わったり、クーデターが成功したり、または防いだりしたり、その影にはたいていクロウっていう魔法使いが絡んでいると歴史の教科書に書いてあった」

「俺の偉業はもう歴史扱い?歳は取りたくないねぇ」

 否定も肯定もしない。つまりまるっきりの嘘ではないようだ、とジャスは判断した。


 魔法使いクロウ。歴史の教科書に乗る程の魔法使いだ。魔力はむしろ弱いほうだが、恐るべきはその頭脳と先読み能力、心理コントロール能力である。ほぼ魔法を使わずして、人を惑わし、誘導し、国の王政を変えてしまうのだ。

 そんな能力を持つクロウがいるならば…


「あなたなら、僕の気持ちを誘導して、姉をアウルに差し出すようにしむけるなんて、簡単にできるはずだ。そんなやつの事、聞けるわけ無いだろ」

 ジャスはそう言い捨てる。しかしクロウは笑顔を崩さない。

「ま、確かにそうかもしれないね。でも、しないよそんな事。アウルが俺にそんな事頼んだりしないからね。俺の依頼料って結構高額なんだぜ」

「……」

「むしろ、ちょっと意地になってるアウルに、早く諦めさせたいっていうか。もう時間もないし、こんな面倒くさい事になってる子より、別な子探してあげたいかなーって」

「時間?」

 少し興味深くジャスは顔を上げる。

「そう、魔法使いは200歳までに人間の花嫁もらわないと魔法が使えなくなって、ただの人間になっちゃうの。で、アウルはあと3ヶ月で200歳なの」

「はぁ」

「だから、俺は君の味方。アウルを諦めさせたいのは同じなの」

 ジャスは明らかに迷った顔をした。

「まあ、確かに瀕死になるまで殴るはやりすぎかもね?でも強い刺激は本当だよ。一度帰って試してみたら?」

 クロウはそう言うと、その場を立ち去ろうとした。


「あの、あなたは」

 ジャスは恐る恐るクロウに呼びかける。

「あなたにはもう人間の花嫁がいるのか?」

「ああ、俺はアウルより若いからね。まだ20年くらい余裕があるから。それに」

 クロウはニヤニヤしながらジャスに顔を近づける。

「俺イケメンでしょ?それに人当たりも良い。誘えばいくらでも花嫁になってくれる子いっぱいいるんだよ」

「ああ、そう…」

 ジャスはクロウから顔を離す。

 クロウはフフ、と笑いながらその場を去っていった。

 向かったのはアウルの家だった。


 ジャスは、クロウの言うことを信じるか信じまいか悩みながら、テントに入って行った。

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