媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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少女の代わり③

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 クロウはアウルの家にいつもどおり慣れたように入り込む。

 アウルは既に寝ていた。

「早寝すぎるでしょ……」

 クロウは呆れたように呟く。おそらく色々考え過ぎて眠くなってしまったのだろう。アウルはあんまり考えるのが苦手だ。



「アウルーごめんちょっと起きてー。お仕事持ってきたんだけどー」

「んー」

 アウルは唸るだけで一向に起きる気配が無い。

「おきないのー?」

「……うるせぇ」

 アウルが目をつぶったまま文句を言う。

「よーし…」

 クロウはベットに近づき、眠っているアウルの頭を両手で掴み、ぐっと自分の顔を近づける。そしてアウルの口に自分の口をムチュッとくっつけた。

「……!!!ン!」

 アウルはすぐに目をカッと見開き、慌ててクロウの手から頭を逃れさせた。



「テ、テメェ!何しやがるんだよ!」

「アウルが起きなかったからチューしただけだよ。いつも言ってるじゃん。起きないとチューしちゃうぞって」

「何でほんとにしてんだよ!」

「たまにはほんとにしないと、危機感が無いかなあって思って。どうせしないだろうと思われたら目覚まし効果半減でしょ」

「いや、テメェだって知ってんだろ。魔法使いのキスがどうなるか」

「大丈夫だよー。ちょっとチュってしただけじゃん。みんな結構してるよ。アウルが真面目なだけだよー」

「うるせぇ!」

 アウルは自分の口を強く拭う。



 その様子をみて、クロウは口を尖らせておどけるように聞いた。

「そんなに、嫌だった?」

「そりゃ!」

 勢いよく嫌だと言おうとして、一瞬アウルは止まった。そして少し考え込んだ。

「嫌じゃ、無かったな……」

「へ?」

 クロウはポカンとした。

「え。意外な返事なんですけど」

「ん……」

 アウルは黙ったままだ。自分の唇を触って考え込んでいる。

「ちょっと、そんな噛み締めないでよ。なんか引くんだけど。ほら、そうだ仕事の話が……」

「よし!」

 アウルは突然ベットから立ちあがった。

 そして家の玄関めがけて指をスッと指し、回す。すると突然玄関のドアが大きな音を立てて開いた。

 そしてなにか見えないものに引きずられるようにして入ってきたのはジャスだ。



「!!何だこれ!」

 ジャスは喚く。

「何だよ!何か用かよ!」

 ジャスは自分を家に引きずりこんだアウルを睨みつけるように叫ぶ。アウルはジャスを見てニヤニヤしながら言った。

「やっぱり、まだ近くにいたな」

「今、村に帰ろうとしてたんだよ!」

 確かに、ジャスの手には畳んだテントが握られていた。

「帰るって、マリカを連れて来るためか?」

「違う!……えっと……」

 ジャスは一瞬言い淀んで、アウルの後ろに隠れるようにして立っていたクロウの顔を見る。クロウから解呪の件を聞いたことは言わない方が良さそうだ。

「とにかく、一旦帰る」

「待て。おい、条件によっては、マリカの誘惑魔法を解いてやってもいい」

「え」

 ジャスは驚いた。

「ほ、本当か」

「ああ」

 アウルは笑顔を浮かべている。

「マリカは連れてこなくてもいい。誘惑魔法も解いてやる。だから代わりに、ジャス、お前が俺の花嫁になれ」

「「はぁ!!??」」


 アウルの言葉に、ジャスとクロウの素っ頓狂な声がハモった。

「訳がわからねえ!第一、僕は男だぞ!花嫁って女だろ!」

 ジャスが顔を真っ青にして喚く。

「……いや、別に男でもいいんだ」

 アウルの代わりに、少し困惑した顔をしているクロウが答える。

「非魔法使いの人間であることが大事で、別に性別は問わない。女性の腹で子を宿すわけでなく、遺伝子の交換によって出来る繭に子を宿すわけだから…」

「まあ、難しい事は置いておけ」

 アウルはクロウの言葉を遮る。

「テメェは姉の解呪ができる。俺は花嫁を得られる。いい事ばかりだ。さっさと契を結んでしまおう」

 アウルがそう言いながらジャスに近づく。ジャスは手に持ったテントを盾にするようにして恐る恐る尋ねる。

「契って…何するんだよ」

「あー、人間でいうセックスだな。まあそれ以外の方法もあるが、セックスが一番手っ取り早くてすぐ終わる」

「冗談じゃない!」

 ジャスは思わずテントをアウルに向かって投げつけた。テントは魔法でフワリと舞い上がり、アウルには全く当たらなかった。

「てか、僕とそんな事できるのか!?キスすら嫌だろ!?」

「いや、そうでもなさそうだ」

「はぁ!?」

「さっき、クロウにキスされた時、あんま嫌じゃ無かったからな。それで、ああ、男でも全然大丈夫なんだな、と思ってな」

 ドヤ顔でアウルが答えると、ジャスはワナワナしながらクロウを見る。クロウは呆れたように顔を手で覆っていた。


「ば、ばかじゃねぇの!?」

「はぁ?」

「クロウにキスされて嫌じゃ無かったって、それ、男でも大丈夫ってことじゃなくて、ゴブッ」

 ジャスは喋っている途中で口が開かなくなった。魔法だ。ジャスがふと周りをみると、クロウが恐ろしい顔で睨みながら口を動かしていた。『それ以上、喋るな』と声を出さずに訴えている。


 ジャスはクロウに訴えかけるように慌ててうなずいて見せると、スッと魔法が解けてまた口が開くようになった。

「と、とにかく!」

 ジャスは気を取り直してまたアウルに向き合った。

「僕は無理だ。お前とセックスなんて」

「大丈夫」

「大丈夫じゃねぇから」

「魔法使いのキスを知っているか。魔法使いのキスには媚薬、酩酊魔法が含まれていて、慣れてない奴だと立てなくなるくらい気持ちいいんだぜ。初めはキツイかもしれないが、すぐに虜になる」

「無理無理無理!」

 ジャスは真っ青になった。

「そういうことじゃねぇんだって」

「ワガママ言うんじゃねぇよ。マリカの誘惑魔法解いてほしいんじゃねぇのかよ」

 ワガママって……。ジャスはこの場をどう切り抜けようかとパニックになっていた。

「まあ、ちょっと二人共落ち着いて」

 クロウが二人の間に割って入ってきた。

「ほら、強引な男は嫌われるんだよ。ちょっとジャスくんにも考える時間与えてあげないとね」

 クロウは不満そうな顔のアウルの肩をポンと叩いて優しく言った。

 そして今度はジャスにも向き合って言う。

「ジャスくんも、急に言われてビックリしちゃったかもだけど、少し考えてみてもいいんじゃないかな?お姉さんの解呪、いろんな方法あるかも、だけど、確実な方法やっぱり取りたいんじゃない?」

 クロウの言葉に、ジャスはウッと言葉に詰まる。

 クロウから強い刺激を与えるという解呪方法を聞き、一応村に戻って試してみようと思ってさっきまで帰る準備をしていた。しかし瀕死になるほど殴るような刺激を与えなければならないのなら、確かにちゃんとアウルから解呪をしてもらったほうが確実だ。

 ただ、その為に自分が犠牲になるのはさすがに抵抗があるのが正直なところだ。



「……ちょっと考えさせてくれ」

「考えてやっぱり無理だ、は受け入れられねぇぞ」

 ブスッとした顔でアウルが言うが、クロウはまぁまぁ、となだめる。

「ジャスくんにも心の準備とかあるじゃない」

 ね、とクロウはジャスにウインクして見せる。

 ジャスは頷いた。


 とにかく、この場を凌いで、なんとか解呪だけさせて契とかいう恐ろしいものを結ばされる前に逃げ出そう。そう決心すると、少し心が落ち着いた。

「大丈夫、決心がつくまでだから。待って欲しい」

 ジャスはしっかりとアウルの目を見た。その目を見て、アウルはフン、と鼻を鳴らして分かった、と答えた。

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